第108話『極大殲滅昇天魔法・深遠なる女神の痛撃《グラフィス・フォール》』
悪霊が体内から取り除かれたリッヒは、そのまま柔らかい地面に倒れこんでしまいました。
そして現れた悪霊は極めて獰猛そうで、異様な姿をしていました。
「むうう・・・何という禍々しい魔力じゃ・・・」
ピエタは顕現したその悪霊に驚きを隠せないといった様子です。
「ピエタ様、ペロッティ殿、秘霊薬を飲んで下さい! 戦闘になりますっ」
グラウスは二人に薬を飲むように促すと、自らは魔法の詠唱を始めました。
他の者達は悪霊を討伐するのに秘霊薬を飲む必要がありますが、グラウスだけは特別で、生まれつき霊体にそのまま攻撃をすることが可能、という特質を身に付けていました。
「我はクシャーダ・・・・全ての知を統べる者なり・・・トガレフ様の配下」
「トガレフ? トガレフじゃと??」
ピエタは悪霊が放った言葉を聞き、驚きました。
「トガレフとは、特殊な名前のはずですよっ」
ペロッティも驚いたように口を開きます。、
悪霊は、高威力の魔法をグラウス達目掛け放ってきます。
三人ともその魔法を巧みにかわし、ピエタはイグナ・フラーを唱え、悪霊に攻撃を与えます。
ペロッティはコアラに変身し、イグナ・ネオ・アンプロポスを唱えて悪霊の動きを遅らせました。
そして、グラウスは、
「涅槃と混沌より這い出でし愚者よ・・・今こそ我が命に応じ、あるべき涅槃に帰りたまえっ」
と、魔法の詠唱を完了させました。
「いくぞ、極大殲滅昇天魔法・深遠なる女神の痛撃!!」
グラウスは両腕を胸の前に突き出し、掌のくるぶしを合わせて絶大なる威力の消滅魔法を悪霊目掛け打ち込みました。
その威力はとてつもない魔力を放出します。
とある条件を満たすと伝説の神魔法、滅びゆく神々《イグナ・オメガ・エル・フラーレ》に匹敵する破壊力となり、魔族や他の種族にも絶大なる効果があります。グラウスが長き修練の末オリジナルで生み出した特別な悪霊対策専門の魔法です。
若干17歳と魔法の天才ではありますが、まだ未成熟な部分を持った彼には、自分でもその威力やより効果的な使い方を把握しきれておらず、これまで悪霊以外には使わないように心がけていたのです。
極大殲滅昇天魔法をまともに食らった悪霊は、猿のような甲高い声で悲鳴を上げ、そして昇天しました。
「(ばっ・・・馬鹿なっなんという絶大な魔力と破壊力じゃっ今の魔力は、このワシと匹敵し、あのアグニをいとも容易く超えておったぞ・・・一体グラウスの奴、ホントに何者なんじゃっ??)」
その魔法の圧倒的な破壊力を見たピエタは、思わず驚愕の表情を見せました。ちなみにその悪霊のレベルは、すでに霊体化していた為、ピエタ達にはわかりませんでしたが、10万を軽く超えていたようです。
「ふう・・・終わった・・・」
「・・・見事じゃ、グラウスよっ」
ピエタはグラウスの活躍を褒め称えました。
それから直に、リッヒは目を覚まし、起き上がりました。
「・・・? ここは? 俺は、一体どうしたんだ・・・?」
「お主がリッヒか」
ピエタがゆっくりと立ち上がったリッヒの方に向かっていきます。
「・・・こっ子供?」
「ワシはピエタ・マリアッティ。ジャスタール出身の賢者じゃよ」
「賢者・・・」
「私はその従者のペロッティと申します」
ピエタに続いて、ペロッティもリッヒに自己紹介をしました。
遅れてやってきたグラウスも、自らの名を名乗りました。
「お主は悪霊に操られていたのじゃよ。じゃがそれももう終わった。お主は解放されたのじゃ」
「悪霊に・・・くっ・・・俺はトガレフが教祖をしている獣教会に潜入して、そこで奴と相対したのだが・・・そこから先の記憶がないっ」
「マクスウェルは裏切り者じゃ。お主を利用したのじゃよ」
「なんということだ・・・・早くゼントにこの事を伝えなければ・・・」
焦燥感に捕らわれていたリッヒは、思わずゼントの名を口にしましたが、彼はもうこの世にはいません。
「ゼントはいないですよ。殺されたんです、あなたかマクスウェルに」
グラウスの言葉に、リッヒは深く傷つきました。
「そんな、馬鹿な!! 俺が、ゼントを・・・?!」
「話は後じゃ。さっさとこんなところからは脱出するぞい」
そうグラウス達がリッヒと話しているときに、ライカールトが遅れてやってきました。
ピエタはライカールトに事情を説明し、彼もまたゼントの死を知り、ショックを受けたのでした。
そしてリッヒは再び意識を失ってしまいました。やむおえず、一番腕力のあるライカールトが担いで彼を背負った状態で、ピエタ達にロープを持たせ、テレフネーションを使用しました。




