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人界魔討伝〜三魔〜  作者: 人工サンマ
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第六魚 死合

 闇ありし所にサンマあり。

 死をもたらす災厄の化身。

 サンマの前にあるのは絶望による死のみであった。

 だが、人は希望の光を手に入れた。

 人を守り、人を導く存在。

 人は彼らを称えてこう呼んだ。

『日魔星』


(前奏)

 ゆけ〜さんまの戦士〜

 魔を討つ戦士よ〜

秋刀魚を掲げて〜

(オォォォォ~)

 鳴り渡るサンマの咆哮

 終わりを告げる魔笛

 散りゆく人の運命(さだめ)

 響く

 慟哭を聞け

 さんまの戦士よ

 叫べ!

 怒りの声

 振るえ!

 怒りの秋刀魚(やいば)

 戦え!

 怒りの戦士

 正しき心

 秋刀魚の一太刀

 魔を討つ戦士 三魔〜!!


  『戦え!日魔星』


 緊張で肌がひりつく。

 例え一瞬たりとも目を離せぬ程の威圧感が俺に向けられていた。

 サン魔剣士のサンマキシマム。

 そう名乗るサン魔を前に空気が凍っていた。

 体中の細胞が一つの残らずザワつくような興奮で、まるで七輪で炙られたように暑い。

 腰にかけた秋刀魚(やいば)に手をかけ腰を落とす。

 居合の型である。

 対敵は刃を扱うようで、白銀の刀身を天へ向け上段へと構えていた。

 見惚れてしまうほどの美しい刀身を持つ刀で、名刀の部類ではないかと思う。

 互いに対敵を刃で貫くためにその必殺のタイミングを推し量っていた。

 剣術は畢竟、化かし合い。

 いかの剛剣だろうと、いかの迅剣だろうと、一手読み間違えれば骸を晒すのみである。

 俺が居合いにて狙うは対敵の急所、魔力炉(エラ)

 サン魔を一手にして仕留めるにはそこより他はない。

 だが、いかに最速の剣とて相手がサン魔である以上、必中では無いのだ。

 この一刀にて対敵を仕留めきれぬ場合、返す刃にて俺の命は散らされるであろう。

 必中必殺。

 それが今の俺に求められるものであった。

 それは、理想であり幻想。

 サンマキシマム…対敵の力量の高さは対峙してひしひしと感じていた。

 今まで戦ってきたどのサンマよりも圧倒的に格上だ。

 ならば…この一刀、届くものか。

 迷いがよぎる。

「どうした?迷いは剣を鈍らせるだけよ」

 まるで心を見透かしたかのように対敵に指摘される。

 その言葉が俺の心を逆撫で、契機を呼ぶ。

 踏み込み、秋刀魚を走らせる、

 狙うは魔力炉。音を斬り、刃が迫る。

 が、届かない。

 サンマキシマムの刃が俺の秋刀魚を流す。

「こんなものか?」

 斬りかかった上に刃を流され、俺は無防備になるのだがサンマキシマムは攻撃を仕掛けてこない。

 一度体勢を立て直すために後ろに引くと、中段に構え直す。

「一手、馳走しよう」

 俺が構え直すのを確認すると、次はサンマキシマムから仕掛けてきた。

 中段に構えから刃からの刺突。

 空気を裂くそれを払うために刃を合わせる。

 しかし、俺の刃は巻払われ、サンマキシマムの刃は俺の右肩に突き刺さる。

 痛み。肉を抉られ、骨すらも穿かんと刃が食い込む。

「青い」

 それだけ呟くと、サンマキシマムは俺の方から刃を抜く。

 肩へ刺さっていた異物。それが抜き出されてると同時に自分から血が吹き出ていることを感じる。

「もう終いか?」

「まだだ!!」

 痛みに耐え、吼える。

「では、参れ」

 再び下段に構え直して、距離を詰める。

 狙うは小手。

 再び刃が走る。が、刃は宙を斬るのみ。

 踏み込み、更に一閃。

 しかし、それも宙を斬るのみ。

「筋は悪くない。だが」

 サンマキシマムの刃先が僅かに動く。

 そして、俺の腹部が斬られていた。

 一切、対敵の刃の動きを認識できることなく、斬られるまで気づけなかった。

「惚けるでない」

 続いて刃先が動く。と、次の瞬間には左肩を。

 格が違いすぎる…。

 俺は、情けないことにそれを認めてしまっていた。

「やはり、買い被りであったか?」

 それは事実であった。

 俺の実力は遠くこのサン魔に及ばない。

 だが…

「確かに俺はお前に遠く及ばない。だが、お前を斬るのは俺だ!!」

 吼える。

 例え無為であっても。

 敵を敵と認識するために。

「…よい。よいぞ、若人よ。貴様には全霊の剣を見せよう」

 そう、宣言するとサンマキシマムは納刀し、腰を落とす。

 居合い術の構えである、

 サンマキシマムの周りに膨大なサン魔力があつまる。

 大気を震わせ、地を揺らす。

 絶望的なまでもサン魔力だ。

 死。

 否応もなく、それを突きつけられる。

 体中の細胞が恐怖を叫ぶ。

 アレは。

 アレだけは受けてならぬと。

 重心を下げ、受けの姿勢を取る。

 全霊で受ける。

 それ以外の選択肢はなかった。

焔分(えんぶん)固定」

 サンマキシマムが唱える。

 膨大なサン魔力は一転、業火と化す。

「三魔ノ汐灼」

 一閃。文字通りの光。

 放たれた瞬間すらも視認することが叶わぬ光速の刃。

 俺は地に倒れ伏していた。

 視界には血溜まりを拡げて行く光景。

「両断するつもりで放ったが、どうやら紙一重で防げたようだな。やはり貴様は今殺すには惜しい」

 途絶えつつある意識の中、どこか遠くからその声を聞いていた。

「貴様は今直接手を下さない。もし生き残ってそれでも未だ心が折れぬと言うのであれば…また、挑んでくるがよい」

 そこで俺の意識は途絶えた。


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