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人界魔討伝〜三魔〜  作者: 人工サンマ
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第四魚 仲間

 立ち上る魔煙。

 穢れた煙は人界へ尋常ならざる魔を誘う。

 火元はグリルであった。

 愚かしきな。

 人は自らの手で魔を呼び寄せ、その命に終わりを告げるのだ。

 グリルより立ち上る魔煙を訝しげに見つめる男は自らの首が胴体より離れ、宙を舞っていることを気付かぬまま絶命した。

 グリルより現れしサン魔は咆哮する。

 その雄叫びは戦いの火蓋を切るが如き咆哮であった。

 咆哮が収まるとグリルより続いて三体のサンマが現れた。

 そして、最後に。

 災厄が訪れた。

 人界を破滅へと導く存在。

 最強のサン魔が人界へと現れたのだ。

 それは有り得ぬはずの現象であった。

 人の世を滅ぼしかねない魔は人界へと立ち入れない。

 それが、神と三魔が取り決めた規定であったのだ。

 故に、尋常ならざる三魔の中でも特に尋常ならざるサン魔は人界に現れぬ。

 もし、サン魔が現れるとしてもサン魔の中でも人が対処出来るレベルのものだけに限られていたのだ。

 三魔は人の世を脅かし、滅ぼしかねない存在。

 あくまでも()()()()存在なのである。

 人界の破滅。

 その序章は既に始まっていたのだった…。


 サン・マリアンヌに連れられサンマランドを回ってから一日経った。

 漸く秋刀魚(やいば)の修理が終わり、受け取ると秋刀魚を使った訓練を開始した。

 が、昨日のような無理な鍛錬はせず、適度なもので済ませる。

 また、マリアンヌに連れ回されるのは疲れる。

 悪くは無い…そう思ってしまう自分もいるのだが、彼女に心配をかけさたくないと自然と思ってしまった。

 鍛錬が終わると、自室に戻り待機した。

 数日間、任務に出なかった為、肉体は万全である。

 サンマが出没しないのが一番ではあるが、いつ呼ばれてもいいように神経を研ぎ澄ませていた。

 やがて、月が登ると、母秋刀魚(サンマザー)より召集がかかった。

 直ぐに母秋刀魚のいる屋敷の本殿まで行く。

「三魔。今宵もサンマが現れました。これを討伐に赴いてください」

「御意」

「場所はここより西に二十キロほど離れた小学校です」

 それだけを聞くと、表へ出る。

「三魔さん、任務でありますか?私も行くでありますよ 」

 表へ出て、サンマウンテンバイクに乗ろうとすると声をかけられた。

「マリアンヌ。ありがたいが、詳しい状況がわかっていない。危険だ」

「ならば尚更行くであります!三魔さん一人に危険な目に合わせたくないであります!」

「しかし…」

 状況がわかっていないことは本当のことである。

 もし、足取りの掴めていないサンマエストロと遭遇した場合、マリアンヌを危険に晒してしまう。それは避けたいが、彼女はとてつもない頑固者だ。

 どう説得したものか…と思案する。

 その時、

「あらあら、三魔。その小娘に『足でまといだから来るな』とはっきり申してあげればよくて?」

 上空より声が降ってきた。

「な、なにものでありますか!?」

「何者って、私をご存知ないとおっしゃるの?」

 続く声はマリアンヌの背後より聞こえた。

「なっ-!?」

秋魚女(さまな)、新人をからかうな」

 俺が声をかけると、秋魚女は一瞬で俺の横まで移動してきた。

 茶髪に縦ロールという日魔星らしからぬ派手な風貌をした女だ。マリアンヌに比べると女性的な部分が発達しているかもしれない。

「相変わらず三魔はお優しいこと。でも、それは限度がありましてよ?この新人さん、秋刀魚も扱えないようでは戦場で死するのみでしてよ!!」

「マリアンヌは秋刀魚は扱えないが秋刀魚銃(サンマグナム)の扱いに長けている。俺も助けられた。頼りになるのは間違いない」

「そ、そうでありますよ。これから三魔さんと悪しきサンマを討ち滅ぼしに行くところであります!」

 マリアンヌは声高に宣言した。同行を許可した覚えは無いのだが。

「どういうことですの三魔。まさかこの小娘とサンマッチを組んだとおっしゃるの?」

「待て、俺は」

 直ぐにそれを否定しようとする。

 しかし、

「そうでありますよ!!自分と三魔さんは一緒にお昼に行くぐらいの中であります!!」

 俺の声を遮り、マリアンヌが声を上げた。

 嘘ではない。が、一緒に昼飯を食べただけでなんでそんなに自慢げなのだ?

 そもそも、何にでもサンマーマレードをかけて食べる女と食事をしたなどという事実は俺にとって黒歴史以外何でもない。

「三魔とお食事ぃ〜!?きぃ~~〜この小娘、私を差し置いて三魔とサンマッチングしてゆくゆくはサンマリッジを結び『ふふふっ、私と三魔さんは出会った頃からサンマリアージュでしたね…///』とでも言って三魔と…」

「これ以上、意味不明な会話はしないでもらえないか?」

「三魔!!あなたこの小娘の肩をもつと言うの!!」

「持つも何も、俺は任務に行きたいだけだ」

「任務???この小娘と二人きりになりたいと???」

「おいまて…」

「三魔さん、この訳分からないオバサンはほっておいて早く行くであります」

「頭にきましたわ…」

「図星でありますからね」

「…三魔、今宵はどこに?」

「…西に二十キロほど離れた小学校だ」

「分かりましたはわ…」

 ようやく秋魚女が沈黙した。

 さっさとサンマウンテンバイクに乗り、ペダルに足をかけた。

 そして走り出す瞬間、 秋魚女が声を上げた。

「三魔!!今宵の任務、私もついて行きますわ!!そしてこの小娘と私、どちらがあなたとサンマリッジするのに相応しいか教えてあげます!!」

 サンマッチの話ではなかったのか?それと、サンマリッジとはなんだ…何でもサンマをつければよいということでは無いぞ…。

 半ば呆れている俺を他所に、秋魚女はサンマ〇ダ自動車の車に乗って行ってしまった。

「……マリアンヌ」

「なんでありますか?」

「乗れ」

「ついて行っていいでありますか?」

「仕方ない。だが、俺の傍から離れるなよ」

「了解であります!」

 マリアンヌが後ろに乗る。

 日魔星が現場に素早くたどり着くために改造されたマウンテンバイクで、二人乗りであれば何とかできる。

 サン魔力の賜物だ。

「振り落とされるなよ?」

「大丈夫であります!」

 そう答えると彼女は腕を俺の胸へと回し、体を密着させた。

「こうすれば、問題ないであります」

「……離すなよ」

 俺は今度こそペダルを蹴り、戦いへとこぎ出した。


 小学校に着く。

 夜の学校など人がいないのが当たり前で閑散としている。

「どこに奴らがいることか…。ともかく探すぞ」

 幸い、今回の三界はこの小学校とちょうど同じ大きさの為、校内をくまなく探せば見つかるだろう。

 マリアンヌにすぐ後ろを着いてくるように指示を出すと、校庭に足を踏み入れる。

 その時、銃声が轟いた。

「な、なんでありますか!?」

秋刀魚大銃(サンマシンガン)だ。おそらく秋魚女だろう」

「…あの女、秋刀魚を扱えるのでは?」

「使えると、使いこなすは意味が違う。確かにあいつは秋刀魚を扱えるほどのサン魔力を持っているが、そもそも刀剣類の扱いに向いてない」

「なるほど…であります」

「どんな武器だって適材適所だ。…お前が使えると思って連れてきているんだぞ」

「任せて欲しいであります!」

「行くぞ、出遅れた」

 秋刀魚大銃の銃声はグラウンドの方から聞こえてくる。

 プール脇を通って向かうのが近道だ。

 校庭からプールの方へ走って向かうと、脇を通ってグラウンドへ向かう。

 が、中腹で足を止める。

「どうしたでありますか?」

 マリアンヌが聞いてきた瞬間、プールから水しぶきが上がり、サンマが飛び出した。

 サンマは全部で三体。

 自分たちの体を縦にグラウンドへの道を閉ざしていた。

「大漁だな!!」

 叫ぶと同時に秋刀魚(やいば)を抜き放つ。

 一番手近なサンマで八間ほど、残りの二体とは更に六間程離れている。

 手前のサンマであれば既に間合い。踏み込んで切り捨てることができるだろう。

 しかし、後ろに二体いることが厄介だった。

「マリアンヌ、援護は任せたぞ」

 頼れる仲間に援護を任せると、上段に構え一体目に斬りかかった。

 こと、剣術は化かしあいである。

 現代に伝わる剣術の多くは、如何に対敵の急所を狙い斬り捨てるかを磨かれたものであるからだ。

 剣術は初手にて一撃必殺を狙う技は少なく、ほとんどが後の先において、如何に対敵を化かすかという手合いのものが多くを占める。

 しかし、少数派だが一撃必殺を実現した剣術は存在する。

 示現流。

 江戸時代後期に、薩摩で発生した流派である。

 現代では薩摩示現流または、薬丸示自顕流と二つの流派で広く知れ渡っている。

 どちらも剛をもって柔を制する、剛の剣であるが、俺が収めた薬丸自顕流は特にその色が強い。

 彼の剣客集団、新撰組ですら恐れたと伝わる剛の剣は全ての防御を捨て、初太刀において対敵を屠る文字通りの一撃必殺である。

 勿論、防御を捨てることは危険極まりない。

 相手はサンマである。

 鉄すらも容易く貫く魔爪の前で、防御を捨てることがどれほど危険なことか。

 もし、この場に俺しかいなければその剣を選択することはなかったであろう。

 が、この場は俺一人ではない。

 秋刀魚を転を衝くように大きく上段に構える。

 蜻蛉の構え。

 薬丸自顕流において基本の構えである。

 大地を蹴り、突貫する。

 鍛え抜かれた体による全霊の一太刀。

 単純にして一の合理が一撃必殺をなす。

 サンマは俺の一太刀を受けるため身を固める。

 構わない。

 例え対敵がいくら頑強であろうと全霊にて屠るのみ。

「キェーーー!!」

 猿叫と呼ばれる薬丸自顕流独特の、掛け声をかけ斬り下げる。

 宙を駆け対敵の肉に喰らいついた刃は、鱗も骨も容易く切り裂く。

 そして、秋刀魚の肩口より袈裟懸けにて両断した。

「まずは一」

 次なる二を屠るため、斬り降ろした秋刀魚を再び構え直すため振り上げる。

 が、がら空きになった胴体目掛けて一体のサンマが突貫してきた。

 それは正しい選択であった。

 薬丸自顕流は走り掛かかった勢いが無ければその絶大の威力を発揮できない。

 どの剣術も共通のことであるが、起こりを潰されては繰り出すことは出来ない。

 こと、先の先が前提である薬丸自顕流において先を取られることは何よりも致命的である。

 そう、致命的であるのだ。

 俺が、一人であれば。

 音が空気を震わせた。

 音ともに放たれたサン魔力を帯びた鉄の弾丸は飛び掛るサンマの肩を貫く。

「がら空きでありますよ!!」

 如何にサンマとて自由のきかない空中で、弾丸を躱すことは不可能だ。

 秋刀魚銃を浴びたサンマは俺への突貫を叶わず、そのまま地面へ崩れ落ちた。

 地面を跳ねるだけのサンマに構えなど要らぬ。

 ただ、秋刀魚を振り下ろし容易くその命を斬り裂いた。

 残るは一体。

 六間程離れたサンマへ向き直り、再び蜻蛉の構え。

 大地を蹴り、対敵へ迫る。

 サンマは動かなかった。

 防御は叶わず、先の先も危険だ。となれば。

 サンマは俺が斬り下げる直前に後ろへ跳ねた。

 至極、自明の理であり正しき選択である。

 防御が不能なのであれば避ければ良い。

 秋刀魚銃も俺が射線上にあれば撃てまい。

 が。自明であるのであればそれを読むことなど容易い。

 俺は秋刀魚を放たなかった。

 蜻蛉の構えは虚偽(フェイク)

 俺はそのまま止まらず、跳ねたサンマへ迫ると同じように跳ねて蹴りを入れる。

 示現流の開祖、東郷重位(とうごうちゅうい)が元々修めていたと言われる実践剣法タイ捨流。

 そのタイ捨流には珍しいことに体術も組み込まれているのだ。

 足蹴。秋刀魚という武器の前に、その恐ろしさを知るものの多くは二の刃である体術が意識外である。

 秋刀魚の前で体勢を崩す。それが如何に致命的であることか。

 所詮、小技。剣術における体術をその様に軽く見るものはただ散るのみである。

 無防備な状態で足蹴を受けたサンマは先の二体目のように無様に地に倒れ伏した。

 そして、同様に地を跳ねまわるままその素首を斬り落とされた。

「お見事であります!!」

「あぁ、いい援護だった。ありがとう」

「サンマッチ同士に礼は不要であります!!」

 そう微笑むマリアンヌに微笑み返すと、直ぐに気を引き締め直し、元の目的地であるグラウンドへ向かう。

 秋刀魚大銃の音はやんでいた。

 それが意味するのは、幸か不幸か。

 グラウンドまで行くと、秋魚女が一人立っていた。

「秋魚女、サンマは?」

 彼女の衣服は所々破け、露出した羽田には切り傷ができ、血が垂れていた。

「サン魔がおりましたの…」

「なんだと…?」

「ですが、その逃げられてしまい…」

「逃げられた…?」

 サンマエストロの事が頭をよぎる。

 サンマは三界から外に出られない。

 その前提がつい先日破られたのだ。

「ともかく探すぞ…」

 万が一に備え、応援を呼び、三人で固まったままサン魔を探す。

 探索中、緊張感もなくマリアンヌと秋魚女は罵りあっていたが、関わらないでいた。

 どちらが役に立つかしつこく聞かれたがその度に無視をした。

 やがて、日が昇り三界は消滅していった。

 秋魚女が遭遇したというサン魔はサンマエストロ同様発見できなかった。

 結局、今回もサンマエストロのように捜索の形を取り一応の解決を見せたが、拭いきれない不安感がおれの心を締めていた…。


 闇の中で二つの足跡が響いていた。

 二体のサン魔は歩きながら声を震わし始めた。

「サンマキシマム様…どうでした?例の三魔とやらは?」

「まだ粗い。充分に楽しめそうな相手であるが、それは三魔文体(サンマトリョーシカ)であればの話しよ」

「では、期待はずれと?」

「いや、まだそう断じぬ。奴の全力はまだ見ていない」

「…承知致しました。このサン魔忍、必ずやあの三魔とやらの全力を引き出してご覧に入れましょう」

「面白い。任せた」

 闇の中で谺していた声は止み、再び足音のみが響き始めた…。

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