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人界魔討伝〜三魔〜  作者: 人工サンマ
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第二魚 芸術

 三魔(サンマ)

 古くより人に仇なす魔の存在。

 神が住まう天界、人が住まう人界、そして魔が住まうサン魔界。

 世界を分けることにより、人は安寧を得た。

 しかし、人々は永遠の命を求め三つ目の世界に存在する魔、三魔を認識してしまった。

 三魔による人界への侵略。

 対抗する術を持たぬ人はただ貪られるのみ。

 人は恐れた。

 三魔を。

 人は考えた。

 三魔から逃れる術を。

 人は得たのだ。

 三魔を封じるすべを。

 人の認識は言葉による。

 人は自らの怨敵を魔として認識した。

 認識が三魔を生むのであれば、認識が三魔を封じるのが道理。

 人は三魔を三つ目の世界に存在する魔としてではなく、サンマという海に存在する生物として認識したのだ。

 かくして人は、脅威である三魔をサン魔界に封じ込め、食卓に並ぶ魚のサンマを得た。

 だが、人の永遠への渇望は消えることはなかった。

 その渇望はサンマを汚染し、サン魔界への扉と変えた。

 三魔は今でもサンマを依代に人界へと現れる。

 三魔の脅威は終わらないのだ…。


 血の海。

 そう形容する他ない地獄が広がっている。

 つい先日まで賑わっていた魚市場は死溢れる魔地とかしていた。

 そこで死に絶えた人間の数十をくだらないだろう。

 それはただ一刻のうちに行われた。

 人に仇なす魔の存在、サンマ。

 まさにそのサンマの手によるものに相違ない。

 しかし、その場にある影は一つ。

 ただ一つなのである。

 サンマはその鉤爪で容易く鉄を割く。

 人はサンマに叶わぬ。

 それが道理だ。

 だが、如何にサンマとてただの一匹にそのような行いができようものか。

 異常。

 そう形容せざるをえない。

 果たして、この惨劇は如何なるサンマによるものなのか…。


 異様。

 それが三界に辿り着いた時に最初に感じたことだった。

 三界とかしたのは漁港に面した魚市場。

 漁を生業としている近辺では最も活気のある場所であった。

 もちろん、夜も老けた今の時間は商いを終え、そこに従事するものを除き人がいることは無い。

 そのため、昼に比べ活気が少ないのが道理だ。

 しかし、平時であれば夜漁を行う者のため灯りを絶やすことはなく、夜も明るい。

 だと言うのに、駆けつけた魚市場は闇に飲まれ、僅かな月光にのみ照らされていた。

 いつも以上に気を引き締めなければなるまい。

 そう心に刻むと、手近な倉庫から探りをいれることを決め、近づいていく。

 一番手近な倉庫まで着くと、降りているシャッターを秋刀魚(やいば)で一閃し入口を作ると中に入る。

 と、同時に。

「出てこい。サン魔力がただ漏れだぞ」

 倉庫に入ると同時に、微弱ながらサン魔力を感じたのだ。

「ま、まさか日魔星(サンマスター)でありますか?」

 倉庫の奥からやけに甲高い声が届く。

「ああそうだ。格好で分からないか?」

 俺の返答を聞くと、倉庫の奥から足音が近づいてくる。

 現れたのは同じ銀箔のコートを纏った少女であった。

 しかし、見るからに若い。

 まだ、十代半ば頃に見える。

 映える金色の髪と青色の瞳を持った異国の少女だ。

 コートは土で汚れていて所々破れている。

「ど、銅サンマ級、サン・マリアンヌであります!」

「金サンマ級、秋水三魔(しゅすいさんま)だ」

「三魔…?もしや貴方様があの…?」

「…どうでもよいことだ。それよりもお前、サン魔力がただ漏れだ。そこら辺のサンマよりも隠れるのが下手なのではないか?」

「そ、それは心外であります!それにお手前はサン・マリアンヌであります!お前などではありません」

「長い」

「で、ではマリアンヌと。そうお呼び頂ければ」

「分かった。ではマリアンヌ、何か見なかったか?」

「そ、それは…その…」

「どうした?」

「じ、自分は…他の銅サンマ級の者たちと一足先に駆けつけたのでありますが…」

「他の日魔星はどこへ行った?」

「い、いきなり目の前が爆ぜて…自分以外は…その…」

「それで応援を待っていたと」

「は、はい…。その、これは本当にサンマの仕業なのでしょうか?」

「違う。常識的に考えろ。サンマにそんなことが出来るわけないだろ」

「で、では…一体何が?」

「サン魔だ」

「サン魔?」

「………離れろ」

 発すると同時に俺とマリアンヌの間にある空間が爆ぜた。

 忠告のかいあってかどちらも無事だ。

「ギョギョギョッ。人間よ、今ので果てて入れば地獄を見ずにすんだのだぞ?」

 成人男性のような低い声が響くと、倉庫の入口から通常のサンマの二倍近く大きい異形の存在が現れた。

 すぐに後方へ飛び、マリアンヌの傍へ寄る。

「いいか、奴がサン魔だ。多くの人間を食べ、力を得たサンマの上位種だ」

「そ、それがやつでありますか?」

「あぁ。さっきの爆発を見ただろう?あれはサンマジックと呼ばれるもので、サン魔であれば何らかのサンマジックを使ってくる」

「な、なんでありますかそれ…」

「相手はサン魔だ。当たり前だ」

「は、はい」

「ともかく仕掛けるぞ。お前の実力には期待していないが、せいぜい死ぬなよ」

 マリアンヌの肩を叩くと、秋刀魚を抜き放ち上段に構えるとサン魔に迫る。

「ギョギョギョッ!!あくまでも苦しんで死にたいと!!よいでしょう、貴様らには絶望によるシを与えましょうギョッ!!」

「その程度のサンマジックで俺を倒せると思うなよ!」

 叫ぶと同時に走り込む。

 この手の輩には一つ一つの剣の重さより手数の多さだ。

「生意気な人間ですねぇ」

「それはお前だよ魚野郎」

 既に間合いまで入り、秋刀魚を振り下ろす。

「ギョッ!これはいい秋刀魚!貴様名うての日魔星だな!」

 振り下ろした秋刀魚をいとも容易く右手で受け止めるとサン魔は笑う。

「名前を聞く時は…先に名乗れ!!」

 秋刀魚に体重をかけ、無理やり振り下ろす。

 だが、サン魔がひらりと身をかわし空を切る。

「申し遅れた、吾輩はサンマエストロ。サンマ呼んでサンマーティストのサンマエストロ!!」

「そうかい!!もっとマシなあだ名をつけてもらうんだな!!」

 魔力炉(エラ)に向かって刺突する。

 いくら対敵が頑強だろうと、サン魔にとって露出した心臓である魔力炉は弱点そのものである。

「当たりませんよ」

 サンマエストロは寸でのところで上体を僅かに逸らしそれをかわす。

「爆ぜなさい!!三魔大爆発(サンマイン)

 サンマエストロの手にサン魔力が集まる。

 不味い。

 そう察した時点でもはや回避不能。

 全細胞でそれをかわす術を求める。

 しかし、弾き出された答えは不可能の三文字。

 自らの死を悟ったその瞬間、音が爆ぜた。

「わ、私を忘れないで欲しいであります!!」

 その声が届くと同時にサンマエストロの腕に鉄の塊が飛来し、肉を抉る。

 秋刀魚銃(サンマグナム)

 サン魔力が少ない日魔星達の為に開発中であるという新装備であるが、どうやらその実験機をマリアンヌは装備していたようだ。

「ギョッ!なんですかそれは?サン魔力が低いと生かしておけば!!」

「隙だらけだぞ」

 既に上段に構え直していた秋刀魚で袈裟斬りを放つ。

「ギョ!?」

 回避が間に合わず、今度こそサンマエストロの肉を断つ。

 しかし、致命傷ではない。

 肩から胴体にかけて袈裟懸けに切りつける事が出来たものも、サン魔の耐久力はずば抜けている。

 並大抵のサンマであれば今の一撃で致命傷だろうが、ことサン魔であれば同程度の攻撃を三、四発与えても致命傷になるか怪しい。

 俺は直ぐに左足を踏み込み、右手を半周させ持ち替えると下方より切り上げる。

 秋刀魚返し(つばめがえし)

 狙うは喉元。

 例えサン魔であろうと致命傷は避けえない。

「ギョッ!!」

 しかし、敵もそう甘くはない。

 まともや上体を逸らされ刃は空を切る。

 そして、反撃とばかりにサンマエストロの鉤爪が俺の胸目掛けて突き出される。

 もし、それが突き刺されば間違いなく人は絶命する。

 刺されば。

「ギョッ!?」

「覚えておけサンマエストロ。日魔星は常に懐へ七輪を忍ばせている!!」

 サンマを祓う力のある七輪は日魔星にとって命綱だ。どんな事があっても常に二三個は持ち歩いている。

 右足から踏み込み、中段より刺突する。

 だが、残った腕でまともや受け止められる。

「このサンマエストロと互角に戦える人間など初めてだギョ。もう一度聞こう、名前はなんと?」

「秋水三魔だ!!」

「三魔!?ほう、貴様が」

 サンマエストロはそう呟くと、鉤爪を七輪から引き抜き、秋刀魚から手を離すと俺から離れた。

「三魔…マキシマムの…」

「どうした?逃げるのか?」

「ギョ、そうさせてもらうギョ」

「フン。お前たちサンマは三界から出ることが出来ない。それぐらい知っているだろう?」

 三界。

 人の世の裏の側面。

 その世界は普段は人の無意識下の世界にて沈んでいるが、サンマが現れると半径三キロ程の大きさで具現化する。

 そして、サンマはその三界から出ることが出来ない。

 表の人界がサンマの侵入を拒むからだ。

 よって、日魔星は三界を辿り、サンマを狩る。

「ギョギョギョッ!!サンマーティストに不可能はないギョッ!!」

 そう叫ぶとサンマエストロは煙幕を張るように爆発を起こした。

「くっ!!」

 そして視界が晴れた頃にはサンマエストロの姿は消えていた。

「くそ…!!逃げられた」

 直ぐに追いかけようとして、足を止める。

「マリアンヌ、助けられた。奴を倒したら礼をさせてくれ!」

「は、はい」

 それだけ伝えると、直ぐに倉庫の外に出て足跡を辿る。

 しかし、鱗一片すら痕跡を見つけられず、そのまま見つけることが出来ないまま朝が訪れた。

 途中、応援の日魔星が辿り着き、大規模な捜査網がしかれたがそれでもだった。

 俺はそのまま母秋刀魚(サンマザー)の元に帰り、報告をした。

 今までのサンマでは有り得なかった異例。

 何処と無く不吉な予感を感じながらも、サンマエストロはこれから継続的に捜索することで一端の決着が着いた。

 サンマエストロ。

 強力である上に、奴は何かを知っていた。

 次にあった時はその命諸共、秘密を暴いてやる。

 そう、胸に秘めるのであった。


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