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3話 川ではなくで海ですか?!

いや、良く見ると川岸に黒い影がある。

その影がこちらに向かって叫んだ。

「お~い。こっち!」


ん?クローディア?


とりあえず、状況は全く分からないが、一応知っている顔を見つけてほっとする。

いや、でも、この知らない場所に僕を連れて来たのは明らかに魔女のような気がするが。


まあ仕方ない。横に転がっていた買い物袋を拾うと、僕は呼ばれた川岸に向かって歩いて行った。


「あの~。」


僕の問い掛けを無視して、クローディアは川の中を睨んでいる。

何か川の中にあるのだろうか?


不思議に思い僕もクローディアの視線を追う。


「来たっ!」


クローディアが叫ぶと同時に川面から魚が飛び上がった!

一匹や二匹ではない、数十匹、もしかしたら百匹近くの魚が一斉に。


「今度は逃がさないんだから!☆○□○☆☆!!」


クローディアが黒いワンピースの広がった袖の下から杖を取り出すと(どこに入っていたのか?)聞き取れない言葉を叫んだ。


そのとたん、ピタッと川の流れが止まり、魚も空中で静止する。

さっき、周りの人間が動かなかったのと同じ様に、周りの景色が全て動かなくなった。


「よっし!じゃあ、ベテルギウスの剣であいつら取ってきて!」


魔女は満面の笑顔で僕に向かって命令をした。


(え~と、ベテルギウスの剣は僕の包丁の事だから、それであの魚を取ってくると?)


まあ、川面はカチカチに固まっているし、川の上を歩いて行けるのか。


僕はとりあえず包丁をリュックから出すと、ソロソロと川の上、普段は流れているであろう固まった水の上に一歩足を出した。


(これ、魚のところまで行く間に元通りの水になったりしないよな。)


恐る恐る川岸から離れて魚が空中で停止しているところまでたどり着く。

まるで、何かのオブジェのように体長20センチくらいの秋刀魚のような魚が大量に空中に浮かんでいた。


「そう、剣でサクッとやっちゃって!」


魔女が川岸で叫んだ。


(サクッと?)


なんというか、この説明の足りなさと逆らえない感じ、誰かを思い出す。

だいたい、ここがどこだかの説明もまだないのに、何故魚を取らされなければないのだろうか…。


それに、こんなカチカチ状態の魚に刃が刺さるのだろうか?

僕はため息をつくと、空中の止まっている魚の一匹に包丁を軽く突き刺した。刺さる感触は無かったが、包丁もといベテルギウスの剣?が魚に触れたとたん、ボトッと足元に魚が落ち、ピチピチと跳ね出した。


「うわっ!」


思わず声を出す。


「そうそう、その調子で20匹くらい取ってきて!」

後ろの方でクローディアがまた指示を出してきた。


なるほど。僕は何となく理解した。

この、包丁もといベテルギウスの剣とやらが介在すると、時間が動き出すと言うわけだ。


とにかく、そこまで分かれば話は早い。

手近に浮いている魚からどんどん刃先で触っていくとあっという間に20匹が足元に転がった。


さて、どうやって岸まで運ぼうかと思っていると、クローディアが籠を手にやって来た。

片手を振り上げ握りしめると散らばっていた魚がざっと音を立て、見えない力によって籠に放り込まれた。


「それも魔法?」

驚いて尋ねる。

「そう。これは空気を操る魔法の一種。私の得意なのは時空系の魔法だけど、大抵の魔法使いは広く浅く何でもできる。」


「へ~。」


クローディアの説明の内容よりも、初めてまっとうな説明が返ってきたことに僕は驚いた。

何だ、きちんと説明も出来るんじゃないか。

よし、この調子で色々聞いてみなくては。


「で、ここはどこなんですか?」


見た目は自分より小さな女の子だが、何と言っても魔女だし、何となく口調が偉そうところを見ると実際の年齢は年上かもしれない。一応、敬語で聞いてみる。


「ここ?街道沿いの海岸。」


「えっ、いやそうじゃなくて、海岸?!川じゃなくて?!」

全く説明になっていない答えにつっこみたかったが、最後の言葉に驚かされて思わず聞き返した。


「そう。ここは海に繋がっていて水も海水。この辺りに居る魚は海の魚。」


へ~、そうなんだ。

だから~、僕が聞きたいことじゃないとどうしてこんなに詳しく説明できるんだろう。

わざとなのだろうか?


「その魚、早く串に刺して!」

見ると川から上がったところに小枝と枯れ葉をかき集めて山にしたものが出来上がっていた。

ワンピースのポケットから何かを取り出すと、近くにあった岩に擦り付ける。シュッ!と音がして火が着いた。

それを枯れ葉の中に放り込むとに簡単に火が着いた。


田舎の親戚の家に行ったとき、仏壇にあったマッチのようなものだろうか?

僕は触らせてもらえなかったが。


「火炎系の魔法は得意じゃない。」

じっと見ていると、クローディアが気まずそうに言った。

そうか、今のはやはり魔法では無かったようだ。


僕が無言で納得していると、何か勘違いをしたのかクローディアが更に必死に言い訳をしてきた。

「使えない訳じゃないけど、調節が難しいの!せっかく集めた薪の材料を真っ黒な消し炭にしたくはないだろう?!」



「うん、そうだね...。まあ、得意不得意は人それぞれあるし、時間を止めたりする方が余程すごいと思うけど。」


「本当に?」


「うん、本当に凄いと思うよ。」

僕は心の底から頷いた。

実際、誰に聞いてもそう言うだろう。普通の人間は、道具を使って火を着けることは出来ても時間をどうにかすることは出来ないのだから。


クローディアは明らかに機嫌が直ったようで、ニコニコしながら薪をツンツンつつくと火が強くなりすぎないように、薪の位置を木の枝で調節していく。


余程、火の魔法が苦手なのを気にしていたのだろうか。


何か分かりやすいくて、可愛いと思う。

実際、見た目はかなり美少女と言ってもいい姿形だ。

大きな猫のような金の目に黒髪。でも、僕のような真っ黒な直毛ではなく細くて艶やかでふんわりした。

きっと触ったら艶々の猫の毛のような触り心地に違いない。

顔立ちは確かに小学生ぐらいに見えるが、着ている真っ黒なワンピースは胸元が大きく開いていてそこから見える真っ白い丸みが実際の年齢を判らなくさせていた。


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