幼い推しと新天地
不定期更新です。あと他と比べると基本短いです。
今日も推しが美しくてご飯が美味しい。
推しと同じ空気を吸えるだけで五体投地で神に感謝したい。
前世では無宗教。しいて言えば推しを全力で信仰していた。
こんにちは。オタク女子から人外転生、綾瀬寧々子ことアヤネコです。
推しが王宮から追放されてしまったので、その道を見守ります。
多めのオゼゼを握らせた御者は、相手が怪しい仮面マントでもちゃきちゃきと前向きにお仕事をしてくれています。
いい仕事をするたびに、ポッケに追加チップが効いている。
チャリンチャリン増える銅貨や銀貨に、日に日に動きが良くなっていく御者。
最初は推したちも訝しんでいたが、カバディカバディいう掛け声が聞こえてきそうなほど目を爛々とさせながらせっせと世話をしてくれる。
推したちはまだ子供なので、変な御者でも大人の力は貴重なので頼らないといけません。
私はそんな推したちの馬車を追いかけながら、襲おうとした魔物を根絶やしにしたり、盗賊を見つけたらアジトごと根こそぎ殲滅したりしています。
推しの行き先はフェルゼン辺境伯の御屋敷らしいです。
公式で推しの味方です。
ならば安心。
ですが、その公式で推しの味方の辺境伯は、スタンピードや天災が重なり没落し、推したちを保護しきれなくなってなけなしの金銭を握らせて、治安のいい場所へ行くように見送るのです。
その後、スタンピードが再度発生し、魔物の討伐に失敗して親子ともども領民のために奮闘したものの戦死。
ここまでが、推しの回想で知っている知識である。
あ、ゴブリン発見。小石を投げれば眼窩から頭蓋骨までパーンと貫通してぶっ倒れた。
あんまりこの辺の魔物強くないけど、やっぱり数ヤバいと大変なのかしら。
そんなこんなでフェルゼン辺境伯領までつきました。
途中何度か来た暗殺者は、草原の土と仲良くなっているはずです。時間とともに自然に還るでしょう。
フェルゼン辺境伯は、良くも悪くも王族は平等に尊びます。
たとえ母親が愛妾といっていい立場であり、もともとが侍女であっても、その姿勢は変わりません。
御者には途中、道すがら倒しまくった魔物から取れたクズ魔石を押し付けて元の場所にハウスさせる。売れば平民にはそこそこの値段になるらしい。
そっと推しの乗っていた馬車荷に、魔物の討伐部位でも高級らしいものを詰めておく。
ナマモノだと腐ってしまうから、角だの魔石だの爪だのといった類だ。
一応お世話になるところだし、先立つもんは必要だろう。
推しへの投資はお布施である。
しかし、辺境伯って伯爵より上、公爵より下で侯爵とどっこいレベルって聞いたんだけど、なんだか割と襤褸屋である。
もとは大きくて立派なお屋敷だったんだろうけれど、経年劣化が激しい気配。
うひょぅ、これは腕が鳴るぜ。
洗浄魔法と修繕魔法が唸る。
今回屋根は赤に塗ろう。推しのアイカラー。
「フェルゼン辺境伯だな? 僕はエルストン・ジル・ダルシア。こちらは弟のロヴェルと、妹のアリエッタ。世話になる」
「これは殿下! 碌なお迎えもできず申し訳ありません!」
「いや、厄介者の僕たちを受け入れてくれたことに感謝する」
「勿体なきお言葉。お荷物はこちらに?」
「ああ……少ないが気にしないでくれ」
暗い顔になる推し。
推し、あのおうちに置いていくこととなった形見の肖像画とかわたしがもってるよ?
ちゃんと屋敷をキレイキレイにリフォームして、直した後にちゃんと飾るからね!
しっかし屋根や壁もなかなかだが、庭の鬱蒼さもなかなかだな。
翌日、劇的ビフォーアフター再びの屋敷に推しは微妙な顔をし、フェルゼン辺境伯は腰を抜かし、ロヴェルとアリエッタは「妖精さんがいるのかな?」とワクワクしていた。
いっとくが、妖精というか神の使いという名のストーカーだ!!!!
外見は軽く悪夢。
とりあえず、ジャイアントコッコのガラから取った参鶏湯は好評でした。
お肉は唐揚げとマリネとシチューにした。
お屋敷の調理場の近くに勝手に増設した冷蔵庫に入れていたら、使用人たちが盗み食いしていた。
なにしてんじゃあ、ゴルァと思っていたらここは蝗害があって慢性的な食糧不足なんだって。領主に仕えている使用人すらカツカツってやばくね?
隣の領地から毎年飛んでくるらしい。取りあえず隣の領地にいるうちに燃やしに行った。
今年は穀物収穫できるかもだが、現状すら厳しい。
おい、テメーらの経営手腕不足と運の悪さで自滅するのは勝手だが推しに迷惑かけたら顎を六つ位に割るぞ。
しかたねーので、領主のアインズ・フォン・フェルゼンの夢枕に立ってこの金で麦でもコメでも蕎麦でも買えやと札ビンタならぬ金貨ビンタをしてやった。
お金?
ん? その辺の盗賊から巻き上げましたが?
魔物っていいよね、お金にも素材にも食糧にもなるから。
鳥や猪や牛の魔物はお肉と毛皮、ゴーレム系は石材や鉱物、爬虫類系は皮と牙や爪、植物・樹木系は果実・野菜・木材・薬草となる。
アヤネコトランクルームを勝手に屋敷内に作り、その鍵をアインズのおっさんに渡しておく。
推しの保護をしているうちは助けてやらんでもない。
ただ、三日に一度くらいの割合で悲鳴を上げたり卒倒したりするんだが、あの辺境伯のおっさんは乙女か? 繊細な乙女なのか? デリケートでナイーヴなお年頃なのか?
数日後、なんだかアインズのおっさんが私室の隣にいそいそと祭壇を作って潰れ気味の白まんじゅうっぽい石を崇めていた。
なにやってんだオッサン。
そんなもん拝むより、推しのために働け。
んなもん崇めてる暇あるなら、推しに尽くせ。
ご神体らしい石を窓から投げ捨てようと手を伸ばして気づく。
その潰れ白まんじゅうにちょんちょんと三角が描かれており、点のような双眸、シンプルマズルを発見する。
………え、ワシじゃん。
………あのオッサン、なんつー縁起でもねーもん崇めてんだ!?
一応は『なりたてしんし』だけど、中身は悪霊と大して変わらないストーカーだぞ!?
物凄く嫌な汗をかいた。よし、投げ捨てよう。そうしよう。
さてはあいつの夢枕に立った時に私の顔を覚えやがったな!?
いや、寧ろ心を折るために握りつぶして粉砕するべき……?
投げ捨てるか粉砕かの二択で悩んでいると、メイドが来たので逃げる。
……え……メイドさん何拝んでるの?
……執事ぃいい!? そんな得体のしれないモノ拝むな! むしろ主人止めろー!
やめてください、心の小市民が悲鳴を上げています。
………もういいや☆薪割でもしよ!
その時エルストンは、王宮に残したはずの母の肖像画の前で呆然としていた。
断腸の思いで手放し、二度と目にするとは思わなかったものが当たり前のように壁に掛けられていたのだ。
この肖像画は結構な大きさだし、持っていくどころか外すのも難しかった。
見ればその肖像画を柔らかく照らすシャンデリアは覚えのある形だし、絨毯やライティングデスク、ソファや椅子も覚えがある。
エルストンたちには碌な護衛どころか、侍女や侍従すらつけられていなかった。
最初詰められた馬車はおんぼろだったし、御者もガラが悪そうな男だった――意外と運転は丁寧だったし、最初の街についた頃には馬車ごと変わっていた。
ついた当初のフェルゼン邸はお世辞にも綺麗ではなく、母が死んだ後に入れられた屋敷を思い出した。
気が付けば白い壁も眩しい赤い屋根の瀟洒な屋敷に変わっていた。
最初見たときは鬱蒼としていた雑草が目立つ庭も、いつの間にか盲目のアリエッタが歩くにも丁度いいふかふかの芝生に変わっている。
アインズは白目をむきかけ、執事とともに卒倒しかけていたので、彼も思いもよらないことだったのだろう。
前の屋敷といい、今回といい自分の周囲にはまるで妖精でもいるようだった。
こっそりとメイドが教えてくれたが、その妖精は結構身丈が大きいらしい。色は白っぽく、素早いため全容は明らかになってはいない。
アインズは『あれは神の使いの一種だと思います』と神妙な顔をして言っていた。
エルストンは神など信じない。
天使も神使も信じない。
母を奪い喪わせた運命も、弟妹を苦しめる人間も、自分を見捨てた父も、命を狙う腹違いの兄姉たちにもうんざりだった。
いるとしたってなんだ。
あるなら利用してやる――そう自分に言い聞かせて踵を返す。
ロヴェルやアリエッタは素直に素敵だと喜んでいるが、エルストンは訝しんでいた。
その後、数年にわたりエルストンがじっくりゆっくり拗らせた守護天使への思いの始まりである。
ちなみに、件の脳みそアッパラパーの推し全肯定『守護天使』は自分の献身を斜めにとらえられても「推しの孤高の心……うちゅくしい……尊みがクライマックス過ぎてヤバい……いっぱいちゅき」と大して気にしていない。
とても幸せな生き物であった。
通常運転である。
気まぐれに更新するし、特に深いストーリーはない感じです。




