えっ、ゴーン?さすがにそれは……
まず、打ち合わせでは二つの勇者一行に分かれて今後の予定を指示される。
勇者一行とはミッド王国に従事する公務員から選ばれた特殊部隊のことだ。
なので基本的に国の命令には逆らえない。
私も扱いとしては衛生兵だ。
17歳で衛生兵になれるのは聖術女学院で主席の成績を収めた人間。つまり私やリペス先輩のように優秀な人だけだ。
聖術女学院で育成しているのは町や村の医療機関で働ける人材で有事の際には騎士団や魔術連盟、剣闘会と協力することもある。
そしてその、今が有事だ。
一通りの説明の中でニールビに向かうのは山賊などを欺くための嘘情報でナーブの言っていたとおりサス村に向かうのが正しい情報みたいだ。
あと、なぜだか告白勇者ゴーンの任務は私たちにも秘密らしい。
なんでなんだろう?
疑問に思っている間に式典が始まった。
盛大な楽器の演奏とと共に扉が開かれた。
私たち八人がそれぞれ入場し、ミッド・ケリス王陛下や高官たちの元、跪いた。
ケリス王陛下は金の冠に豪華絢爛な宝石の付いた指輪や腕輪を付けた圧の強い老人です。
そしてミッド王国の王の証である青い筋の入った白い輪を首に下げていらっしゃいます。
「名を名乗れ、聖剣に認められし勇者とその仲間たちよ」
ケリス王の言葉を聞き順番に顔を上げ名乗りを上げる。
「私は剣闘士ナーブ、霊峰テリアにて真実の剣に認められた勇者です」
「私は騎士ゴーン、聖剣の間にて空跳びの大剣に認められた勇者だ」
「私はドーテ。剣闘騎士です」
「私はメヨン。騎士です」
「私はナツメ。聖女です」
「儂はギーレレイ。魔女ですじゃ」
「わたしはミレア。魔術師です」
「私はローディ。剣闘士です」
紋切り型の台詞をそれぞれ口にする。
順番は勇者が最初次に所属組織の力関係。そして、所属組織内の強さで発言順が決まるのだ。だが、この四つの組織内で一番地位が低い剣闘会所属のナーブが騎士団所属のゴーンより先にご挨拶できたのが少し不思議だ。
それに、ゴーンの台詞も少し権威を恐れないというかちょっとフランクというか、剣闘士のナーブが敬ってないとか作法がなってないとか言われないかと正直ビクビクしていたが、逆に告白勇者ゴーンが大丈夫か怖くなってきた。
実際、告白勇者ゴーンのご挨拶と一緒にこの場にいる演奏隊と勇者一行以外とケリス王殿下以外の人間の眉が上がった。
二人ほど青筋まで立っている人もいる。
「勇者ナーブよ。我が元へ」
ケリス王陛下のお言葉に従いナーブは壇上に上がった。
「ナーブよ。ここにひのきの棒と50Gを授ける」
「ははっ、ありがたき幸せ」
ケリス王はナーブがそう言うとナーブに50枚の金貨が入った麻袋とひのきの棒を渡した。
ちなみに50枚の金貨といえば領地を持った貴族の年収にも匹敵する大金で、ひのきの棒は特殊な加工が施されて傷をつけるのは困難だ。断面には特殊な方法で模様が掘ってあり判子としても使える。
勇者のひのきの棒の印が付いた命令書は王様の命令に次ぐ優先権を持っており、勇者の最大の特権とも言えるだろう。勇者の権威の象徴そのものといっても過言ではないだろう。
ナーブは元の位置に下がり平伏した。
「勇者ゴーンよ。我が元へ」
ケリス王陛下の言葉で告白勇者は壇上へ上がった。
「ゴーンよ。ここにひのきの棒と50Gを授ける」
「そのようなものより、その首飾りがほしいですね」
ゴーンはそう言いながらケリス王陛下の首に輪をぶら下げていらっしゃる鎖を聖剣で切り裂いた。
そして落ちる輪をゴーンは拾い上げた。
えっ、私は唖然とした。言葉にならなかった。
周囲の高官どころか演奏隊も勇者一行も張本人の告白勇者ゴーンとケリス王陛下以外は唖然とした表情を浮かべていた。
それもそのはずだ。あの輪はケリス王陛下が王である証明。それに、王に対して剣を向けるとは極刑もあり得る暴挙だ。まさか騎士のゴーンがやらかすとは思わなかった。
「貴様ぁ、陛下に無礼だぞ」と騎士の偉い人が剣を抜いてゴーンに迫る。
「よい、下がれベルナリフ」
騎士の偉い人はケリス王のお言葉を聞くと、渋々剣を引いた。
「しかし、陛下」
「よいのだベルナリフ」
そのやり取りを見ていた張本人は輪をケリス王陛下に返された。
そしてケリス王陛下も苦虫を潰したような顔でゴーンにひのきの棒と50Gを渡された。
「ありがたき幸せです。ケリス王」
と人を食ったような感じでケリス王陛下に接するゴーンの姿勢はなんか見ていて不安になる。
まあ、この式典は形式上の意味が大きいのでゴーンが下がり音楽が変わりケリス王陛下から「勇者たちよこの国に平穏を取り戻すこと期待しておるぞ。では旅立て」とのお言葉をいただき私たちは退場した。そして王の間を出ると大急ぎで王宮の裏手に待機してある馬車に四人で乗り込んだ。
この馬車はとてつもない早馬車と聞いて覚悟はしていたが、予想以上に揺れた。
昨日の馬車の十倍は揺れた。
尻が痛い。あと腰とかその他もろもろが痛い。
さらに、ドーテさんが乗り込む直前に言っていた「歯、食いしばってないと舌噛むかもしれないぞ」の一言のせいで今私は猛烈に歯を食いしばっています。
景色を見る余裕?
景色を見ようとしたら酔いが増してきて吐きそうになった。
こうなったら下級回復術の穏術を自分に使って耐えよう。
これを使うと頭がぼけーっとしてリラックスしてよく眠れるんだよな。
ただ、私は忘れていた。乗り物に酔っているときに意識レベルを下げると酔いが増してさらに辛くなるということを。
目をつむり必死に揺れに耐えていたら不意に揺れが止まりました。
サス村に一秒でも早く私たちを向かわせるために馬車を二回乗り換える予定だったのです。
その、一回目の乗り換えで私はもうのど元まで苦い感覚が迫っていました。
「辛そうじゃな、ナツメ。これを飲むかい?」
ギーレレイさんから緑の液体の入ったビーカーを差し出されました。
「これは?」
「儂の特製酔い止めじゃ」
それを聞いた私はビーカーに入った液体を飲み干しました。
すごい苦い。この苦味でのど元の苦味を押し込みました。
ちょっと、くらくらしながら二台目の馬車に乗り込みました。
驚いたことに一台目と比較にならないほど楽でした。
これがギーレレイさんの薬の力。
すごい頼もしい。
でも、揺れは相変わらずなので歯を食いしばるのは変わらないけどね。
まあ、そのまま特に何事もなくサス村に到着した。
もう日は暮れて真っ暗だ。
勇者一行としての仕事は日が明けてからだ。
それまでじっくり休むように指示が下されている。
馬車を降りるとギーレレイさんが魔法で灯りを点けてくれた。
「勇者様方こちらにどうぞ」
と、村の人が案内してくれた空家に私たちは入った。
「お食事はいかがなさいますか?」
と聞かれたが私は疲労の末、一刻も早く床に着きたかったので、「いいから、寝かせてください」と言いました。
ドーテさんは「明日からハードになるし食べないと後悔するぞ」と言ってくれましたが睡魔には勝てず、私一人先に眠りました。
Qなんでギーレレイはナーブのことを知っていてドーテのことを知らなかったの?
A強い剣闘士は依頼などを増やすために名前を全面的に売り出しますが、剣闘騎士はその必要がなく剣闘騎士としか売り出さないので、剣闘士や剣闘試合での賭博士以外での知名度は低いからです。