えっ、旅立ちは今日中なの!?
お詫びと訂正
前回までの投稿で主人公がナツキと表記されている箇所がありましたが正しくはナツメですナツメ・クァルです。
このさくのミスです。
大変申し訳ございませんでした。
夕刻、宮殿で勇者一行認定の儀を済ませ、翌日派手な馬車に乗って海の街ルーニビへ向かうのを見送る。
それが勇者式典の予定だと聞いている。
「そんなに軽装で大丈夫かい?お嬢さん」
えっ、ギーレレイさんはなにを言っているの?
「えっ、でも出発は明日ですよね?」
「ああ、そこからか」
えっ、ドーテさん。
「あのね、ナツメ。勇者一行認定の儀が終わったらサス村へ早馬を三回乗り換えて日暮れまでに向かう手はずになっているんだ」
「えっ、ナーブ。私サス村に行くとか聞いていないんだけど。えっ、そんなに出発速いの。なんで?」
サス村は、レギ山の中腹にある田舎の農村でルーニビとは正反対の方向にある。
「あのな、ナツメ。俺たち勇者一行は王様から50Gとひのきの棒を貰うんだぞ。無法者共の良い餌じゃないか」
「大金を持って移動するからダミーの情報を流して認定の儀が終わったらボロ馬車に乗ってサス村へ向かう手はずになっているんだ」
「向こうに着いたら翌朝から仕事じゃ」
えっ、なにも準備してないんだけど。
正確に言えば準備はしていたのだが自室に置いてあるのだ。
「ちょっと、待ってくださいみなさん。旅の準備を聖術女学院に置いています」
「あー、運転手さん。行き先を聖術女学院へ」
どうでもいいけど、ドーテさんリーダーっぽいな。
「わかりました」
運転手さんから返事が返ってきた。
「みなさん……私のためにわざわざありがとうございます」
私はみんなへ頭を下げた。その反応は好意的だった。
「いいってことよ。それに思ったより早く決まったおかげで時間に余裕もあるし」
「なんで嘘の情報をばらまいたかは理解しましたけど、なぜサス村なんですか?」
そう、海の街ニールビは豊富な海産物を採っているので勇者が向かう先として理解できるが、なぜ交通の便も悪いど田舎のサス村にわざわざ行くのか不思議なのだ。
「騎士団・剣闘会・聖術組合・魔術連盟を国が総動員して防衛案を練っている。俺たち勇者一行の役目は大量の兵を派遣できない地域でわずかな補給のみで正規の防衛部隊が到着するまで民を守ることだ」
なるほど、交通の便が悪いサス村に正規の防衛部隊の到着までの時間稼ぎをしろと。
えっ、正規の防衛部隊がサス村に来るのすごい後回しにされない!?
えっ、予想の十倍ハードなんだけど!!
でも、ナーブと一緒なら頑張れる。
「ところで、ドーテ。お主はなんの使い手なんじゃ?ナーブは真実の剣に選ばれたことから技巧派剣士であり山賊剣闘士として名を聞いたこともある。ナツメは聖女と言うことから聖術使いじゃと分かるが、一口に騎士と言ってもいろいろな役割がある。城壁の補修から盾持ち弓持ち槍持ち見回り雑用といろいろな役目があるから気になってのう」
えっ、ナーブって山賊剣闘士やってたの!?
剣闘士の収入源の一つに商人からの依頼で馬車を護衛するものがある。そこで剣闘士が自分の護衛としての実力を示すために山賊側と護衛側に分かれて闘う催しが開かれることがある。その、山賊側に立ち続ける剣闘士を人は山賊剣闘士と呼ぶのだ。
「俺は剣闘での広報係だ。得意武器は鎖分銅」
ドーテさんは騎士の強さを民にしらしめるために剣闘試合に出る騎士みたいだ。
それにしても鎖分銅とは珍しい武器を使うな。
でも勇者候補として惜しいところまで行ったということは剣の腕もいいのだろう。ナーブの師匠らしいし。
そんなことを考えていると馬車が止まった。
どうやら聖術女学院に着いたみたいだ。
「ナツメ。一緒に行ってもいい?ナツメがどんな場所で過ごしていたかすっごく気になる」
「儂らもご一緒させて貰おうか」
「はっ、はい」
というわけで私たち四人で聖術女学院に入りました。
「あら、早かったわね」
寮監のセェダさんだ。
「ちょっと、忘れ物をしてしまって」
「そうかいナツメちゃん。でも、本気で勇者一行になる気かい?生半可な気持ちじゃつとまらないよ」
セェダさんが諭すように言った。
「生半可な気持ちがあったなら聖女になんかなれませんよ。これからも私は中途半端はしません」
「なら気ぃ張っていきな応援してるよ。ただ一つ約束だ、生きて帰ってきなさい」
「分かりました。セェダさん」
私はこれまで、リペス先輩への恩返しと聖女になってナーブと再会するために奮闘してきた。
もうリペス先輩はいないけれどナーブが横にいるならどこまででも頑張れる。
そもそも、たとえナーブが勇者じゃなくても私は勇者と旅を続ける気でいた。
この聖術女学院があまり好きではないのと、魔獣の活性化で死んだリペス先輩の仇を討ちたいからだ。
まあ、まさか告白されるだなんて思っていなかったし、そのうえもう一人の勇者がナーブだなんて事実は小説よりも奇なりってことかな。
私たちは私の部屋に向かった。
聖術女学院は基本的に四人一部屋の相部屋だが聖女だけは特別に一人部屋だ。
「あなた、勇者と旅するの全滅確定ね」
そんな声が遠くから聞こえた。
ナーブは聖剣を握り、ドーテさんは声の聞こえた方を睨んでくれた。
嬉しかった。でも、リペス先輩がここにいたらたぶん同じように怒ってくれたであろうことを思い出すと悲しくなった。
「儂がそれほど頼りなく見えるかえ?お嬢さん方」
強い語調でギーレレイさんが言うと遠くにいる人たちは黙った。
リペス先輩はいつもこうして私を護ってくれたんだな。
「ここが私の部屋よ」
この寮には大した物は置いていない。
持っていくのは当面の着替えと昔ナーブからもらった壊れた人形、あとは鞄ぐらいのものだ。
もうすでにまとめてあるので時間は五分とかからなかった。
「すいません、わざわざ付き合せて」
「別に何も問題はない。これから式典の打ち合わせと空跳びの長剣の勇者御一行との顔合わせだ」
ドーテさんに連れられ王城へ向かう。
王城の客間に入るとさっきの告白勇者がいた。他には私と同じぐらいの年齢の銀髪の女の子と赤髪の頼りなさそうな騎士さんと黒髪のいけ好かない茶色マントの男などがいた。
「あれっ、ドーテ先輩ですか?僕ですメヨンです。ご無沙汰してます」
赤髪の騎士はド-テさんの後輩でメヨンと言うらしい。
装備は平常の騎士装備で胸と肩、手の甲から肘、膝から腰など主要な部位を護る鎧を付けていて背中に槍を背負い腰に剣を付けている。
「騎士学校始まって以来の落ちこぼれ君が随分と立派になったじゃないか」
ドーテさんが感慨深そうに言った。
「これもドーテ先輩のご指導のおかげですよ。それに、それを言うなら騎士学校始まって以来の不良児のドーテ先輩もですよ。騎士学校の宿舎から町へ抜け出したりしたのは先輩ぐらいなものですよ。それが今ではキタノ王国親善剣闘大会の覇者ドーテですよ。おめでとうございます先輩」
「あれはまぐれだっての」
「その話はしないでもらえるかな?」
黒髪のいけ好かない茶色いマントの男がキレ気味に言った。
「ああ、ーローディ。久しぶり」
ナーブが親しげに話しかける。
「真実の剣に選ばれたのはナーブお前か。まあ、納得だな。向かった面子ならあとはそこのデカブツ以外はパッとしなかったからな」
ローディはそう言いながらドーテさんを指さした。
私やナーブだけでなく告白勇者やギーレレイさん、メヨン、銀髪の女の子全員が反感の目をローディに向ける。
このローディって奴、私嫌いだ。
「まあまあ、キタノ王国親善剣闘大会で苦い思いをしたから優勝争いをした二人には気が立ってるんだ。大目に見てやってくれ」
告白勇者がすかさずローディって奴をフォローする。
「そろそろここで互いの自己紹介と行かないか?話が進まん」
ギーレレイさんがそう言うと全員が黙りギーレレイさんの方を向いた。
「儂はギーレレイ、拾壱魔女の一人じゃ」
魔術協会では十一人の女性魔術功労者に魔女の称号を与えているのだが、この称号は没収されないのでなかなか死なない老人で埋め尽くされているのが実情だ。
ギーレレイさんは見た目から察すると五十代後半といったところだろう。だが、レディーに年齢を直接聞くのは失礼にあたるので胸の内にしまっておこう。
「私はナツメ、今代の聖女です」
とまあ、簡潔に自己紹介した。
「俺は、ドーテ剣闘騎士だ」
「僕はナーブ、普段は山賊剣闘士をやっています。真実の剣に選ばれた勇者です」
「みんな固いなあ、わたしはミレア。所属は魔術連盟です」
ミレアちゃんは肩などを表が動物の皮で裏地が鎖帷子になっているオーソドックスな装備で守っている。
武器は魔術杖を一本背負い、両腿にナイフを一本ずつ付ける前衛後衛隙のなさそうな装備で固めている。
そしてそれとは別に魔術杖を一本手入れしているようだ。
「俺はローディ剣闘士。弓使いだ」
よく見ると背中に矢を入れるアレを背負っている。
「わたしはメヨン。騎士です。得意料理はシチューです」
えっ、いきなり得意料理の話だと!?
これまでそんな流れなかっただろ!?
えっ、もう自己紹介の残りが告白勇者しかいないの!?
「俺の名はゴーン。普段は騎士をしている。空跳びの長剣に選ばれた勇者だ。得意料理は卵焼きなんだ」
告白勇者のゴーンは騎士の部隊長にしか許されていない金の装飾が入った鎧を付けていて腰に聖剣を携えている。
「そうなの、ゴーンの卵焼きすっごく美味しいんだよ」
ミレアがテンション高めに言った。
「そうだナツメ。困ったことあったらこっちのパーティーにいつでも来ていいよ。まだ君のことを諦めたわけじゃないからね」
ゴーンさんが悪戯っぽく言った。
「さあ、みなさん。準備が整いました。これより勇者一行認定の儀の打ち合わせを行います」
城の人がこっちに来た。これで雑談タイムは終了みたいだ。
ワード解説
Qキタノ王国って?
A主人公たちが属するミッド王国の北部に位置するキタノ王が支配する王国。国土はミッド王国の二倍で人間の国では最大だが、ほとんどが砂漠のため人口の差はほぼない。




