えっ、勇者に告白された
私は日記を付けていた。
1月前から付けていないが、無性に読みたくなったのだ。
最初に日記を書き始めたのは確か孤児院にいた3歳の時だ。
最初のページにはこう書いてあった。
『きょぅからにつきをかきます。なぜかとゆぅとすてきなおゆめをみたからです。おゆめのなかでわたしはだっこされていました。やさしくてちょっとちっちやいてでした。わたしのおにいちゃんでした。』
今はもう覚えていない話だ。
もう涙腺が決壊しそうだ。
次のページをめくった。
『きょうはたしざんをならつた。すごいべんりでおもちろかつた。』
『きょうなあぶがいつしよにあそんでくれなかつた。なあぶのばか。ばか。ばあか。』
ナーブは私と孤児院で仲が良かった男の子だ。
喧嘩したっけ、覚えてないや。
今はなにしているのかな。
「会いたいな ナーブ」
『なあぶはさようもあやまつてくれなかった。なあぶのばか。』
『きょうはなあぶのおよめさんになるやくそくをした。ぅれしい。』
昔を思うと涙が出てきた。
ああ、懐かしいな。
ああ、戻りたいな。
ああ、あのころは良かったな。
涙が収まると無性に二冊目の日記を読みたくなっていた。
二冊目の日記を無造作に開いた。
『きょうはかん字をならった。おもしろかった。』
『あさってはわたしの5才のたんじょう日だ。ナーブがなにをくれるのかすごいたのしみだ。』
『わたしをひきとりたいってえらい入が言っているらしい。そうしたらナーブともみんなとも会えなくなっちゃう。かなしい。だからいえ出しよう。』
『たんじょう会がおわかれ会になっちゃった。にげるのは明日。ナーブと二人で。あと、ナーブから木をほってつくったわたしのお人形さんをもらってうれしかった。』
その人形は今も持っている。壊れてしまったけど袋に入れていつも持ち歩いている。
『つかまった。わたしがころんだせいだ。ナーブが一人でばつをうけている。なんでナーブはそこまでしてくれるの?』
『きぞくさまの家にもっていけるのは人形と日記だっけみたい。もっともっていきたいのにな。きぞくさまは子どもがいなくてわたしをひきとるらしい。わたしにはせい力ていういやしの力がいっぱいあるからひきとるんだって。』
『みんなとおわかれ二どと会えない。いやだ。会いたい。会いたいよ。ナーブ。』
『みんなに会うにはりっぱなせい女っていうのになるしかないんだって。そのためにはいっぱいおべんきょうしなきゃいけないんだって。がんばるぞ。ぜったい会うぞ。』
『食べかたのべんきょう。歩きかたのべんきょう。むずかしい。』
『さんすうやこくごのおべんきょうはたのしい。』
『そうじとかしょっきあらいのべんきょうはせい女にはひつようないらしい。それならとくいなのに。』
『せい女さまっていうのは、もっともすぐれた女の子にあたえられるしょうごうなんだって。おおむかしにおうさまがま王をたおすためにしんじゃった人がさいしょのせい女さまなんだって。』
辛くなってきて日記を落としてしまった。
拾っても開く気がわかず日記の箱に戻してしまった。
三冊目をとって開いた。
『明日から学校だ。学校が楽しみだ。同じ年の女の子がいっぱいいるらしい。聖女様になるための勉強頑張るぞ。』
『みんなからさけられているみたいだ。おやも分からぬげせんのたみだってうわさしているのが聞こえた。』
『みんなからなにを言われても関係ない。わたしは聖女様になる。なるったらなる。』
『負けない負けない負けない』
『勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ』
『勝った勝った勝った。アイツに勝ったぞ。しかも正面から。イカサマ?なにかの間違い?こんなはずない?10連敗してよく言うよ。』
『クックック、水かけるのは読んでいたのよ。わたしは聖術を使って教科書を防水していたのよ。』
『クックックック、くつにあらかじめがびょうをしこんでおいたのよ。手を怪我したあなたたちこっけいだったわ。くつかくされそうになったけどすずをつけといてよかったわ。』
『ついにきたか。わたしをどろぼうにしたてあげるやつ。でも、ざんねんねあらかじめ先生にこうなるかもしれないからと相談しておいたの。まじめに取り合ってくれなかったけれど言ったとおりになって先生おどろいてたな。』
『ナーブからもらった人形をこわされた。ゆるさない。』
『ちょうばつぼうに行かされたけど、あいつらはそれだけのことをした。下品な孤児が殴ってなにが悪いのよ。』
そのページは涙で濡れていた。
もう読む気が失せた。
7冊目に行こう。
私が聖女に選ばれた時の本だ。
『聖女になれそうだ。あいつらからのいやがらせを耐え抜いた甲斐があった。これもリペス先輩に感謝だな。』
リペス先輩は、私の前の聖女で私の一生懸命で一所懸命を初めて受け止めてくれた人だ。
でも、もう会えやしない。
『明日は聖女の選定式。「あなた以外に候補はいない。私よりも凄い聖女にきっとなれる」ってリペス先輩に言われて本当にうれしかった。ありがとう。』
『聖女になれた。聖女に選ばれた。それにしても、選定式でなにか「お前なんかを聖女と認めるものか」って言ってたおじさん誰の手先だったんだろう。』
『これでようやくナーブたちに会えるのか。あと、一ヶ月の辛抱だ。なんか私、よく頑張ったな凄いや私。』
『不穏な噂が流れている。私が聖女になった頃から凶暴な魔獣が人里をおそっているんだって。リペス先輩は私のせいじゃないって言ってくれたけど本当にそうだろうか?』
『魔獣駆除にリペス先輩が乗り出した。「聖女が選定から一月経たずに死んだら前代未聞よ」って言って私を置いていった』
『勇者の剣が揺れだした。勇者の選定が始まる。』
勇者とは、国に伝わる二つの特殊能力を持つ二振りの伝説の剣に選ばれた戦士のことで有事のみ剣が資格者を選び、選ばれた者は国から完全独断行動の権利を得る。
【空跳びの長剣】と【真実の剣】の二つの剣がそれぞれ一人ずつ勇者を選ぶ。
【空跳びの長剣】が選ぶのは剛力を持つ者だ。王宮の庭の台座に埋められており、それを抜けるのは剣に認められた者だけだ。
【真実の剣】が選ぶのは技巧を持つ者だ。霊峰テリアの山頂に刺さっていて、そこまでたどり着くには相当の試練を突破する必要がある。
『リペス先輩が死んだ。なんで、どうして、あんなに立派な人は他にいないのに。まだ認めてもらっていないのに………』
このページは涙で濡れていた。
このページを最後に日記は終わっていた。
この後、私が聖女になったから魔獣が活性化したんだと酷いバッシングを受けた。
「お前なんかを聖女と認めるものか」
最近、そんな声がどこからか聞こえてくる気がする。
その声は昔どこかで聞いた気がする。でも、もっと優しい声をしていた気がする。
そして今日、二人の勇者が決まった。
勇者の従者候補に聖女である私は選ばれている。
最初に私の所に来るのは【空跳びの長剣】を持つ勇者だ。
窓からこちらに来るのが見えるが金髪のチャラそうな奴だった。
こんな奴が勇者で大丈夫か?
「あなたが聖女ですか。お噂を聞いたときからお慕いしておりました。」
えっ、この金髪勇者はなにを言っているんだ?
えっ、この距離で大声でなにを言おうとしているんだ?
勇者は道で私三階の窓越しですよ。
「好きです。一緒に冒険しませんか?」
えっ、こいつ初対面の私に対して告白しやがった!!
なんて大胆なんだ!!
ワード解説
Q聖女って?
A聖女とは聖術女学院の学年主席に与えられる称号です。