第7話 仲間
「寝起きの主様にも難しくないよう、俺が端的に申し上げます」
馬頭の言葉にドキドキしながら構える俺は、牛頭に手を握られる中真剣に馬頭の顔を見る
「まず、俺達のことですが…主様がご使用になられた笏には俺達の召喚魔法がかけられており、それにより葛城正人様を主として契約することとなりました」
馬頭は淡々と説明しだす。
牛頭と馬頭は閻魔大王の側近であり従者で、何代にも渡って仕えてきたのだとか。現在閻魔大王の消息は不明で、笏に込められていたはずの膨大な魔力も、牛頭と馬頭を召喚する際に使用されてしまった。
笏には死者の魂を見る力、浄化する力、輪廻転生の輪に戻す力など様々なものがあるが、そのどれも現在はほぼ使えない。ただ…
「ただひとつ、直接のお裁きは現在の笏でも可能でございます。現状では閻魔大王様をお探しすることも出来ません。早急にこの事態を改善するには、主様には酷ではございますが…このアウレスカという大地を直接歩き、見聞きし、閻魔大王様の笏を持ってして裁きを行うしかないのです」
「私は主様に危険なことはして欲しくありませんけれど…主様より召喚いただいた際に記憶と感情が少し流れてまいりました。主様は生きとし生けるものの生命を大事になさるお方。笏に触れる際にも、この世界をどうにか出来れば、とお考えでしたよね?」
牛頭は真面目な顔で、俺の手を強く握る。
そうだ、俺は大層なことは出来ないし神や教祖のようにすべてを救えるなんて思ってない…それでも…
「うん、俺…自分の生きてきたところが好きなんだ。小さい時から触れてきた草花も…そんな世界が壊れるなんて嫌だし、荒廃した世界なんて見たくない。だから…」
「だから!私達に!その旅路に同行せよと申すのですね!あぁっ!素晴らしいお志でございます!この牛頭っ!生涯をかけてお供させていただきますとも!命に変えてもお守り致します!」
だから…旅に出るって言おうとしただけでついて来てほしいなんて思ってなかったんだけど…
俺は牛頭の勢いに押されながらも、馬頭の顔も「もちろんついていく」といった物になっていたので何も言わなかった。
正直、色んな情報で頭が痛いし、突然知らない場所に連れてこられていろんな人にあって…
こうして、俺のことを心から心配してくれたり、俺の感情を汲んでくれようとする人がいて心底安心している
何故かこの二人といるのは、とても心地いいから…だから…
「あっ、あのっ…改めて…はじめましての人にこんなこと言うのはどうかなって思うけど…俺と一緒に来てくれませんか…?」
「「えぇ、喜んでお供いたします。主様」」
こうして、俺は俺にできることを探すために一歩を踏み出した…。
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「あぁ~!主様ぁ~!早く目覚めないかなぁ~!あぁんとってもお美しい!早く私のことを見て欲しいし私に話しかけて欲しいしお名前を呼んで欲しいし~~~」
「牛頭、お前の汚らしい発言を主様に向けるな。せっかくお休みになられているのだ、無理に起こすような真似はやめろ」
「あら、なによ馬頭。主様は現在21歳の健全男子よ?私とお前、どちらが主様に真に欲される存在になるか…言わなくてもわかるでしょぉ~?」
「……今すぐ黙って主様から離れろ…」
正人の看病を取り合いながらする牛頭と馬頭に圧倒され、自分の治療室を離れるユフィールであった。