第4話 冥界の主
「さて、早速だが本題に入らせてもらう。我の名はルシファー。この冥界 シェオールを統括する者だ」
ルシファーはその美しく低い声で、歌を紡ぐようにこの世界の成り立ちを説明してくれた。
ここはアウレスカという、俺がいた世界とは異なる世界。人間の他に、獣人や亜人、魔人などが生きる魔法のある世界。
3つの大きな大陸と、その土地を統治する3つの国がある。荒野となっている地が多く、食料を求めて野盗などが出る始末。奴隷制度も横行しており、飢えに苦しむ者も珍しくない。国を管理する貴族の中には賄賂で地位を保つものもおり、暗殺や殺人なども星の数ほど。
アウレスカには空気中に魔素という成分が存在する。魔法を使用する際に使われる成分だが、空気中で過剰に発生した魔素を浴びた生物が変異して出来る魔物なども存在し、その魔物が人を襲うことも多々あるらしい。
様々な要因で現在死者が尋常じゃないほど多く、死者の魂を管理するここシェオールもパンク寸前なんだとか。
神に近い存在のルシファーは、この事態をどうにかするべく別の世界の神に現状を報告。その際、俺の世界の神が「魂を留めておくだけでなく、魂を査定し輪廻転生を行う 閻魔大王 という存在が日本という国の神話に登場する」ことを教えたらしい。
ルシファーは死に絶える魂を減らすこと、また、死した魂も迅速に循環させるために閻魔大王の召喚儀式を執り行った。ところが…
「閻魔大王を召喚しようとした際に…俺が呼ばれたってことですか?」
「あぁ、その通りだ。マサトが何故召喚の対象となったかについては現在解析中だ」
「…その、帰れるんですよね?」
「…すまぬ、その方法についても現在調べさせている」
「そんな…!」
勝手に呼んでおいて、人違いでしたってなんだよ…しかも帰る方法が現状ないだなんて。そんな無責任なことってあるかよ。
俺はルシファーの無責任な行動に腹を立てた。そんな俺にユフィールは向かい側から微笑みながらも申し訳なさそうに眉を下げる。
「本当にすまないね、キミの都合も考えず。ただ、急いで事態の改善に動かなければキミの世界にも影響を及ぼすこととなる状態なんだ」
「どういう、ことですか」
「この世界は今、魔素の影響を大きく受け草木は枯れ、食料も減りつつある。このままシェオールの循環がストップすると隣接する我々の世界は干渉し合い、キミの世界にも魔素が溢れることとなる」
「つまり…マサトの世界にも魔素が発生するようになり、我らがアウレスカと同様荒廃した世界となる」
このまま何も出来ない状態が続くと、俺の大好きな花が枯れていくどころか生きていくことすら難しくなるってことだよな…?
「じゃあ、もう一度ちゃんとした閻魔大王を召喚する儀式を執り行えないんですか?」
「それはね、無理なんだ。召喚の儀式には多大なエネルギーが必要になる。ボク達は何百年も前から今日のために準備を行ってきた。正直、もう一度儀式の準備を行う余裕なんてないんだよ」
「そんな…俺の…せい、なんですよね」
「マサト、貴様のせいではない。我らの都合で誤って召喚された貴様が気にすることではないのだ。今回の問題に関しては我らで別の手段がないか模索する。マサトはここで、元の世界に帰れるようになるまで過ごすといい」
地獄の主のくせに、圧倒的な迫力があるのに、それでも俺を気遣うため微笑んでくれる。俺だけの問題じゃないんだ。このままじゃ、俺の世界だって…
「あ、あのっ…俺っ……!」