第34話 妖精(珍種)、ダンジョンに潜る前の準備をする
皆さま、悲しいお知らせがあります。
妖精の寿命は3000年もあるらしいです。
しかも、その間ほとんど容姿は変わらないらしいです。
オレは3000年ほどこの3頭身幼児体形で生きていくことが決まりました。
本当に残念無念であります。
ハァ~。(深ーい溜息)
まぁこれはどうしようもないよな。
宿命だと思ってあきらめよう。
ふー、気持ちを切り替えてっと。
トロールの買取をしてもらわなくちゃ。
「買取お願いできますか? トロールが2体あるんです」
いい値で売れるって聞いてるからちょっと期待してる。
「トロールか……。そうなると倉庫になるな」
オレはエーギルさんと共に移動した。
受付の隣に買取の窓口があってその裏手に倉庫があり、冒険者ギルドの作りはラサミアのとほぼ同じだ。
聞くと、建物の大きさは違っても冒険者ギルドはどれもほぼ同じになっているそうだ。
これが1番使い勝手のいい間取り何だろうしね。
倉庫でトロール2体を取り出すと、買取のおっちゃんが少し興奮して「久しぶりの大物だ」と言った。
何でもここヴェーメルでの買取は、ほぼダンジョン産の魔石やドロップ品、宝物でこういう大物の買取はあまりないのだそうだ。
「ほとんど傷もないし、奇麗なもんです。これなら魔石も問題ないでしょう。トロールの皮は人気がありますから、これは取り合いになりそうですな」
ここはダンジョンの街だから買取品もダンジョン産の物がほとんどで、素材になるようなものがなかなか持ち込まれないんだそうだ。
軽くて動きやすい革鎧は冒険者にも大人気なのだが、その素材となるものがほとんどないから防具屋は皆他の街まで仕入れに行くのが常なのだが需要と供給が釣り合ってないのが現状とのこと。
ということは、買取金額も期待できるか?
「これでしたら、魔石込みで1体金貨3枚と大銀貨5枚でどうですか?」
ということは、2体で金貨7枚(日本円で70万円)か。
聞いてたとおりいい値段になったな。
余は満足である。
「それでお願いします」
エーギルさんが買取金とクエスト報酬を渡すから少し待ってるようにと言った。
「全部で金貨7枚だ」
どれどれ確かに。
あ、そうだ、ここら辺にいい宿がないか聞いておかないと。
できれば冒険者ギルドとダンジョンの中間くらいがベストなんだけど。
聞いてみたら、宿は用意してあるとのことだった。
ここの冒険者ギルドの道を挟んで斜め向かいにある「跳ね馬亭」という宿で、冒険者ギルドから近い立地にそこそこの値段で飯も美味いと冒険者に大人気の宿だそうだ。
しかも、ダンジョンも近い。
ここヴェーメルには東西南北4つの門があるのだが、この冒険者ギルドからも近い東の門をでて10分くらいのところにダンジョンがあるらしい。
それはありがたい。
これもオレがブラックカードだからかな。
ブラックカード冒険者は世界各国にある冒険者ギルドで特別なサポートが受けられるって聞いてるし。
「ブラックカードには私の目の届くところにいてもらった方が安心だからな」
エーギルさんがボソッと呟いた。
ちょっと、心の声がダダ漏れですぜ。
どんだけ前のブラックカード冒険者がトラウマになってるんだよ。
まぁそれでも立地的にも申し分ないし、泊まらせてもらうけどさ。
オレは紹介してもらった跳ね馬亭に向かった。
□■□
「ごめんくださーい。エーギルさんの紹介で来たんですが」
そう声をかけると、若かりし頃は美人だったんだろうなと思わせる40くらいの宿の女将さんが出てきた。
「はいはい、聞いてますよ。あら、本当に妖精さんなのねぇ」
はい、珍種妖精です。
「エーギルさんから1週間分のお代は頂戴してますよ」
おお、そこまでしてくれているとはありがたい。
ちなみに1泊いくらなのか聞いてみると、素泊まりで銀貨3枚だそうだ。
朝夕の食事が付くと銀貨4枚だそうだけど、ダンジョンに潜る予定だし飯はいいや。
宿屋の食堂では金払えば普通に食べられるってことだし。
しばらくこの街にいるつもりだから、ダンジョンに潜るとしても拠点となるところは欲しいよな。
ダンジョンから帰ってきても泊まるところがありませんじゃどうしようもないし。
部屋を開ける日が多くなるかもしれないけど、とりあえず1か月分キープしておくか。
「すいません、えっと1か月じゃなく1週間は払い済みなんだから、追加で23日分お願いできますか。」
ちなみにこの世界の歴1か月30日で12か月と前世とほぼ同じだ。
「お代は、大銀貨6枚と銀貨9枚です。お部屋は2階の一番奥ですよ。それから食堂も開いてますので是非どうぞ」
とりあえず部屋のチェックだな。
部屋に入ると、中は6畳くらいの部屋でベットと机と椅子だけどシンプルな部屋だった。
どうせ寝るだけだし、これで十分だな。
ベットはちょっと貧相だから、オレの特注布団をベットに敷いて使おう。
これなら寝心地も問題ないしな。
日も暮れかけてるし、飯でも食うか。
食堂のメニューはラサミアの冒険者ギルドの飲み屋兼食事処とほぼ同じだ。
やっぱり煮るか焼くかのメニューしかない。
うーん、うん?ワイルドバッファローってのがあるな。
よし、これにしよう。
オレはワイルドバッファローのステーキセットを注文した。
どれどれ、実食。
おぉー、これは牛肉だよ。
赤身の牛肉で噛みごたえがあって肉の旨味がダイレクトに感じられる。
美味い、美味い。
カウンターで食べていると、カウンター越しに髭面のもっさい熊みたいなおっさんが話かけてきた。
「美味いか?」
あぁ、ここの主人か。
そういえば女将さんがここの食堂は旦那が仕切ってるって言ってた。
オレが美味いと言うと、そうかそうかと熊おっさんが豪快に笑った。
何でもここの北の門から少し行ったところにワイルドバッファローの生息地があって、昔からここヴェーメルの名物なのだそうだ。
「だがな、今の冒険者は皆ダンジョンに潜ってばかりでなぁ。ワイルドバッファローの供給が追い付かなくて、値が上がる一方だ」
まぁ冒険者もダンジョンに潜る目的でこの街に来てるんだろうからな。
こんなに美味いならダンジョン潜る合間にワイルドバッファロー狩りに行ってもいいかも。
「明後日から1週間程度ダンジョンに潜るけど、その後ならワイルドバッファロー狩りに行ってもいいぞ」
そう言うと、熊おっさんが「本当か?!」と興奮している。
熊おっさんにワイルドバッファローを3頭ほど卸す約束をした。
ついでにストック用の食事もお願いする。
今用意できる20食分だけ手持ちの皿に盛ってもらって、どんどんアイテムボックスに収納していく。
明日もできるだけ用意してもらうようにお願いして、今日の分の代金大銀貨1枚と銀貨5枚を支払った。
よし、今日は風呂入って寝るぞ。
□■□
ふぁ~よく寝た。
起きてみたら昼近くだったぜ。
オレは早速下の食堂に行って頼んでいた食事を受け取りに行く。
熊おっさんが用意してくれたのは35食分で、昨日と同じく手持ちの皿に盛ってもらって、どんどんアイテムボックスに収納していく。
食事はどうするのか聞かれたけど、今日は外で食べるつもりだからと35食分の代金大銀貨2枚と銀貨3枚を支払って外出した。
パン屋と雑貨屋と服屋の場所は聞いてあるから、まずは一番近場の雑貨屋に向かった。
雑貨屋の店主は妖精のオレを見てギョッとしてたけど、ブラックカードを見せたら大丈夫だった。
石鹸があるか聞いて見せてもらうと、けっこう高かった。
1個銅貨8枚もしたぜ。
3個で150円くらいの安い石鹸を使ってた身としては、1個で800円は高いね。
まぁそれでも背に腹は代えられないと2個買ったけど。
やっぱ風呂では石鹸使いたいし。
次は服屋だけど、少し距離があるから途中屋台を試食しながら向かう。
ここでも妖精のオレを見て店主たちが驚いてたけど、金を見せたら何とも言われなかった。
商人は逞しいね。
気に入った屋台の串焼きは大量購入してアイテムボックスに収納する。
そうこうしているうちに服屋についた。
「すいません、こんな感じの服をお願いしたいのですが。ちなみにオレはこういう者です」
替え用の服を渡すと同時に、驚かれる前にブラックカードを見てもらう。
ブラックカードを見て「冒険者さんなのですね」と納得したようだ。
前に頼んだ時と同じく、チュニック3着とパンツ5着を注文した。
出来上がりは1週間後。
代金は金貨1枚と大銀貨8枚(日本円にして18万円)だった。
相変わらず服は高い。
ラサミアで注文したときより高いのは、今ヴェーメルでは人口が増えてきて、生地不足で値段も上がってきているからだそうだ。
確かに人の数がラサミアの比じゃないね。
これもダンジョンのおかげらしい。
3か月前にダンジョン最高額の宝物が出てから、どこのダンジョンも軒並み人が増えているのだそうだ。
ここヴェーメルにも一獲千金を夢見る冒険者たちが続々と集まってるという。
なるほどねぇ、浅い層でも稀にいい物が出るっていうから確かにダンジョンなら一獲千金も夢じゃないね。
さてと、あとはパン屋に行ってあるだけ買ってアイテムボックスに収納だ。
それであらかた補充は終了だな。
いよいよ明日からダンジョンに潜るぜ!




