第33話 妖精(珍種)、ヴェーメルの冒険者ギルドに行く
「妖精さん、ヴェーメルが見えてきましたよ。」
その言葉に目を凝らすと、うっすら街が見えてきた。
おぉ、やっとか。
いよいよダンジョンだぜ。
ってその前に護衛クエスト達成報告しないといけないけど。
これは依頼者のヤンセンさんと一緒に冒険者ギルドに報告すればいいみたいだ。
それから昨日退治したトロールの換金もしないとな。
そうそう、このトロールってけっこういい金になるみたいなんだよね。
エヴァルドに聞いたらトロールの皮は良い革鎧になるらしく、結構いい値段で取引されているということだった。
それに小さめだが魔石も持っているとのことでオレとしてはたなぼたでホクホクだよ。
□■□
オレたち一行は無事にヴェーメルの街へと入った。
ちなみにだけど入り口の門はすんなり入れた。
いつものごとく使役妖精だと思われたみたいだね。
せっかくのブラックカードの出番がなかったは残念だった。
ヴェーメルの街は凄く活気のある街だった。
ダンジョンがあるから栄えているって聞いてたけけど本当だね。
ラサミアの街の数倍デカいし、人口も多い。
行き交う人もいろんな人種がいる。
ラサミアではエルフとケモミミ獣人しか見なかったけど、ここヴェーメルにはドワーフも見ることができた。
「まずは私の店に寄って、それから冒険者ギルドに行きましょう」
ヤンセンの言葉に頷いてまずはヤンセンさんの店へと向かった。
たどり着いたヤンセン商会はヴェーメルの大通り面したなかなか大きな店だった。
「ここが私の店です。この場所に店を出すのに大分苦労しましたけど、この場所に店を持てたおかげでヴェーメルでもそこそこ名の知られた商会になることができたのですよ」
多分この大通りに店を出すってのが一流の商人の証なのだろう。
ヤンセンさんがこんな大きな店の商会長とは思わなかったぜ。
でも、ヤンセンさんと知り合いになれてめっけもんだった。
これならマヨの売上高も期待できそうだ。
それでも上には上があるもので、ヤンセンさんの店はこれでもヴェーメルの中では中規模程度の商会なのだそうだ。
さすが王都に匹敵するほど栄えた街だな。
ヘルマンさんに後を任せて、オレとヤンセンさんは冒険者ギルドに向かった。
ヴェーメルの冒険者ギルドは、ヤンセンさんの店から10分くらいのところにあった。
「大きいですねー」
冒険者ギルドを見上げてオレが呟いた。
ヴェーメルの冒険者ギルドはラサミアの冒険者ギルドの倍はある大きさの建物だった。
「そりゃあここにはダンジョンがありますからね。冒険者も多いんですよ」
ヤンセンさんのその言葉に納得。
一攫千金を目指す冒険者なら絶対ダンジョンを目指すだろうしね。
冒険者ギルドの中に入ると、昼間だというのに冒険者であふれていた。
ラサミアでは朝夕は混んでいるが、昼の冒険者ギルドは閑古鳥が鳴いていたのにだ。
むさい冒険者でごった返す中、ヤンセンさんとオレは空いている窓口に並んだ。
並びながらヤンセンさんから話を聞くと、何とここのヴェーメルの冒険者ギルドは24時間開いてるんだそうだ。
24時間営業とはコンビニみたいだね。
何でもダンジョンに潜る場合は、冒険者ギルドに申請しなくていけないそうだ。
だけど、ダンジョンでは昼夜関係ないから皆好きな時間に潜るし帰ってくるんだそうだ。
そうなると、冒険者ギルドも24時間開いていた方が便利ってことでこういう風になったようだ。
まぁ言われてみれば、ダンジョンの中で太陽があるわけじゃないし昼夜なんて関係ないよな。
ちなみにダンジョンに潜ると、初心者でない限りは短くて1週間、長くて3か月は潜りっぱなしなのだそう。
1か月くらいならなんとかなりそうだけど、3か月はさすがに長すぎると思うんだけど。
外の空気が恋しくなりそう。
「次の方どうぞ」
オレたちの番だ。
割と早かったな。
他の窓口のお嬢さん方を見て納得だ。
ラサミアの冒険者ギルドと違って窓口に美人さんを配置している。
美人エルフにケモミミ美少女に金髪碧眼美女とキレイどころが並んでいた。
しかし、ここの窓口の受付嬢を見て「おい、お前ら正直すごるだろ」と突っ込みたくなった。
いや、もちろんここの窓口の子も十分カワイイんだよ。
少しぽちゃっとして健康的な可愛い女の子でさ。
正直なことを言えば窓口チェックしてからだったら、オレも美人エルフさんのとこに並んだけどさ。
世界は違っても男ってのは馬鹿な生き物なのさ。(開き直り)
「クエスト達成の報告です」
そう言ってヤンセンさんが達成書にサインをしたものを窓口の女の子に渡した。
「護衛依頼の達成書ですね。お預かりします。冒険者の方はギルドカードをお出しください」
オレがブラックカードを出すと、女の子の目の色が変わった。
「ブ、ブラックカードですね。ちょっとお待ちください」
そう言って席を立とうとする女の子にヤンセンさんが「私はもう大丈夫かな?」と聞いた。
ヤンセンさんも忙しい身だからね。
「はい、依頼者の方からは達成書を頂きましたので大丈夫です」
女の子のその言葉にヤンセンさんは「私はこれで」と自分の店に戻っていった。
少しすると、女の子がギルドマスターらしき人物を連れてきた。
oh……、ここのギルドマスターはエルフ(男)だぜ。
見た目は若そうだけど、エルフだからウン百歳ってところなんだろう。
ってかさ、エルフって男でも美人なんだな。
「ブラックカード冒険者のケンジだな。話は聞いている。付いてきてくれ」
エルフについて行くと、ギルドマスターの部屋に案内された。
ラサミアのおっさんとこと似たような部屋だな。
まぁお役所的なところはどこも似たり寄ったりか。
エルフのギルドマスターと向かい合うようにソファーに座る。
「私は冒険者ギルドヴェーメル支部のギルドマスターのエーギルだ。ラサミアのランツからも、本部からも君のことは連絡が来ている。……ダンジョンに潜るそうだな」
「そりゃあもちろん」
そのつもりでこの街に来たからね。
「いつから潜り始めるのだ?」
うーん、本当はすぐにでも潜りたいんだけど、いろいろ用意したいものがあるんだよね。
ここに来るまでに用意してた食事が大分減ったからそれを補充したいし。
(ヤンセンさんご一向はオレの食事を大分消費してくれたよ。誰とは言わないけど特にあの獣人が驚くほどの食欲でなぁ)
それから風呂用に石鹸も欲しいし。
あと旅してて思ったんだけど、替えの洋服と下着がもっと欲しい。
まぁこれについてはオーダーメイドだから時間かかる話だし、とりあえずは注文だけはしておきたい。
明日はそういう諸々のことにあてて、実際潜るのは明後日くらいからがいいかな。
そう伝えると、エーギルさんが「ソロでか?」って言うから「そうだ」って返した。
そしたらエーギルさんが何故か少し考え込んでいる。
何でだろ?
でも、知り合いなんかいないからしょうがない。
そもそもオレはソロでもまったく不便感じてないしね。
「ここは上級ダンジョンだ。普通はパーティーを組んで潜るもので、ソロでなんて自殺に行くようなものなのだがな。……しかし、君の場合はブラックカードを所持するくたいなのだから大丈夫だろう。ギルド職員にもその旨通達しておく」
エーギルさんの説明では、ダンジョンに潜る前の申請でソロだった場合にはほとんどの場合申請を却下されるそうだけど、オレについては許可してくれるってことみたいだ。
要はソロでも十分にダンジョンに潜れる実力がなければ冒険者ギルドは許可しないということだな。
ソロで許可が得られる目安としては冒険者ランクA以上だそうだ。
低ランクでもダンジョンには入れるが必ずパーティーを組んでいるし、ランクA以上の冒険者でもソロでダンジョンに潜ることはまずないんだそう。
命がかかってることだからね。
そういうこともあって、ソロだって言ったらまず受付窓口でもダンジョンの入り口(ダンジョンの入り口にも冒険者ギルドの職員がいるんだそうだ)でも止められてしまうという話だった。
それから、ここのダンジョンのことも少し聞いた。
“タルタロス”は現在31階まで攻略されているそうだ。
それから、10階層以降は5階層ごとにその階のフロアボスを倒すと転移石というものが手に入る。
この転移石というのは、とても便利なもので10階層以降で攻略済の階までの間なら好きな階(5階毎ではあるが)に転移できるとのこと。
例えば25階の転移石を持っていれば、10階でも15階でも20階でも25階でも転移できるということになる。
ダンジョンの入り口に入ってすぐに転移の部屋があって、下階層を攻略済みの冒険者たちはそこから転移石を使って目的の階層まで行くのだそう。
確かに20階層攻略中に食料が切れたりして地上に戻って、またダンジョンに潜って20階層まで降りて攻略再開なんてことになったらめちゃくちゃ大変だもんな。
ダンジョンって案外便利に出来てるんだな。
でも、そうなると転移石を他の人から買ったり奪ったりしてズルする人いないのかな?
下に行くほどお宝があるみたいだしさ。
その辺のことをエーギルさんに聞いてみたら「そんなことをする奴はまずいない」って答えだった。
「10階層までしか攻略できてない奴が20階層に行ったところでどうなるかは火を見るより明らかだろう。余程の馬鹿でない限りはそのようなことはしない。全くいないとは言わないが、そういう馬鹿は死ぬだけだ。冒険者ギルドと言えど馬鹿の面倒は見きれんからな」
おおう、エルフなマスター辛辣だよ。
言ってることはまったくもって正しいんだけどさ。
エーギルさんに後何か聞きたいことはあるかって言われて、ちょっと気になったことを聞いてみる。
「エーギルさんは、前のブラックカード冒険者のこと知ってますか?」
エルフでしかもギルドマスターとなれば相当な年齢になってるはずだから、もしかしたら歴代のブラックカード冒険者に会ったことがあるかもしれないと思ったのだ。
「ああ。君の一代前のブラックカード持ちにはひどい目にあった。あいつはいつの間にかここのダンジョンに入って、1年間も篭ってやがったからな。本部に管理が甘いのではとお叱りを受けたうえに山のような報告書を出す羽目になった……」
エーギルさんが渋い顔をしながらそう言った。
そう言えば、お偉いさんがそんなようなこと言ってた気がするな。
GPS付きになった原因ってオレの一代前なのかよ。
ってか、オレの前のブラックカード冒険者って150年前って話じゃなかったっけ?
ということは、その頃からエーギルさんはここのギルドマスターだったてことか?
エルフが長生きだってのは何となく知ってるけど、エルフってどのくらいの寿命なんだろうな。
「エーギルさんってお幾つなんですか?」
好奇心から聞いてみたら、なんと御年600歳だそうだ。
オレが年齢を聞いて驚いていると、エーギルさんが爆弾をぶちかましてくれた。
「何を驚いているんだ? 妖精である君は私たちエルフよりも長生きだろう」
え、そうなの?
初耳だよ、ってか妖精のこと自分でもほとんど分かってないんだけど。
「エルフの寿命は約1000年ほどだが、妖精種となると寿命は3000年ほどになると言われている。寿命が尽きる100年位前から老いはじめるエルフと違い妖精は死ぬまで容姿もほとんど変わらないそうじゃないか」
………………は?
3000年?
死ぬまで容姿もほとんど変わらない?
いやさ、なんとなく、なんとなく分かってはいたよ。
この容姿にされたことに対してそこはかとない悪意をさ。
だけどさ…………。
3000年もこのままなのかよぉぉぉぉぉっ?!
チクショー、ガックリ。




