第27話 妖精(珍種)、冒険者ギルド本部のお偉いさんと会う
「あー昨日はひどい目にあったぜ。せっかくストックしておこうと思ったコカトリスは全部出す羽目になるし、その他買った野菜も全部使っちまたぜ。まったく冒険者ってのは遠慮ってもんがないよなぁ」
そうボヤきながらギルド内の飲み屋兼食事処に向かうと、そこは人であふれていた。
昨日に引き続き冒険者が朝からから揚げをモリモリ食べている。
しかも朝っぱらからエール飲んでるヤツもいやがるし。
「おう、何にする?」
マスターがオレを見つけて声をかけてきた。
今日からなんとここでの食事は無料だ。
昨日は相当儲かったらしいし、『から揚げ』と『フライドポテト』がここのメニューに加わったことでこれからの利益もかなり見込めるらしくそのお礼ということのようだ。
また何か新しい料理があれば教えろってことも含んでだけど。
揚げ物料理の伝道師としてはそれもやぶさかではない。
ええと、今日はコレにするか。
「腸詰セットをお願い」
腸詰セットってのは焼いたソーセージとスープとパンのセットだ。
いくら愛してやまないと言っても、さすがに朝からから揚げは勘弁だからな。
ほどなくして腸詰セットがオレの前に並ぶ。
「それにしても朝から混んでんなぁ」
食事はずっとここだけど、朝からこんなに混んでるのを見たのは初めてだ。
「ああ、お前さんのおかげさ。から揚げが飛ぶように売れてな。どっから聞きつけてきたのか冒険者だけじゃなく街の住人も食いに来てるもんだから朝からこんなだ」
よく見れば確かに冒険者に見えない人たちもちらほらいて、みんなから揚げを美味そうに食っている。
世界は変われど美味い物に目がない奴はどこにでもいるってことか。
ん?
なんかから揚げをかみ締めながらボソボソ言ってるヤツもいるな。
ありゃきっとマスターと同業者だな。
耳が早いねぇ。
舌の肥えた奴なら味付けに何を使ってるかある程度わかるだろうから、ここ以外にも『から揚げ』を出す店が出てくるかもな。
まぁそうやって店が増えていって切磋琢磨してくれれば、オレたちもおいしい『から揚げ』にありつけるのだから頑張ってほしいところだ。
そんなことをつらつら考えながら朝食を食べていく。
それにしてもこのソーセージ、塩とハーブの味付けでなかなか美味いな。
「お前さんにちょっと頼みがあるんだが……」
腸詰セットを食べていると、マスターが申し訳なさそうに話しかけてきた。
昨日の混み具合からして今日も『から揚げ』が大量にでるだろうと予想してできるだけコカトリスの肉を仕入れたが、どうにも足りなさそうだということだ。
悪いが昼くらいまでにコカトリスを20羽ほどお願いできないかということだった。
オレはもちろんOKした。
昨日狩ってきたコカトリスは全部使っちまったからな。
オレもコカトリスの肉をストックしておいきたいところだったし。
朝食を食べ終えたオレは、早速コカトリス狩りに出かけた。
□■□
獲ってきたコカトリス20羽をマスターに渡したあと昼食を食べていると、ギルドマスターのおっさんが呼んでいると職員の人に伝えられた。
ちなみに昼食は特製ハムエッグサンドだ。
メニューには無いのだがお願いして作ってもらった。
こんがり焼けたハムに半熟濃厚なコカトリスの卵が絡んでウマウマだ。
急いで昼飯を食べ終えてギルドマスターのおっさんの部屋に行くと、おっさんと同じくらいの年の細身の目つきの鋭いこれまたおっさんがいた。
「こちらは冒険者ギルド本部のマイラス副局長だ」
おぉ、本部のお偉いさんが直接来たのかよ。
「妖精のケンジです。よろしくお願いします」
お偉いさんだし、オレが冒険者になれるかどうかがかかってるのでとりあえずお行儀良くだな。
「君の事はランツから聞いている。俄かには信じ難いがな」
ランツって誰?
「鑑定して見たお主のステータスは全て本部に伝えてある」
あー、ランツってギルドマスターのおっさんのことか。
おっさんはおっさんだから今まで名前とか気にしてなかったよ、ゴメンおっさん。
「ああ。君が妖精だということよりも、君のステータスのことが本部では大問題になってね。ランツの報告を疑っているわけではないが、これが真実であるならば150年ぶりにアレを出さなければならなくなるからな」
オレのステータスが大問題って何が?
チートなとこ?
でもこれはオレがここに転生したらこうなってたんだからどうしようもないぞ。
ってかアレって何?
「マイラス副局長、やはりアレを出す話になりますか……」
おっさんもアレって、アレって何なのさ?
「事実であればそうなる。ステータスが魔法特化なこともあって私が直接見極めてくるよう一任された。もちろん確認できればすぐにでもアレを出すことになろう」
だからアレって何なのさー?
「マイラス副局長は魔法使いとしてSランクまで上り詰めたお方ですからな。皆様がマイラス副局長に一任するのも分かる話です」
このお偉いさんSランクの冒険者だったの?
スッゲェー、ってだから本部のお偉いさんになれたのか。
「それでは確認のために鑑定させてもらうが、いいか?」
お偉いさんのマイラス副局長にそう聞かれて、オレはもちろんOKした。
【 名 前 】 ケンジ
【 種 族 】 妖精(珍種)
【 性 別 】 オス
【 レベル 】 1
【 体 力 】 ∞
【 魔 力 】 ∞
【 魔 法 】 火魔法
水魔法
風魔法
土魔法
光魔法
闇魔法
無魔法
治癒魔法
混合魔法
草木魔法
古代魔法
その他全種取り扱い可
【 スキル 】 鑑定
アイテムボックス
「…………報告は受けて知ってはいたが、レベル1でこれとはな……。実際に見ると凄まじい」
お偉いさん、オレのチートっぷりを見て一瞬無言になったね。
そうなんだよね、オレ未だにレベル1なんだよ。
けっこう魔物も狩ったと思うんだけど、レベルが上がる気配がないんだよなぁ。
「はい、私も初めて見たときには鑑定の腕輪が壊れたのかと思いましたよ。体力に魔力が無限大、しかも魔法は火・水・風・土の全属性の魔法持ちな上に治癒魔法も持っているとは。それに鑑定とアイテムボックスのスキル持ちときますからな。」
ん?
火・水・風・土の全属性の魔法持ち?
光とか闇とかはどこいっちゃったの?
オレ、ライトニングニードルとかバンバン使ってるんだけど。
「あの、ちょっといいですか? 火・水・風・土の全属性の魔法と治癒魔法って、それ以外の魔法はないんですか?」
おっさんもお偉いさんもオレの質問の意味がわからないというような顔をしていたが、魔法のことだからなのかお偉いさんが一早く立ち直る。
「それ以外とは? それ以外の魔法は確認されていないはずだが、何かあるのか?」
お偉いさんがの目力が凄いことになっているのだが。
何か下手なこと言えない雰囲気だぜ。
ここで混合魔法とか古代魔法とかその他全種取り扱い可とか言ったらエライことになりそうだ。
「えーっと、光、とか?」
何か思いつかなくて光って言っちゃったけど大丈夫かな?
「光? 生活魔法のライトのことか?」
おっさんナイスタイミング。
「そうそう、生活魔法のこと」
何とか誤魔化せたか?
「生活魔法は誰でも使えるからな。鑑定には出てこんぞ」
おっさんはそう答えて気にしてなさそうだけど、お偉いさんの方はどうも誤魔化しきれてない感じ。
でも、もう何にも教えないけどね。
「まぁ、いいだろう。それよりも気になるのは、君の種族が妖精としかないことだ。普通妖精といえば、火の妖精ならば火の魔法が使え、水の妖精ならば水の魔法が使え、数は少ないが花の妖精は植物の生長を促す魔法が使える等と何の妖精かで使える魔法が決まってくるはずなのだが、君はただ妖精としかない。その辺も君が全属性の魔法や治癒魔法が使えることにも繋がってくるのだと思うのだが……。いったい君は何の妖精なのだ?」
何の妖精って聞かれてもねぇ。
ここに転生したときからこうだし、何の妖精かなんてオレの方が聞きたいくらいだぜ。
ってか(珍種)って見えてない?
「何のと聞かれても生まれた時からこうなので自分でもわかりません」
というかぶっちゃけこの世界に転生して1週間も経ってないんだけどね。
「ふむ、そうか。……もしかしたら、君は新種の妖精なのかもしれないな」
エッ、珍種じゃなくて新種なの?
おっさんもお偉いさんの話を聞いて「新種ですか?」と驚いている。
「数は少ないが花の妖精や木の妖精がいるのはランツも知っているだろう。今でこそ知られているが、300年ほど前までは花の妖精や木の妖精はその存在すら知られていなかったのだ。それを考えれば新種だとしてもおかしくはない」
それを聞いておっさんもなるほどと納得して「容姿も普通の妖精とは異なりますしね」と言っている。
おいコラおっさん、三頭身で悪いかっ。
うーん、おっさんとお偉いさんの話をまとめると、鑑定の腕輪で見えるオレのステータスはこんな感じか?
【 名 前 】 ケンジ
【 種 族 】 妖精
【 性 別 】 オス
【 レベル 】 1
【 体 力 】 ∞
【 魔 力 】 ∞
【 魔 法 】 火魔法
水魔法
風魔法
土魔法
治癒魔法
【 スキル 】 鑑定
アイテムボックス
何故かはわからないけど。
これで驚かれるんだから、余計なことは言わない方がいいかも。
口にチャックだな。




