第23話 妖精(珍種)、回復魔法でお金を稼ぐ
受付のおばちゃんに頼んで木の板(ギルドの倉庫の隅っこにあったヤツだ)に次のとおり書いてもらった。
回復魔法承ります。
大きな怪我や病気全般……大銀貨5枚
四枝欠損や重い病気等……金貨2枚
◎症状によって料金が変わります。
お気軽にご相談ください。
うん、これで準備OK。
ヒール(大)が大銀貨5枚でヒール(特)が金貨2枚。
これはあくまで目安で、あとは症状を聞いてから料金を決めてこうと思う。
ちょい高めの設定だけど、(大)と(特)だからいいよね。
それにターゲットが冒険者とその家族だし。
冒険者ギルドでいろいろ見てると冒険者って稼いでるヤツは稼いでるんだよな。
ギルド内の飲み屋兼食事処のテーブルの一つを借りて、おばちゃんに書いてもらった木の板を立て掛けた。
□■□
回復魔法屋(?)を開店したもののなかなかお客さん来ない。
木の板をチラチラ見ていく冒険者はけっこういるのはいるけど、実際に声を掛けて来る者がいない。
どうしたもんかなぁ。
儲からないんじゃ次回はないかもな。
そんなことを考えていると声が掛かった。
「おい、これは本当なのか?」
おぉ、やっとお客さん来た。
話しかけて来たのは、ショートソードを両脇に差した20代後半くらいの犬耳獣人の冒険者の男だった。
「どうぞどうぞ」とテーブルの向かいの席に座ってもらう。
もちろんオレはテーブルに直座りだけどな。
この身体だと椅子に座っても相手の顔すら見えないからな。
「それで、どんな症状で?」
俺がそう聞くと犬耳男が「俺のことじゃないんだが……」と話し始めた。
何でも犬耳男のパーティーメンバーだった人族の男が足を骨折をしたらしいのだが、それ自体はよくあることだから皆気にしてなかった。
しばらくして人族の男の骨折も完治してこれまで通りパーティーで活動を始めたところ、人族の男の様子がどうもおかしい。
今まで通りの動きができず、パーティーでの活動にも支障が出始めたそう。
それでもクエスト失敗にまでは至らず、犬耳男を含めてパーティーメンバーもいろいろ言いたいことはあったがなんとかやっていたそうだ。
しかし、終にクエストに失敗してしまった。
パーティー内では人族の男への不満が爆発し、結局人族の男はパーティーを抜けさらには冒険者も辞めることになってしまったそうだ。
互いにランクCの冒険者でありもう少しでBに手が届くという所まで来ていた犬耳男は、冒険者まで辞めてしまった人族の男がどうしても気になって問い詰めたという。
すると、人族の男があの骨折の後から調子がおかしいのだと白状した。
最初は気のせいだと思っていたが、時が経つにつれてどうもそうではないと人族の男も気付いたそうだ。
普通に生活している分には特に不便はないのだが、激しい動きをすると足に違和感があり今までの半分の動きもできない状態だと。
今まで冒険者を長くやってきた矜持もあってそれを皆に話すことができずに冒険者を続けていたが、パーティーメンバーの叱責を受けて目が覚めたと。
このまま冒険者を続けることはできないと腹を決めて冒険者を引退したと話したそうだ。
「だけどよ、俺はあいつとも仲良かったし、分かるんだ。あいつが前に話してくれた。子供の頃から冒険者に憧れてて14で冒険者登録してここまで来たって。俺は冒険者って職業が心底好きだって言ってたんだ。そんなヤツが簡単に諦められるわけないんだ。……なぁ、何とかあいつのこと治してやれないか?」
うーん、話し聞いているとどうもその人族の男は骨折した骨が変なくっつき方しちゃったんだろうな。
こっちでの骨折の処置って回復魔法か添え木して放置が基本みたいだし。
予後のことはあんまり考えないみたいなんだよね。
「多分それ骨が変な形でくっついちゃってるんだと思うよ。大丈夫。それだったら間違いなく治せるよ」
オレがそう言うと「本当かっ?!」と犬耳男が身を乗り出してくる。
「おぉい、顔、顔が近いってっ」
近過ぎて唾が飛んでくるってば。
「だ、代金は大銀貨3枚だ」
慈善事業じゃないから金はちゃんと貰うからな。
「分かった、それくらいならなんとかなる。とにかくあいつすぐ連れて来るから! ここに居ろよ、絶対に居ろよっ!」
そう言って犬耳男は冒険者ギルドを飛び出して行った。
忙しい男だな、まったく。
少し待っていると犬耳男が人族の男を連れてやってきた。
「待たせた。早速頼む」
そう言って人族の男をオレの前に突き出した。
「大銀貨3枚だけど、ちゃんとあるんだろうな?」
そう聞くと、人族の男が懐から大銀貨3枚を出して見せた。
「ちゃんとある。それよか、こいつから聞いたが本当なんだろうな?」
疑わしげな目で人族の男がオレを見る。
「ちゃんと治るから心配するなって。それに、そんなに心配なら治してから代金払うってのでもいいよ」
そう言うと人族の男が「わかった」と言って椅子に座った。
オレは人族の男の足元まで飛んで移動してズボンを捲った。
やっぱり骨が変なくっつき方したみたいで、膝から下が真っ直ぐじゃない。
それじゃ、早速治療だ。
「ヒール(大)」
人族の男の足に手をかざして回復魔法をかけると、男の足が光に包まれた。
「はい、これで治ってるはずだよ」
オレの言葉に人族の男が「本当か?」というような顔をした。
「ぴょんぴょんって飛び跳ねてみて」
人族の男が言われた通りにジャンプする。
「どう? まだ違和感あるか?」
「違和感は無いが、これだけじゃ何ともわからん」
「んじゃ、そこら辺ちょっと走ってきて確かめてきなよ」
「分かった」
そう言うと人族の男はギルドを出て走りに行った。
出て行ったと思ったらすぐに人族の男が勢いよく冒険者ギルドに飛び込んできた。
「すげぇっ! すげぇよっ!! 骨折する前と同じ速さで走れてるっ!!」
人族の男がそう言って興奮したように歓声をあげながらオレを両手で持ち上げてクルクル回る。
「お、おい、ヤメレ。ま、回んなっ、落ち着けって!」
ウエップ、ヤメレってば!
ひとしきり歓喜の声をあげてようやく落ち着いた人族の男は、よほど嬉しかったのか大銀貨3枚のところ気前よく大銀貨4枚を支払ってくれたよ。
最初に話を持ってきた犬耳男も「良かったな」って言って涙ぐんでいた。
そして人族の男と犬耳男が肩を組んで「パーティー再結成の前に祝宴だ」って言ってギルドを出て行った。
まったく人騒がせなヤツらめ。
それから少しして次の客がやってきた。
「おい、いいか?」
次の客は左目に眼帯をして大斧を背負った30台半ばの人族の冒険者の男だった。
「はい、こちらにどうぞ」
オレは椅子に座るように勧める。
「見て分かるように俺はこの左目を治してもらいたいんだが」
そう言って眼帯男が眼帯を外した。
「これは、全然見えないんですか?」
眼帯男の左目は白く濁っていて、視力があるようには見えなかった。
「ああ。ヘマやって毒をくらってな。毒は解毒できたんだが、左目はダメだった」
命は助かったけど、視力は失ったってことか。
こりゃ目に直接毒が入っちゃったってことなんだろう。
でもま、オレなら治せちゃうだろう。
「うーん、これだと代金は金貨1枚かな」
失明となるとヒール(大)ではちょっと心もとないからヒール(特)だな。
「な、治せるのか?」
無問題。
魔法チートのオレなら治せますぜ。
「左目はダメになったが幸い右目は何ともなかったからこうして今まで冒険者をやって来れた。だが、そうした中でも左目が見えればと何度思ったか分からん。左目が見えるようになるなら金貨1枚でも惜しくは無い」
ということなので、それじゃあ治しますよっと。
「ヒール(特)」
眼帯男の左目にちっさい手を当てて回復魔法をかけると、男の左目の辺りが光に包まれた。
「じゃ、これで治ってるはずだから、右目を閉じて左目だけで見てみて」
オレの言うとおり眼帯男が右目を閉じて左目だけで見る。
「お、おぉっ、見える! 見えるぞっ!」
ハイハイ良かったですねー。
眼帯男(もう眼帯してないんだけどね)はご機嫌な様子で懐から金貨1枚出してオレにの前に置いた。
「俺はまだまだ引退せんぞっ!」
そう宣言して意気揚々とギルドを後にした。
この2件が宣伝になったんだろう。
その後はどんどんとお客がやって来た。
手の指が欠損した冒険者、足の指が欠損した冒険者、冒険者時代の怪我がもとで腕が動かなくなった元冒険者等々が来て、大繁盛とは言えないもののお客が途切れなくオレの下へ。
まぁ、もともと安い値段設定じゃないから客が殺到するという感じじゃないしね。
でも、途切れなくお客が来たことでそこそこ儲かったよ。
ということで、どれくらいの儲けが出たかというとぉ、ダカダカダカダ~ン♪
〆て金貨6枚に大銀貨9枚だ。
日本円にして69万円。
ギルドで座ってて回復魔法かけるだけでこんなに儲かるなんてなぁ。
フヒヒヒヒヒヒ。
チョロ過ぎるな、異世界。
やっぱ魔法チート最高。
魔物狩りの他にこの回復魔法でも儲けていけばオレの生活も安泰だぜ。




