第18話 妖精(珍種)、回復魔法を使う
風呂から上がってギルドマスターのおっさんの部屋に戻ろうとすると、ギルドの入り口周辺で怒号が飛び交っていた。
「誰か回復魔法使える奴はいないかっ?!」
「回復魔法の使い手なんて滅多にいるわけないだろッ! 神殿から神官を呼んで来いっ!!」
「それじゃ間に合わんっ!」
「誰か中級ポーション以上のもん持ってないかっ?! 金は払うから持っていたら譲ってくれっ」
「中級ポーションなんてそんな高価なもんここで持ってる奴いるわけないだろっ!」
そんな怒号が飛び交う中、その中心を見てみると全身が赤紫色に腫れあがった男の冒険者が横たわっていた。
「何があったんだ?」
近くにいた冒険者に聞いてみる。
「よ、妖精だと?」
「おう、妖精だぞ。そんで何があったんだ?」
オレを見て一瞬驚いていた冒険者だが事の成り行きを教えてくれた。
何でも狩りに出ていた冒険者のパーテーがジャイアントビーに襲われたのだという。
おっさんがやっかいな魔物だと言っていたあのジャイアントビーだ。
襲われたパーティーには6人のメンバーがいたが戻ってきたのは4人。
そのうち1人が今横たわっている男の冒険者で、見てのとおりかなり重症で今にも死にそうだった。
おっさんが言っていたとおり、多数のジャイアントビーに襲われて何か所も刺されたんだろう。
ジャイアントビーの毒のせいか全身パンパンに腫れあがって大変なことになっている。
「ありゃあ助からんだろう……」
どこかからかそんな声が聞こえてきた。
確かに見た限りではとても助かるようには見えなかった。
しかーし、オレがいる。
ここは魔法チートのオレの出番だな。
「ちょっとごめんよ」
オレは人垣の間を縫って重症冒険者の近くまで進んだ。
「何だ妖精っ、あっちに行ってろっ!」
気の立った重症冒険者のパーティーメンバーだろう男に怒鳴られた。
「助けてやろうってんだから、カッカすんなって」
「お前に何ができるっていうんだよ!」
何ができるって?
言っちゃなんだけど、何でもできるぞ。
魔法なら何でもござれなんだから。
「悪いこと言わないから、あんたこそ黙って見とけって」
カッカしてる冒険者にそう言うと、今にも死にそうな重症冒険者にオレのちっさい手をかざした。
「ヒール(特+毒消し)」
オレが回復魔法をかけると同時に重症冒険者の体が光に包まれた。
これで大丈夫なず。
回復魔法については、ちょっと考えてはいたんだ。
何せ、危険がいっぱいのこの世界じゃ需要も多いだろうしさ。
分かりやすさが一番ってことで、オレの中で考えてた回復魔法はこんな感じだ。
ヒール(小)……打ち身や切り傷等を治す。
ヒール(中)……縫う必要のある大きな切り傷や骨折等を治す。
ヒール(大)……手術が必要な大きな怪我や病気全般を治す。
ヒール(特)……四枝欠損や死期が近い重篤な病気の人も治す。
ヒール(神)……正に神のごとき回復魔法。死後1分以内であれば全快で生き返
らせることができる。
これでだいたい何でも治せるだろう。
ヒール(神)はネタで設定した。
後悔はない。(キリッ)
魔法チートのオレならばこの設定もイケるはずだ。
この冒険者にかけた毒消しはその名のとおり毒消しだな。
ジャイアントビーは毒持ちだっておっさん言ってたし、とりあえずかけといた方がいいかなと思って。
どんな毒かもわからないし、とにかくどんな毒も消し去る感じでイメージしたからこれで大丈夫だと思うぞ。
光が収まると、あれほど瀕死の状態で息も絶え絶えだった冒険者が穏やかな息遣いになっていた。
赤紫色に腫れあがっていた全身も腫れが引いて健康的な肌色に戻っている。
「ん……」
重症だった冒険者が目を覚ます。
「おいっ、大丈夫か?!」
パーティーメンバーの男が問いかける。
「あ、あぁ。俺は…………」
重症だった冒険者は目覚めたばかりで少し混乱気味なようだ。
無事であることを確認したパーティーメンバーの男はその場にへたり込んだ。
「助かった……」
一連の流れを見守っていた外野が騒ぎ出した。
「す、スゲェ」
「ああ、こんな凄い回復魔法初めて見たぜ」
「神官だってここまでの回復魔法を使えるヤツは王都にしかいないさ。それもほんの数人だ」
「それを神官でもない妖精が……」
「この妖精スゲェな」
「スゲェ妖精だ」
一気に注目の的なオレ。
フハハハハハハ。
いいぞいいぞ、もっとオレを褒め称えてちゃってもいいんだぜ。
オレは褒められて伸びるタイプだからな。
やっぱ魔法チートなオレ最高だな!
今日はここまで。