第17話 妖精(珍種)、念願の風呂に入る
ギルドマスターのおっさんの部屋で寝ていたら、出勤してきたおっさに起こされた。
眠たい目を擦っていると、雑貨屋には話をしてあるから行ってこいと部屋を追い出されてしまった。
仕方が無いので冒険者ギルドの隣にある雑貨屋に向かった。
「こんちわ~」
店に入ると恰幅のいいおばちゃん店主がやってきた。
「あら、妖精ちゃんね。ギルドマスターから聞いてるわ。確かタライが欲しかったのよね?」
おお、おっさんオレの欲しいものまで話し通してくれてたんだな。
「それなら、こっちに大きさ違いのものがいくつかあるから選んでね」
見てみると銅製で下の方が丸っこくなっているタライだ。
オレの風呂用にはぴったりな感じだな。
大きさ的にはこれあたりがいいかな。
「うーんと、これください」
直径60センチくらいで深さが20センチくらいのタライを購入。
代金を払いタライをアイテムボックスにしまった。
雑貨屋のおばちゃんの「毎度あり」という声を聞きながら急いでギルドに戻った。
早速一風呂浴びるのだ。
ギルドマスターの部屋に直行して「ただいま~」と声をかけて早速アイテムボックスからタライを取り出した。
「おい、何をする気だ?」
部屋の床にタライを置いたオレを怪訝な顔でおっさんが見ている。
「ん? 今から一風呂浴びようと思ってさ」
そう言ったらおっさんが勢いよく立ち上がって「馬鹿者っ」って怒鳴った。
「水遊びなら他でやれっ! ギルドの建物内での水遊びは禁止だっ!」
水遊びじゃないよ。
風呂に入るんだからさ。
「じゃ、どこならいいのさ?」
早く風呂入りたいんだけど。
「ったくお前というやつは……。訓練場なら水を使っても構わん」
おっさんがしょうがないって感じの渋い顔でそう言った。
そんな顔しなくたっていいのに。
訓練場はギルドの裏の倉庫の隣にあるというので、面倒だけど念願の風呂に入るためオレはそこに向かった。
□■□
訓練場では、見るからに若い冒険者になりたての新人冒険者たちがギルドの戦闘教官の指導を受けていた。
剣、槍、弓はもちろん、魔法の訓練もされている。
水魔法の練習をしている子もいるから、オレが風呂で水を使っても問題はなさそうだ。
オレは訓練場の隅っこに向かい場所を確保した。
とりあえずは見えないようにしないとな。
いくらちっこい妖精になったとしても人並みの羞恥心はあるのだ。
「バリア」
結界魔法の一種だと思いながら、魔法・物理完全防御プラス防音で外から中が見えないように半透明の縦・横・奥行1メートルの箱型のバリアをイメージした。
するとすぐさま思い通りのバリアがオレの周りに展開する。
「おぉ、自分でやったんだけど凄いなこれは」
半透明だから中の様子ははっきり見えないようになりつつ光は入ってくるので明るい。
アイテムボックスから銅製のタライを出して、その中に水と火の混合魔法でお湯を満たしてく。
ちなみに42度のちょい熱めのお湯だ。
お湯が溜まったところで、着ていたチュニックをスポンと脱いでアイテムボックスにしまった。
そして、ゆっくりとお湯に浸かる。
「ふはぁ~」
きんもちいいーーー。
やっぱ日本人は風呂だねぇ。
あぁ、風呂最高。
そうだ、石鹸買ってくれば良かった。
この世界に石鹸あるのかわからんけど。
無かったら作るのもありだな。
石鹸の作り方なんぞわからんけど、魔法で何とかなるだろう。(多分)
そんなことを考えつつしばらくぶりの風呂を存分に堪能した。
(訓練場にいた新人冒険者たちの会話)
新人冒険者A 「おい、あの隅っこにあるアレ、何だ?」
新人冒険者B 「あー、なんか妖精がうろちょろしてたな」
新人冒険者A 「妖精だと? よし、俺の使役妖精にしてやる」
新人冒険者C 「やめなさいよ。ここにいるってことは誰かの使役妖精に
決まってるじゃない」
新人冒険者B 「でも、妖精の周りに誰もいなかったぞ」
新人冒険者A 「やっぱオレの使役妖精に決定だな」
魔法の戦闘教官 「止めておけ。お前のかなう輩ではない。あの結界を見て
その凄さがわからんのか?」
新人冒険者A・B・C「?」
魔法の戦闘教官 「結界魔法の使い手は世界でも数えるほどしかいないの
だぞ。それなのにあの妖精は……。妖精が結界魔法を
使うなど聞いたことがない…………。そもそも結界魔
法を使用するには、莫大な魔力と細やかな魔力操作の
技術が必要なのだ。それなのにあの妖精はいとも簡単
に……。ということは、あの妖精は莫大な魔力を持ち
細やかな魔力操作ができると? いや、あり得ん、そ
んなことはあり得んぞ……」
魔法の戦闘教官 「ブツブツ、ブツブツ」(教官更に独り言をブツブツ)
新人冒険者A 「…………」
新人冒険者B 「…………」
新人冒険者C 「…………」
(自分の世界に入ってブツブツ独り言を呟く魔法の戦闘教官にドン引きする新人冒険者たち)