2話 こんな可愛い子が男の子なわけがない
タイトルを変更しました。
『異世界をつくろう(仮)』
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『落ちこぼれ営業マンの異世界創世』
さらっと書ければいいのだけれど、いきあたりばったりなのが怖いです。構想は練ってあるけど序盤を全然考えていなくて、やりたいお話はもっと先になるという。
3,769字(改行・空白含まない
2017/05/30 改行を修正しました。
2017/05/30 一部数字を変更しました。
「私が神様です」
目の前の透明人間は確かにこう言った。俺の耳がおかしくなったという事も有り得る。なにせ助詞がおかしい。私がってなんだよ。私は、じゃないのか。いやそもそも今この場での回答としてもおかしい……ん? おかしくはないか?
そこはかとなくイラッとした気がするのは昔遊んだゲームの台詞っぽいせいか。
「え、と……」
どう反応したものか困った顔をしてみる。話の分かる方なら表情に気がついて説明してくれる事が多い。どんなに意味の分からない回答であったとしても一応こちらの質問に応えてくれたのだから失礼な反応は避けるべきだろうが、それだけで態度を決めるべきでもない。
何より、俺からは相手の表情がまるで見えない。普段の仕事でやっているような心理戦をするには成績下位営業の自分にとっては情報が不足している。目は口ほどに物を言うのだ。
「あ、今ちょっとだけ感情が揺れましたね? やっぱりアマノさんの世代だとネタ的にダイレクトアタックでしたか!」
おい。今ネタっつったかこいつ。
「いやー、分かる人だと嬉しいですね。掴みはオッケーって事で! でも冗談で言ってる訳じゃないんですよ?」
目の前の神様を自称する透明人間はかなり気さくなお方のようだ。自己紹介で、相手がやった事があるかも分からないのに知名度としては中堅どころのレトロゲームの台詞をオマージュするくらいには。
相当な危険行為だが当たれば効果覿面、この方は見ず知らずの集団の中に入っていってもすぐ打ち解ける事が出来るコミュニケーション能力を持っているのだろう。空気で分かる。
俺も少し頭をそちらに切り替えるとしよう。
「あはは、しっかりと掴まれちゃいましたけど……怪我は大丈夫です?」
「うーん、少し瘤になっちゃったみたいですね」
なかなかに良い音が鳴ったしな。運転席を覗き込んだであろう角度でぶつけたのであれば恐らくは額か即頭部だろう。眼鏡を付けていたら惨事だったかも。姿そのものが見えないけど。
なんにせよ人目があまり無いとはいえ、ずっと傍目一人芝居の様な事をしている訳にはいかない。怪我人を立たせておくのも宜しくないし、とりあえず車に入ってもらおう。俺に用があるみたいだし。
「あー、めっちゃ痛そうな声上げてましたもんね……お話もあるようだし一旦中にどうぞ。そこのコンビニで飲み物でも買ってきますんで」
車の中で待っているように促してみる。
「ありがとうございますっ」
声の主が立ち上がり車のフロント側を回って助手席側へと移動する気配。見えなくても意外と分かるものだね。バトル漫画なんかでよく気配を察知して云々という描写があるけれど、普通なら無理だろとか思ってた。服の擦れる音や足音は勿論だけど、これだけ近いと息遣いっぽいのも伝わってくる。
助手席のドアが開くのを確認してからコンビニに入る為に足を向けて入口の自動ドアが開いた時に背中から声を掛けられた。
「果肉入ってるやつでお願いしますね! 飲むヨーグルト的なので!」
片手を軽く挙げて返事をしながら入店。聞き慣れたチャイムが流れてすぐに店員から気の入っていない挨拶が飛んでくる。いつも思うけど客の方向いて言おうね、アルバイトの君。
レジ前に札を立てて確認作業をしている店員をチラ見しつつ店内奥のドリンクコーナーで手早く選ぶ。ついでに何か瘤を冷やせるようなものも買っておこう。作業をしていない方のレジに商品を置く。自称神様にはイチゴの果肉がたっぷり入ったものにしておいた。マンゴーやタピオカより外れは少ないと思う。俺のはカフェオレだ。甘いものは正義。
「すみませーん」
他にお客さんいないからってレジチェックの振りしてサボるのはいいんだけど、隣に並んだらすぐに対応して欲しい。俺が駐車場で寝る前に買い物した時にもレジチェックしてたよ、この店員。あ、レシートの上にお釣り乗っけんなって!
コンビニから出て車の方を見遣ると何か窓拭き用に備えておいたタオルが独りでにフロントガラスの端から端を行ったり来たりしてる。何やってんだあの神様。たまに窓が曇ったりしてるのは息を吐き掛けてるのだろうか。外から見てると割りと怪奇現象なんですが……
駐車場には他に誰もいないのでそのまま少し様子を見ていたらタオルが何も無いところで軽く左右に振られた。手を振ってるのかな? とりあえず戻るか。
「どれ買ってきたんですかー? あ、イチゴいいですね! ありがとうございます!」
運転席のドアを開けて真っ先に聞いてくることがそれですか。神様すごいですね。なんかすごく俗っぽいよ神様。いや厳かにされるよりは親しみやすいから良いんだけどね。
「いえいえ。イチゴなら嫌いな人あんまいないですし。ところで何で窓拭いてたんです? そんな汚れては無かったと思いますが」
「やー、手持ち無沙汰というか。大人しくしてるの苦手で。えへへ」
………………なんだろう、キャラ作ってるのかな? 合コンに来る女の子みたいな感じだ。合コン参加したこと無いけど。
俺は買ってきた飲み物をレジ袋から取り出して軽く振ってから「はいこれ」と言って傍目には誰もいないように見える助手席の方にその手を突き出し恐らく相手が受け取りやすいであろう位置、胸と臍の中間辺りの高さで手を止める。すると「どーもです」という声を聞きながらカップが俺の手から離れて浮かび上がった。
指同士がちょっとだけ触れた感触が残る。やはり超常的な現象ではなく、姿形は人間のような二足歩行で腕二本。座高での予想になるが口の位置から察するに背丈は百五十半ばといったところか。今更だが話をしているからといって相手が透明「人間」であるとは限らないんだよね。神様らしいし。
少し太めのストローを挿して飲んでいるのを眺めながら相手の容姿を想像していると、俺がガン見している事に気がついたのか注意されてしまった。
「ちょ、ストロー咥えてる女の子の顔をそんなに凝視するもんじゃないですよ……それとも顔に何か付いてます?」
「あ、やっぱり女性なんですね」
声から察していたけど。だが流石に今の言葉はまずい。言ってから、しまった、という表情を浮かべて慌てて謝ろうとしたが遅かった。
「えぇっ!? ちょっとそれは酷くないですか!? こんな可愛い子が男の子なわけ無いでしょ!!」
確かに女の子という歳ではないけれど。そう付け加えながら自分の事を可愛いと言い張る神様。
あれ? 俺からはその御尊顔は見えないのだけれど、神様は姿が見えてると思ってたの?
「そ、そう言われましても私にはお顔も何も見えていないんですよ……神様と言われたのでてっきりそういうものかと」
「………………マジで?」
マジだよ。いやむしろ俺の方がびっくりだよ。というか神様だいぶ言葉が崩れてきてるんだけど俺ももう少し崩してもいいかな。堅苦しいお方では無さそうだし。つっても仕事柄、初対面の相手との言葉遣いというのは染み付いてしまっているのだけれど。
「窓拭いてる時とか、今もそうですけど。自分の姿映ってないの気が付きません?」
現状、硝子に反射しているのは空中に浮かぶイチゴの飲むヨーグルトの容器と普通にシートに座っている俺だけだ。カフェオレ美味しい。
「私からは映って見えてるんだけど。え、じゃあアマノさんずっと何も見えてないのに声掛けてくれたりなんだりしてくれてたんですか。目線も合わせてくれてたし見えてるものかとばかり……」
「透明人間なのかと思ってました」
「透明にはなれますけど、服まではちょっと」
流石は神様、透明にはなれるのか。てかやっぱり服は無理なんだね。血液とかどうなってるんだろう?それはともかく今俺から見ると透明なのは何かの不具合みたいで彼女自身は透明になってるつもりは無いらしい。
「うーん、このまま顔も見えないままお話っていうのもなぁ。アマノさんもお話するなら可愛い女の子が見えてた方がいいですよね?」
そりゃそうだ。仕事なら気にならないけどさ。積極的に自分から話をするのは苦手だけど昔から話を聞くのは上手いみたいで、話好きな人にはよく付き合わされるんだ俺。とはいえプライベートで長話するような相手は少ないのだが。
「そうですねー。顔が見えてた方が物事もよく伝わりますから男女抜きにしても是非。神様のお姿にも興味あります」
神様相手にしては不遜かな? と思いつつも少しずつ言葉を崩していく。フランクな方だし最終的には相手と同じレベルまでは崩れてもいいだろう。
「そういえば話ってどれくらい掛かりそうです? 十七時……あと三十分くらい掛かるようなら一度会社戻らせてもらってからでも?」
うちの会社は定時が十七時。直帰は基本的に許されていない。事務所が施錠される等、余程遅くならない限り一度は会社に戻る必要がある。帰宅後でも電話でのアポイントは取れるし会う相手の時間にもかなり幅がある為、実際には一日中が仕事みたいなものなのだがね。朝早い場合もあれば深夜の場合もある。土日も業務上は休みだけど会える人達は土日を希望することも多いので予定はびっちり入る。よく漫画なんかだと営業は休みが多いみたいなイメージがあるのはアポを取れてない営業だけだ。
………………俺は取れてない営業なのだが。
「あー、実時間は停めちゃいますから掛からないですよ。体感ではとりあえず千年くらいみてもらえれば」
……はい?
進行はゆっくりと。細かく描写しすぎな感。
お釣りを文鎮代わりにすると財布に入れる際にレジ前でバラ撒く可能性。しっかりとお手々にぎゅっと真心込めて握ってもらいましょう。