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俺、憑かれたみたいです  作者: 夜猫
7/14

勉強しました

「確かに、九物村の里山って言ったのか?」

俺は美優の言葉に、素っ頓狂な声を出してしまった。

九物村といえば、母の実家がある場所だ。

今でも祖母が村には住んでいる。

何故、九物村の話が出たかというと、廃病院で出会った少年が最後に言った言葉がそれだったらしい。

俺には聞こえなかったが……。

「はい」

「どういう事だ?」

「わかりません」

言葉の意味がわからず、美優に尋ねてみるが、わからないようで首を横に振った。

取りあえず、わからない事をいつまでも気にしても仕方ない。

それよりも今日は日曜日、今までやれなかった事をやろう。

「ゆっくりするか」

「怠惰ですね」

「昨日の疲れが、まだとれてないんだ」

昨日の廃病院で、常に緊張していたせいか、身体中があちこち痛い。

よし、今日は寝て過ごそう。

「来週から期末テストですけど、先輩は勉強しなくていいんですか?」

「俺、毎日予習復習してるし。テスト前だからって、特別勉強しないぞ」

「えーーっ!!」

美優は珍しく、目を丸くして意外そうな声を上げる。

俺は、結構勉強は好きだった。

成績も学年でまあまあ上位をキープしている。

「お前こそ期末テスト大丈夫か?」

「うっ」

美優は、俺から目を伏せるようにして逸らした。

この様子では、勉強があまり得意ではなさそうだ。

「何なら、俺が教えてやろうか?」

「本当ですか!?」

嬉しそうにピョコンと背筋を伸ばすと、キラキラとした瞳で俺を見つめてきた。

余程、勉強が苦手なのだろう。

いつもは、俺が世話になっているので、たまには力を貸してあげたい。

「任せとけ!」

こうして、二人の勉強会は始まった。


一時間後……。


「……」

「……」

長い……長い沈黙が流れていた。

美優は俺の予想を遥かに超えて勉強が出来なかった。

教えても教えても、理解してはもらえなかった。

勉強を教えるのは、人より得意だと思っていたが、どうやら間違いだったようだ。

「……すぅ」

「おいっ!」

俺が一人頭を悩ましていると、美優はその間に寝息をたてて寝ていた。

俺は教科書を丸めて、軽めに頭を叩いてやる。

「うぐっ!」

「まったく、誰の為にやってると思ってるんだ?」

「すみません」

丸めた教科書を手でポンポンとする俺に、頭をさすりながら美優はペコッと頭を下げる。

「それにしても、先輩は凄いですね」

「何がだ?」

「毎日、勉強してるなんて」

「当然だ。勉強は未来の自分の為だからな」

確かに、勉強なんて面白くないし、毎日頑張るのは大変だ。

しかし、なりたいものになる為には必要になってくる。

たとえ、今先が見えなくても、夢が見つかった時に学歴や知識があるに越した事はない。

俺はそうやって、毎日勉強を頑張ってきたのだ。

「本当に凄いです」

「そうか?」

「私は神社の巫女として、未来が決まっているものですから……」

最初は俺の話をキラキラとした瞳で聞いていた美優だったが、急に目を伏せてポツリポツリと話し始めた。

「確かに、そうかもしれない……でも、そうじゃないかもしれない」

「え?」

俺の言葉に、美優は顔を上げる。

言ってる意味がわからないと首を傾げて疑問符を浮かべる。

「全てはお前次第じゃないのか?」

「私……次第?」

「ああ。無理して巫女になる必要はないさ」

俺は美優にニカッと笑ってみせた。

別に、神社を継ぐだけが人生ではない。

「もちろん、お前が好きで神社を継ぎたいなら、それはそれで良いしな」

「先輩……」

感動したように、美優は瞳を輝かせて祈るように手を組んでいた。

俺が神にでも見えているのだろうか?

「だから、勉強しような」

「うっ」

子供を諭すように説明する俺に、美優は明らかに顔を曇らせた。

結局、ただ勉強が嫌いなだけらしい。

まったく、困ったものだ。

「それより、先輩は将来の展望とかあるんですか?」

「あるぞ。俺は公務員になって、順風満帆な人生を送……る……ん」

気が付けば、俺は涙を流していた。

自覚してしまったのだ……自分の未来が真っ暗な事に。

俺にどれぐらいの時間が残されているかわからない。

だけど、長くは生きられないだろう。

そう理解してしまった俺は、自然と涙が溢れてしまった。

「大丈夫です!」

「……美優」

「私が必ず何とかします。だから、大丈夫です!」

完全に先程と立場が逆だった。

美優は俺の手を取り、しっかりと目を見つめてきた。

その力強い言葉が、たとえ気休めでも嬉しかった。

「わかった」

だから、結果がどうなろうと、俺は美優を信じる。

そう思った。


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