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俺、憑かれたみたいです  作者: 夜猫
6/14

行きました

何故、こんな事になってしまったのだろう……。


俺と美優と悪友である孝太郎は、幽霊が出ると噂の心霊スポットである廃病院に来ていた。

消毒液の臭いが恐怖を煽る。

この廃病院は小学生ぐらいの少年と首より上がない女性の霊が目撃されるという。

ただでさえ、強力な怨霊を抱えている俺が心霊スポットなんてものに自分から来たがる訳がない。

全ては、悪友の悪ふざけから始まった。


「心霊スポットに行こうぜ」

「嫌なこった」

放課後、帰る用意をしている俺の元に孝太郎がやってきた。

こいつ、一緒にいて楽しいのだが、時々悪ふざけが過ぎる。

しかも、今回は心霊スポットだという。

いやいや無理に決まっている。

「そう言うだろうと思っていたよ」

「孝太郎?」

ニヤニヤと笑う孝太郎に、嫌な予感しかしない。

こういう時の俺の感は大概当たる。

「実は庄助に借りていたDVDを、心霊スポットに隠してきました」

「この野郎、何のつもりだーーっ!!」

俺は孝太郎の襟首を掴むと、思い切り上下に揺さぶった。

首がガクガクとなりながらも、決して笑うのを止めない孝太郎に愕然とする。

「さあ、取りに行こうぜ」

「うぐぐ……」

俺は悔しくて、歯を食いしばる。

どうする……。

DVDを諦めるか?

いや、あれは苦労して手に入れたレア物だ。

諦める訳にはいかない。

くそっ!

「……わかった」

納得いかなかったが、行くしかない。

渋々了承した。

物を取り戻したら、絶対に仕返ししてやるからな。


帰りに、校門で待っていた美優にその事を告げると、着いてくると言い出したので三人で向かう事にしたという訳だ。

「先輩、私こういうの初めてです」

「そうか、そら良かった」

肝試しが珍しかったのか、美優は少し興奮しているように見えた。

俺は、いつ心霊現象が起こるかと気が気でなかった

「いや、まさか庄助がこんな可愛い娘と知り合いだとは」

「そんな事より、俺のDVDは何処だ?」

「まあ待て。まずは探検だ」

早く返して欲しかったが、さすがに簡単ではない。

まず俺達が向かったのは、少年の幽霊が出るという病室。

「うわ……」

開き放しのドアから中を覗くと、異様な光景が広がっていた。

元々なのか悪戯なのか、壁一面が真っ赤に塗られていた。

床には子供が描いたと思われる絵が沢山散らばっている。

「怖っ!」

「入ってみようぜ」

恐怖で足が竦んでいる俺とは対照的に、孝太郎はズンズンと中に入っていく。

「美優、中に何かいるか?」

「中にはいません」

「そうか」

ホッとして俺も中に入っていく。

ただ美優の言葉に、ほんの少しだけ違和感を覚えた。

辺りを見回すと赤色がペンキなどではないとわかった。

下に落ちている絵は心霊スポットに遊びに来た誰かが踏んだのだろう、足跡がついていて物悲しい。

しかし、これといった心霊現象は起こらない。

「よし次だ!」

「……」

孝太郎はまだまだやる気満々のようで、病室を出て歩き始めた。

俺はヤレヤレと首を振り、後に次いで歩き出した。

「行くぞ、美優」

「あっ、はい」

その場にボーっと立ち止まっていた美優に声を掛ける。

美優は俺の声に反応して、トテトテと小走りで寄ってきた。

次に向かったのは首から上がない女性の霊が出ると噂の霊安室。

地下にあるらしく、俺達は階段を降りていく。

電気が止まっているせいだろう、地下は真っ暗だった。

孝太郎が用意していた懐中電灯を点けて俺に渡し、もう一つ取り出して使う。

階段を降りきると、すぐに霊安室と書かれたプレートが見える。

「ちなみに、この奥にDVDがあるから」

「うわっ、何て事を!」

こいつの性格の悪さは折り紙付きだな。

孝太郎への殺意が湧き上がってくる。

絶対後悔させてやるからな。

俺はボロボロの扉をゆっくりと開く。

その瞬間、目の前に人影が目に飛び込んでくる。

しかも、頭がない。

「……ッ!」

俺は驚きのあまり、ビクッと身体を震わせた。

いた!

首から上がない女性の霊だ。

まさか、本当に出るなんて……。

「ぷくく」

俺が驚愕に動けないでいると、孝太郎が吹き出した。

大笑いし始めた孝太郎に、俺はようやく気付いた。

良く見ると、そこにあったのはマネキンだった。

結局は、孝太郎の悪ふざけだったのだ。

「こいつ……」

俺は大笑いを続ける孝太郎を尻目に、奥に置いてあったDVDを怒りで乱暴に取ってきた。

「さあ、腹一杯笑ったし、帰るか」

「はいはい」

孝太郎はこんな奴なのだ、ムキになっても仕方ない。

それよりも一刻も早く帰りたかった。

孝太郎に続いて、俺達は正面玄関へと向かった。

「あれ?」

しかし、玄関があるはずの場所は行き止まりで、進めなくなっていた。

戸惑いを隠せない孝太郎と俺。

「別の出口を探そう」

「あ、ああ……」

いつまでもここにいても仕方がない。

俺達は他の出口を探す為に歩き始めた。

そして、気が付けばあの場所に辿り着いていた。

「嘘……だろ?」

それは少年の霊が出るという、あの真っ赤な壁の病室だった。

馬鹿な。

孝太郎は完全にパニック状態だ。

半泣きでしゃがみ込んでいる。

俺も頭がおかしくなりそうだった。

ここには何もいないはずじゃ……。

そこで、俺は美優の言葉の違和感が何だったのか気が付いた。

「美優、中には何もいないんだよな?」

「はい」

「じゃあ、何処にいるんだ……?」

そう。

美優は、はっきりと『中には』いないと言ったんだ。

幽霊は中以外にいたのだ。

俺の問い掛けに、美優はゆっくりと指差す。

「先輩の後ろにずっといますよ」

俺は錆び付いたロボットのように、ぎこちなく後ろを振り向いた。

そこには目が落ち窪み、血の涙を流す小学校の低学年ぐらいの少年が俺のシャツを掴んでいた。

「うわっ、うわぁあああっ!」

恐怖で髪の毛が逆立ちそうだった。

孝太郎にも見えたのか、「ヒッ!」と小さく悲鳴を上げてうずくまる。

とにかく、この場から逃げなければ。

「大丈夫ですよ」

「えっ……?」

見ると、少年は美優に怯えたようにしがみついていた。

これでは、俺達が悪いみたいではないか。

そこまで考えて、俺はハッとした。

領域を侵犯したのはこちらだ。

「ちょっと寂しかったんですよね」

「そうか……」

孝太郎の悪ふざけのせいで、寝床をザワザワされた少年を責める事なんて出来ない。

「ごめんな」

「……」

俺の謝罪に、少年は

瞳のない目でジーッと見て、口をもごもごと動かす。

何事かを言っているようだが、当然俺には聞こえない。

少年は話し終わるとスーッと消えていく。

気が付くと、俺達は正面玄関にいた。

「帰りましょう」

「そうだな」

俺達は廃病院を後にした。


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