説明されました
「という訳なんです」
俺の母さんに御堂の父親がこれまでの経緯を説明する。
話の間、母さんは目を瞑り黙って聞いていた。
「全部本当の事だったのね」
「母さん?」
「庄助、都築の家はね、呪われているの」
全てを聞き終わった母さんは、ゆっくりと目を開けると、深々と息を吐いた。
そして、肯定する台詞を呟いた。
「呪われ……てる?」
「私も詳しくは知らないけど、お祖母ちゃんに聞いたのよ。赤い着物の女性の事を……」
御堂の父親が聞きたがっていた事は、きっとこの事なのだろう。
都築家が呪われた経緯という……。
「お母さん、知る限りで構いません。教えて貰えませんか?」
父親が母さんに説明を求めてくる。
恐らく解決の糸口を探すつもりなのだろう。
ちなみに、父親はさっきのジャージ姿とは打って変わって神主スタイルになっている。
「わかりました。お話します」
「ありがとうございます」
意を決したように真剣な表情を見せる母さんに、父親は礼を尽くしたように頭を低く下げた。
「庄助、うちの祖先はね、ある女性に酷い仕打ちをしたの」
俺の方へ視線を送り、母さんは訥々と話し始めた。
それは昔々、まだこの世が平定されていなかった頃の話。
小さな山間の村に祖先が住んでいた。
その村は、全てが血縁者で構成されている。
村の近くの山には山神様と呼ばれる存在がいて、毎年生け贄を求めていた。
村は間引く子供を贄として山神に捧げていた。
代わりに山神は山菜や豊作を与えていた。
その山神を討伐する為に、都は名のある神社から巫女を送り出した。
しかし、村人は山神の恩恵が無くなるのを恐れて巫女を殺した山神に生け贄として捧げた。
「……」
母さんの話は最悪だった。
聞いていて気分が悪くなる。
そんな奴らと同じ卑しい血が流れてるかと思うと反吐がでる。
「そうして村は元通りに戻った。だけど異変は、一月程経って起こり始めた」
村で人がバタバタと死に始めたのだ。
最初は乳飲み子、次に子供や老人。
村は巫女の呪いだと恐れおののいた。
「当然の報いだ」
結果自分にまで降りかかっている事も忘れて、俺は吐き捨てた。
「でも、そんなに強い怨念だったら、先輩生まれてないじゃないですか?」
確かに、言われてみればその通りだ。
普通なら村は全滅で終わりのはず。
つまり、まだ話は終わりではないのだ。
「それがね、旅のお坊さんに泣きついて、怨念を鎮めてもらったのよ」
「都合の良い奴らだな」
「まあね。でも結局全ての怨念を鎮める事は出来なかったの」
当然だ。
自分を裏切り、しかも殺した人間達を簡単に許せるはずがない。
沸々と沸き上がった怒りが治まらない。
「先輩」
「うぎゅっ」
急に御堂が俺の頬を掴むと、ぶにぶにと動かし始める。
俺は訳が分からず、変な声を上げてしまった。
「幽霊さんと同調しちゃってますよ」
「マジか」
どうやら女性の怒りが俺に移り、女性の感情を自分のもののように感じていたらしい。
危ない危ない。
ただ、自分の祖先を軽蔑する気持ちは変わらないが。
「それで呪いは一族の女には効かない、ぐらいにはなったらしいわ」
「なるほど」
それで、男の俺が呪われたという訳だ。
しかし、良く生きてたな……俺。
「良く生きてましたね、先輩」
「そうだな」
御堂も同じ事を考えていたようで、笑顔のままポンポンと背中を叩いてくる。
「あなたはお父さんに似て、強運だからね」
「強運……?」
そうか?
何か子供の頃から事故とか事件とか遭いまくっていた気がするけど。
「そうよ。九死に一生が何回あったと思ってるの?」
「なるほど。そういやそうだ」
言われてみれば、確かにそうだ。
きっと、事故や事件は怨念によるものだろう。
それでも命があるのだから、大した強運だ。
「説明ありがとうございます。やはり、因縁が深い」
「今、庄助に危険が迫っていると聞きます。簡単な事ではないでしょうが、お願いします、息子を助けて下さい」
「最善を尽くしましょう」
母さんは両手を付いて頭を下げ、父親も同様に返した。
そういう訳で、俺はしばらく御堂の家にお世話になる事になった。