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俺、憑かれたみたいです  作者: 夜猫
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「シュッシュッ」

「……」

「シュッシュッ」

「……」

口で風切り音を表現しながら、御堂は俺の背後に向けてパンチを繰り出す。

表現している程の凄いパンチではない。

女の子らしい猫パンチだ。

「御堂、何しているんだ?」

「幽霊さんが、私にちょっかいをかけてきているので、対抗してるんです」

「……」

その行動って、逆効果じゃないかな、って思うんだけど。

絶対挑発だよ。

「ところで先輩、彼女とかいるんですか?」

「いや、いないけど……」

「それは良かったです」

唐突な質問に、俺は疑問を感じながらも否定する。

俺の言葉に御堂は安心したように胸を撫で下ろした。

これは、もしかして……。

「俺に惚れたか?」

「そんなんじゃないです」

ニヤリと笑みを浮かべて尋ねる俺に、御堂は相変わらずの笑顔でピシャリと否定した。

その笑顔がちょっと怖かった。

「彼女とかがいると、幽霊さんがそっちまで悪さしたりするんで心配したんですよ」

「なるほど。それは嫌だな」

自分に何かされるのはもちろん嫌だが、俺のせいで大切な人が傷付くのはもっと嫌だった。

モテない人間で良かった。

「……」

自分でモテないと認めて、ちょっと悲しくなってきた。

「先輩、見えてきましたよ」

一人落ち込んでいる俺に、御堂が指差した。

そこには、ここら辺では有名な神社が見えてきていた。

確かに、あの神社の娘なら、あれだけの力と度胸があってもおかしくない。

「デカいな」

「真ん中は神様が通る道ですから通っちゃダメですよ」

「そうなのか」

大きな鳥居をくぐると、御堂がそっと注意してきた。

なかなか知らない事が多いな、などと感心してしまう。

御堂は社ではなく社務所へ向かう。

恐らく自宅も兼ねているのだろう。

と、社務所からジャージでサンダルを履いた人が慌てて飛び出してきた。

「美優っ!」

「お父さん」

「一体、何を招き入れたんだ!?」

その人物は、どうやら御堂の父親らしかったが、かなりのパニック状態だ。

何かがあったのだろうか?

父親は完全に、顔が青ざめていた。

その父親の視線が俺を捉える。

俺は軽く会釈したが、向こうはアッという顔を見せた。

「いやいやいやいや。これはマズいだろう」

「お父さん、アレを祓って欲しいんですけど」

「無理無理無理」

おいっ!

話が違うぞ!

両手を前に出して拒絶を見せる父親に、俺は詐欺にあった気分だった。

とはいえ、父親の様子からただ事ではないのがわかる。

そのレベルの怨念なのか……。

「簡単に祓えそうなんですけどねぇ」

「全てをお前の感覚で図るんじゃない!というか、お前にも縁が出来てるじゃないか!」

どうやら、御堂の能力が別格らしい。

父親は何かに気付いたようで語気を強めて御堂に詰め寄る。

「先輩に悪さをしていたので、先輩ごとボディプレスをかましてやりました」

俺にしてみたのと同じように、どや顔で父親にガッツポーズをして見せた。

「……まあいい。後で縁を切ってやる。それよりも……」

さすが父親、慣れているのか諦めたように深々とため息を吐くと、俺へと向き直った。

しばらくジーッと俺を頭から足まで、まるで値踏みするように見るとハァと深く息を吐き出した。

「残念だが私ではどうにもならない。業が深過ぎる」

「業……」

真剣な表情で告げてくる言葉は意味不明だったが死刑判決のようにも聞こえた。

きっと、背後の女性がニタニタと笑っている事だろう。

「取りあえず、御守りを用意する。少しは違うだろう」

「お父さん、ちょっと待って下さい」

社に向かおうとする父親を、前に立ち塞がるように御堂が制止する。

「御堂……」

「このまま放っておけば、先輩は遠からず死にます。それがわかってて見捨てるんですか?」

「しかし……」

いつになく真剣な表情で訴えかける御堂に、父親は眉間に険しくシワを寄せた。

俺はといえば、はっきりと言われた『死』という言葉にショックを受けていた。

「決めました!私、先輩と一緒に暮らします」

「……はい?」

力強い拳と共に放たれた御堂の宣言に、俺はポカーンとしてしまう。

父親も同様の顔をしていた。

こいつは何を言っているのだろう?

「私が傍にいれば、幽霊さんもそう簡単には手出しは出来ないはずです」

『待て待て待て』

俺と父親は同時に止めに入った。

俺と御堂が一緒に暮らす?

俺達は今日出会ったばかりだぞ。

そんな二人が一つ屋根の下で暮らすなんて……。

「そ、そんなのは許さんぞ!うら若き乙女が同じ年頃の男と同じ家で暮らすなんて」

「同じ家というか同じ部屋ですよ」

でないと幽霊さんの悪さを止められません、と続ける。

父親はその言葉に、泡でも吹きそうになっていた。

そして……。

「わかった。君、家に住みなさい」

「え?」

「取りあえず、君のお母さんにも話を聞きたいし、中で話そうか」

父親は諦めたように深々とため息を吐くと、社務所へと招き入れてくれた。


まったく、これからどうなるんだ?


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