うなされました
またあの夢だ。
まだ始まってもいない夢を、俺は直感的に感じていた。
俺は、ここ最近毎日のようにこの夢に悩まされている。
夢の中で俺は、金縛りにのようになって全く動けない。
すると足元に何かの気配を感じる。
来た!
気配の主はゆっくりと、寝ている俺の周りを回り出す。
何やらブツブツと言っている。
その声で気配の主が人である事がわかった。
耳を澄まして言葉に集中する。
「……い……い……に……」
どうやら、同じ言葉を繰り返しているようだ。
少しずつ……だが、確かに声は大きくなってくる。
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い……」
はっきりと聞こえた言葉に、俺は狂気を感じる。
恐怖で顔が強張っていると、気配の主は足元でピタリと止まった。
声も聞こえない。
終わった……?
そう思った瞬間、気配の主はゆっくりと俺の足元から登ってくる。
手をベッドに付く度に、ポタリポタリと何かが落ちる。
俺は目だけを動かして気配の主を見た。
そこには、長い黒髪乱した赤い着物を着た女性が、血を滴らせながら登ってきていた。
ぎゃあああっ!
叫び声をあげたつもりだったが、実際にはあがらなかった。
そいつは、ゆっくりと顔の所まであがってくると、息が掛かる距離でニタリと笑った。
「都築家の人間を私は絶対に許さない」
そう言ってケラケラと高笑いをあげた。
と次の瞬間……。
「とうっ!」
「ぐはっ!」
変な言葉が聞こえたと思ったら腹部に激しい痛みが走った。
その瞬間、跳ね上がるように身体が起き上がった。
そこにはニコニコと笑顔のまま、俺にのしかかった御堂がいた。
「何を……してるんだ?」
訳が分からず、俺は御堂を見つめる。
気付けは嫌な汗をかいていた。
「幽霊さんが悪さしていたみたいだったので先輩ごとアタックしました」
「本当に何してるんだよーーっ!!」
悪びれずガッツポーズを見せる御堂に、俺は思わずツッコミを入れた。
というか、ここは一体何処だ?
俺は辺りを見回す。
「保健室……?」
「授業中にお腹が痛くなって、保健室に運ばれたってクラスの方が言ってましたよ」
そういやそうだった。
御堂の言葉に、俺は徐々に思い出してきた。
急に腹が痛くなって動けなくなって、保険委員に連れられてきたんだ。
「幽霊さんが焦って悪さしたんですね」
「そうなのか」
どうやら、御堂に会った事で女性の霊は祓われてはならないと早めに攻勢に出たらしい。
「今、邪魔した私に対して、滅茶苦茶怒ってますよ」
「そ、それって、大丈夫なのか?」
相変わらず、ニコニコとした表情で語ってくる御堂に、俺は顔を引きつらせていた。
「平気ですよ。ちょっと鬱陶しいですけど」
「そんなものか」
「はい。そんな事より帰りましょう。家まで案内します」
御堂を見ていると、全然平気そうだ。
俺はちょっと安堵しながら御堂に継いで保健室を後にした。