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俺、憑かれたみたいです  作者: 夜猫
14/14

頑張りました

山神を封印したあの日で、俺は大方終わったと思っていた。

しかし、話はそう簡単ではなかった。

女性の霊は統制していた山神を失い暴走状態になっていたようで、自宅に帰った俺は危うく殺されかけた。

という訳で、俺は今も神社に住まわせてもらっている。

そうして、二年もの月日が過ぎていた。


「先輩、今から出掛けますよ」

「拒否権は無しか」

「はい」

日曜日の朝、美優が強引に誘ってきた。

俺は口調から断る事が出来ない事を理解する。

まあ、別に行きたくない訳でもない。

それに別段用事がある訳でもない。

「で、一体何処に行くんだ?」

「内緒です」

指を唇に当てて秘密のポーズを見せる美優に、何だかムズムズしてしまう。

気になる……。

何やら遠出するらしく、俺達は電車に乗り込んだ。

日曜の朝だというのに、電車の中は疎らだった。

「ポカポカで暖かいですね」

「そう……だな?」

天気が良くて、気持ちが良いと思っていたのだが、急に空寒くなってきた。

先程まで明るかった車内は、今は何だか暗く空気も澱んでいる。

「マズいですね」

「マジか……」

美優の言葉に、俺は何となく理解した。

心霊現象が起こり始めているのだ。

一体、これから何が起こるというのだろう?

俺はどんな事態にでも対応出来るように、集中して辺りを見回した。

案の定、車中に人は誰もいなくなっていた。

「異界にでも連れて来られたかも」

「ですねぇ」

窓の外は真っ暗闇で何も見えない。

車中の電気はチカチカと点滅を繰り返している。

何度目かの点滅で向かいの席に赤い着物の女性が現れた。

そう、あの女性の霊である。

「うわっ!」

驚きのあまり、つい俺は声を上げてしまう。

長い髪で顔が見えないが、何だか以前夢で見た時とは雰囲気が違う気がする。

「今まで本当にお疲れ様でした」

「え?」

いきなり立ち上がった美優が、女性に向かって深々と頭を下げた。

俺は目の前で、何が行われているのか理解出来なかった。

「彼女は被害者です。助けにきたはずの先輩の祖先に殺されて、魂は山神に捕らわれて……」

「そうだ、な」

自分が被害にあっていたので、そこまで考えが到らなかったが、確かにそうかもしれない。

俺の祖先が……。

そこまで考えて、ふと気付いた。

俺も山神にとり憑かれて、同じ事をしようとしてたのだ。

俺だって祖先と変わらない。

「本当に、すみませんでしたっ!」

「先輩……」

俺はその場で、頭を床に押し付けて土下座した。

申し訳ない気持ちで一杯だった。

涙が止めどなく溢れてくる。

『……』

女性の霊は何も言わずに、スーッと消えていった。

ただ、髪の隙間から笑っている口元だけが見えた。

許してくれた……?

「先輩、気を付けて下さいっ!」

「え……?」

気付いた時には遅かった。

向かい側の窓ガラスが粉々に割れて飛び散った。

ガラスの破片が俺に降りかかる。

「ああぁあああっ!」

俺は左目を押さえて絶叫していた。

目に破片が入り、激しく痛んだ。

乗客達の悲鳴で、辺りに響き渡る。

その後停止した電車から救急車に移された俺は病院で処置を受けた、が結局俺の左目は失明した。

三日後、美優が落ち込んだ様子で病室を訪れた。

「先輩……」

「気にすんな。お前のせいじゃない」

ベッドから身体を起こして、俺は美優にはっきり告げた。

実際、美優に何の落ち度もない。

ただ、赦してもらったと思った俺の油断だったのだ。

「赦してもらえるはずない……」

俺の一族がした事は、それだけ酷い事だったという事だ。

だけど……赦して欲しかった。

あの女性の霊の怒りを治めたかった。

自分の命より、女性の魂の為に……。

「そんな事はありませんっ!」

「美優?」

ガックリと肩を落とした俺に、美優はズイと顔を寄せて、興奮した感じで手を握ってきた。

あまりの顔の近さに、俺はちょっとドキドキしてしまう。

「確かに、今回は怨みの方が強かったかもしれません。だけど、いつかはきっと成仏します」

「そうか……」

「簡単じゃないかもしれませんけど、きっと先輩が生きてる間には赦してくれるはずです」

必死に訴え掛けてくる美優に、俺は救われた気がした。

確かに、諦めなければ、いつかは赦してくれるかもしれない。

「そうか……そうだな。俺次第だな」

「そうですよ。私も一緒に頑張ります」

美優は見慣れた笑顔で俺を見た。

その笑顔があれば、何とかなるかもしれない。

まだまだ辛い事もあるだろうが、がむしゃらに頑張ろう。

俺は美優に、精一杯の笑顔を返した。


これが最終話になります。

これまでお付き合い頂き、ありがとうございました。


久し振りに小説を書いたので、色々と読みにくかったかもしれません。


いや、本当に、申し訳ないです。

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