とり憑かれました
「あなた、とり憑かれてますよ」
突然背後から、俺はそんな事を言われた。
後ろをふりむくと、少女が俺に視線を向けていた。
「えっと……」
「あの、とり憑かれてますよ」
いきなりで戸惑った俺に、少女は申し訳なさそうに、もう一度同じ台詞を送ってきた。
「いや、聞こえなかった訳じゃない」
俺は霊感と呼ばれるものは全くない。
だからこそ、はっきりと告げてくる少女の言葉に戸惑ったのだ。
もちろん、町で言われたのなら、宗教の勧誘か詐欺だろうとタカをくくり、適当にあしらうのだが。
ここは学校で目の前にいるのはうちの学校の生徒だ。
戸惑っても仕方ないだろう。
「このままだと二十歳まで生きられませんよ。それでは」
少女はそれだけ伝えると、満足したのか踵を返してスタスタと歩いていく。
「ち、ちょっと待ってくれ」
「はい?」
とりあえず、俺は少女を呼び止める。
このまま去られると気持ちがモヤモヤして寝れなくなる。
少女は何故呼び止められたのかわからないといった感じでキョトンとした顔で疑問符を浮かべる。
「とり憑かれてるって、一体どういう事なんだ?」
「そのままの意味です。悪意を持った女性があなたの後ろに立ってますよ」
急にそんな事を言われたものだから、俺はその場を飛び退いて、今居た場所を見つめる。
もちろん、そこには何も見えない。
「本当に……?」
「はい。間違いなく」
「そいつはどんな感じなんだ?」
「黒髪で真っ赤な着物を着た痩せぎすの女性です」
少女が嘘をついているようには見えなかった。
それに、俺は少女が告げた女性に心当たりがあった。
それにしても二十歳まで生きられないとは……
「俺はどうしたらいい?」
「お祓いすれば大丈夫だと思いますよ」
「は?」
深刻な表情で訴えかける俺に、少女はあっけらかんと答えた。
俺は今きっと馬鹿面をぶら下げているに違いない。
「おはらいですよ、お祓い」
「そんなんで大丈夫なのか?」
「はい。もし良ければ、家が神社をやっているので父に頼みましょうか?」
あっさりな感じに、俺はいささか拍子抜けした。
まあ、大事にならないのであれば、それに越した事はない。
それにしても神社の娘か……。
女性の霊が見えるのは、そこら辺が関係しているのかもしれない。
「頼む」
お祓いといっても、何処に頼めばいいのかわからない。
少女の提案は渡りに船だった。
「それでは放課後に校門で」
「わかった。っと、まだ自己紹介もしてなかったな」
「そうですね」
俺の言葉に少女は口元に手を当ててクスクスと笑った。
その笑顔に安心を覚える。
お祓いすれば俺は大丈夫なんだ。
「私は一年の御堂美優です」
「俺は二年の都築庄助だ。それじゃ後でな」
俺は手を挙げて教室へと歩き出した。