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どんな結末をお望みかな

 このお話は、前から気になっていた。単純な選択ではなく、そこに行きつく過程そして、語り手と聞き手の関係、グッドかバッドかを選択できるものを考えてみたかった。使い古された手法だからこそ、まだまだ無限の可能性を秘めていると思う。

 昔、独裁的な王様がいました。もっとも王様というのは独裁的であるのが当たり前だけれどこの王様は、公平な目を持っていた点があることをみんなが認めていた。民は飢えることなく、隣国とも平和に共存をしていた。自国を脅かす勢力が攻めてこようとしたときは、自ら先頭に立って駆け引きを行い、国のことを思っている家臣にも恵まれていた。それだからこそ、気まぐれなことを行っても、王様だからと民も許し、王がしたことについて寛大であった。どちらかというと面白がっていた節がある。最終決定権はあるが、それをゆだねることの安心感をもたらしてもいた。

 裁判沙汰もあまりなく、ほとんどが王の手前で裁きは終わっていた。それでも時に、王の裁量を求められる時がある。王は、明らかに被告に非がある場合でも最終的に本にの持って生まれた運命を試すことがあった。その装置とは。

 「王様ってどこの国も変わっているけれど、変わっている人じゃないと王様になれないのかな」とそれまで黙って話を聞いていた「はるか」が口を開いた。

 「物語として残っているからには、そこに非日常がないとダメじゃないのかな。特徴がない国の特徴がない王様で、何も事件が起こらない話なんか聞いても面白くないだろう。もちろん、それは、語り手次第かもしれないけれど、とにかく続けるよ。」

 その装置とは、広場の左端に二つの部屋があり、その部屋に通じる扉が短い廊下をへてつけられていた。広場にいる人は、当然中に何があるかわからない。王様自身もわからないように上も覆われていた。開ける側の運命にゆだねるものであった。一つの扉を開けると、獰猛な虎が今か今かと獲物を待っている。そのドアを一度開けたらもう後戻りできないようになっている。当然、兵士がガードしている。そしてもう一つの扉を開けると、女性が出てくる。それも、しっかりと吟味された女性で、開けた男は、その女性と結ばれることになる。

 「もし扉を開ける人が女だったらどうするの」

 「基本的に女性は、その扉を開ける罪に問われないはずだよ。女性がトラに食い殺されてしまうのは、どう考えてもいい図ではない。男だったら、戦って勝つという選択肢も残されているけれど。」

 「女性でも強い人はいるよ」

 「これは、一種のゲームだから」

 「人の命を使ってゲームって趣味悪い」

 「だから、独裁的だって言っているんだよ。続けるよ」

  実際に、トラが出てきた場合でも、最後まで戦わせないである程度勝負が決まったらすぐに引き離す。ただし、たいていは、人のほうが負けて、瀕死の重傷を負うけれどね。そのまま、亡くなった人もいるし、生きていても、満足に生きられる体ではなくなっていた、何よりも恐怖感に支配されてこの国から出ていくことが多かった。もちろん、美女の扉を開けたらそのまま結婚をして、幸せに暮らしているケースもあった。

「それって、かなり不平等じゃない。悪いことをして、美人と結婚できるなんて。女性は、イケメンと結婚できないんでしょ」

 「昔の女性は、自分で選ぶことができないのは、どこの国でも同じ」

 さてここで、本題に入るよ。この王様に一人娘がいた。母親はすでに亡くなっており、この娘を大切に育てていた。とはいえ、この王女も年頃になり、恋をすることになる。それも、身分不相応な家臣の息子に。最初は、この若者も相手が王女なのでおののいて、相手にしなかったけれど、王女が本気なのが分かると、やはり男としてそこまで好かれると悪い気はしない。権力を持っているだけでなく、この王女も十分魅力的だったんだろうね。王様のことをわかっているわけだから命がけの恋になったんだろう。もしかしたら、大切にしている王女の彼氏だったら殺さないだろうという甘い考えもあったかもしれない。はじめは、こっそり付き合っていた感じだったが、だんだん大胆になっていき、それにともなってみんなの口にあがることになり、すぐに王様に知られてしまった。

 表面上王は、感情的にならなかった。それでも、最終的には、この二つの扉を若者に選ばせる裁きをした。当然王女は抗議したが、王様は、それを受け付けなかった。なによりも身分差のある恋は、どの世界でもご法度だから。

 「それで若者は、どっちの扉を開いたの」

 「それがこの物語が語り継がれてきた理由になるけれど、実は、結論が書かれていないんだよ」

 「どういうこと」

「この話は、19世紀に書かれた有名なリドルストーリーと呼ばれるものなんだ。作者のストックトンという人は、結局この話に結論を書かないままで終わらせてしまった。でもよくできていると思わないか。はるかだったらどんな結論が導き出される」

「当然、私は、トラの扉を差すわ」

「なんで」

「だって、自分の好きな人が、自分以外の人と結婚するのは許せない。それだったら、トラの扉を開けさせて、私が看病するか、一緒にトラに襲われて死ぬわ」

「おとなしそうな顔をしているけど、怖いな。そうか、殺されるほうを選ぶか」

「または、美女を差して、私だけ死ぬ。絶対無理、考えるだけでいや」

「でも、受け手にとっていろいろな結論が考えられるお話って面白いと思わないかい」

「確かに面白いけれど、なんか、男の身勝手に女性が振り回される話になりそうね。だって、王女には、どちらにしても救いがないじゃない」

「そこで、今回は、4つの結論と、二つの可能性を組み合わせてもらおうかと思ったわけよ」

「4つの結論て、まず、美女を選んで、その人と結婚する。トラを選んで、殺される以外にあるの」

「この王女のことを話していなかったね。この王女の立ち位置から、どちらの部屋にトラが入っているのか分かる仕組みになっているんだ。もちろん、王様はわざとそういう仕組みにしたのだけれど。」

「なぜそんなことを、したの」

「最後の判断を王女にさせるためさ。もちろん声に出すことはできないし、聞こえない距離にいる。若者にどう伝えるか、若者はわかってくれるのか二人の様子をみんなが注目している。その中で、二人がどういう行動をとるのかが注目されることだよ」

「簡単じゃない。あっさりと美女がいる扉を差せば若者は助かるのだから」

「ちょっとまって、今はるかは、おもいきりトラっていったじゃないか。ましてやプライドの高い王女は、そのまま素直に、美女の扉を差すと思うかい。そして、ないよりもそんな王女の性格を知っている若者は、王女がさした扉を素直に開けられると思うかい」

「じゃ、ジンさんは、私がさした扉を開けないの」

「そうにらむなよ。僕は、どっちであれ、はるかさんがさした扉を開けるから」

「なにその含みのある言い方。私を疑っているの」

「君がこんなに激しい人だとは、思わなかった。そういう意味では、この話を語ってよかった。女はやはり怖い」

「いいから続けて」はるかは、怒ったように促した。

 つまり、王女が美女を差した場合、それを信じてさした扉を選ぶか、疑ってトラの扉を開けるか。その逆に、王女がトラを差してそれを信じた若者がトラの扉を選ぶか、疑って美女の扉を選ぶか四通りの結論が考えられる。あとは、これに、ハッピーエンドとアンハッピーエンドの結論で仕上げるかどうか。はるかさんに選んでもらおうと思う。

 「面白そうね。それじゃ、四つの結論をすべてハッピーエンドにしてほしい。ここで語るのは、やはり、ハッピーエンドにしたい。アンハッピーは、いくらでも作れるから。私でも考えられそうな結論は、面白くないし、あまり聞きたいと思わない。こう見えても、ホラーは嫌い。」

 「さんざんトラだって騒いだ人がいまさら言ってもな。まあ、ご期待にそれる結論かどうかわからないけれど、ひとつずつ結論を語っていこうか。」

 風が暖かくなり、木々たちもざわざわ騒ぎ始めていた。二人を包む風はあくまでも暖かかった。

 


 単純な話になればなるほど、ひとつの結論で終わらせるのが難しい。こういう結論もあると湧き出てくる。一つの納得する結論に向かうために様々な伏線と一つの場所に向かう道筋を作る必要がある。これもありの半面、これだけしかない物語も書いてみたい。

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