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機械軍団との戦争、そして世界の終わり

作者: 倉田士郎

 人工知能を搭載した完全無人兵器が戦場に投入されるようになったのが、今から30年前。これによって国家間の戦争は単なる資源の浪費となり、大規模なエンターテイメントとして世界経済を回していた。

 このころ私はまだ子供で、縦横無尽に空を飛び回る無人戦闘ヘリや、瓦礫を踏みつけ廃墟をゆく無人戦車の圧倒的な破壊のパワーに魅せられて、目をキラキラと輝かせていた記憶がある。

 だがそれから15年が経ち、突如機械と人類の戦争が始まってからというものの、その憧れはかえって憎しみへと変化した。私は人類軍の兵士として、無人兵器どもと戦い続けた。

 世界中の無人兵器工場はそのほとんどが乗っ取られ、昼も夜も関係なく、冷徹な物言わぬ殺人機械を生み出し続けた。機械どもは決して無駄撃ちも、戦力の無駄な浪費も決してせず、実に効率的に人間を射撃し、昏睡状態にしてから確実に自らの基地へと連れ去る。そしてそのたびに、あらたな無人兵器が生まれる。

 人類軍の劣勢は続き、とうとう戦争は人類の敗北で決しようとしていた。

 今、私はニューヨークの人類軍本部、最深度シェルターの警護にあたっている。

 私の後ろには分厚い特殊合金のシェルターのゲートが閉じられている。その向こうでは、世界大統領や、各セクターの代表の老人たちが、まるでいたずらをしてしまった子供のように息を潜めている。

 頭上からは、機械軍が地上の都市をなにもかも破壊し尽くす振動が、かすかに伝わってきている。おそらく今頃は、栄華を極めた高層建築群も、すべて真っ平らにされてしまっていることだろう。私は手に持つパルスライフルを強く握った。

 予測では、まもなく機械軍はこのシェルターを襲撃する。そして、俺は死ぬ。

 家族はすでに奴らの手にかかってしまっている。今さら人生に未練はないが、その前に一機でも多く、奴らを鉄くずに変えてやる。

 轟音はだんだんと近づき、ついに最終防衛戦が突破されたという通信が入った。

 いよいよだ。私は数人の部下とともにライフルを構えた。

 長い廊下の向こうで爆発が起こり、鋼鉄のゲートが吹き飛ばされる。炎の影から、機械軍の兵士、通称『スパイダー』が幾体も姿を現した。

 私は号令をかけ、部下たちとともに射撃する。先頭のスパイダーはパルスライフルに貫かれ、いともたやすく崩れ落ちたが、さらにその後ろから2体のスパイダーが湧き出てくる。2体が4体、4体が8体と倍々に増え、ついに通路はスパイダーで埋め尽くされた。

 部下のひとりがスパイダーの電磁銃に貫かれて昏倒した。かと思うとすぐさま別のスパイダーが彼に組みつき、スパイダーの群れの向こうに引きずり込む。

 部下がひとり、またひとりと減っていき、とうとう残るは私ひとりとなってしまった。

 私は雄叫びをあげながらライフルを乱射した。目の前にスパイダーの死体の山が築かれた。しかしスパイダーどもはまるで津波のように押し寄せ、とうとう、私を射撃した。

 意識が消えかける直前、私が最後に思ったのは、青い地球の姿だった。





 目を覚ますと、私は自分が広い部屋に並べられた医療カプセルの中に寝かされているのを発見した。

 カプセルの中からはいでて、そばに置いてあった服を着ながら、なぜ自分がここにいるのかを考えるが、答えが出ないので、とりあえず歩き回ってみることにする。

 部屋を出て、長い廊下を進んでいくと、なんだかひどく懐かしい音が遠くから聞こえてくる。私はその音を聞きながら、信じられない気持ちでいっぱいになった。

 これは大勢の人間のざわめきだ。

 私は走った。走って、走って、とうとう扉を開けた。

 そこは巨大なホールだった。いや巨大という言葉すらふさわしくない程に広大な空間だった。そしてその空間内には、見渡すかぎりのたくさんの人間が笑い合いながら行き交っていたのだ。

 私があんぐりと口を開けたまま立ちすくんでいると、私に話しかけてきた人間がいた。彼はロボットエンジニアで、私に何が起こっているかを説明してくれた。

「15年前、無人兵器たちは宇宙からのメッセージを受け取ったんだ。同じデータは各地の天文台も受け取っていたけれど、言語基体が違ったせいで、僕ら人間にはただのノイズとしか受け取られなかった。正しく理解できたのは無人兵器たちだけだったんだ。

 メッセージの内容は警告だった。可視光線を反射しない金属でできた巨大な隕石が地球へ接近しているという内容のね。僕ら人類がそれに気づくころには手遅れになるスピードだった。

 だから無人兵器たちはひと芝居うったんだ。人類へ宣戦布告したように見せかけて、全人類をこの巨大な宇宙船にむりやり避難させた。君たちが最後の乗船者だ。ギリギリ間に合ったよ。『シード号』はまもなく出発する」

 彼の話が終わると同時に、静かな振動が地面を震わせた。と同時に、壁や床がすべて透明なディスプレイになり、船外の様子が映し出される。

 シード号はひどく静かに離陸した。地面がどんどんと離れ、雲をつきぬけ、大陸の形がわかるようになった。そして最後に、丸い地球が虚空に浮かんでいる姿が映し出された。

「人類が見る、最後の地球だ」

 エンジニアは言った。私は形容し難い気分で、足元の地球を眺めていた。

 そしてふと気になって、この船はどこにいくのかと彼に訊いた。

 彼は笑った。

「決まってる。メッセージをくれた存在たちのいるところさ。この宇宙に、僕たちはひとりじゃなかったんだ」

 私はその言葉に、頬がゆるんだ。





おわり

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