LEADY SETS
〜第六話〜
-LEADY、SETS……-
皆さんは魔法を信じたことはあるだろうか?勿論、現実世界でそんな二次元の延長線上のような言葉を信じるのは子供とか、夢見る科学者や夢を見すぎた中二病患者ぐらいしかいないのは事実である。しかし、魔法というのはいつだって目に見えるというわけではない。かといって『ちちんぷいぷい痛いの痛いの飛んでけー!』なんて言ったところで効果もないし、ましてやその言葉を言った人自身が痛いだけなのでこれは魔法ではないだろう。
魔法と言っても種類がある、炎、氷、雷、呪い、服を破く、裸にする、触手、興奮作用、と様々だが今はそんな攻撃や18禁要素のある性描写にしか使われない、少年や青年漫画に描かれているような典型的な魔法はここでは忘れて貰いたい。ではどのような魔法かと言ったら、ずばり『恋の魔法』である。まぁ何ともメルヘンチックだと思う人もいるかも知れないがこれはそんなメルヘンチックな魔法ではない。謂わば『恋の呪縛』と言う名の恐ろしい魔法なのである。この恋の呪縛について今から俺が説明していこうと思う。
前にも述べた通り、『好き』という言葉は、言うなれば魔法でいうバリアの部類に属すと思う。さりげなく、他人にその言葉を言っておけば意中の人を取られないで済む。人間の仲間意識と心理を利用したなんとも身近で怖いバリアである。しかもこの言葉を放つだけで張れる最も保守的で、最も強いバリアであるのだから尚更怖い。味方につければ心強く、敵にすると恐ろしい、天使でもあり、悪魔でもある、文字通り魔法の言葉なのである。
結論、この世の中で一番強いバリアは『好き』と言う言葉である。
ここまで考えて、ふと隣でソファーに寝転びながらダイエットの本と思われる雑誌を、ポテトチップスをダイエット雑誌のおかずとでも言わんばかりに貪りながら読んでいる妹に目がいった。
そういえば、今、目の前にいるこいつもそうだ。普段から俺に対して『好き』を連呼している。そんなに好きならそれ相応の行動をして欲しいものだ。こいつが俺に言ってきた1番多い言葉は『好き』と『一生のお願い』の同率一位であるくらい連呼している、つーかこいつどんだけ一生のお願い使ってんだよ、一生が何回あるんだよ。ところで俺がさっきから連呼している一人称、『こいつ』とはつまり、離島 葵(りとう あおい)、俺の妹である。兄妹とは不思議なもので、妹が周りからどれだけ好意を持たれようが、俺は妹を好きと思った事はない。しかし、逆は違うらしく、俺が女子からどんだけ好意を持たれなかろうが妹は俺が好きらしい。まぁこの場合の好きとは異性としてとは限らないが…、というより遺伝子がほとんど一緒なら何故俺はモテないのだろうか?何とも感慨深いがそれについては後々考えていくことにしよう。
そんなことを考えている間に葵が俺の視線に気づいたらしく、そそくさと俺の方に身体を向けると『そぉうだ、キヤンプに行く為の材料を買おうよ!!!』とポテトチップスを口に加えたまま言い出した。なので俺は葵に、何処に、何を買いに行くのか具体的に言って見ろと問いただしてみた、葵は暫し考えたのちにポツリと『木材?』と言い放った。木材?ってキャンプは日曜大工の延長線じゃねーし…言い忘れたが葵は陸上部の短距離専門で部活内でも男子と同じかそれ以上に足が速い、それと同時に日常的な行動もすごい速いのだ、悪く言えば単純、どうやら夏に毒されてしまったらしい。例えば、遠足へ行こうと言えばライオンに追いかけられる草食動物の如く、飛ぶようにオヤツを買いにいくし、はたまた旅行に行くと聞けば究極の選択を迫られたような表情で、持っていく服を選ぶ。別に良いことだとは思うが、この速さには困る。前には学校が台風で休校になると聞いた瞬間、大雨の中『休みだぁー!』といいながら外へ駆けていき、結局学校は通常通りあり、雨の中、俺がビショビショになりながら探しに行ったのである。結局すれ違いに終わったし…俺にとってはいい迷惑でしかないのだが、夏といい葵といい何故、俺の周りには普通のお淑やかな女性がいないのだろうと心底、神様を恨む俺であった…何度も言うが、俺は静かに、平和に過ごしたいのに…
今日もまた五月蝿い一日になりそうだった。