第二話
〜第二話〜
-変化と日常、男と女-
思えば最近、夏とは会っていなかったような気がする。小学校を卒業してからは、お互い違う中学校に通っていたし、高校一年生の今となってはそもそも会う理由がないのである。まぁ幼馴染としてはよくある結果なのかもしれない。俺の場合は幼馴染と言っても、言ってみれば子供と子供の親同士が仲が良かっただけで、子供に至ってはそれほど仲もよくなかった。まぁそんな話はよくあるんじゃないだろうか。夏に会う時は、大抵夏の方から前触れなく我が家に駆け込んでくるので俺から夏の家に行くということはまずない。というより正直俺は夏の家の場所をよく覚えてない。いやそもそも俺は夏の家にすら行ったことがないのかもしれない。俺は1人でのんびりと無駄な時間をダラダラと過ごすのが好きだからわざわざ夏の家へ行く理由がない。つまりどういう事かと言うと、夏が我が家に来ない限り、俺と夏が会うことはまずないのだ。しかもあっちもあっちで色々忙しいのだと思う。小学生で、まだ恋愛に疎い俺でさえ、『こいつはモテるんだろうな』と思うぐらいだ。まぁ外見だけの話で長年付き合わされている俺としては魅力の魅の字も感じられないわけなのだが。まぁあの性格と顔立ち上、さぞかし友達も沢山居て青春してることだろう。リア充は妬ましい…まぁなりたくはないけどね。年中忙しいとか苦痛すぎる。何処の刑務所の極刑だよ、そんなのが毎日続いたら死にたくなるわ。俺は少々の部活と申し訳程度の勉強、たまの休日に遊ぶだけで手一杯だ。適度に運動しているだけで十分。それ以外運動なんて死んでもしたくない。話を戻すと、今、目の前に居るこいつは何故かいつも纏っているオーラというか何というか、まぁ単純に言うと昔から変わらない幼稚園児顔負けの元気がない。いつもなら二階でのんびり惰眠を貪っている俺にもハッキリと聴こえる、近所迷惑の域を超えた声で『おじゃましまーす!』と言いながら入ってくるのに…、まぁそれも昔の話だから、今は性格も丸くなって大人しくなっているのかも知れない。幼馴染の俺にしかできない俺なりの審査をしてみよう。何か分かるかも知れない。顔色、異常無し。足取り、異常無し。スタイル、異常なし。胸、やばいくらい成長した。うん特に外見に(胸を除いて)変わったところはない。ではどうしたものだろうと変に静まりかえった玄関で話すタイミングを見計らう。すると今まで固く閉ざされていた夏の口がプルプルと震えているのが目に入った。『遅い!!!!!』それと同時に夏が急に怒鳴った。多分俺の聞いたあらゆる音の中で一番大きな声だった、そしてこれからもこの記録が越されることはないだろう。冗談抜きで鼓膜が破れる寸前だった。寧ろ破れなかったのが不思議なくらいだ。おいおいお隣さん窓から恨めしそうにこっちを睨んでるよ、勘弁してくださいよ…俺は悪くないのに…しかしまぁ成る程、こいつは玄関の扉を開けるのが遅かったのが気に食わなかったのか。何とも器の小さい女だ。と窓越しのお隣さんの不満そうな顔に、作った笑顔でペコペコと応対した。『すまんすまん寝てた笑』と、とりあえずご機嫌伺いで軽く言ってみる。『そんな言い訳あるか!!!』とまた小さく怒鳴られた。いや、この言い訳は定番中の定番でしょ?ベタな言い訳ランキングでも上位に入るぐらいな言い訳でしょ?なんて思いながらも俺は夏の慰めに精を尽くす。夏の暑さと耳の痛さがジリジリと身を焼いていた。