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三題噺 お題「少女・レモン・薔薇園」

作者: 鳴森 舞

最近文学少女を読みました。


遠子先輩風に言うと、甘いお話に出来たと思います。


楽しんでくれると本望です。


 昔、お母さんに聞いた話。お父さんとの出会いの場所。近くて遠いその場所は、一人でないとたどり着けない。

 少女は、幼いころの記憶を辿って歩いていた。家を出て、まっすぐ歩く。ただそれだけの道のり。植物が覆ったアーチ状の道は、右も左も蔦が伸びていて、植物の向こう側は見通せない。

 少女の記憶では、その場所へたどり着くための条件がある。まずは、一人であること。次に、大人ではないこと。最後のひとつは、お母さんもわからないという。

 どうしても記憶が曖昧だが、少女は純粋にお母さんとお父さんの思い出の場所を見てみたいと思った。大好きな二人の出会いの場所は、どうしても連れて行ってはもらえない。それならば、と一人で家を出てきてしまった。

 本当は隣の家の幼馴染と行きたかったが、一人でという条件を守らなければいけないから黙っていた。

 持ってきた荷物は、肩から斜めにかけた小さなバッグに水筒と、果物を二つ入れただけのもの。お母さんは朝に家を出て、お昼には着いたと言っていた。少女も、心配をしながらも、すぐにたどり着けると思っていた。

 着けないかもしれないと気づいたのは、日が傾き、空が朱色に染まり始めてからだった。

 もう、水筒の中身も飲み干してしまい、足も棒のようになっている。アーチを背に座り込むと、突然涙が込み上げてきた。

 昔聞いた話を元に歩いてきたが、無茶だったのかもしれない、と少女は思い始めていた。しかし、ここまで来て引き返すのもなんだかいやで、その場にうずくまることしかできなかった。



 お腹の鳴る音で目が覚めた。いつの間にか眠っていたのだ。少女の周りはアーチを覆った植物の合間から溢れる月明かりで照らされ、明るかった。空腹を満たそうと、バッグの中から果物を包んだ布を取り出した。

 家を出る前に玄関のカゴに入っていた果物を掴んで、確認もせずに布でくるみ持ってきていた。少女はたっぷり五秒静止して布の中身を見つめる。レモンだった。

 かぶりつくことができなくても、なにかはお腹に入れたい。それでも、見ているだけで唾ばかりが出てきて、なかなか口にする勇気は湧いてこない。

 仕方なく皮を剥き、我慢してかぶりつく。

 レモンは驚くほど甘かった。驚きながらも空腹は抑えきれず、二つ目も平らげた。

 レモンを食べ終えると、再び眠気に襲われ、静かに意識を手放した。



 お母さんの夢を見た。なにかを忘れている気がする。

頬を叩かれていることに気づき、まぶたを持ち上げる。少女の顔を覗き込んでいたのは幼馴染だった。彼に体を支えられ身を起こす。

 なぜ彼がここにいるのかを聞くと、昨日の夕方から両親が探しており、この道に入れるのは彼だけだから、と探しに来たと言う。しかし、この道に入ってから一時間弱で少女を見つけたと言ったことに驚きを禁じ得なかった。彼女はほぼ一日かけてここまで来たのに、一時間で追いついてしまったというのだから仕方がないだろう。

 少年は少女を立たせると、帰るぞとぶっきらぼうに言って腕を引いて歩き出した。

 歩きながらどうして一人で家を出たのかと聞かれ、少女はお母さんの昔話からこれまでのことを話した。

 二人の出会いの場所。

 お母さんは半日で行けたのに、自分はたどり着けなかったこと。

 そして、レモンのこと。

 話し終えると少年は目を輝かせていた。一緒にその場所を探そうと言うのだ。

 一人じゃないと見つからないんだよと反論しても、やってみなくちゃ分からないと聞く耳を持たない。少女は諦めて少年に付いて行く。

 太陽が真上を過ぎた頃、もう帰ろうと言うと少年は頷いた。

 来た道を引き返している間、少年はポツポツと行ってみたかったとつぶやいていた。少女も、諦めてはいなかったがどうすることもできなかった。

 日が傾き始めた頃、道の先に光が見えた。道の終わり。家に帰ってきたのだと、二人は思った。

 そこで、ふと少女の記憶が蘇った。

 その記憶はお母さんの優しい声で、


 望むことが一番大切なことよ。そうすれば、なんでも叶うの。


 と言った。



 アーチの道を抜けると、そこは一面のバラの園だった。

 二人は気づいただろうか。そこが少女の両親の出会いの場所であると。


レモンも、同じく魔法の類なんでしょうね。


ちなみにファンタジックな世界観でした。

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