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M-099 奇襲は空から


 俺達の前に1人の若い女性が立っている。

 本当はロボットなんだけど、見た目は殆ど人間そのものだ。触ったり、じっと観察しなければ分らないだろう。それにそんな行為はエチケットに違反するからな。明人のところに連れて行ってもたぶん誰も分らないだろうな。

 

 「俺達が分るか?」

 「分ります。ユング様とフラウ様です。」


 ん? これって序列だよな。フラウを様付けしてるって事はその下に位置すると、思っているようだ。


 「人手が無くて困っている。今までも協力してもらったが、これまで以上に俺達を支援してくれ。とりあえずはフラウの指示に従って行動してくれればいい。」


 頷いたから了解してくれたんだろう。

 さて名前をどうするかだ…。金髪碧眼の20歳過ぎの体形をしたロボットは、俺達と同じコンバットスーツを着ている。俺達よりもスタイルが良いってのが問題のような気もするな。それでも体重は120kgもあるからこいつとデートしたりすると押し潰されそうだな。

 武装はないが、力は2人分くらいあるとフラウが教えてくれた。

 稼動時間は改造して50時間程に延ばしたような事を言っていたな。


 「貴方を、『ラミィ』と名付けます。既存の体と異なる形態に変更しましたから、これから2時間程訓練を行います。付いてきなさい。」


 そう言って、俺達のいる調整室を出て行った。

 2人で何をするんだか見てみたい気もあるが、ここはフラウに任せておこう。

 俺は司令室に向かって歩き出した。


 司令室の大型ディスプレイには敵の状況が映し出されている。

 軍団の集結作業は佳境に入ったみたいだな。

 概略10万の軍勢が2つ南に出来たようだ。その軍団に小さな集団が動いているのが分るが、たぶん食料等を運搬しているのだろう。

 そして、軍団の後方100kmぐらいの場所に南からの軍勢が集結しつつある。

 問題は集結を終えた2つの軍団が何時いどうを開始するかだ。距離は300km程にあるから10日も掛からないでエリア90にやって来る。


 そして、俺達の兵力だが、前の戦闘時より少し上昇した位だ。

 騎兵隊を1中隊解凍すべく努力しているが、現在のところ動けるケンタウロスの数は100騎ってとこだな。後1週間もあれば中隊が揃えられるだろう。

 少し嬉しいのは、車両保管区域の東側にある天井の崩れた区域から、十数台の輸送車両をモスボール状態で掘り出せた事だ。

 搭載されていたのは偵察用装甲車、軽戦車それに自走砲の弾薬だ。少なくとも3回は全弾を搭載できそうだが、105mm自走砲の弾丸だから広域殲滅には余り期待が持てないな。

 騎兵隊の支援花器である120mm自走曲射砲16台は間に合いそうもない。

 本来なら、これだけ集結している場所に広域殲滅兵器を投入したいところだが、まだ解凍すらすんでいない。クラスター弾を装備した多連装ロケットを早く解凍したいものだ。


 色々と視点や視覚モードを変えて眺めていた時だ。

 小さな部隊が大きく西に迂回しながらこちらに近付いている事に気が付いた。

 科学衛星の最大望遠で捉えたものは、10体の悪魔が3つの部隊に分かれて移動している姿だった。

 通常はゴリラ兵を連れているのだが…、この部隊は悪魔のみで構成されている。そして移動速度は1時間に10kmを超えているぞ。この速度で動いていればこの施設に明日にはやってくる。

 だが、たった30体で何をするのだろうか?

 確かに、奴らの放つ火炎弾は脅威だが…。ひょっとして、それ以外の魔法を使うというのか?

 明人達の仲間が使う魔法といったら、小さな火炎弾を放つ【メル】と爆発して広範囲の敵を焼く【メルト】更に上級の【メルダム】があったな。

火炎弾の大きさが比べ物にならない程大きいとなると【メルダム】は殲滅兵器級の威力になるぞ。だが、そうだとすると、放った悪魔とて無事では済まない。まさか、特攻する気なのか?


 その時、突然に奴らの意図が閃いた。

 航空攻撃をやるつもりだ! 今までたいして規にも止めなかったが、奴らの背中には羽根がある。まぁ、悪魔だからねぇ…とその時はアクセサリー的に考えていたのだが、やはり理由があった訳だ。威力の大きな魔法を放つには上空から放つのが一番だ。その為に短時間の飛行が可能なのだろう。今移動している奴等が止った、それが彼等が往復の飛行を可能とする距離に違いない。


 となれば、迎撃用の対空車両が何台あるかだな。

 再度、兵力の一覧表を確認する。前回から2両しか増えていないぞ。6両でこれを防げるのか?


 「どうしました?」

 

 何時の間にか司令室に帰ってきた2人が俺の様子に気が付いて聞いてきた。


 「あぁ、これだ。こいつ等が気に入らん。色々考えてみたんだが、此処を航空攻撃してくる可能性が高い。」

 「彼等は航空機を持っていませんよ。マスターの考えすぎでは?」


 「いや…いいか。こいつ等がやって来る。そしてこいつ等には羽がある。攻撃手段は魔法だが、火炎弾でさえあの威力だ。確か同じ系統の上位魔法に【メルダム】があったよな。あれを使う為に、上空から攻撃してくる。」

 

 以前遭遇した悪魔の画像をディスプレイに表示しながら説明した。

 直に、フラウは端末を操作して別の画像を映し出す。さっき俺が見ていた悪魔達の高高度から撮影した映像だ。

 そして、俺の前の画像と比較を始めた。何か違いでもあるのかな?

 

 「確かにあの時見たものと同じです。こちらの方が羽が2割程大きくなっています。確かに航空攻撃を意図している可能性が考えられます。そして、その攻撃がマスターの危惧している【メルダム】であったなら…、地上に設置したアンテナは破壊されます。中継車両は地下に移動すれば問題ないはずです。」

 「対空車両で食い止める事は困難か?」

 「師団の対空車両は敵の数を減らすのを目的としています。殲滅は無理でしょう。」


 固定式のアンテナがやられるのは痛いが、通信車両のアンテナで代替することは出来るだろう。とはいえ、長距離の部隊間の通信が出来なくなるな。

 しかし、そいつらを殲滅出来ないとなると、ちょっと面倒だぞ。

 

 「だが、厄介な事は確かだ。出来れば再度来襲しないように殲滅したいんだけどね。」

 「騎兵隊を使いますか? 彼等の暗視カメラとサーマルセンサを使えば、低空を低速で侵入してくる敵は叩けますが…。」


 それも、手ではある。しかし、持っている武器が重機関銃で、バーストモードで撃っても5発ずつなら余り成果はないだろうな。成果より被害が多そうな感じもしないではない。

 

 「いや、対空車両だけで行こう。車間距離を取って、被害を少なくするように配置してくれ。奴等との戦は長くなりそうだ。被害を少なくする方向でしばらくは対応しないとな。」

 「了解です。それではこのように車両を配置します。科学衛星とのリンクはもう1台の通信車両を離れた場所に配置しておきます。アンテナが破壊された場合、目標点を守る次元断層の調査結果を伝達する手段が絶たれてしまいますが、簡易中継車を考えてみます。」


 フラウはアンテナを守るのは断念したか…。アンテナタワーの周辺1kmに円形に対空車両を配置してる。

 昆虫型の偵察ロボットの出力信号は僅かだ。ロボットを運搬する飛行体が周囲に擬態して信号伝送をするらしい。その信号を捕らえるのだから大型のパラボラが必要だよな。

 それが破壊された場合は、代替品が無いから近くまで伝送用の車両を派遣する事になる。

 簡易中継車と言っても、敵の攻撃を受ける可能性があるから、装甲車両の一部を転用する事になるだろう。何をどうやって改造するんだか…、楽しみだな。


 「現状での脅威は、この部隊だけだと推察します。施設の後方10kmに騎兵隊を1小隊配備しておきますから、万が一地上戦になった場合でもこの施設の安全は確保できるでしょう。

 この、ディスプレイで状況を見ながら指示していただければ対応できます。対空車両は時計周りに1番から8番。騎兵隊は第1騎兵隊になります。」

 

 ん? 俺が指揮を執るのか。フラウがやるんじゃないのか?


 「私は、ラミィと騎兵を1台連れて再度海軍基地に向かいます。今後を考えると、早めに弾薬を確保しなければなりません。」

 

 確かにその通りだが…。大型ディスプレイの敵軍を見ると、南の方は真っ赤だな。

 そのまま北上すれば海軍基地にも到達する事は明らかだ。運べる内とは正にこの事だな。


 「分った。だが気を付けて行けよ。それと、使えそうな武器があれば優先的に確保してくれ。」

 

 「了解です。」と俺に告げて2人は司令室を出て行く。

 今夜はここでじっと待つしかないか…。だが、ここはタバコが吸えないからな。退屈だぞ。

                ・

                ◇

                ・


 西に飛び立つホークを見送りながら、斜路の傍らでタバコを楽しむ。

 まだ、日が暮れたばかりだから辺りの風景が通常の視覚でも良く見える。

 南西方向20kmで移動してきた悪魔達は停止した。夜間攻撃の時を待っているのだろう。

 果たして、何時来るのか…。

 奇襲ってことになるんだから、夜明け直前がセオリーではあるのだが、暗くなってからなら何時だっていいような気もしないではない。

 闇に紛れて移動するんだから、少なくとも後1時間はのんびり出来るだろうけどね。


 一服を終えると、斜路から300m程南に焚火を作る。

 彼等のサンプルを見た限りでは通常の人の目を持っている。夜目がそれ程利くとは思えないから、こんなダミーでも引っ掛かってくれるなら被害がそれだけ減らせられる。

 アンテナタワーに隣接した中継車は一旦接続を絶って、北に移動している。俺も、そろそろ指令室に戻る事にしよう。


 大型ディスプレイには、依然として時を待っている彼等の姿が暗視モードで映し出されていた。

 動かなければそれでもいい。のんびりとこれからの事を考えられる。

 大型ディスプレイを眺めながら、ホークを使った攻撃方法をあれこれと考えていると、西南の部隊が動き出したようだ。赤い点滅で表示された部隊がゆっくりと近付いている。もっとも、このディスプレイでそう見えるだけであって、実際には人間の走る速さ位は出ている。

 点滅する部隊の直隣に施設からの距離が表示されているが、みるみるその数字が減っていく。


 確か、アンテナを中心に対空車両が展開してるんだったよな。

 ディスプレイをもうひとつ立ち上げて、周囲10kmを表示させる。そこに均等間隔で展開した対空車両が円陣を組んでいる。そして、北側に集結している騎兵隊も緑色で表示された。


 「全車両迎撃体制。セーフティを解除しろ!」

 

 棒状に伸びたマイクに向かって指示を与える。

 ディスプレイに、水素タービンエンジンの始動とセーフティ解除のアンサーバック信号が表示された。

 

 敵の動きが急激に速度を上げた。横一列に並んで3段でこちらに近付いてくる。


 敵の隣の表示が1つ増えて、高度を示している。その数値がだんだんと上がって、210mで停止した。

 対空車両の迎撃距離は約1.5km。…もう直だな。


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