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M-098 見付けたものは



 「ラミアタイプと違い、人間と同じ部屋で作業をする事務に特化したロボットと推察します。」

 「動かせるか?」


 ザブトン型VTOLを調べていたフラウを急遽呼んで、見つけたロボットを調べて貰っているのだが、あまりいい返事ではないな。


 「マスターはこのロボットを動かそうと思っているようですが、大きな問題があります。このロボット自体に電脳がありません。どうやらマスターとなる大型電脳の端末機器として機能していたみたいです。」

 「スレーブ型だというのか? だけど、勿体無いな。エリア90にいるラミアの電脳を使えないかな。修理にはあの体もいいんだろうけど、司令室にはちょっとね。」

 

 「可能性はあります。妙な付属装置を撤去してそこにラミアの電脳を入れればいいのでしょう。…ですが、ラミアはそれを望むのでしょうか?」


 ラミア01は元々精密調整を行う修理ロボットだ。俺達の作業を代替出来るようにフラウがAIを強化しているが、自我があるのかは疑わしい。

 とはいえ、今後の師団運用を考えると俺達2人だけでは不安があることも確かだ。ある程度状況判断が可能な存在は是非とも必要だと思うのだが…。


 「それは、後の問題だな。フラウは俺と一緒に行動する事を望んだか? たぶん、自分を自覚してからの意思だったんじゃないか? …AIを強化してやってくれ。それで、俺達との行動を望まなければ、元に戻す事も出来るんじゃないかな。」


 最初から望んで生まれる者などいない。

 生まれてから自らの一生を考えるのだ。俺達は生物ではないが、自我は持っている。故に自らを人と同格に位置付けている。決して人の上に立とうとは思わない。身体能力だけで、その者の価値が決まる等と、俺は慢心してはいない。

 論理的な行動を取る事が出来ない人間をフラウはどう思っているのかは分らないけど、極めて曖昧な事象を考察出来ることから、俺と似通った考えを持っているのかも知れない。

 とはいえ、フラウの命題は哲学的な思考でもある。

 そんな考えがすんなりと出てくるとはちょっと驚きだな。


 「動力は体内の積層型バッテリーで動くようです。この施設の大型電脳とのリンクは多重通信装置によって行われていますね。基本的な能力は殆ど人間のそれに同じです。」

 「動作時間はどれ位なんだ?」


 「連続稼動で30時間。太陽光で自己充電が可能です。この体をエリア90に運びそこで電脳の移植を行いますが、それで良いでしょうか?」

 「そうしてくれ。それで、あっちの座布団はどうなんだ?」

 

 俺は部屋の外にあるVTOLを指差した。

 フラウも俺と一緒に部屋の外へ視線を移す。


 「ナノマシンを使って修理中です。一部の制御回路の基板が劣化していました。ここに保管されていたのはその為だと思われます。」

 「修理期間は?」


 「約、60時間。燃料はイオンクラフトの水素精製装置のタンクを使えば500km程度なら飛行可能です。」

 「当初の滞在期間を変更する必要は無いな?」

 「ありません。修理と燃料補給は私が行います。マスターは引続き周辺の探索をお願いします。」


 そう言うと、座布団型のVTOLに向かって歩いて行った。

 まぁ、俺には無理だからな。任せっておこう。

 でも、フラウの言った言葉を良く考えて見ると、邪魔だからその辺で遊んでいて…とも取れるぞ。


 そんな事を考えながら、部屋を漁ってみるが特に何も見つからない。

 端末が机の上に載ってはいるのだが、生憎と何かで叩かれたように破壊されて、部品が四散している。

 後は、このシェルターの外を歩いてみるか。

 

 フラウが焼き切った穴から外に出て見ると、イオンクラフトが見えない。たぶん上空に退避させたんだろう。

 ガランとした周囲はちょっとした広場になっていた。

 咥えタバコで歩きだすと、ここが海に面した岸壁である事が分った。西側に一直線でだんがいのような段差があったのだ。一部は崩れているが正しくここは海軍基地だったんだな。

 頭の中で位置関係を確認する。

 この場所は基地の奥まった場所だ。そして小さな岸壁を持つということは、重要な積み荷を置いておく場所にならないか?

 基地で重要なのは、燃料、食料、それに弾薬だ。小型のVTOL機があったけど、シェルターの大きさには合っていない。更に大型の機体があったはずだ。それを使って接岸した軍艦や潜水艦に補給を行っていたのだろう。

 だとしたら…近くに倉庫がある筈だ。それは露出したものではなく、地下に隠されたものに違いない。


 急いで反対側の崖のような場所に近寄って、その壁面を入念に調べる。

 視覚をサーマルモードに変更すると、岸壁の熱の分布を少し下がって確認する。

 それ程変化が無いな…。現在の岸壁温度を中心に±1度の範囲で更に詳細に調べる。


 あった!

 ぼんやりとだが、3箇所に一辺が3m程の四画い映像が現れた。

 直に位置をマーキングして通常視野に戻した。

 その隠された扉の一つに近寄って良く観察するが、全く分らないぞ。ゴツゴツした岩肌に扉の隙間が巧妙に隠されているようだ。

 これは、ちょっと問題だな。下手に焼き切ろうとして内部の火薬が誘爆することも考えられる。

 とりあえず、隠された扉を見つけたということを連絡しておこう。


 その外に、めぼしいものはないようだ。

 まぁ、ちょっとした戦力の補充が出来たことを喜ぼう。

 小さな焚火を作って、お茶を飲みながらフラウの作業が終るのを待つ。

 草地でもないから小さな獣すら寄り付かない。

 風も、頭の上の方を通り過ぎるから静かなものだ。

                ・

                ◇

                ・


 座布団型のVTOLは、ホークと呼称されていたらしい。鷹って言う感じではないんだけどね。

 その操縦席は貨客室と一緒の区画だ。先端部が操縦席でその後ろが貨物や客を乗せられるようになっている。

 客の席は折り畳みのベンチシートだ。ただ座るだけなら20人は乗り込む事が出来るだろう。

 荷物は機体内部のスリングに固定出来るよう沢山の金具が付いている。

 後部は大きく開放されるみたいでその開口部は一辺が2mもある四角形だ。

 操縦席は2つで、同じようなコンソールとゲームのスティックみたいな操縦桿がひざ掛けの先に付いていた。


 「マスターが見つけたガンポッドとロケットランチャーは翼の下に設置しました。水素ボンベ1本を燃料系の配管に設けましたから約500kmは飛行が可能です。」

 「後はロボットの積み込みだが、あの偽装扉の奥にあるものは分ったのか?」


 「マスターの睨んだとおり弾薬庫に間違いありません。問題は中のガスです。この機体のシェルターのように窒素雰囲気なら問題ないのですが、どのような保存を行っていたかが不明ですから、可燃性ガスの流出が懸念されます。」

 「開けられないって事か?」

 「いいえ、小さな隙間を作って内部のガスを確認してから開口します。」

 

 そう言って俺を岸壁後の段差の下にまで連れて行く。

 まさかここからあの扉を狙撃するんじゃないだろうな?

 俺の心配をよそに、フラウは右手の手首から先だけを岸壁の広場に出した。


 「扉下部にレーザーで穴を開けます。最悪の場合に備えて下さい。」

 

 そう言って、俺の頭を下げて岸壁の擁壁に体を押し付ける。

 そして直に開放された。

 どうしたんだ?


 「偽装扉の片隅にレーザーで穴を開けました。もうしばらくお待ち下さい。」

 「誘爆するなら、とっくにドカンだと思うが…、まぁ、一服して待ってるよ。」


 岸壁の名残に背中を預けてのんびりとタバコを楽しむ。

 フラウはじっと手元を見ている。何も見えないが仮想ディスプレイの画像がそこにあるのだろう。そこに写されているのは、遥か上空に浮かんだイオンクラフトからの偽装扉の映像に違いない。

 

 「問題ないようです。接近して内部の確認を行いますのでここでお待ち下さい。」

 

 2本目のタバコを投げ捨てようとした時に、フラウはそう言って偽装扉に向かって歩き出した。

 岸壁の上に頭を出して様子を見守っていると、フラウが偽装扉の傍にうずくまって何やら始めたようだ。

 直に、体を起こすと数m後ろに下がりレーザーを照射し始めた。

 作業の安全を確認出来たようだな。

 シェルターの扉と同じように1m程の円形に扉を焼き切ると、おもむろに内部に蹴り飛ばして開口部を作る。

 俺の方に振り向いたので、急いでフラウの下に走って行った。


 「可燃性ガスの反応が有りませんでしたので扉を破壊しました。入ってみましょう。」

 

 ライトを片手に那珂に入ると、10m程先に鉄格子がある。


 「前のシェルターよりも窒素置換が高い状態でした。機材の酸化は全くありません。」

 「もし、弾薬があればそのまま使えるということか?」


 俺の問いに頷く事でフラウが答える。そして、鉄格子の扉部分の鍵をレーザーで破壊した。

 ギィィーっと軋んだ音を立てて開いた扉の通って中に歩いて行くと両側にコンテナが金属製の棚に整然と並んでいる。200個以上ありそうだ。


 近くのコンテナを開けてみると、入っていたのはガンポッド用のドラム弾装だった。25mm多銃身のチェーンガンだから、結構大きいな。俺でどうにか持てる位だ。

 別のコンテナを開けるとロケットランチャー用のロケット弾が10発入っている。


 「使えますね。ですが、一度にそれ程運べませんよ。」

 「何度でも来るさ。まだ2つも偽装倉庫があるんだ。爆弾位はあるかも知れないぞ。」


 偽装扉を内側からこじ開けて、倉庫内にあった台車を使ってコンテナをホークに積み込んで行く。

 2tの制約があるからそれ程積み込めない。コンテナ1個の重さは200kg前後。とりあえず8個を積み込んで、また取りに来よう。

 

 そんな日々が2日程続いたところで、俺達はエリア90に帰還する事にした。

 フラウが最後にした事は、ホークの敵味方識別用信号発信機の調整だった。うまく働かなくても、俺達が3個ずつ持っている装置で代替出来ると言っていたが、ちょっと心配ではある。


 レーザーで開けた開口部はそのままだが一応扉を閉めて、ホークに乗り込んで空に飛び立つ。

 上昇下降は反重力、水平移動は水素タービンエンジンによるものだ。噴出口を制御する事で左右にも移動出来るし、バックも出来る。

 少し車の運転に近いような気がするな。

 これなら、俺にも操縦出来そうだぞ。…とは言っても、実際に操縦するのはフラウだし、フラウは遠隔でイオンクラフトの操縦も行っている。 


 3時間程掛けてエリア90に到着すると、通信アンテナを中心に展開している4台の対空車両は沈黙を守ったままだ。

 斜路の近くにある大型のハッチが開くと、ホークは滑るように中に入っていった。



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