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M-097 VTOLを探そう


 荒地をギラギラした日差しが照りつけている。

 風は東から吹いているから、見渡す限りに広がるおびただしい死体の臭気は俺達には分らない。

 何時の間にか集まってきた死肉漁りの鳥獣も、あまりの多さにどこから手をつけていいのか分らないようだ。


 放射能除染用の車両が戻ってくる軽戦車を洗浄している。

 全面には血糊や内臓の一部が張り付いているから、余りゾッとしない姿だ。洗浄した水がたちまち茶色に染まって大地に染み込んでいく。


 そんな殺伐とした風景を一服しながら見ていたが、フラウに促がされて施設の中へとバギーで移動して行く。

 いつもの場所にバギーを止めると、地下建屋の司令室へと急いだ。

 そこには、ラミア01が一人で周辺状況を目蓋のない目でジッと見詰めていた。


 適当に腰を下ろすと、フラウが状況を説明してくれる。その説明にあわせてラミア01が大型ディスプレイの画像を次々と切替えていく。


 「敵の侵攻を食い止める事が出来ました。現在、3千程度のゴリラ兵が南に逃走中です。

 当方の被害を報告します。軽戦車56両中46両は再使用不可です。10両については修理して使う事が出来ます。

 偵察車両は2台が破壊されました。3台は修理可能です。自走砲16両は全て破壊されています。」

 「損失がでかいな。敵の侵攻予測は?」


 「早くて一月後かと思います。解凍作業を前回の指示で行った場合、騎兵隊1中隊に支援車両を1小隊分。軽戦車部隊1中隊それに自走砲部隊を2小隊が揃います。」

 「騎兵隊を優先だ。ケンタウロス型だから他の車両の解凍を手伝えるだろう。出来れば多連装ロケットを装備した車両が数台ほしい。」

 「了解しました。その方向で作業を始めます。」


 状況を写すディスプレイは北と東西方向を300km、南方を900kmの範囲で映し出している。

 次元断層の結界内部はうかがい知れないが、その西側を迂回するように続々と南から軍勢が押し寄せているように見えるな。

 戦闘前よりも、熱源の範囲と濃さが増しているようだ。

 これだけの軍勢を揃えられるククルカンの軍事力は脅威でしかない。明人達の為にも早めにつぶしておかないと、後々エライ目にあいそうだ。


 次の部隊との距離は200km以上離れている。1日の移動距離を30kmとするならば、1週間でこの地に現れそうだが、奴ら軍勢の集結中のようだ。

 それまでに何とかこちらも戦力を確保しなければならないが、弾薬庫が破壊していることから大型の火器が使用できないのが痛い。


 「後は、こちらの反攻計画だな。その為の偵察計画はどうなってる?」

 「現在、昆虫型偵察ロボットの調整中です。専用のラプターと呼ばれる小型ヘリはまだ解凍に至っていません。早くて2月は掛かります。マスターの指示した車両等の解凍が終わり次第機甲師団本隊である重戦車2大隊を解凍する計画でした。」

 

 重戦車2大隊か…。400両前後になる筈だ。それに支援の自走砲が各大隊に1中隊が付く。155mm砲だから、かなり強力だな。

 現状の敵の集結を考えればこれらを解凍するのも分るのだが…。

 それにしても、これだけの機甲師団をモスボール化しておきながら、支援航空機を用意しておかないとはどういう訳だ?

 対空車両が中隊規模で揃っている事からそれなりの脅威はある筈だ。だとしたら、カウンター攻撃をする上でも航空部隊は必要だろう。そして、対戦車ヘリや連絡用の多目的ヘリなら機甲師団に中隊規模でなくてはならないはずだ。


 「フラウ。この施設の電脳の記憶槽から周辺の航空師団の場所を調べてくれ。俺はこの師団の構成を再度調べる。」


 確かにこの師団にも航空部隊といえるものがあったようだ。但し、その場所は弾薬集積庫に隣接した区域…。諦めるしか無さそうだな。

 そして、フラウが探し出した航空師団の場所には火口が開いていた。

 どうせなら分散配置して欲しかったが、運用を考えれば集中しておいた方が良いからな。

 これで、俺達は地上戦を行う事しか方法がなくなってしまった。

 

 「マスターの考えは敵への攻撃を空から行うという考えですね?」

 「あぁ、そうだがやはり無理なようだな。」


 「これは使えませんか?」

 

 俺の見ていた小型のディスプレイに、変わった形の乗り物が映し出された。

 ザブトン?

 

 一見したそれはどう見てもザブトンにしか見えなかったが、3面図を見ると多目的VTOL(垂直離着陸機)だ。

 ひし形の形で飛行するらしいのだが、翼のように見える場所も胴体部分と同じ厚みを持っている。機内の高さは2mはあるだろうな。

 上昇下降は重力制御で、飛行は水素タービンエンジンを使うみたいだ。それなりに速度は出るみたいだ。

 積載重量は多目的だけあって、大きさの割には小さいが、それでも8tはある。

 人員と貨物輸送を目的としている割には航続距離が3千kmもあるし、速度も時速500kmは出るようだ。


 「こんな色物どこにあるんだ?」

 「西に300km行くと、干上がった軍港があります。その倉庫の目録にありました。」


 軍港か…上手くいけば砲弾も手に入るかも知れないな。

 だが、モスボール化されていれば使える可能性もあるが、剥きだしなら残骸でしかない。

 ん? 待てよ。モスボール化は旧式となった船舶を盛んにやっていたよな。

 だとすれば、軍艦がモスボール化されているかも知れないぞ。

 対潜ヘリコプターなら、装備もそれなりに使える筈だ。やはり、一度いってみる価値はあるかも知れない。


 「フラウ、俺達が1週間程ここを留守にしても解凍作業に支障はないか?」

 「解凍作業は修理ロボットが行っていますから支障はありません。」

 

 「なら、イオンクラフトを準備してくれ。その軍港に行ってみよう。」

 「直ちに準備します!」


 軍港にも修理ロボットがいると助かるんだが…。

 騎兵隊のケンタウロスは解凍は出来るが、その後の作業は困難だ。

 タロス6台では、作業がはかどらないよな。

                 ・

                 ◇

                 ・


 久しぶりに空を飛ぶ。

 背中に核爆弾が載っているのが気にはなるが、まぁ、安全装置は多段に掛けてあるらしいからいきなりドカン!はないだろう。

 時速150km程で進んでいるから、2時間程で付く筈だ。幾つかの低い尾根はロッキー山脈の名残なんだろうな。

 そんな空の旅をしていると、少し高い尾根を越えたときに太平洋が見えてきた。

 天気は良いから、真っ蒼な水平線が綺麗に見える。あの向こうでは明人達が苦労をしているようだ。覇王を目指す国王がいるらしい。そしてその軍勢は明人達の1王国と比べて20倍以上らしい。俺の方はもっと多いぞと言ってやりたかったが、近代兵器がない状態での20倍では俺だったら逃げ出すぞ。

 それでも、明人達には守るべき者達がいるんだろうな。

 まぁ、美月さんもいることだし、勝つ事は勝つだろうけどね。


 「マスター、見えてきました。」

 「どれだ? …あの残骸か?」


 予想通りの展開だな。

 海岸線の隆起によって軍港は船舶の残骸で一杯だ。

 モスボールされている艦は見当たらない。とりあえず、周囲を調査して早急に引き上げるとするか…。


 高度を下げて地上100m位から基地の様子を確認する。

 残骸は20m程の高さにまで赤錆た鉄骨を突き出していた。元はコンクリートで舗装されていたであろう地面も無数にひび割れて雑草が伸びている。

 海辺を終えて山側を廻っていた時だ。

 ぼろぼろのシャッターが山裾から顔を出している。


 「フラウ。あれを見てみよう」

 

 俺の指示でイオンクラフトはシャッターの手前に静かに降り立った。

 急いで、イオンクラフトの操縦席から飛び降りると、シャッターを調べる。

 横幅20m高さ5m程だ。飛行機でも入っているのかな?


 長剣を引抜くと峰でシャッターを叩いてみた。

 乾いた音がしてばらばらと表面の錆が落ちてくる。その錆が落ちた場所は、銀色の金属光沢があるぞ。

 

 「フラウ、ちょっと来い。宝箱を見つけたぞ!」


 やってきたフラウがシャッターを調べ始めた。俺は少し後ろに下がってタバコを咥えながら作業を見守る。


 「表面のシャッターは見せかけです。裏面にもう一枚の扉があり、どうやら密閉されているようですね。」

 「開けられるか?」

 「レーザーで焼き切るしかありません。やってみますか?」

 

 フラウは長剣を取りだして、シャッターをめちゃめちゃに叩き出した。

 ガンガン…とひとしきり騒がしい音が響いたが、それが終ると俺達の目の前に一枚の金属板が現れた。

 腐食の痕跡が殆どない。一部に茶色の部分があるけど、それは手前のシャッターからの貰い錆なのだろう。

 フラウが片腕を開いてレーザーの発射口をあらわして、足元近くの金属板に斜めに照射する。

 貫通したときに内部の機材を傷つけない為だろう。

 シューっとフラウが貫通させた内部から空気が噴出してくる。


 「窒素雰囲気です。内部の機材を再利用できる可能性があります。」

 「とりあえず中に入れるだけの穴を開けてくれ。」


 これは、ひょっとしたらとフラウの作業をじっと見守る。

 だんだんと空気の流出する音が小さくなってくる。内部の機器が急速に酸化するとは思えないけど、あまりいい気持ちではないな。


 2m程の円形にレーザーを使って金属壁を切断していたフラウが作業を中止すると、切断面を蹴り飛ばした。

 ゴン…と音がしてぽっかりと金属壁に穴が開く。

 俺達はバッグからライトを取りだして、その那珂に入っていった。

 

 そこは、体育館より少し大きな部屋だった。

 部屋の横幅は30m、奥行きは40mはあるんじゃないか。

 そして、部屋の中心部にあったのは、例のザブトン型の多目的機だ。だが少し小さい気がするぞ。


 「型番が電脳にあった物とは異なりますね。用途はより多目的になっています。そして最大積載量は2tです。」


 ん? 積載量なんて何で分るんだ。

 そう思って、フラウの視線の先を見ると、後部の大きな扉の処にマックスウエイト2tと書かれていた。

 

 「使えるかどうか調べてくれ。俺は奥を調べてみる。」

 

 フラウにそう伝えると、ライトを手に奥へと向かった。

 多目的VTOLなら、色々とオプションを揃えている筈だからな。


 奥には2つの扉がある。横にスライドするタイプだから俺の力で無理やりに開いてみると、そこにあったのはガンポッドとロケットランチャーだった。ガンポッドは多銃身だし、ランチャーは蜂の巣タイプの奴だ。対潜攻撃用なのかもしれない。

 それで、弾薬は? …やはり、ポッドとランチャーにあるのみだ。後のめぼしい物は、救難用の小型リフターに投下式の救命ボートだけだな。


 もうひとつの扉は普通のドアが付いている。

 扉は鍵が掛かっているみたいなので、思い切り蹴破った。

 ガシャンと扉が部屋の中に外れたところで、部屋の中をライトで照らす。


 ズサっと慌てて俺は後ろに下がった。

 そして、恐る恐るライトでもう一度室内を照らしてみた。

 部屋の隅で誰かが立っていると思ったのだが、それは人型のロボットのようだ。

 思わず死体だと思った位に人間に似せてある。

 近付いて良く見てみると、俺と同じような精巧な作りだ。もっとも、構造体はナノマシンではなく、樹脂系の外部骨格だな。それでも、触らない限りその硬さは分らない。見た感じでは質感が分らない程緻密な仕上がりだ。

 出来れば動いてほしいな。新たな仲間になりそうだ。

 


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