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M-096 殲滅と損害


 軽戦車が75mm砲弾を5秒間隔で発射する。一見ランダムに撃っているようだが、上空の偵察用イオンクラフトからの画像を解析してラミア01が効果的な目標点を指示しているのだろう。

 それでも、5分で全弾の発射が終了する。

 48両の軽戦車が放つ60発の砲弾は2,500発を越える。上空から見た敵軍は炸裂した砲弾の巻き上げる砂塵で一面が茶色に覆われているぞ。

 そんな中に、左右から軽戦車が突入して行く。

 機銃でゴリラ達を掃射しながら進んで行くのだろう。


 「機銃弾が無くなり次第、引き揚げて来ます。輸送車両に詰まれた機銃弾を補給すれば最終防衛戦に参加出来るでしょう。」

 「出来れば、解凍している軽戦車の砲弾を分配したいな。」

 「時間があれば、そうします。」


 上空からの画像はこちらに引き上げてくる軽戦車の群れが映し出されている。

 やはり、それ程戦闘を継続出来なかったようだ。

 問題は、残った敵の数だ。果たしてどの程度削ったのだろうか?


 戦場の光景が爆煙を吹き飛ばして、少しずつ見えてくる。

 小さな砲弾跡がクレーターのように至る所に見える。そしてその傍には累々と死体が横たわっていた。

 あれだと、半数は削ったんじゃないか?


 それでも、敵軍は集合を始めている。今度は3つに分かれずに一つの大きな軍隊としているようだ。


 「ラミア01からの、戦闘結果集計です。敵の残存兵力約34,000…。当初のシュミレーションの誤差範囲です。」

 「となると…。明日は此処に突入してくる事になるな。」


 「あの、大きな火炎弾が問題です。今度は防衛戦ですから車両の移動が少なくなります。大型砲弾を持つ車両はありませんが、偵察用装甲車の外部に取り付けてある対戦車ミサイルは早期に敵軍に向けて発射する必要はあるでしょう。」


 確かに1発でも受けたら誘爆しそうな感じだな。

 

 「それは、任せるよ。…で、敵は何時ごろ来そうなんだ?」

 「たぶん明日の昼前後。もっとも、夜間行軍をするのであれば夜明け前に奇襲も可能だと考えます。」


 早ければ十数時間って事だな。

 こっちの準備がどうなるかだ。たとえ数発でも戻ってくる軽戦車に搭載出来るなら、敵前衛にかなりの打撃を与えられる。

 

 南から砂塵を上げて軽戦車が帰ってくる。

 施設のスロープに繋がる扉が開き、軽戦車を次々と飲み込んでいった。

 タロス達はこれから忙しくなりそうだな。


 「軽戦車56両は、この戦で半数以上が大破すると思われます。距離3千で砲撃、その後距離500で機銃掃射。弾丸が尽きしだい、敵軍の蹂躙を始めます。」

 「まぁ、仕方がないって事だろうな。戦が終って残ったものは弾薬を分配して次に備えればいい。」


 とは言え、幾ら師団規模の車両があっても、補給がままならないからジリ貧だよな。

 機銃弾はたっぷりと補給車両に積まれていたが、肝心の砲弾が見当たらない。

 ひょっとして、見落としているのか?

 車両と補給用の砲弾を別に保管していたとも考えられるぞ。


 「フラウ、ラミアに頼んで施設内と施設周辺に弾薬庫がないか確認させてくれ。これだけ車両があって弾薬庫がないというのはあまりにも不自然だ。」

 「直に調査させます。でも、それでしたら何故補給車両が数台あったのでしょうか?」

 

 「たぶん、騎兵隊用なんじゃないかな。あいつらの装備は重機関銃に曲射砲だ。あの体形ではそれ程一度に装備出来ないからな。」


 バックパックのように背負った弾装には、重機関銃の弾丸が200発入っているし、手に持った重機関銃は一度に5発の発射速度だ。

 馬の胴体に20発のカートリッジに入った曲射砲がついている。背中にある砲口は普段閉じているが、発射時には開放されるみたいだ。投射角は砲口近くにある電磁偏向部で制御されると仕様には書かれていたが、最大飛距離が300mだからグレネードランチャーとみるべきだろう。


 「マスター。弾薬庫の確認が出来ました。施設の周辺に2箇所配置していたようです。現在は大きなクレーターが残っています。密閉が敗れて砲弾が腐食し、誘爆したものと推定します。」

 「残念だな。やはりここにあるだけか?」


 「ひとつ希望が…。施設の東が崩壊していますが、そこにモスボール化された輸送車群が配置されていたようです。何台かの輸送車に小口径の砲弾が積まれているようです。」

 「早速、掘り出すしかなさそうだな。タロスは使えるか?」


 「問題ありません。軽戦車残り1台の解凍を終了次第作業に入らせます。…マスターは、騎兵隊の解凍をお考えですか?」

 「あぁ、輸送車に乗っていた弾薬は本来彼等のためだろう。1中隊を解凍しておけば、ある程度敵の来襲に対して余裕が持てる。」


 本来ならば長距離砲やロケット弾を使って面で制圧したい。

 だが、車両搭載数のみであるならば、もう少し状況を見てからの方が良さそうだ。

                ・

                ◇

                ・


 「敵集団、前進を始めました。軍団の分裂は確認できません。推定到着時刻は午前4時頃になります。」

 「軽戦車の砲弾補給はなんとかなるか?」

 「何とか10発程度分配出来そうです。機銃弾は定数を搭載できます。」

 

 とは、言ってもその機銃弾は騎兵隊ようだ。これが最後の補給にしたいものだな。

 やはり、弾薬の確保が急務だな。場合によっては作らねばなるまい。しかし、大口径の砲弾を作るのは時間的に不可能だろう。


 フラウと2人で焚火を囲む。

 昔は、よくこんな感じで焚火を囲んでいたが、あの頃は狩りがおもしろかったな。

 ゆっくりと星空が動き、時間だけが過ぎて行く。


 キャタピラ音を立てて、軽戦車がスロープから地上に続々と現れてくる。施設の入口から200m程離れると水素タービンの唸りが聞こえてきた。

 数台ずつ纏まって、俺達の南方1km程の所に100m程の間隔を空けて、横2列に布陣して行く。

 俺達の前方500mには5台の装甲偵察車が並んでおり、施設への入口には4台の対空車両が移動を完了したようだ。

 ギィー…っと音を立てて、スロープの扉が閉まっていく。


 「敵前衛部隊との距離は5kmを切りました。相対距離3kmで軽戦車の砲撃が始まります。」

 

 作戦通りという訳だな。上空からのサーモグラフィックでは数km先が直径3km程の大きさで赤く彩られている。そして、少しずつこちらに近付いているのが分る。

 

 「バギーの運転は私がします。マスターは重機関銃の操作に専念して下さい。」

 「了解だ。出発は?」

 「軽戦車の突撃後を考えています。」


 装甲車の邪魔にならないようにってことだな。

 確かにバギーが前方を走っていたのでは敵を撃ちづらいだろう。

 

 「砲撃開始点まで後1km…。」

 

 100mピッチにフラウが機械的な声で告げる。

 …タバコを咥えながら南を凝視する。何時の間にか、俺達の前にあったディスプレイが消えている。後は見る必要もないってことだろうな。


 タバコを焚火に投げ入れて、再び南に視線を向けた時だ。

 南方に横一列に光が走る。

 数秒の間をおいて再び光が走り、10秒以下のランダムな間隔をあけて砲撃の光が継続する。

 ドロドロと遠雷のような音が聞こえてきた。

 砲撃が終了しても南から砲弾の炸裂音がしばらく聞こえてくる。


 1弾当たりの被害半径は精々15mの範囲だろう。その中にいるゴリラ兵の数は20人程度とすれば480×20人で約1万人…。まだ2万の戦力がこちらに向かってくることになるな。

 

 「ラミア01からの報告です。敵の残存兵力2万6千。500人程の部隊を後ろに残して全軍突撃してきます。」

 後は、軽戦車の弾幕と一斉突撃だな。やはり、撤退は考えていないようだ…。


 「軽戦車、機銃応戦距離まであと300…200…100…射撃開始しました。」

 

 流石に、3km離れていると銃撃音は聞こえないな。

 1分間に1200発を撃ち出す機銃だが、銃身冷却のために30発程度のバースト射撃を繰返す筈だ。それでも、全弾を撃ち尽くすまでに5分は掛からない。


 「機銃射撃終了。軽戦車突入します。」

 「どれ程、抜けてくる?」

 「数千の部隊が真っ直ぐ向かって来ます。後続もぞくぞくとやって来ます。」

 

 やはり、半数は向かってくるか…。後は機銃中心だが、車両の数は貧弱だからな。

 俺は重い腰を上げて、フラウの後に付いて行く。

 バギーのシートにフラウが座るのを見て、後ろの小さな荷台に乗る。荷台とは名ばかりの足を乗せられるだけのものだが、バギーのガードフレームのお蔭で体をある程度保持出来る。そしてフレーム上部に固定した重機関銃をここで操作する事が出来る。

 重機関銃には200発のドラム弾装が付属している。5連バースト射撃が出来るから40回撃てるってことだな。重機関銃のすぐ下には予備の弾装がぶら下がっていた。


 「対空車両の後部に位置します。」

 「了解だ。でないと蜂の巣だからな。」


 軽いモーター音をさせながら、バギーは少し後ろに下がる。施設の入口の真上に当たる場所だから丘の上に位置したような感じだ。

 突撃した軽戦車がゴリラ部隊の中を縦横無尽に蹂躙している様子が分る。そしてそれらの軽戦車に大きな火炎弾が次々と命中している。


 「敵先頭部隊との距離1000を切りました。偵察車両の攻撃が始まります。」


 最初の攻撃は、砲塔の両側に装備された対戦車ミサイルからだ。

 5両から4発ずつのミサイルが白煙を残しながら前方の集団に向かって飛んでいく。

 続いて、大口径の機関砲が直径30mm程の弾丸を3発ずつのバースト射撃を始めた。

 機関砲弾がゴリラ達を直線状に刈り取って行く。それでも偵察車両との距離はどんどん縮まっていくのが見て取れる。


 突然、ゴリラ達が扇状に倒されて行く。


 「同軸機関銃の射撃が始まりました。抜かれると後は対空車両と私達です。」

 「最悪、通信設備は諦めよう。だが、地下施設に入れるわけにはいかないぞ!」

 

 ゴリラ達が地下施設を察知しているとは思えないが、そう思って行動した方が良いだろう。

 万が一にも発見されたら、後続の部隊は今俺達が相手にしている部隊を遥かに超えているのだ。たちまち蹂躙されてしまうのが目に見えている。

 数に対抗する為にも早めに車両の解凍を急がねばなるまい。


 「対空車両、低バーストモードで射撃を開始しました。軽戦車の稼動台数現在23両。」

 

 まだ、頑張っているようだな。火炎弾の攻撃も大分少なくなってきている。

 ただ前進するだけの人海戦術では、ぎりぎりなんとかなりそうだ。

 

 そんな中、火炎弾の一つが偵察車両に命中した。近くを見ると数体の悪魔が片手を頭上にかざして火炎弾を作っている。


 「フラウ。偵察車両の残った機関砲で悪魔を狙撃するように指示しろ!」

 「了解しました。」

  

 直に、悪魔達は期間砲弾を浴びてその体を四散させる。

 と同時に、ゴリラ達の動きが緩慢になってきた。

 そうだよな。悪魔がゴリラの指揮を執っているんだよな。


 「作戦変更。軽戦車及び偵察車両は悪魔の殲滅を最優先。向かって来るゴリラは対空車両で迎え撃て!」

 「作戦変更了解。…ゴリラ達が向かって来ます!」

 

 バギーから重機関銃を連射しまくった。フラウもベレッタで狙撃を始める。

 悪魔達を倒す間、しばらくはこの状態が続くんだろう。

 弾装が空になり、予備の弾装を取付ると射撃を継続する。連続射撃を継続してるから、この重機関銃のバレルは2度と使えないだろうな。

 

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