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M-094 接触


 流石に、簡易ながらもAIが付いているだけあって、10体の作業用ロボットが車両のモスボールを流れるように解除している。

 そんな全体作業の状況を、司令室にいるラミア01が常時状況を把握してくれている。

 しかし丸々一個師団だから、動き出すまでにはだいぶ掛かるだろうな。


 早々にモスボールを解いた。タンク車を使って水の輸送を始めたから、俺の仕事だった水汲みがなくなってしまった。

 手持ち無沙汰にしていたら、フラウから周辺の監視を仰せつかってしまった。

 通信車車両を1台地上に上げているから、一服していても問題はなさそうだ。


 火の付かない酸素濃度1%未満の施設を抜け出して、カーゴを取外したバギーに乗ってのんびりとタバコを吸う。

 上空500mには偵察用のイオンクラフトが2台半径50kmを旋回しながら地上を監視している。地上熱画像のパターンが変化したら知らせてくれるから安心して任せられる。

 そして、この施設から3km四方に4台の偵察用装甲車を配置している。用心棒代わりだけど、対人レーダーで周囲を見張っているから、移動物体は全て引っ掛かるだろう。

 それらの情報は施設の斜路近くにポツンと停車している通信車のAIが整理して、何かあれば俺に伝えてくれる手筈になっている。俺とフラウの通信も行ってくれるからここでのんびりしていればいい。


 フラウはラミア1体と共に、虫型の偵察ロボットを調整中だ。

 とりあえず、50体程のロボットを放つと言っていたが、ロボットの運搬手段も考えなくちゃならないから面倒だな。

 そして情報伝送についても検討している様子だった。

 ロボットが小型である事から、活動範囲、伝送距離、活動時間等総合的な情報収集計画を立てなければいけないそうだ。勿論、丸投げしているけどね。


 のんびりとバギーのシートに座りパイプを煙らせていると、警報音と共にヘッドディスプレイに赤い輝点が表示された。

 殆どが少し大型の生物だが、サーマル画像に変化がないから今度も大トカゲだろう。

 偵察用装甲車から送られてきた画像には、ノソノソと歩いている大トカゲの画像が映っている。

 まぁ、それでも一応現場を見ておく方が良いだろう。

 バギーを西に走らせると、直に偵察用装甲車が見えてきた。

 バギーの敵味方識別装置の表示がグリーンに点滅する。一応、俺の体に着けた識別用バッチでもOKらしいが、バギーにも2つばかり識別信号の送受信機を着けている。念の為だとフラウが言っていたけど、かなり多重装備だと俺には思えてならない。


 バギーを装甲車の隣に停めると、装甲車の放蕩の上に上って問題の大トカゲを双眼鏡で眺める。

 結構大きな奴だな。5mはありそうだ。口も大きいけど、そこに並んだ歯は小さなノコギリのようだ。30cm位のバッタを食べるから、あんな口になったんだろうな。

 1km程先をゆっくり移動している。こっちには来ないだろうから、機関砲の照準を解除するように通信車両を経由して装甲車のAIに指示しておく。


 装甲車の砲塔上部の高さは2.5m程の高さがある。その上に立つと周囲の丘陵越しに遠方まで見ることができる。

 単調な風景だけど、ここから眺めるのは意外と気持ちが良いものだ。

 どっこいしょ。っと思わず声を出しながら装甲車を降りた時に、再度警報が頭に鳴り響く。

 

 ディスプレイの表示は南の装甲車からだ。

 今日は、お客が多そうだな。早速バギーに乗り込み、南へと走らせる。


 今度のは少し違うようだ。レーダーではなく、サーマル画像のパターン変化で警報を出している。発熱量は38度前後…だとすると、どんな生物だ?

 生憎と荒地の砂塵で視界が悪いようだ。前方1km先を見ることができない。上空からの画像も地表付近の砂塵でボケているが、群れのような感じだな。200m四方に広がって影が見える。

 

 20分程で装甲車に着くと、早速砲塔によじ登る。結構風が強いが落ちる事はないだろう。

 双眼鏡を取出して、問題の方向を眺める。

 ひょっとして新たな生物を、フラウの作っているライブラリーに追加できるかも知れないぞ。


 ヘッドディスプレイに映し出される熱源は2km程先になる。

 双眼鏡で確認しても相変わらず砂塵でその姿が分らない。そいつらの移動推定コースはエリア90をかすめるような形で進行しているから、ここには真っ直ぐ向かってくる筈…。


 何だ!

 一瞬、砂塵が晴れて、双眼鏡の視野に飛び込んできた光景は、ゴリラ達の大群だった。

 まさか、俺達がいるのが分ってるのか?


 急いで、フラウに連絡を入れる。

 直に、新たな装甲車を覇権してくれると返事があったが、遅すぎるぞ!

 

 「足止めに機関砲を発射。向かってくるなら、同軸機銃で掃射しろ!」


 通信車両経由で装甲車両のAIに指示を与えると、急いでバギーに戻り、自動小銃と装備ベルトを掴んで装甲車の上に上る。

 

 単なる偶然とは思うが、施設の周辺には仮設の通信塔や酸素を放出する排気塔等が並んでいる。装甲車両の一部は試験走行等もしている筈だ。

 

 自動小銃のセーフティを解除して、3点バーストモードを選択する。一度に3発の連射だから少しは弾丸を節約できるな。弾装は30連のバナナタイプが予備を含めて3個。ちょっと足りないか…。

                ・

                ◇

                ・


 風が弱まると周囲の視界が急速に広がる。

 そこで目にしたのは、俺達の前方に1km程の範囲で広がるゴリラ達の群れだった。

 少なくとも数千匹はいるぞ!

 突然の振動と轟音で、呆気にとられていた自分を取り戻す。

 装甲車の機関砲がゴリラ達に向かって連続発砲を開始したようだ。ドォン、ドォンっと砲塔に軽い振動を与えながら直径3cm程の高速徹鋼弾が発射され続ける。

 続いて、ブゥーンっという音に変わる。機関砲から同軸機銃に切替えて、砲塔が左右に回る。

 ゴリラ達の群れが薙ぎ倒されて行くが、後から後からゴリラ達が現れる。


 距離が100m程になった時、俺も砲塔の上から、自動小銃を乱射し始めたがゴリラの固い体毛や腹の面で余り効果がないようだ。まぁ、機関銃の半分以下の口径だからな。それに、これは対人用だし…。

 自動小銃を砲塔の突起に引っ掛けて、ベレッタを取出す。レールガンの威力をミディアムにすれば弾速は秒速2kmを越える。これなら倒せるだろう。


 砲塔が回転して砲塔の両側にあるグレネード弾を発射した。

 煙幕兼用みたいで余り効果は期待できないな。

 何時の間にか、装甲車の周囲を100m程の距離を開けて取り囲んでいる。

 突然、ゴリラ達の群れの中から直径1m程の火炎弾が装甲車に飛んできた。一瞬装甲車が火達磨になる。砲塔上部に乗ってる俺も火炎に包まれた。

 

 革の上下が焦げてパラパラと装甲車の上に落ちる。ちょっと悩ましげな恰好になってしまったが、人間はいないから問題はないだろう。明人がいれば慌てて後ろを向くに違いない。

 オートマタの体で良かったと思う。でないと、黒焦げの死体で装甲車から転げ落ちたに違いない。

 一瞬の高温だったからか、装備ベルトのポーチに入れた小銃弾も暴発せずに済んだようだ。

 

 更に大きな火炎弾が迫ってくる。装甲車が急いで向きを変えたから、思わず膝をついて転落を免れた。

 ゴリラの群れのどこから火炎弾が打ち出されるかを、急いで確認する。

 どうやら、群れの中にいる悪魔の姿をした奴等が魔法で攻撃してくるらしい。片手を上げた先に大きな火炎弾が形成されるのが見て取れた。


 明人達がいる王国でも、魔術師が【メル】を使って火炎弾を相手に放つのは見ているが、帆距離が2倍以上あるぞ。その上、威力は3倍を超えているように思える。

 

 装甲車はキャタピラで荒地を動き回り、ゴリラ達を装甲車に近づけないように走行し始めた。

 鈍い音を立てて、骨が砕ける音がする。ゴリラを轢き殺しているな。

 俺は慎重に狙いを定め、ゴリラ達の群れに紛れて接近していた悪魔達をベレッタで狙撃していく。


 突然、ゴリラ達の左側面がバタバタと倒れだした。後方を見ると、4台の装甲車が横に並んでやって来る。

 どうやら、援軍みたいだな。

 援軍との距離が数百mになると、俺の乗った装甲車は援軍の装甲車の後方に急いで移動し始めた。


 機銃の射撃音がひとしきり継続すると、ゴリラの群れは南方に引き上げて行く。

 砲塔から見る荒地は一面にゴリラの亡骸が埋め尽くしているようにも見える。2千体以上あるんじゃないか?


 とりあえず、フラウに戦闘終了の報告をしておく。後は、増援部隊に任せて、少し離れた所に放置されたバギーに乗り込み一路施設へと向かった。


 施設の入口付近には対空機銃を装備した装甲車が4台停車している。時代が進んでも低空侵入機の撃墜用として多銃身の機関砲は有効なようだな。

 

 そんな対空装甲車の脇を通って、施設の中へとバギーを乗り入れる。

 バギーの駐車スペースは司令室のある建屋の直ぐ近くだ。

 何時の間にかモスボールを解かれた。車両がずらりと並んでいる。ディスプレイでも見てはいるのだが、こうして実物を見ると迫力があるな。

 所定の場所にバギーを止めると、司令室に向かう。

 

 「酷くやられましたね。」

 「あぁ、まさかあれ程遠距離から火炎弾を放てるとは思わなかった。おかげでこの有様だ。確かバトルスーツがあったよな。」


 フラウは頷くと腰のバッグから魔法の袋を取り出すと、バトルスーツを2着司令室の机の上に並べる。


 「装備ベルトと腰のバッグは問題ないようですから、これに着替えて下さい。一度水を被るといいですよ。顔も煤けてます。」

 「分った。それと自動小銃もやられた。師団の輸送車に適当な銃があれば用意しといてくれ。」


 フラウにそう告げて、バトルスーツを受取り部屋を出る。

 確か、タオル代わりの布がバッグに入っていたな。タンク車の水で軽く水浴びをするか…。


 体を洗うとサッパリしたような気分になれるのは、生前の習慣からだろうか。

 小さなコロニーで見つけたバトルスーツは、体にフィットしている。体形がモロに現れるからちょっと赤面ものだが、まぁ水着のような形で薄いパッドがあるのがせめてもの救いだな。

 一緒に渡されたブーツを履いて、トラックのサイドミラーで自分の姿を確認してみる。

 これで、眼だし帽でも被ったら特殊部隊の隊員みたいにも見えるだろうな。


 司令室に入るとフラウが俺と同じバトルスーツに着替えており、ラミア01も軍の制服を着ている。どこから見つけたんだか…。その上、帽子も被ってるから俺達より偉そうに見えるぞ。


 本人も気取って俺を見ているような気がするけど、顔には赤い眼が2つ付いているだけなんだよな。俺の気のせいなんだろうか。



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