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M-091 エリア090


 偵察用イオンクラフトの画像が途絶えると同時にフラウはイオンクラフトを人気のない森林の谷間に着地させる。

 目的地までの距離は50km弱…。一体何が起こったんだろう?


 着地した周囲1kmには小さな生体反応があるばかりだ。たぶん小型の草食獣が動いているのだろう。彼等の動きに不自然さは感じられないから、危険な捕食者が近付いてはいないと思う。とりあえずは安全という事だな。


 「マスター、画像が途切れる10秒前から、スローで再生します。どうやら、このままでは目的地に達する事は困難と推測します。」


 俺の前にあるディスプレイに、偵察用イオンクラフトからの画像が映し出される。

 カウントダウンの数字が減りながら、映し出される画像には全く変化がない。

 その数値が1秒前になった時、画像が不自然に揺らいだ。次の瞬間に画像が途絶える。


 「何か景色が揺らいだように見えたな。これは、伝送上の不具合なのか?」

 「いえ、正常です。その揺らぎの原因ですが、2つ考えられます。1つは、重力の一時的な増大による屈折率の変化。または、次元断層による光の干渉です。

 バビロンの科学衛星による重力の局地的変動はこの場所では観測されていません。となれば…。」


 「次元断層って事か。その目的は考える事もないな。…障壁だ。他者を中に入れないためのバリヤーって事になる。」

 「このまま進めば、私達も同じ運命になります。とりあえず緊急着陸させましたが、今後の行動を考えて下さい。」


 次元断層を利用したバリアなんて、SFかアニメでしか知らないぞ。

 とは言え、ジッと俺をみているフラウに何らかの指示を与えねばなるまい。だいたい、そんなものを誰がどうやって作ってるんだ?


 そうか、先ずはどうやって作っているかとその範囲を調べればいいな。そして、次元断層の性質も調べる必要がある。

 ひとつ分ったのは、時速150kmで接触したら破壊したということだ。先ずは効果の範囲を調べる為に低速で偵察用イオンクラフトを接触させてみよう。それと、次元断層周辺の偵察だ。幸い、偵察用のイオンクラフトは3台も残っている。


 「フラウ、偵察だ。偵察用イオンクラフトを2台発進させる。その内、1台を先程の次元断層に接触させるが、接触時の速度は秒速2m以下に抑えろ。」

 「了解しました。接触目的はイオンクラフトの破壊原因を衝突か接触かを探る為ですね。」


 後は、フラウに任せよう。タバコを取り出して一服を始める。

 だいぶ明るくなってきたから、森の中でタバコを吸っても遠方から見つかる事はないだろう。匂いはあるが、それを辿ってくるような大型獣の姿はない。


 フラウが使っている偵察用イオンクラフトの残りの1台を使って、直径数kmの円を描くように森を警戒する。

 それだけ此処を離れると、大型獣もたまにいるようだが、それらは単独行動でなおかつ俺達の方には近づいてこない。


 画像を見るかぎりでは、トラに似た獣のようだ。違うところは、トラは地上を走るが画像で見たトラは枝を軽やかに渡っていた。前足と後ろ足の間に皮膜のようなものが見えたから、ムササビの進化した姿なのかも知れない。

 さて、何んと命名しようか? そんな事を考えているとフラウが結果を報告してきた。


 「目的地の周辺には、やはり次元断層による障壁が張られています。目的地から10km程離れた場所にある塔を中心として作られているようです。

 障壁自体は他の物体を破壊しません。偵察用イオンクラフトの速度を秒速1mにして接近させると、障壁で停止しました。

 イオンクラフトの破壊は高速で障壁に接触した結果によるものと考えます。

 この次元断層により、目的地は守られているようです。断層付近からの映像を表示します。」


 目の前のディスプレイに高度1km程のところから目的地が映し出された。

 塔は見たかぎりでは4つある。目的地の東西南北にそれぞれ作られているようだ。

 その塔の内側には城壁が作られ、町がある。

 そして、フラウが目的地と書いた矢印を示した場所にはピラミッドがあった。

 エジプト様式ではなくてマヤ様式に近いな。ピラミッドの上部に神殿がある。

 

 「次元断層は周囲を全て覆っているのか? それと、地上付近での障壁の状態は上空と同じなのか?」

 「イオンクラフト1台で周囲の確認中です。もう1台を使って垂直方向の次元断層の強度を調査しています。現在分った範囲から推定しますと、断層は目的地周囲を囲んでいるようです。強度の分布については地表付近で急速に弱まっています。地表0.5mでは抵抗はありますが進行は可能です。」


 地表0.5mでは、俺達は潜り抜けても、このイオンクラフトを進めることは無理だ。車両高さは3m近いからな。

 となると、俺達で接近して塔を破壊する事になるが、その間にこのイオンクラフトが破壊されたら本末転倒だ。

 そして、この周囲を取り囲んでいるゴリラ達の部隊も気に掛かる。


 「此処は一旦下がるか…。少なくともゴリラ部隊を牽制して、内部の調査を行う方法を考えなくちゃならないな。」

 「偵察用の機材を探す事は困難です。作るとなればロスアラモスに戻らねばなりません。」


 「いや、そこまで戻らなくても良いと思う。途中で見つけたモスボールのあった場所。…たぶん、昔の基地だと思う。そこに行けば使えるものがある筈だ。」


 どうやら、日も暮れ始めた。

 偵察用のイオンクラフトを回収すると、暗闇に紛れて北に飛び立つ。

                ・

                ◇

                ・


 モスボールを見つけた場所の座標は記録していたから、数時間で着く事ができた。

 周囲はあまり起伏のない荒地が広がっている。

 そして、この場所は最終戦争以前の地図には道路も町も記載がない。

 エリア090それだけポツンと書かれている。

 

 何か宇宙人でもいそうな名前だ。軍の秘密基地ってところかな。

 少なくともモスボールがあったという事は、どこか近くに司令部があった筈だ。先ずはそれを見つけよう。


 「フラウ、近くにかわった地形が無いか? なんら変化がない荒地だがモスボールだけがポツンとあるのはおかしいと思うんだ。」

 「偵察用イオンクラフトで、此処を中心に外周方向へ調査範囲を広げます。しばらくお待ち下さい。」


 操縦席のディスプレイに、偵察用イオンクラフトの画像が映し出される。

 フラウの電脳で詳しく分析が行なわれているに違いない。

 俺はもう1台残っていた偵察用イオンクラフトを上空1kmまで上昇させて、半径1km程の範囲をゆっくりと旋回させながら周囲の偵察を始めた。

 荒地といえどどんな生き物が生息しているか分ったものではないからね。

               ・

               ◇

               ・


 「概要が分りました。かなり大きな施設のようです。」

 

 そう言って目の前のディスプレイに衛星軌道からの画像を映し出す。

 次の瞬間、その画像に赤色で施設が映し出された。

 どうやら、地下施設らしい。丁寧に東西南北方向の距離が示されている。南北に1.5km、東西に3kmもある大型施設だ。

 そして、その一角にちょっとしたビルディングのような建物が付属している。


 「こんなに大きいのか?」

 「東方向の地下施設は一部崩壊しています。そのためモスボール化された車両が地表に顔を出したと推測すます。」


 「となれば、この地下には師団規模の軍事車両がある事になるぞ!」

 「私もそのように推測しました。この建物を調べれば分るのではないかと思います。」


 そう言って、西の角にあるビルディングを指差した。これでも、平面は30m四方、そして階層は5階もあるんだよな。

 上手くこの建物に入れればいいんだけどね。


 「この建物に入るにはやはり掘らないとダメだろうな…。」

 「そうでもありません。この位置の偵察用イオンクラフトの画像を表示します。」


 画像が切り替わり、鮮明な地表が映し出される。

 その画像の中に、高さ2m程の四角い構築物があった。


 「吸気口もしくは換気口と推測します。これを伝って建物に侵入出来ますよ。」

 「俺達が中に入った場合、このイオンクラフトをどうするんだ?」


 「上空10kmまで上昇させて、停止させます。成層圏を飛ぶ鳥はそれ程いないでしょう。反重力装置だけの起動で済ますから、屋根の太陽電池パネルで十分電力を賄えます。」

 「それしかないか…。では、この場所に移動だ。」


 地表100m程のところを滑るようにイオンクラフトが移動する。

 ものの数分で、俺達は崩れ始めた四角い塔に着く。


 俺達がイオンクラフトを下りると同時にイオンクラフトは上昇を始め直に見えなくなった。悪魔は羽を持っているけど、成層圏にまでは行くことはないだろう。


 フラウが塔に近付くと、右腕一旋する。塔の上部が斜めに落ちて崩れる。

 レーザーで切断したようだが、コンクリートはだいぶ脆くなっているな。この時代でも形を保っていたから特殊なコンクリートなのだろうが、やはり年月には勝てないようだ。


 「ここから、入ります。」

 「あぁ、そうだな。俺が先行しようか?」

 「いえ、私が先行します。」


 そう言うとフラウは内部の1.5m程の四角い闇に中に身を投じた。

 身投げみたいだけど、重力制御が出来るからな。始めて見る人は驚くだろうけど…。


 フラウの合図を待って、俺も中に入った。降下速度を秒速1m程にして降りて行く。

 トンっとコンクリートの床に降り立ったのは入って20秒程経過してからだ。

 上を見上げると、ずっと上の方に四角い空が見える。


 「酸素濃度1パーセント以下です。ここも窒素で置換されています。」

 「分った。特に問題はないな。ライトもしばらく持つんだろう?」

 

 「弱まったら休息充電しますから、調査に問題はありません。」


 降り立った場所から横穴が続いている。

 俺達はライトで周辺を確認しながら横穴を歩き始めた。


 数分も歩かないうちに前方が轍の板で閉じられている。錆は目立たないが、どうやら換気用の自動ダンパのようだ。

 換気装置が停止した事で自動的に閉じたようだな。


 2人で無理やり板を持ちあげると、対して抵抗もなくダンパが開く。

 素早く内側に移動すると再びダンパは下がって外気を遮断する。


 ダンパをくぐると、周囲は金属製のダクトに変わる。

 まだ、水平方向に通路のようにダクトが続いているので、道なりに進んで行くと、分岐路に差し掛かった。10m程先に両方のダクトともにダンパがある。


 どうやら、完全に建物の内部に入り込む事が出来たようだ。

 2つのダンパの先にあるのは排風機に違いない。使用する排風機を選択してダクトを開け閉めするシステムに違いない。


 「フラウ、外に出るぞ。ダクトを破壊しろ。」

 「了解しました。」


 フラウが直に、金属製ダクトに床面に1m程の穴を開ける。

 穴から下を覗くと、3m程下に床面があった。

 俺達はダクトから建屋の床に飛下りると、ライトで周囲を確認する。


 結構、大きな部屋だ。10機程の電動機に直結した排風機が置いてある。

 天井が高いのは、1辺が2m程もある四角いダクトが縦横に走っている為だろう。ラダーに載った電源ケーブルもあるな。


 そんな部屋の周囲を回って扉を探すと、動力分電盤の影に隠れて扉がある。

 

 「とにかく、この施設の概要が知りたい。各階を調べるぞ。」

 「了解しました。酸素濃度は0.1%以下ですから、保存状態は良好の筈です。」

 

 俺達は扉を開けて、その先にある通路に出た。

 

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