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M-009 トリム達のガトル狩り

 スラバを狩って得た報酬は750L。少しは余裕が出てきたな。

 他の村に移動するにしても、もう少しこの村で装備を整えたいと思う。俺達ベルトの腰に付けたバッグは大型と小型の魔法の袋を1個ずつ入れるのに丁度良い大きさのようだ。大型5倍を1個と小型3倍を1個手に入れているから、同じように揃えれば良いだろう。

 

 宿で朝食を取った後で、雑貨屋に寄って砥石とボロ布を購入する。ついでに携帯食料とタバコの葉を手に入れる。

 その後はギルドだ。扉を開けながらカウンターのお姉さんに片手を上げて挨拶する。

 朝も遅い時間だから、素早くホールを見渡しても、ハンターは誰もいないようだ。

 何時ものように掲示板を見ながら、狩りの獲物を物色する。


 「マスター。これはどうでしょうか?」

 フラウが依頼書の1つを指差した。


 どれどれ…。イネガル討伐。1匹70L。肉は肉屋で販売して完了印を貰う事。可能であれば2匹を希望…。

 確かイネガルって前に倒したイノシシだったよな。希望は2匹か…。でも、1匹でもこの依頼はOKのようだ。

 

 「うん。それで良いよ。」

 俺の返事を聞くと、掲示板から依頼書を引剥がしてカウンターに持って行った。


 「これで良いのね。貴方達が来た時にイネガルを引き摺って来たって門番が言ってたから大丈夫だとは思うけど…、イネガルは群れる事があるから注意してね。」

 「あぁ、無理はしない群れに合っても2匹で止めよう。」

 俺はそう言って、依頼確認の印が押してある依頼書を受取ると直ぐにギルドを出た。


 俺達が通りに出ると雑貨屋からトリム達が俺達と申し合わせたように通りに出て来た。

 「おや、ユングじゃないか。これから狩りなのか?」

 「イネガルを狩る。トリム達は休みなのか?」


 「俺達も狩りさ。ガトル10匹を狩るんだ。少し多いから、罠を買ったのさ。」

 「これから北門を出て湖の北を行くんでしょ。途中まで一緒に行かない?」


 マリーネの提案に俺達は同意すると、皆で北門を出た。

 「お前達は何時もゆっくりだな…。」って挨拶した門番さんの一言が耳に痛い。

 まぁ、俺達はゆっくり夜の狩りも出来るから良いけれど、トリム達はどうするんだろう?…まさか、ガトル10匹を全て罠で取る訳では無いよな。


 トリム達は1時間程度歩くと10分程の休憩を取る。生物は疲れが出るから仕方が無いな。何て自分が優位になった気分で考える自分が可笑しく思える。

 彼等に合わせて休むのもそれ程悪い気はしない。ある意味俺達が擬人化していることを確認する手段と思っている。

 何時も俺達だけなら問題は無いが、何時他のハンターと行動を共にするか分からない。そんな時に、こんな習慣を身に付けておけば、誰も俺達がオートマタだとは気が付かないだろう。


 そんな休憩を数回取ると、湖の岸辺に辿り着く。

 近くの林から薪を取って焚火を作る。今夜はここで野宿だ。

 早速、俺達は簡単なスープを作り携帯食料である焼きしめたビスケットのような黒パンを齧る。2人でスープを分けたら、小さなポットでお茶を沸かす。

 トリム達は黒パンサンドが夕食だ。直ぐに食べ終えると俺達と同じようにお茶を沸かし始めた。


 夕暮れが終わり、漆黒の闇が辺りを包む。今夜は2つある月がどちらも出ていない。

 「ところで、トリム達はどうやってガトルを狩るんだ?」

 「これを使うのさ。」

 そう言うと、腰のバッグから袋を取り出し罠の1つを見せてくれた。

 これは…、トラバサミか。確かにこれなら、最低でも動きを封じられるから、容易くガトルを狩る事が出来る筈だ。


 「だが、餌はどうする?」

 「少し骨を肉屋から貰ってきた。」

 「ラッピナなら、取ってやるぞ。俺達はラッピナで誘き寄せた。」

 

 そう言って、フラウに目配せすると、フラウは暗闇に消えていった。

 俺のヘッドディスプレイには、直ぐにフラウがラッピナ狩りを始めたのが写し出される。


 「マスター。3匹仕留めて来ました。」

 そう言いながら暗闇からラッピナを下げたフラウが現れた。

 「2匹やるから、捌いて腸を罠の周囲にばら撒けば良い餌になるだろう。10匹だと今夜だけでは無理かも知れない。肉は今夜1匹食べて、もう1匹は明日の餌にすれば良い。」


 「すまんな。有り難く頂くよ。…マリーネ。今夜仕掛けるぞ。」

 トリム達はフラウの獲物を貰うと頭を下げてそう言った。

 早速、松明を2本作って罠とラッピナを持って闇の中に消えていった。

 遠くでちらちらと松明の明かりが見える。この焚火から300mは離れているから、ここは安全だろう。

 そんな事を考えながらパイプを楽しむ。フラウはラッピナを袋に入れると、代わりに砥石を取り出して長剣を研ぎ始めた。

 切っ先に向かってシャーっと軽い音を立てながら剣を研いでいる。

 研ぐと言ったら水を使いそうなものだが、この世界では大理石のような砥石を使って水を使わずに研ぐようだ。

 研ぎ方が分らない俺達に、こうするんです。って雑貨屋のお姉さんが教えてくれた。


 しばらくして、トリム達が戻って来た。

 直ぐに焚火にラッピナの肉をかざして炙り始める。

 「6個仕掛けてきた。明日が楽しみだな。」

 俺に嬉しそうに話してくれたが、嬉しそうなのはこれから食べるラッピナの肉が楽しみだからだろう。


 「俺達は少し横になる。お前達が食事を終えたら起こしてくれ。後は俺達が焚火の番をする。」

 そう言うと、マントを焚火の傍の乾いた場所に引いて俺とフラウは横になった。

 1時間程すると、美味しそうにラッピナを齧る2人の食事の音が聞えてきた。

 確かに、ラッピナの肉は美味いと思うが、この体はそれ程食事を必要としない。小食という事で誤魔化したのは正解だったな。

 

 のんびりとRPGをしながら暇を潰していると、キャンキャンという鳴き声が聞えて来た。何匹かガトルが罠に掛かったようだ。

 ディスプレイには20匹近いガトルの集団が必死に罠から逃げようとしている仲間の傍に集まっている。

 また、キャン!と吼える声が聞える。

 意外と罠も使えるようだ。ディスプレイでは、4匹が罠に掛かっているように見える。


 そんな観察をしていると、ユサユサと俺を揺する感触が伝わる。

 「あのう…。」

 「あぁ、後は俺達が見張る。結構掛かったみたいだぞ。」

 「起きてたんですか?」

 「いや。今起きたところだ。…大猟だった夢を見た。俺の夢は良く当たるんだ。」

 

 急いで誤魔化したが、マリーネは俺の言葉が嬉しかったようだ。

 「有難うございます。」

 と言うと、焚火の反対側でいびきをかいて寝ているトリムの隣で横になった。

 兄妹じゃないよな。何て思いながらも口元が緩んでくるのが分る。

 まぁ、そういう関係なんだろう。俺にだってフラウがいるんだし…。そんな事を考えながらフラウを見ると、目が合ってしまった。

 思わず、顔を背けたがちょっとドキドキしてきたぞ。って俺に心臓は無いはずなんだが…。


 フラウも起き出すと、お茶を作って俺に渡してくれた。

 結構なお茶の量だ。しばらくエナジーを気にしないで動けそうな気がしてきた。

 「…イネガルですが、周辺に見当たりません。最初に出会ったのは湖の反対側でした。明日はそちらに出かけましょう。」

 「だね。ガトルは多いんだが…、少し群れが近づいていないか?」

 「距離230。こちらに気付いているようです。100で攻撃で良いですか?」


 トリム達の匂いを追って来たのだろうか。それにここで焼き肉を作ってたからな。ガトルは野犬の一種のようだから鼻は良い筈だ。

 それでも、まだ距離はある。パイプにタバコを詰めて焚火で火を点ける。

 やはり、このタバコは軽いな。悪友の明人に誘われて吸ったタバコを思い出す。


 「距離170。…こちらを狙っているようです。」

 俺は焚火に薪を投げ込んで火勢を強める。そして、マリーネを起こすことにした。

 マリーネの所に片肘を着いてマリーネの肩を揺する。

 「ん…。」

 「どうやら、お客さんだ。急いでトリムを起こしてくれ!」

 直ぐに飛び起きると、トリムの頬を叩くようにしてトリムを起こした。

 「ん、まだ朝じゃないよな…。」

 「急いで湖で顔を洗って来い。直ぐにだ。…ガトルが群れで俺達を取り巻いてる。」


 俺の言葉に吃驚したようだ。トリムは急いで木桶から水を汲むと一口飲んでその水を自分の顔に掛けた。

 「距離、130。」

 「どっちからだ!」

 トリムの声にフラウが指を差す。だが周りは暗闇で彼には見えないだろう。

 トリムが長剣を抜く。そして焚火と湖の間にマリーネを移動させる。なるほど、その位置なら左右からしか襲われる事は無いだろう。


 「距離100。…攻撃を開始します。」

 フラウは素早くベレッタを引き抜き、スライドを引いて発射体勢を整えると同時にトリガーを引いた。

 ピュン!っという甲高い音が聞える。

 俺も視野を暗視モードに切替えると素早くトリガーを引いた。

 

 俺達が発射した弾丸が光の帯のように見える。勿論錯覚なのだが、普通の人間には光線が発射されたように見えるだろう。

 それで、ガトルの襲撃方向が分ったのだろう。マリーネが【メル】を唱えて火炎弾を発射した。

 数発発射された火炎弾は闇雲に発射したものだが、1発がガトルに当たったのは幸運によるものだろうし、その僅かな明かりでガトルに近づき、一瞬に切り伏せたトリムの腕も中々の物だ。

 

 更に2発ずつ俺達がベレッタを撃ったところでガトルの襲撃は終った。

 トリム達だけではちょっと危なかったかも知れないけど、俺とフラウがいるのだ。そう簡単には傍に寄せ付けないぞ。


 「終ったか?」

 「あぁ、逃げていった。…罠を近場に仕掛けたのが拙かったな。お前達の匂いを追って来たようだ。」

 ホッとしたマリーネがポットでお茶を沸かし始めた。

 もう直ぐ、夜明けだ。お茶を飲みながら朝日を皆で見るのも風流というものだろう。

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