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M-089 フロイとの別れ


 「長老は賛意は示したものの、1つだけ危惧していた。力が我ら数人を越えるなら、それだけ食べるに違いない。どれ程食料を必要とするのかを聞いてからだとな。」


 ガデム達は数人で再びこの場所を訪れ、今は焚火を挟んでお茶を飲んでいる。

 500人程の集落だからな。生産量は低い筈だ。

 人口増加が、集団の生死を決め兼ねないのか…。


 「フロイはガデム達のような食事をとらない。太陽の光がフロイを動かす。1日太陽の当たる場所にいれば3日程は全力で動けるだろう。曇りや雨でもそれなりに光はあるから、活動時間が短くなるだけだ。そして、じっとしているなら1週間以上光を浴びなくとも体を維持出来るぞ。」

 「本当か? なら、何の問題もない。」


 「問題もなくはない。ガデム達は軽い怪我なら自然に治るが、フロイは傷を治せない。そして破損したら、直す事はできない。簡単に破損はしないだろうが、それは頭に入れといてくれ。」

 「分った。それでは何時迎えに来ればいい?」


 「雪解けが終ったらで良いだろう。村まで歩く事になるからな。持って行くものがあるから、小さな荷車を引いて行かせる。欲しい物があれば、それまでに閉鎖区画から持ち出すが…。」

 「調理器具を欲しがっていた。大鍋があればありがたい。」


 「そこに転がってる大鍋でいいか? あれ位の鍋ならまだ残っているぞ。」

 「十分だ。後は食器等を適当に見繕ってくれると助かる。」


 そう言って席を立としたガデム達を手を振って席に戻す。

 「ちょっと待て、少しフロイに取りに行かせる。簡単なものだがスープ位は飲んで行け。」


フラウに通信を入れると、修理建屋から鍋を下げて焚火の所にやってきた。

 鍋を焚火に載せて、オタマを俺に渡してくれる。

 

 「フロイに連絡を入れました。食事が終る頃にはここに来る筈です。」

 「ありがとう。後は任せてくれ。」


 戻って行く、フラウをガデム達が見詰めている。


 「しかし、我等と同じ人間ではないという事が今でも信じられぬ。」

 「俺とフラウはガデム達ともフロイとも違う。たまに食事も取れるから保存食を少し持ち歩いているんだ。…そろそろ出来たぞ。食器を出してくれ。」


 彼等が背負い袋から木彫りの器を取出したので、オタマでスープを分けてあげる。

 まだまだ冬の最中だ。焚火傍とはいえ体は冷えるだろう。

 恐る恐るスープに木製のスプーンを入れて一口味わうと、後は貪るように食べ始めた。

 

 「まだ残ってるぞ。」

 そう言うと、次々に器を持った腕が伸びてきた。


 「マスター。依頼サレタ物を持ッテキマシタ。」

 後ろからの声に振り返ると、コンテナを担いだフロイが立っていた。

 「あぁ、ありがとう。そこに置いといてくれ。」

 

 ドスンとコンテナをその場に下ろして、修理建屋へとフロイが移動して行く。

 小さな部品を持ってるようだが、フラウから頼まれたのかな?


 コンテナを開けると、色んな調理器具が入っている。

 陶器はないな。全てステンレス製のようだ。


 「手ぶらで帰らずに、土産に持てるだけ持って行け。必要ならまた来ればいい。」

 「感謝する。…いいか、余り欲をかくなよ。背中に担げるだけ袋に入れるんだ。」


 ナイフやフォークそれにスプーン等を小さな鍋に入れて袋に詰めている。 

 シェラカップのようなものは纏めて持って行くようだな。大鍋に物を詰め込んでるのは、雪の上を滑らせて運ぼうとしているのだろう。

 

 「それでは、おさらばする。雪が残る間にもう一度来るつもりだ。」

 「あぁ、何時でもいいぞ。」


 俺に片手を上げて、ガデム達が帰って行く。大鍋を曳いていくのが何んともシュールだな。

 少しでも、暮らし向きが良くなるならばそれでいい。

 何時までもここにいる訳ではないから、滞在している間位は便宜を図ってやろう。

                ・

                ◇

                ・


 閑を潰すのに衛星画像は最適だ。

 ゴリラの生息地を少しずつ範囲を拡大しながら調査して行く。

 前に、気が付いた事だが、やはりゴリラは2種類いるようだ。

 そして俺の良く知るゴリラの生息地は山間の谷間や高地に点在しており、そこで暮らすゴリラ達の数は最大でも100前後だ。

 それに比べて、腹に仮面を着けたゴリラ達は、低地の洞窟に潜んでいるように思える。

 そして、その群れに数は少くないが悪魔が混じっているのだ。


 そんなある日、衝撃的な画像をおれは目撃した。

 普通のゴリラの集落を仮面を着けたゴリラ達が襲っていたのだ。

 時間を隔てた画像では、集落から捕虜と思しきゴリラをひきたてている光景が写っていた。


 奴隷狩りをするのか? それとも生贄なんだろうか?

 疑問はあるが、仮面を着けたゴリラを間引きしておいた方が良さそうだ。

 

 そんなゴリラの生息する洞窟を幾つか座標に登録しておく。

 フラウに爆弾でも作ってもらって、洞窟ごと破壊すれば少しはこの周辺が暮らしよくなるだろうと思う。

 フラウが焚火の傍にやって来た時に、その話をした。


 「爆弾ですか?…出来なくはありませんが、大型は無理ですよ。」

 「この座標にある洞窟を破壊するだけで良いんだけどね。」


 「それなら、50kg程度の炸薬で可能でしょう。何発作りますか?」

 「近場にこれだけある。全て潰すことは可能か?」

 「6個で良いでしょう。2発余分になりますが、この後何があるか分りませんから。」


 フラウの話では水素の充填も順調のようだ。残り2本という事だから、春にはこの地を去ることが出来るな。


 何度か、ガデムが俺達の元にやって来て、村に必要な品を運んで行く。

 そして、いよいよ出発する事が出来る時に、フロイをガデムに託した。


 「銃は2種類持っているが、両方とも強力だ。だが、弾丸が無くなればそれまでだぞ。」

 「分ったつもりだ。我等が対処出来るなら彼には頼まぬ。」


 そう言ってガデム達はフロイを連れて村へと帰って行った。

 フロイが引く小さな荷車には重機関銃とレールガンが乗っている。彼等が森に消えるまで、俺とフラウはずっと見送っていた。


 「寂しくなりますね。また2人です。」

 「あぁ、だが時間軸が違うからな。何れ分かれなくてなならない。…で、俺達は何時で掛けるんだ?」


 「20ℓ入りの容器が2本ありますから、何時でも出掛けられますよ。フロイが使うかもしれませんから工作機械はこのままの状態にしておきます。」

 「なら、このお茶を飲んでからで良いな。稼働時間は400時間を越えてるが、このポットをからにすれば20時間は増える筈だ。」


 焚火もこのままで良い筈だ。誰もこの地を訪れる事はない。

 ガデム達が銃弾を作る鉛をフロイに取りに来てもらうぐらいかな。


 思えば此処に1年以上いた事になるのかな。

 慣れた場所を離れるのは少し寂しく感じる。

 

 

 お茶を飲み終える頃には、夕闇が迫っていた。急いでポットを軽く濯ぐとバッグに入れる。

 荷物は余り無いが、小さなコンテナ1つに工具類を詰め込んで操縦席に乗せてある。操縦はフラウに任せて俺は隣だ。そして操縦席の跳ね上げ式の屋根には銃機関銃がターレットに取り付けられている。

 

 俺が席に着いたことを確認したフラウが早速多目的車両を改造したイオンクラフトを反重力装置で数十cm程浮かせると、重力傾斜を操って修理建屋の外に出た。


 「バランス調整をしながら、例のゴリラが生息する洞窟を爆撃します。」

 「まぁ、無理をしないで出来る範囲でいいよ。ダメで元々だからね。」


 爆撃なんて初めてだし、そもそもこのイオンクラフトは核爆弾を運搬する為のものだ。

 俺の言葉に小さく頷いて、フラウがイオンクラフトを上昇させる。地上200m位まで上昇させると、車両の両側に取り付けたトンボの羽を展開する。

 羽がボォーっと青白く輝くと、滑るように車両が南へと飛んで行く。


 西の空がほんのりと赤く染まっている。

 そんな暗闇に包まれる寸前の空を青白いイオン噴流を流星の尾のように引いて俺達を載せたイオンクラフトは空を滑る。

 時速100km位かな。テスト飛行も兼ねているようだから、フラウの操縦は慎重だ。


 俺の目の前に投影型のディスプレイが現れる。そこには、衛星画像と地上の暗視画像が左右に表示されている。

 赤く光る座標に、緑の輝点で表示されたイオンクラフトの位置が少しずつ近付いていく。

 近付くに連れ、少し高度を増す。300m位だろう。


 「爆撃1分前です。…10秒前、5、4、3、2、1、投下!」

 

 投下と同時に速度が上がる。

 そして、数秒後に後方で大きな炸裂音がした。

 結果は、明日にでも衛星画像で確認できるだろう。

 フラウは次の爆撃目標に向かって、イオンクラフトの向きを変えた。


 30分ほど掛けて、残りの3箇所を爆撃した俺達は進路を南に固定する。

 目的地まで6,000kmだからな。

 この速度で行っても3日は掛かるんじゃないか。

 それに、水素タービンエンジンは意外と燃料を消費する。途中の水場で燃料補給も行なわなくてはならない。

 

 山間部を降りて砂漠のような地形を地上200mをキープしてイオンクラフトを飛ばす。構造物や高い樹木も何もない。そんな場所を10時間も飛ぶと東の空が明るくなってきた。

 

 「地上に一旦降りて、イオンクラフトの点検を行ないます。」

 「そうだな。降りるなら、軍の基地跡がいいな。調査して暇を潰せる」

 「了解です。この近くですと…後20分程で手頃な基地がありますよ。」


 少し東に進路を変えたようだ。

 俺のわがままに付き合せるのは悪いとは思うけど、俺にイオンクラフトの点検が出来る訳がない。フラウの邪魔をしないように周囲をぶらつくつもりだ。


 「見えてきました。あれがそうです。」

 「空軍基地か?」


 基地跡には飛行機の形状をした残骸が朽ち果てている。

 これじゃ、調査するまでも無いか…。


 残骸の真ん中にイオンクラフトが降下すると、6輪のタイヤがクッションになって少し沈みこんでイオンクラフトは停止した。


 「点検を開始します。1日は掛かると思いますよ。」

 「俺に構わずじっくり点検してくれ。先は長いからな。」


 操縦席に投影型ディスプレイを表示させると、早速フラウが点検を始める。

 俺は自動小銃を持って操縦席から飛び降りた。


 イオンクラフトを中心に、渦を描くようにして周辺を歩く。

 上空から見て何も無いんだから、地上も似たようなものだ。この基地が放棄されてから相当の年月が経っているんだろうな。

 

 元は大型の戦闘機だったのだろうが、今は骨組みすら残っていない。

 何かあるかなと期待していたのだが、ちょっと残念な気持ちだ。

 

 そんな基地だが、地面は硬くコンクリートが敷き詰められている。

 余程大きな基地だったのか、周辺から風で飛ばされてくる砂もそれほど積もっていない。


 そんな調査をしていると、俺の前に3m四方の板が現れた。鉄板ではなく、セラミックの板のようだ。

 その板が何もない場所にポツンと置かれている。

 

 何だろう? そう思いながら板を退かしてみようと手を掛けたがまったく動かない。

 両手を使って力を込めると、少し浮いたような感じがする。


 何だ?

 近くを探して、金属の柱を探す。

 鉄ではなく、何かの合金のような骨材を持って、無理やり板の間に抉り入れると思い切り柱を動かすと、ギシギシと軋みながら板が上に開いた。

 板の下には真っ暗な穴が空いている。タラップが下に伸びている所を見るとこれは防空壕なのかも知れないな。

 早速、ライトを取りにイオンクラフトに戻る事にした。


 

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