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M-086 集落の防衛


 パイプを咥えながら双眼鏡で襲撃者を良く観察する。

 前を歩くゴリラ、(連中はゴリアテと言っていたな)そいつらの主要な武器は棍棒だ。後ろをの悪魔(確かルシフルだったか)は手ぶらだ。武器を持たないのは完全に指揮に徹するか、はたまた別の攻撃手段を持っているという事だろう。

 その場合に考えられるのは魔法だな。明人達のいる王国では盛んに魔法が使われていた。

 となれば、俺達はあの悪魔を殺るか…。


 「フラウ。後ろの悪魔を殺るぞ。…確かベレッタの射程は200だったな。」

 「それよりは少し長いですけど、弾丸が蒸発しながら進みますから、200を過ぎると弾丸重量が大幅に減ってしまいます。直径3mmの弾丸では命中しても衝撃力が1割以下になってしまいますよ。」

 

 超高速弾も良し悪しだな。だが、急所に命中すればもっと長距離でも有効ということになるか。

 う~む、ちょっと悩むな。

 回復魔法の中で、息さえしてれば一発で全快するってやつがあった。もし、それが奴らに使えるとなれば、脳を破壊することで何とかなるかもしれないが、どれ位の傷まで対処できるかは実例を見たことがない。

 ましてや、明人のように体質的に持っているとなると、脳の一部を破壊しても復活しかねないな。

 

 「フラウ。ゴリラはあの仮面の下に本当の頭があるが、後ろの悪魔はどう思う?」

 「簡単な衣服を着けていますが、ゴリラとは異質の生体です。指揮を取れるとなれば高度な知性を持っているでしょう。それに異形ではありますが身体は人間との類似性が極めて高いことから、脳は頭部にあると推定できます。」


 そして、もう1つ確認しておく事がある。

 櫓の中程に立っているガデムの所に歩いて行く。


 「確か、ガデムと言ったな。1つ教えてくれ。ゴリラの後ろにいる3匹の悪魔をかつて殺した事があるか?」

 「悪魔?…ルシフルだな。あいつはとんでもない奴だ。心臓を打ち抜いても傷が塞がって行く。だが、確かにかつて殺した事はあるのだ。それは、そこにある矢を当てた時、それにあの額の角を破壊した時だ。それ以外の方法では倒す事など不可能だぞ。」

 「毒矢?」

 「砂なまずの髭から採ったものだ。人間なら、当たれば数秒で死ぬ。」


 神経毒の強力な奴だな。あいつには毒を無効にする体質は持っていないという事か。たとえ持っていても、極めて毒の作用が早いから役に立たないのかもしれない。

 そして、額の角を破壊するのは俺達にとっては容易だ。

 それをやるか…。


 「フラウ。額の角を狙え。破壊すればそれまでだそうだ。」

 「レールガンをハイで使えば頭ごと吹き飛んでしまいますが…。」

 「それでいい。3匹共に殺す。」


 櫓の端に戻ってフラウに指示を与える。

 連中との距離は300を切ったな。そろそろ俺も準備をするか。


 ベレッタをホルスターから抜くとゆっくりと悪魔に照準を合わせる。

 ヘッドディスプレイ上で位置合わせをするだけだから単純な作業だな。距離表示は230、まだ早いな。


 「後ろの悪魔を倒した後は、ゴリラを任意に射撃する。カートリッジに数発残しておけよ。何があるか分らん。」

 「了解です。一番左をお願いします。右と中央は私が倒します。」


 最初から狙ってた奴だな。左利きだから左側から倒して行くなら丁度いい。

 どんどん近寄ってくる。ガデム達が使っている銃にはライフルリングが無いから有効射程は100m前後だろう。それを知っててゆっくり近付いてくるんだろうな。


 そして、距離が150mになると同時にトリガーを引いた。

 レールガンだから発砲音はない。それでも空気を切裂く音がして、俺の狙っていた悪魔の頭が弾けた。

 中央を狙おうとした時には、そいつの頭が弾け飛ぶ。

 

 それから先は、ゴリラを間引くように1匹ずつ倒していく。

 ゴリラ達は、塀まで100mを切ったところで、叫び声を上げながら一斉にこちらに向かって来た。


 「残弾5発。射撃を終了します。」

 「俺も残り5発だ。さて、これからはこいつでやるぞ。」


 フラウに顔を向けると背中の長剣を引き抜いた。

 片刃だが、通常の長剣よりも10cm程長い刀身を持っている。


 「これを使うのは久しぶりですね。」

 「確かにな。でも、フラウの手入れで錆1つ無いぞ。」


 塀の下を覗くと、ゴリラ達が体を使って櫓を作っている。

 そいつらにひっきりなしに銃弾が浴びせられているが、余り効果は無いように見える。

 それでも、数匹仰向けに倒れているから上手く急所に当たったんだろう。


 ドォン!大きな音がして櫓が揺れる。

 どうやら、大きな丸太を使って門を破壊しようとしているようだ。

 破られたら、被害は甚大だな。


 「身体機能を倍にして奴らに突っ込む。フラウ、ついて来い!」


 そう言って、櫓からゴリラの群れの上に飛降りた。

 ズン、という鈍い感触が腕から伝わってくる。ゴリラに深く刺さった長剣を引き抜いて俺に棍棒を振り上げてくるゴリラを頭から両断する。

 仮面近くまで斬り込んだ長剣をゴリラを蹴飛ばしながら外して距離をとった。


 少し離れた場所ではフラウが舞うように長剣でゴリラを斬り付けている。

 門を見ると、黒山のようにゴリラが群がっている。

 ベルトのポーチから手榴弾を1つ取出して、群れの中に放り込んだ。


 盛大にゴリラが吹き飛んだが、そんなゴリラを踏みつけて周辺からゴリラが集まってきた。

 

 「フラウ。援護してくれ!」

 

 そう言い放つと塀に体を押し付けてベレッタを塀から数十cm離して残弾を全て打ちつくした。

 近距離から、最大威力で発射された銃弾の衝撃波で、ゴリラ達の体が引き裂かれる。

 素早くカートリッジを入替えて、同じように数発放った。


 門の周辺にはゴリラの死骸が山になっている。

 それでも、俺達に向かって来る奴らには、確実な死がフラウの長剣で下される。


 半分程刈り取った時、塀の中から叫び声が上がった。

 反重力制御で塀を飛び越えると数匹のゴリラが侵入したようだ。銃列を2段に構えて必死に弾丸を放っているが、あまり効果がみえないな。それでも、2匹が転がっているところを見ると、数が少なければ何とか対処する事は出来るようだ。

 

 ベレッタで3匹を倒して後の2匹は彼等に任せる。

 全て狩る事は簡単だが、何時までも俺達がここにいる事は出来ないのだ。


 櫓の下で成り行きを見守っていると、歓声が上がる。

 どうやら、襲撃者を撃退する事が出来たようだ。


 そんな中を、ガデムが櫓から降りてきて辺りを見渡している。俺達を見つけると駆け寄ってきた。


 「ここにおいででしたか。先程は助かりました。再度、長老と会談をお願いします。」

 

 そう言って、俺達をあの石作りの建物に案内してくれた。

 部屋の真ん中の炉の南に座ると、パイプに火を付ける。しばらく待たされそうだし、それまで手持ち無沙汰だ。


 一服を終えてパイプをバッグに仕舞い込もうとしていると、長老が従者に抱えられて部屋に入って来た。

 従者が介添えしながら俺達の向かい側に座らせている。老婆だったがいったい幾つなんだろうか? 相当な年寄りのように見えるぞ。


 「避難せずに戦ったと聞いている。そして、人にあらざる身体能力と不思議な武器を使ってルシフルを倒したらしいの。他の集落から参った娘達かと思ったが少し違うようじゃ。

 ワシの知る事は教えよう。その見返りとして、其方らの事も教えてほしいものじゃ。」


 情報を交換しようという事だな。

 俺達の話をどこまで信じるかは疑わしいが、話すだけは話してやろう。


 「いいでしょう。でも、その前にこれを見てください。」


 そう言って腕を捲くると炉の中に手を入れて真っ赤に焼けている薪を手で掴む。

 俺の突然の行動に、居合わせた連中は驚愕の眼差しで俺の手と顔を見比べている。


 「その方、何ともないのか?」

 「熔けた鉛を掬って顔を洗う事も出来ますよ。俺達2人は人ではありませんからね。」


 「じゃが、どう見ても人の姿、そして娘の体じゃ。魔物とも違うておる。」

 「魔物ではありませんね。俺達は魔法を使えませんから。そして、人でもありません。俺達は機械の体を持っているんです。」


 「…ロボット?」

 「ロボットとは少し異なります。貴方達が細胞の集合体であるように、俺達は機械の細胞から作られています。」

 

 不思議な物で見るように俺達を見ている。

 そして、2人の娘が俺達にお茶を運んで来た。

 勧められるままに、お茶を頂く。…あまり、美味しいとはいえないな。ちょっと苦すぎる。


 「俺達は西にある大きな大陸からこの大陸に北の凍った海を歩いて渡ってきました。何のためか?…この大陸の遥か南の地にある次元の歪を破壊する為です。

 破壊するためには、強力な爆弾が必要です。その爆弾を北東の遺跡から見つけ出しました。現在修理を行なっていますが、終了次第南の地に旅立つつもりです。」


 「2つ確認したい。我等にも、その爆弾の話は伝承されておる。しかし、その爆弾は閉鎖区画の最深部にある筈じゃ。閉鎖区画を開放したのか?そして、その最深部には人は入れぬ。どうやって入ったのじゃ?」

 「閉鎖区画の耐圧隔壁は数十cmの鋼鉄でした。それを特殊な光線で焼き切って入って行きました。閉鎖区画の中は、この場所のように呼吸する事は出来ません。貴方達が入ればたちまち死んでしまうでしょう。ですが、我等は機械の体。呼吸をする必要は有りません。」


 「なるほどのう…、便利な体のようじゃ。我等に伝わっておる話はそれまでじゃ。そして我等が手に入れられぬものであれば、其方がどのように使おうとも構わぬ。」

 「ありがとうございます。ところで、あの地を放棄してこの地に移り住んだのは、俺達が地下のガラスの容器で見た、寄生虫によるものですか?」


 「やはり、それを見ておったか…。それと、先ほどのゴリアテそれにルシフルの襲撃によるものじゃ。

 我等の祖先は閉鎖区画の中で暮らしていた。しかし、ある時に寄生虫が変異して我等を襲うようになったのじゃ。寄生して互いに生きるという選択肢は持たなかったようじゃ。たちまち住民を襲い始め、爆発的に広がった。

 まだ、健康な住民を閉鎖区画から追い出すようにして脱出させた後にあの扉は閉められたのじゃ。

 閉めた後も数日は中と連絡が取れたらしい。最後の連絡は皆で集団自殺を告げるものじゃった。その方法は、息をするものは全て死に絶えると聞いておる。

 そして、追い出された者には更なる試練が待っておった。ゴリアテとルシフルが大勢やって来たのじゃ。

 それまでの散発的な接触ではなく、明らかに我等の殺戮を目的としてな。

 我等は残された資材で銃を作り、あの遺跡を諦めて守り易く、作物が良く育つこの地にのがれてきたのじゃ。」


 確かに、この集落にいる人間はそれほど変わっていないよな。白人や黒人それにアジア人もいるけど、一見する限りでは変異している様子がない。

 変異した者達は、閉鎖区画に閉じ込められたのだろうか? ここに残っている人間は遺伝子的に変異していないのだろうか?


 「俺から頼みがある。しばらくの間あの地にいるのであれば、拳銃ではなく我等の使っているような銃を作ってくれまいか。出来れば火薬も欲しいのだが…。」


 後ろから、ガデムが願い出る。

 まぁ、銃は出来ない事はない。だが、火薬は後どれ位出来るのだろうか?

 フラウに通信を送って、その量を確認した。


 「かなり長く俺達は滞在すると思います。それと同じような銃であれば、20丁、火薬は今回持参した量の5倍はお渡し出来るでしょう。それに、槍の穂先も作れますが、他に必要な物がありますか?」


 「ならば、農具じゃな。鍬や鎌があれば助かる。」

 「良いでしょう。50個ずつお渡しします。その代わり、かの地に取りに来てください。そうですね…、2ヵ月後に。」


 「かなり我等に都合のいいはなしではあるが、其方はそれで良いのか?」

 「問題ありません。その代わり、かの地の材料は必要な物を使わせていただきます。それで十分です。」


 そう言って俺達は席を立つ。

 これで気兼ねなくロスアラモスの資材を使える。銃の製作は俺の暇潰しに丁度良い。


 石作りの建物を出ると、反重力制御で上空に飛立つ。

 そして、フロイが待っているロスアラモスの跡地へと向かった。


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