M-084 核爆弾の修理の合間に
どう見ても管虫の一種にしか見えないが、こんなやつが大群で襲ってきたらパニックになるな。
そして、シリンダーに保管された標本に人体以外の獣がいない。ということは、人間だけに寄生する生物となるのだが、寄生体を除去する方法はなかったんだろうか?
急速に寄生は進んだらしく、シリンダーに入っている幼児の体には数発の銃弾の跡が見える。
次々と人間を襲って数を増し、それに研究所の防疫体制が追従できなかったと見るべきだな。
最後は、健常者だけをこの施設から出して、内部から封印したのだろう。人を殺ろせばそれ以上の寄生生物の増加を食い止められる。その理由で施設内を窒素で満たし、残った人々を酸欠状態にして安楽死させたのだろう。
何年前の出来事かは分らないけど、相当時間は経過している筈だ。寄生する相手がいない状態では、この生物も餓死していったに違いない。
トントンとシリンダーを叩いても中の生物は動く事はなかった。もう、危険は去ったと考えて良さそうだな。
次の標本室は植物を集めたみたいだ。
針葉樹と広葉樹の違いぐらいは俺にも分るが、その他の区別を俺に求めるのは無理がある。それでも、2、3興味深い標本がシリンダーに入っていた。
1つは歩行樹だ。これは大森林地帯にもいたから直に分る。始めて見るのは食肉樹だな。
筒型の上に洞穴のような口が開いていて根の変形した触手を沢山広げている。こんな形でも得物を捕らえる事が出来るのだろうか? ちょっと動きが鈍そうだぞ。
「マスター、ここにいたのですか。…準備が完了しましたので移動の手伝いをお願いします。」
「分った。いこうか。」
フラウの後に付いてセンターコアに向かうと、そこにあったのは台車にワイヤーロープでぐるぐる巻きにされたシリンダーだった。
このまま運んで臨界にならないんだろうか?
「このガンバレルに安全装置はあるのか?」
「簡単なクサビで止められています。移動時に金属ウランが移動する事はありません。」
ちょっと不安だが、一応評価したみたいだな。
さて、これをどうやって動かすんだ? 台車の車輪は撤去していたけど…。
「フロイが曳きますから、私とマスターは台車を押して行きます。…フロイ、この施設からこの台車を運び出しなさい。」
「了解シマシタ。動カシマス。」
台車に結んだ太めのワイヤーをフロイが曳き始める。
ズズズー…と床に深い傷を残しながら台車が動き出した。
俺達2人は台車の後ろから押すと、少し移動速度が速くなる。
まぁ、横に移動するのは俺達3人がいればさほどの問題はない。問題だと思ったのは階段だ。斜めに2t近い重量物を移動させるのは、幾らオートマタとロボットであるとは言えちょっと肝が冷えた。
どうしても人間だった時の常識で物事をみる傾向は直っていない。こんなものを動かせる訳がないと、ついつい思ってしまうようだ。
それでも階段の半分を押し上げると少しは余裕も出てくるようだ。
何時の間にか、階段の移動速度も水平移動と同じように容易に俺達は行っていた。
閉鎖区画を出て、整備建屋に台車を移動する。
これで、後の対応はフラウ任せになるな。
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フラウが最初に始めたのは、発電装置の組立てだった。
それ程大規模なものではなく、太陽電池にバッテリーを組み合わせたものだが、インバーターを使えば、整備建屋の工作機械を動かす事が可能らしい。
工作機械の整備はナノマシンを使って行っていた。結構便利に使えるな。その上、再利用も可能だということが嬉しくなる。
フロイはフラウの指示を受けて、あっちこっちから必要な部材を集めている。殆どが劣化のすくない閉鎖区画から持ってきているようだ。
「どんな具合だ?」
「遠隔で起爆可能なように核爆弾の制御部を改造しています。指示は私が出しますが50km以上離れて爆発させる事が可能です。現在、フロイが炸薬を作るための薬剤を探しています。無ければ化学反応を利用して作る事ができるでしょう。」
フラウに任せるか…。
そんな事を考えながら外に出ようとしたところで、作業机に載ったボロボロの図面に目がいった。
旧式のフリントロックの製作図だ。
じっと見ていると、俺にも作れそうな気がしてきたぞ。
南西の住人は、確かこれを使っていた筈だ。何丁か作って土産にするか。
材料は鋼鉄の丸棒や板、それにバネ用の薄鋼、後は銃杷となる木材だな。
幸いにも、工具と材料は豊富だ。ちょっと見当たらない物は火打石だが、この近くの火山帯の地形図から探せば時間は掛からないだろう。
黒色火薬は作るしか無さそうだが、倉庫を漁れば硫黄と硝石位はあるだろう。木炭は作るしか無さそうだな。
「フラウ。フロイに連絡して、この材料を集めてきてくれないかな。」
「フリントロックですか? 確かに材料は何とかなるでしょうが、肝心のフリントは倉庫には無いと思いますよ。」
「木炭もな。 まぁ、のんびり作りるさ。フラウの手伝いはできないから、その間に南西の部落の住人に状況を聞くつもりだ。手土産があれば協力してくれるだろう。」
「理由は分りました。フリントがあるとすればこの付近になります。」
俺のヘッドディスプレイに地形図が表示され該当区域が赤く表示される。
それ程離れてもいないようだ。近場なら100km程度だろう。今の俺なら日帰りコースだな。
翌朝、水筒を3本持って北東の火山地帯を目指した。
狙いは黒曜石にヒスイ辺りだな。ついでに残り少なくなった水を補給しようと思う。
1人だから、地上ではなく重力制御を行って、1kmをピョンと飛び越えながら目的地に向かう。
変な獣もいるのだが、とりあえずは無視していこう。大きさが野ウサギ位だから害にはなるまい。
1時間程で急峻な谷川にでた。
ここがヘッドディスプレイだと、目的地になっている。
谷底に転がっている石を観察すると、緑掛かった石英が転がっている。
これって、ヒスイじゃないのか?
その他にも、色んな鉱物が転がっていたが、中々黒曜石が見つからない。
確か、火打石って石の硬度が問題何だよな。適当に持ち帰ってフラウに鑑定して貰おう。
革の袋に色んな小石を集めて入れる。この内、2、3個が使えれば十分だ。
水筒に水を満たして、フラウ達が待つ整備建屋へと帰えることにした。
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作業台の上に運んできた石を山積みする。
「だいぶ採ってきましたね。使えるのは…。」
そう言いながら、フラウが作業台の上に小石をポンポンと外に投げ始めた。
「この4つです。メノウが含まれていますが十分に火打ち石として使えますよ。」
「他はダメって事か…。」
「それでも、この石を使って30個以上の発火石を作る事ができますよ。」
俺が作ろうと思っていたのは精々10丁。十分な量だな。
「工作機械は全て稼動します。マスターの作業は、木で模型を作った後に3次元スキャナーで読み取り、自動複製させる方法がいいでしょう。」
フリントロック式先込短銃ってことになるのかな。その構成部材を分割して、それぞれの木型を作れば、後は自動工作機械が作ってくれるという事か。まぁ、微調整は自分でしなければならないだろうが、精巧な模型を作れば良いってのが気に入ったぞ。
早速、近くに生えている広葉樹を1本伐採すると、丸太を数個手に入れた。
丸太を長剣でおおよその大きさに切断する。切れ端も、小さな部材を作るのに使えるから近場にとっておく。後はナイフで成形するのだが、カービングナイフが無いから、クナイを使う。
整備建屋の前に作った焚火の傍に腰を下して、のんびりと削り始めた。
先は長いからね。何個か作って一番気に入った物を使うつもりだ。
たまに動体探知や生体探知機能に小動物が引っ掛かり、ヘッドディスプレイが現れて警報が鳴ったりするが、概ね平和だな。
飽きるとポットのお茶をのみ、まだ半分以上は優にあるタバコをパイプに詰めてのんびりと楽しむ。
時折、フラウもやって来て隣で一緒にお茶を飲んでいるけど、フラウの方は順調みたいだな。
「このバレルは中をくり抜かないとダメかな?」
「製作時に穿孔位置を指定すれば問題ありません。発火装置のからくり部分はフロイに頼めると思います。」
それは助かる。という事は俺の作業って銃床部分を削り出すだけになるのか?
まぁ、最終調整は俺の手でやれば一応俺の製作品って事で良いのかも知れないけど…。
そして、単調な作業の合間に、火薬の製作と弾丸作りも行う事になる。
火薬に原料は木炭以外は閉鎖区域に揃っていた。鋼管を組合わせて簡単な炭焼き窯を作ると、銃床作りの傍らで炭焼きも始める。
弾丸は鉛が原料だから、1cmの球体を作る型をフラウに作ってもらって、焚火ので鉛を溶かすと、1発ずつ丁寧に仕上げて行く。
昔の人はこれを分業で行っていたとは言え、中々の作業だぞ。
そんな単純作業の積み重ねが続くと、木型を使って自動工作機械が部品を次々と作り出してくれた。
ヤスリで成形しながらのんびりと組立てをする。
そういえば、昔の銃って凝った彫刻が銃床やバレルについていたな。
唐草模様を紙に描いて、彫刻をフロイにお願いしたら10分も掛けないで1丁の彫刻が終了した。
まだ彫刻を施していない銃と見比べると雲泥の差があるな。
そんな事で全ての銃に彫刻をして貰った。
「形になりましたね。まだテストは行わないんですか?」
「テストには火薬入れと計量するためのカップがいるな。昔の資料がないかな?」
「…バビロンのライブラリの画像資料から図面を起こします。火薬入れは木製ですね。そして弾丸ポーチは革製です。」
「ユニコーンの皮で代替出きるかな?」
「2重にすれば問題ないと思います。狩りに出掛けるのでしたら、山脈の北に群れがいますよ。」
結構たいへんな作業になってしまった。
早速、出掛けようと思ったら、フラウに水筒を持たされた。
そういえば、そろそろ水が切れてきたんだっけ。
北に真っ直ぐ跳ねていく。途中の谷で水を補給して、更に北に向かう。
山裾にユニコーンの群れがイルのを確認して、ベレッタを使い1頭だけを撃ちとった。
その場で素早く皮を剥いで、屍骸はそのままにしておく。
本来ならば貴重な肉なのだろうが俺達には必要に無い物だ。
ロスアラモスに帰ってくると、早速木の枝を組合わせて皮をピント張り、焚火の炭を使って丁寧に皮をなめす。
牛の皮と違って柔らかそうだな。やはり2重にして使う他無さそうだ。
フラウに水筒を渡すと、早速ポットに入れて焚火に掛ける。
そんなに稼働時間が低下していたのかと表示を見ると、200時間を切っている。
これはのんびりとお茶の時間にするしか無さそうだな。ポットで1ℓのお茶が出来るから、少なくともポット3個分は飲まなくてはならないだろう。それで約5日分の活動時間を伸ばす事が出来る。




