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M-008 長剣の使い道

 


 宿のベッドに横になりながらマリーネの放った火炎弾について考える。

 全く何も無かった空間から、突然発熱体が俺の方に向かってきた。まぁ、あの程度の熱量ならこの体に影響は無いと思うが…。

 それよりも、魔法とは何なのだろう。俺達は魔法は使えないらしい。ギルドのお姉さんは、ハンター登録をした時にそう言った。

 

 俺達が魔法を使えなくともそれに代わる機能は持っている。そして、それの作動はそれなりの物理現象で行なわれているのだ。

 だが、魔法は物理現象とは思えない。結果を見ると物理的破壊を伴っているが、少なくともその発動には物理現象とは異なる現象で具現化しているようだ。


 「フラウ。マリーネが火炎弾を発動した時に何か変わったことは無かったか?」

 「ありません。あの火炎弾は突然に生成されています。」

 「フラウの電脳にこれに良く似た現象は記録されているか?」

 「ありません。無から有を生むのはエナジーの法則では説明できません。少なくとも私達が知らない何らかの法則が適用されたと考えられます。」


 「…人はそれを奇跡と呼ぶ…か。」

 だが偶然ではなく、意図的に起こした現象だ。更にマリーネは癒しの【サフロ】をも持っていると言っていた。

 この世界は物理科学ではなく、全く別の魔法と言われる体系が発達した世界だということだな。


 中々に面白そうだ。なら、魔法を使えない俺達が、魔道具と呼ばれているベレッタを使うのを見ても余り違和感を持つ事は無いような気がする。

 積極的に使うのは考えものだが、杖ではなくベレッタを主要武器としても良さそうだな。

 そういえば、ベレッタの弾丸である銅球はどうやって作ってるのだろう。

 「フラウ。ベレッタの弾丸はどうやって手に入れてるんだ。弾丸の切れたマガジンを何時も補給して貰ってるけど…。」


 するとフラウがベッドの端に座りこちらを向いた。

 「ここに2枚の銅貨があります。これを…。」

 そう言いながらグッと銅貨を持つ手を握る。数秒過ぎてゆっくり右手を開くと、そこには2個の銅球があった。

 「このように銅貨を圧縮して誘導加熱で一気に銅を融解します。そして小さな無重力空間を作り急冷すると真球に殆ど近い銅球が出来ます。」

 

 この世界の住人が見たら魔法としか見えないだろうな。だけどれっきとした物理現象で作っている訳だ。

 「硬貨ではなくて、銅の地金でも可能なのか?」

 「その方が、廉価に作成出来るはずです。」

 

 これで不思議だった、マガジン内の銅球の補給方法が判明した。明日は雑貨屋で地金を買い込んでおこう。


 「俺達は杖だけで狩りをするのは不自然かも知れないな。」

 「確かに、奇異な目で見られています。長剣であれば杖と同じように振り回せるでしょう。切れ味よりも頑丈さで選べば良いと思います。」

 武器屋ってあったのかな?…これも調べる必要がありそうだ。


 次の日。俺達は先ず雑貨屋に出かけた。

 雑貨屋のお姉さんに地金を聞いた所、武器屋で扱っていると教えてくれた。通りの南の外れが武器屋らしい。

 「カンカンと槌音を立ててますから直ぐに判るはずです。」

 俺達は丁寧に礼を言うと、早速通りを南に向かって歩き出した。

 それ程大きくない山村だ。直ぐにカンカンと鉄を打つ槌音が聞えてきた。

 頑丈そうなログハウスの軒から煙が上がっている。ここが武器屋だな。


 「今日は。」と挨拶しながら扉を開く。

 「おう…、客か、それとも冷やかしか?」

 「客だと思います。…長剣を見せて貰おうと思ってきました。」

  

 どっこいしょ、と声を出しながら炉の前から立ち上がり、先程まで打っていた短剣を炉に放り込む。そして、何やら弟子に指図して俺達の方にやって来た。


 「嬢ちゃん達が長剣か…。片手剣の方が良さそうだが?」

 「良い物があれば購入したいんですが、予算が少ないんで足りない場合は出直して来ます。」

 武器屋のオヤジは鍛冶屋でもあるようだ。でっぷりとした小柄な体形だがその腕は筋肉だ。決してデブと呼ばれる者ではない。

 「これが、銀貨3枚だ。…こっちが銀貨5枚だな。嬢ちゃん達はまだ赤レベルだな。それならこのどちらかで良い筈だ。黒になったら、もう一度来い。お前達の好む形に作ってやる。その時の値段は銀貨10枚が標準だな。」


 俺達の所持金は銀貨10枚は無いはずだ。フラウに確認するとそれでも1,100Lを持っていると言っていた。

 一応、2つの長剣を抜いて見る。なるほど、俺にも判るぞ。持った時のバランスが違うし、刀身の歪みがまるで違っている。

 幾ら、世間体に持つ武器とはいえ、やはり上物を選ぶのがスジだろう。


 「こちらを2本下さい。」

 「良く、そんな大金を持っているな。まぁ、これなら黒の低レベルに成っても使い続けられる筈だ。…砥ぎと欠けも請け負うぞ。」

 そう言って2つの長剣を俺たちの前に並べた。早速フラウが代金を支払う。

 鞘には上下に2つのリングが付いていた。このリングを紐で結んで背中や腰に下げるみたいだ。


 武器屋のオヤジにまた来ると伝えて再び雑貨屋に戻る。

 そして革紐を購入すると2人とも背中に長剣を背負った。

 これで、フラウの持つ革袋には100Lも残っていない。散財した分を急いで稼ぐ必要が出て来た。

 とりあえずギルドに出かけて依頼掲示板を2人で眺め始める。


 「これはどうでしょうか?」

 フラウが依頼書の1つを指差した。

 どれどれ…。スラバ討伐。1匹125L。皮は200Lで購入可。肉は肉屋で卸す事が可能…。上手過ぎないか?

 早速図鑑で調べると…。何じゃこの化け物は!

 頭が2つあるアナコンダみたいな奴だ。その上片方の頭は目の代わりにゴーグルみたいな複眼が付いてる。

 更に、毒を持ち、再生能力に優れる?脳が3つあり、3つ目の脳は2つの頭の交点にある。と記載されていた。

 まぁ、確かに俺たちで狩れない相手では無さそうだけど、ちょっと気持ち悪い奴だな。


 「やれる?」

 俺の問いにフラウが大きく頷いた。

 早速、カウンターに依頼書を持ち込む。


 「貴方達がやってくれるの?牙は毒を持ってるから気を付けるのよ。」

 そう言って確認印をドン!って押してくれた。

 さて出掛けようとギルドを出て気が付いた。スラバって何処にいるんだ?

 

 フラウがスタスタと先を行く。

 「フラウ。スラバの場所が分かるのか?」

 「依頼書には村の南西を流れる川原と書いてありました。」

 どれどれ、なるほど、確かに書いてある。

 という事は、南門を出て南西に向えば川原に出るという事だな。


 南門も北門と同じように門番さんが2人、槍を持って立っていた。

 「ご苦労様。」って挨拶しながら門を抜ける。

 トコトコと南に下る小道を歩いて行く。両側は一面の段々畑だ。こっちがあの村の畑地帯なんだな。北の丘の上では余りにも、規模が小さいな。と思っていたのだ。

 1時間近く歩くと、十字路に出た。今度は西に向かって歩いて行く。このまま行けば村の南西を流れる川に出るはずだ。


 畑の中の小道を、更に2時間程歩くと畑が終って、200m程の荒地を挟んで林が南北方向に続いている。

 荒地を抜けて、林に入ると水の流れる音がする。どうやら、林の奥に目的の川があるようだ。

 

 その川は川幅が5m程の小川だった。広い川原があるところを見ると、結構な暴れ川らしい。

 ヘッドディスプレイには2つの生体反応がさっきから映っている。どちらかがスラバなのか、それとも両方ともスラバなのか…。


 休む事無く、その生体反応が示す場所を目指して下流に下る。すると、葦の茂った中にその反応があることが判った。

 しかし、この葦原では…。飛び込んで行くと、スラバの思うようにあしらわれそうだ。


 「焼き払いますか?」

 「良いのかな。この葦原も何かに使えそうだし…。」

 「あちらにも葦原はあります。スラバが潜む葦原を焼いても延焼しなければ問題無いでしょう。」

 そう言ってフラウは背中の長剣を抜いた。

 斬り込むのかな?って見ていると、川原の下の方に走っていく。おれは急いで追いかけた。

 そこで、フラウが始めたのは、川原の葦原を長剣で刈り取る事だった。疲れを知らず、身体機能は普通の人の2倍以上。たちまち葦原が刈り取られて行く。

 俺も、長剣を抜いてフラウを手伝う。

 そんな俺たちの行動を知っているのか知らないのか、2つの生体反応の位置に変化は無い。


 5m程の防火帯を作ると風向きを見る。丁度東南の風が吹いている。これは都合が良い。

 刈り取った葦を山積みにすると、フラウが指の間に火花を飛ばして火を点けた。

 たちまち風によって葦原に火が回っていく。

 それを見ながらパイプを楽しんで、さてどうなるかと生体反応の位置をジッと監視する。

 葦原の火が落着いて消えようとした時、突然真っ黒になった焼け跡から4つの頭が持ち上がる。

 1匹で頭が2つだから、確かに2匹だな。生体反応と合致している。


 「ベレッタで攻撃してください。想定ポイントをディスプレイに転送します。」

 ヘッドディスプレイにスラバの姿が3Dで表示される。それは回転しながら目標となるポイントを赤の点滅で示している。

 ポイントは2つの頭、そして頭部が胴体に繋がる交点だ。


 銅球の射出速度を(M)に設定を変える。秒速2kmはちょっと強力だぞ。

 最初の1発で通常頭を吹き飛ばした。

 そして、もう1つの複眼持ちの頭を吹き飛ばした時、…最初に吹き飛ばした頭の首から、中から這い出すように頭が姿を現した。

 直ぐに頭を吹き飛ばす。すると、先程破壊した複眼持ちの頭が首の中から再生して出てくる。

 

 「マスター。首の付根に数発撃って下さい。そこを破壊すれば頭の再生が止まります。」

 フラウの言葉に従ってベレッタを発射した。


 ドサリとスラバの頭が地面に落ちる。

 こいつの本当の脳は首の付根にあるようだ。頭は鎌首を上げようとしているが動きに精彩が無い。頭に1発ずつ発射して破壊すると、早速切取りを始める。

 

 「皮と肉だったな。フラウは皮を頼む。肉は肉屋に売るだけだから、持てるだけで良いだろう。」

 とは言っても肉の量は多い。皮の剥ぎ取りが終ったピンク色の胴体を、50cm位の長さに長剣でぶつ切りにして袋に詰め、それを魔法の袋に入れる。それで入りきれない肉は、ショルダーバッグに詰め込んだ。

 もう1つ大きな魔法の袋が欲しいところだ。


 「スラバ狩りは終了ですね。」

 「あぁ、火も消えたみたいだし、帰ろう。」

 

 最初の獣はやり辛いところがあるな。弱点を研究してから狩りをしなければとんだ事にもなりかねない。

 しばらくは、村の近場で知った獣を倒していこう。

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