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M-073 冬を待つ間に

 


 レナ河の辺で水を補給して更に北東へと進む。

 このまま歩けば二月程でベーリング海峡に辿り着くが、季節は真夏。そして、その海峡も地殻変動の影響を受けていた。

 一旦は閉じたのだろうが、海面の高差の違いで再び削られたようだ。大渦を巻いて海水が北極海から流れ込んでいる。

 海峡の距離は100km程はあろう。重力制御による移動を行なうにはちょっと距離が長すぎるようだ。

 となれば、北極海を渡るしか無いが、ヘッドディスプレイに映る北極海の海氷は岸からだいぶ離れている。

 端までは10km程はあるだろう。無理して飛べない事も無いが、辿り着いた場所の氷の厚さが問題だ。見た限りでは流氷みたいにバラけた氷が浮かんでいるようにも見える。


 やはり、厳冬期まで待って北極海が全面結氷してからの方が無難だろう。

 飛行機か船でもあれば良いんだが、無いもの強請りは止めておく。


 「どうだ。やはり軍の秘密基地は全滅か?」

 「バビロンの科学衛星による重力異常個所がこの地方に2箇所あります。熱源は探知できませんでしたから無人と思われますが、調査してみますか?」


 少なくとも、3、4ヶ月はこの地方で待つ事になる。

 秘密基地の調査なら、ちょっとしたイベントだな。使えるものが見つかるかもしれないしね。


 最初の基地は海辺にあった。

 破壊された鉄骨が赤錆に覆われている。地下への入口は何処にもないから、通常の観測基地だったのかもしれない。

 基地の近くの丘の上に大規模な構築物の残骸があった。


 「どうやら、大掛かりなレーダー基地のように思えます。しかも短波ではなく長波使ったレーダーです。」

 「昔、2つの大国があったんだよ。空には監視衛星、それを阻害された時にこのレーダー基地で敵の侵攻を察知する事を考えたんだろうな。長波レーダーは地平線の向うまで届く。音速以上で飛んでくる飛行体を監視したんだろう。」

 「直接攻撃は受けていませんが、地殻変動で破壊されたようです。」

 

 たぶん地震だろうな。この地方には殆ど地震が無い。建造物の耐震は考えていないはずだ。

 どれ位の兵員が働いていたかは分らないけど、今は訪れる者とてない廃墟だ。


 「次に行こう。確か、岩山の近くだな。」

 「ここから南東に200kmです。」


 3日程費やして目的の場所に着いた。

 急峻な岩山に赤錆びた鉄骨が張り出している。ここも廃墟だな。

 

 「マスター、岩の斜面に発熱反応があります。」

 フラウの声に、急いでサーマルモードへと視野を切り替えた。

 絶壁の一部が0.4℃程温度が高い。日陰だから、温度上昇は何らかの原因によるものだろう。人為的とは思えないが、調べる位はやっといた方が良さそうだ。


 「どう見ても、岩盤の一部だよな。」

 「たぶん、あの後ろに空間があると推定します。その室温で岩盤と一体になった壁の温度が周囲と異なるのでしょう。」

 「ちょっと様子を見てきます。」

 

 フラウが30m程、絶壁を重力制御で上ると、長剣を抜いて柄でコンコンと岩盤を叩いている。

 やがて、俺の所に下りてきた。


 「岩盤の厚さは10cm程ですね。本来は岩盤の奥だったのでしょうが、この壁面はかなり以前に崩落したようです。」

 「俺達が入れる孔が空けられないかな?」

 

 俺の言葉にベレッタを抜くと、建て続けに数発発射した。

 たぶんハイレベルで撃ったんだろうな。1発毎に10cm程の孔が開いて行き、他の孔と繋がって最後には40cm程の孔が岸壁に開いたぞ。

 更に数発をフラウが発射すると、亀裂の入った穴の周囲がボロリと零れ落ちて、足元に落ちてきた。


 フラウがベレッタをホルスターに戻した時には、直径1mはある穴が岸壁にポッカリと口を開いていた。


 「行って見るか?」

 俺の言葉にフラウが頷いた。2人とも重力制御でジャンプするように岸壁の穴へと飛び込む。

 頭から飛び込んで前転して立ち上がる。確か明人が肩から入るようにしろと言っていたな。俺には今でも出来ないぞ。そんな俺の横で器用にフラウが前受身を取って立ち上がる。


 室内は教室2つ分程だ。左右に棚が数個並んでいるが、棚には何も置かれていなかった。

 フラウがそんな室内を素早く見渡すと俺の方に顔を向ける。


 「室温が急速に低下しています。突入時の室温は約26℃。現在は16℃です。」

 「やはり部屋があったな。この基地の動力源がまだ生きているのかな。天井の照明も一部が健在だぞ。」


 そう言って、部屋の奥へと進む。

 部屋の置くには扉があったのだ。頑丈な扉ではなく普通の扉だ。

 

 しかし、アルマゲドンから2千年以上経っているのに、照明一部とはいえ生きているのは何故なんだ。

 前のコロニーのように最近まで人が住んでいたんだろうか?


 まぁ、進めば判るだろう。

 扉を開けると、通路が奥へと続いている。天井の照明が所々点灯しているから、それなりに置くまで見通せるぞ。


 「フラウ、マッピングを頼む。結構、この基地は大きいぞ。」

 「了解です。生体探知、動体探知共に現在異常はありません。」


 通路の左右に扉があるのは、前のコロニーと同じだな。

 そんな扉の一つを開けると散らかった室内には弾痕が無数にあった。床の汚れは流血の後なんだろう。部屋の隅には蹲るように体を丸めたミイラ化した死体がある。その右手には赤錆びた拳銃が握られていた。

 自殺か…それにしては弾痕が多すぎるな。

 

 次の部屋を空けてみる。やはり略奪の後のように部屋が荒らされている。弾痕もあるが、それだけだな。

 そして、通路を進むにつれ、通路にも弾痕が見られるようになった。


 「自動小銃の弾痕ですね。」

 「乱射したのかな。それにしては血痕はあるが、俺達が見つけた遺体は1体だけだ。」

 「片付けたのか…、それとも…。」


 たぶん後者のような気がするな。見方の遺体は片付けても敵側の遺体はそのままにしておくんじゃないかな。

 だが、遺体を骨まで食べるとはどんな奴だ。

                ・

                ◇

                ・


 この基地は意外と大きい。

 地上施設は吹き飛び、土砂崩れで跡形も無いが、地下は意外と無傷のようだ。

 俺達が入った階から4つほど下に下がった所を調査している。

 相変わらず、戦闘の跡が至る所に残っているが、遺体は最初の階で見つけた1人だけだった。


 更に2階下に下がったところで、司令室のような部屋を見つけた。

 体育館ほどの広さがある中2階を持つ部屋だ。中2階にある小部屋がたぶん指令職の常駐する部屋なのだろう。

 早速、階段を上ってその小部屋に入ってみる。


 体育館を見下ろすような形で大きなガラス窓がある。そして部屋の両側の扉には窓すらない。頑丈な鉄の扉はしっかりと鍵が掛かっているようだ。

 フラウがベレッタで鍵を破壊するとギィーっという軋み音を立てながら扉を開く事が出来た。


 ボロボロの椅子にミイラが2体座っている。その直ぐ傍に拳銃が転がっている所をみると、自殺したようだ。

 体育館側の窓に行くと、眼下に周辺の地図を描いた大掛かりな作戦地図が描かれている。

 ここから、敵側のミサイル等の迎撃指令を出していたんだろう。


 「マスター、電脳の一部がまだ生きています。」

 「この基地の惨劇が分るか?」

 「調べてみます。」


 フラウがミイラが座る椅子を退かして、中腰で制御卓を操作し始めた。

 2つの椅子の前にある制御卓に仮想スクリーンが展開する。

 かなりノイズが雑じっているのは、劣化が激しいのかも知れない。


 「見つけました。たぶんこれです。」

 そう言って、スイッチを操作すると制御卓の仮想スクリーンを俺と一緒に眺めた。


 最初に映し出されたのは、反乱の様子だ。

 見方同士が自動小銃で殺しあう場面が数分間続いた。

 次に映し出されたのは、異形の者と戦う兵隊達だ。

 異形と言っても、兵隊と同じような服装している。目は白目の部分が無く真っ黒で、額には短い触手のような物が見える。腕は鱗で覆われ口は耳元まで裂けていた。

 武器を持たない異形の相手を兵隊達が虐殺している光景が続く。


 そして、画面が変わると、今度は立場が逆転したみたいだ。

 ボロボロの服を纏った異形の者達が、腕で何かを相手に投げている。

 それが当たった兵隊は苦悶の形相でもがきながら、異形の姿に代わっていった。

 そこで画面が停止した。


 「何らかのバイオハザードと推測します。たぶん遺伝子に異常をもたらすものでしょう。」

 フラウはそう言いながら、別の画面を映し出した。


 捕らえられた異形の者を拘束台で固定し、暴れるのも構わずに生体解剖を始めた様子が写されている。

 腹を切り裂くと、俺達とさほど違わない内蔵が映し出される。

 だが、刻々とその形状が変化している。

 胃を切り取って掲げた様子が映し出されたが、人間の胃がブクブクと脈を打つような感じで2つに別れていく。

 確か草食獣は沢山の胃を持っていたな。あのように変異するのだろうか?

 次々と内臓を切り取り、ホルマリン漬けにしているが、その最中にも形が変異していく。

 

 場面が変り、血液のサンプルを顕微鏡で見ている画像になった。観測対象の血液を見る倍率がどんどん上がっていく。

 白血球、赤血球、血小板と俺も知っている姿が映し出される。そして更に倍率が上がった時、それが映し出された。


 「ナノマシンです。自己複製能力を持ち、且つ遺伝子変異に特化したものと推察します。」

 「これにやられたのか? だが、ナノマシンの複製能力はそれ程高くは無いんじゃないか?」


 俺の考えは直ぐに打ち破られた。

 顕微鏡下で確認されたナノマシンは、ブルっと体を震わせると2つに分離し、直ぐにその数は倍数で増えていく。


 「良く世界が滅びなかったな。」

 「この種の兵器は、アポトーシス回路を内在しています。早くて1年、遅くとも100年で絶滅します。」

 

 明人が言っていたな。アルマゲドンの後に種の爆発が起ったようだと。これが原因なんだろう。

 元は人を狙った物なんだろうが、他の生物にも被害を及ぼしたようだ。ひょっとして完成されていなかったのかも知れないな。

 とは言え、この種の遺伝子変異で種族が多くなったのも確かだ。

 一旦、滅んだ世界では必然だったのかもしれないな。それが数千万年掛かるか、たった100年で終るかの違いに過ぎないと思う。

 そして、変異した者達による淘汰があったのだろう。

 弱肉強食の世界を経て残った種族が今の世界を謳歌しているんだと思う。


 「この基地の構造も把握しました。更に下に10階層が存在します。行って見ますか?」

 「そうだな。時間はたっぷりある。そしてこの基地はまだ機能が全て死んでいない。動力室も見学したいね。」


 俺達は司令室を後に、下の階に足を運ぶ事にした。

 そんな中で、武器庫を見つける。

 残念ながら、棚に並べられた武器は全てさび付いていた。ちょっと残念な気もしないでは無いが、まぁ、仕方がない話ではある。

 それでも、フラウは部屋の片隅にあるボックスからオイル漬けの自動小銃を見つけた。

 武器庫を調べて手に入れたアセトンでオイルを洗浄する。

 2丁手に入れればそれなりに役に立つ。弾丸は窒素封入されたボックスから手に入れる事が出来た。

 30連のバナナタイプだ。それが10個あると専用のポーチが欲しくなる。生憎見当たらないから予備弾装をベルトに挟みこんでおく。残りはバッグに入れておけば良い。

 まさか、俺達が使うとは思わなかったろうが、武器庫の担当者は後の時代に役立つように武器を上手く保存しておいてくれたものだ。


 フラウの作業が結構時間が掛かるな。

 俺は、武器庫の外に出て通路を少し歩くと、階段の手摺に背中を預けてタバコを楽しむ事にした。

 いくら俺でも、有機溶媒をふんだんに使っている部屋でタバコを吸おうとは思わないぞ。

 そんな事をしたら、それこそドカン!だ。まして、武器庫では俺達も無事では済みそうに無い。

 ここで、のんびりとフラウの作業が終わるのを待つ事にする。

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