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M-067 小さな地下コロニー

 


 農業機械の倉庫を一巡りすると、2m四方のシャッターを見つけた。

 「大型農機具の出入り口と言うよりも、収穫物を移送する通路のように見えますね。」

 「この奥に、収穫物を移送するのか?」

 「たぶん。この先に、このコロニーの住民が住んでいたと推察します。」


 そう言うと、フラウが錆びたシャッターを力任せに開き始めた。

 ギギギ…と錆を周囲に撒き散らしながらシャッターが開いていく。

 開いたシャッターの隙間から奥を覗くと、シャッターの大きさと同じ通路がずっと奥に続いている。


 「こんなもので良いだろう。奥に行くぞ。」

 俺はシャッターを潜り抜けると、奥に向かって歩いて行く。直ぐにフラウが俺を追い掛けて来た。

 真っ暗な通路だが、所々に扉があった。

 そんな扉の1つを体当たりで破壊すると、部屋の中を覗き込む。

 機械や工具等が散らかっている。

 農業機械の修理をしていた場所なのかも知れないな。

 フラウがそんな工具棚を見ていたが、1つをブロックを取り上げた。

 

 「銅製品です。頂いても良いですよね。」

 「あぁ、ここには誰もいない。使える物は貰っておこう。」

 俺の言葉にフラウがバッグの袋にそのブロックを仕舞いこんだ。


 更に、奥へと進む。

 すると、周囲が少しずつ明るくなってきたのに気が付いた。

 「私達の照明は必要無いようですね。ライトを消します。」

 そう言うと俺のヘッドディスプレイに表示された照明のスイッチが解除される。

 

 照明を消しても、やはり明るいぞ。どうやら、通路の壁全体がボンヤリと発光しているようだ。

 更に奥に歩いて行くと扉がある。

 結構頑丈そうな扉だ。


 「ロックされています。…下がってください。」

 2m程後ろに下がると、フラウがベレッタを取り出してロック機構を破壊した。

 ちょっと、反響が煩かったがこれで先に進めそうだ。


 ガタン!っと片手でフラウが扉を投げ捨てる。ロックだけじゃなく、蝶番まで破壊したようだ。それで、あれだけ響いていたんだな。

 その先の通路も同じような通路だが、かなり明るいぞ。俺は、暗視モードから、通常の視野に切り替えた。


 「ひょっとして、人は去ったが動力はかろうじて生きているのかな?」

 「その公算が高いです。生体反応はありませんが、通路の照明は人間の活動に支障が無い明るさを保っています。」


 コロニーの周辺区域は電力を落としても、枢要区域の電源は確保しているようだ。

 という事は何らかの事態が生じて、あのトンネルでコロニーの連中は出て行ったんだろう。

 全員が出て行くというような事態は、俺にはちょっと考えられないが先に行けば分かるかも知れないな。


 「ここにコロニーの区画図があります。1辺が200mの正方形のようですね。3層構造になっています。私達は生産区にいるようです。この先にある階段で下にいけますね。下は居住区と動力区が作られています。」

 「このコロニーの制御室はあるのか?」

 「居住区の一角に制御室があります。行って見ましょう。」


 俺達は通路を先に進む。途中の扉を適当に開けて中を覗いてみると、ちょっとした工作工場のような部屋だ。似たり寄ったりの部屋が続いている。

 俺には同じように見える部屋だが、フラウには少し異なって見えるようだ。

 「これは、電子製品の修理区画のようです。これは旧式なデジタルカメラですね。」

 「デジカメは使えるのか?」

 「待ってください。」


 そう言って、小さなキューブ状のカメラを近くの工具で分解すると、その原理を確認しているようだ。

 再度組み上げると、指先から黒い雫をデジカメに落とす。

 黒い雫がデジカメに吸収されると、カメラを手に取ってジッと見ている。

 しばらくすると、フラウは俺に振り返った。

 「修理完了です。電源は励磁方式に変更しました。記録方式はそのままですが、私とマスターの記憶槽に転送出来ます。そしてメール文に添付して明人様達にも画像を送れますよ。」


 という事は、記念写真が撮れる訳だ。やはり長距離の旅行みたいなものだからな。カメラは必要だぞ。


 そして、何度目かの扉を開けた時だ。

 「ここは、保安部隊の詰所みたいですね。コンバットスーツがロッカーにあります。」

 「俺達に着れるのか?」

 「この表示だと、Lサイズが丁度良さそうです。コンバットブーツもありますよ。」

 

 それは、助かる。

 ここまでに革のブーツを1つダメにしている。革の上下もかなり痛んできた。

 後2セットあるんだが、先は遠いからな。

 

 「3セット程貰っておこう。ところで、袋に入るのか?」

 「洗った革の上下はここで廃棄します。大型の魔法の袋がありますから大丈夫です。」

 

 俺は、そこにあったナップザックを貰う事にした。それ程大きくはないが、何か見つけた時には入れる事が出来る。

 「手榴弾があります。1ダース貰っておきますね。」

 「それなら、これに入れとくと良い。」


 そう言って、フラウにもナップザックを渡す。俺も手榴弾を3個程貰っておく。

 後は…、と部屋を眺めてシェラカップ2個と水筒を1個、ナップザックに詰め込んだ。

 通路に出ようとした所で、俺の頭にキャップを被せてくれる。

 振り返ると、フラウも被ってる。まぁ、お揃いってやつだな。


 次の部屋は実験室のようだった。

 「簡単なバイオ実験室ですね。合成食料の実験でもしていたのかも知れません。」

 

 フラウの話ぶりからすると、食料問題で出て行ったのか?

 突き当たりの階段を下りてコロニーの中段に移動する。


 「かなりの人々が住んでいたようです。この部屋1つで1家族という感じですね。」

 中段には10畳程の部屋がズラリと並んでいる。散らかった部屋にはもちろん誰もいない。壁の2方に3段のベッドが置いてあるから、確かに家族的な部屋だな。小さなテーブルと戸棚があったが中には何も置いてなかった。

 

 通路の真中当たりに教室程の大きさの食堂があった。

 テーブルが10個あっただけだから、住民は交替制で食事を取ったのかも知れない。

 

 通路の突き当たりはT字路になっている。横の通りを少し歩くと、俺達が歩いてきたような通路と扉が同じように続いている。

 「制御室は?」

 「こちらです。」

 フラウが先になって歩き始めた。

 

 しばらく歩くと大きな頑丈そうな扉の前に着いた。

 「この中が制御室のようです。ちょっとお待ちください。」

 フラウはそう言って、扉の右にあるカードボックスのような箱を分解し始めた。

 

 回路基板のコネクターを取外すと右手でしっかりと掴む。

 すると、基板に付けられたLEDが目にも留まらぬ速さで点滅を始めた。

 カチリ!

 小さい音がどこからか聞こえた。


 「マスター、ロック開錠しました。但し、動力系電源が断たれていますので扉は手で開けねばなりません。」

 どれ、少しは役に立つか。

 扉には取っ手が付いている。そしてこの扉は引き戸だ。取っ手を掴んで力任せに扉を左に引いた。

 ガリガリと耳障りな音を立てて扉が開く。

 1m程開いたところで、俺とフラウはその部屋の中に入った。

 

 ふむ…、典型的な制御室だな。

 正面に3面の大型スクリーン。手元の操作卓には小型の2連スクリーンとタッチパネル方式のコマンド装置。

 スクリーンに投影された姿はリアクターらしい。このリアクターはコロイダル型トカマク融合炉なのか?

 「現在融合炉は停止しています。というか、磁束保持用の超伝導コイルが何箇所か断線していますね。超磁力兵器による誘導電流で焼損したものと思われます。なるほど、動力系の電力が断たれていた訳です。」

 「だが、照明用と制御用の電源は確保されている。どこから供給しているんだ?」

 

 フラウは塵の積もった制御卓の前に腰を下ろすと、コマンドを操作する。

 「どうやら地熱を利用した電源系が生きているようです。コンロンの衛星コロニーの1つらしいです。電脳の記録にアクセスしてみます。」


 コンロンはここから千km程東にあるらしい。超磁力兵器による地殻変動の影響が比較的軽微な状態で持ちこたえたようだ。

 とは言え、核融合炉の暴走事故により電力系に致命的ダメージを受け、その後の必死の作業でどうやら地熱エネルギーの確保に漕ぎ付けたようだ。

 だが、それも長くは続かなかった。

 段々と高温の岩盤が冷えて行き、200年程前に地下での植物栽培に支障が出始めた。食料が途絶える前に今度は外へのトンネルを掘り出した。数十年後にそのトンネルを脱出していったようだが、その連中はどこに行ったのだろう。

 余りにも変化した自然の中に埋没してしまったのだろうか。

 どちらにしても過酷な運命だな。それでも、ホンの少しの望みを持ってコロニーを出て行ったのだろう。

 

 「行こうか。ここには誰もいない。」

 俺の言葉にフラウが呟いた。

 「ここはこのままで良いのでしょうか?」

 「戻ってくる者がいないとも限らない。そっとしておこう。」


 俺達は制御室を後にした。

 帰りの生産区でちょっとした拾い物をした。タバコを3箱。見知らぬ銘柄だが、外に出たら試してみよう。


 かなり長い距離を歩いて、明かりがなくなると頭部のLEDを使って通路を進みトンネルへと歩いて行く。

 緩やかな上り坂を歩いて行くと、やがて遠くにポツンと光が見える。

 どうやら、もうすぐ外に出られるな。

 コロニーは明人が言っていた数よりも残った数は多いと思う。まだ、地下に閉鎖的な暮らしをしている者達がいる可能性があるな。

 そんな事を考えながら無言で俺達は崖に出た。


 トンネルの端に腰を掛けると、フラウと共に水出しのお茶を飲む。コロニーで見つけたタバコ少し乾燥し過ぎているが吸えない事はない。まぁまぁの味だ。ちょっとセブン系の味がするな。

 

 「これからどこへ?」

 「そうだな。ここまで来たからには、この山脈の一番高い峰を目指したいな。そこで記念写真を撮ってから、コンロンに向かおう。」


 お茶を飲み終えると、重力傾斜を利用して崩れた崖を上り、俺達は最高峰を目指してひたすら上り始めた。


 しかし、エベレストはちゃんと残ったんだな。いや、地殻変動で出来た山がエベレストと同じように見えるのかもしれないが…。

 それでも、この新しい世界でこの山脈の最高峰に到達したのが、俺達が最初だと思うと少し嬉しくなるな。

 記録には残らないだろうけど、知っている者がいればそれでいい。明人達に証人になってもらうとするか。


 「現在、標高5千mです。あの峰がこの辺りでは一番高く、標高は9千mを越えています。」

 「そうか、それを目指すぞ。」

 

 やはり、エベレストでは無さそうだ。あの山は8千m台であった筈。やはり俺達が初登頂になるんだな。

 

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