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M-062 偽の頭を持つ種族

 


 何時しか北の大地の雪が消え、荒涼とした風景が広がっていた。

 確かに草は芽吹いていえるのだが余りにも疎らだ。これでは草食獣達も腹いっぱい食べるには苦労するだろう。

 そんな大地には幾つもの小さな小川が北に向かって流れていく。

 川幅は1mにも満たず、深さも10cm程度の小川だが貴重な水源には違いない。草花はそうした流れに沿って生えていた。


 「あれはどうでしょうか?」

 フラウが遥か彼方の山脈の切れ目を指差した。

 「あぁ、あそこを越えるか…。」

 フラウが山脈越えを提案してから、だいぶ過ぎているが適当な場所が見当たらなかった。イザとなれば反重力制御を駆使して越える事も出来そうだが、やはり歩いて越えるのが風情と言うものだろう。


 何時しか村を出て3ヶ月が過ぎている。直線距離で行くなら1,500kmの距離は1月も掛からない筈だが、山裾を縫うように歩いているから時間だけが過ぎていくようだ。

 

 3日目に、目指す谷間に着いた。

 此処から東には険しい山々が聳えている。やはりここで南に抜けておいた方が良さそうだな。

 人家さえない場所だから、昔の俺なら不安で一杯だが今は違う。食べる事も寝る事も不要な体は、こんな場所の探索には丁度良い。

 今度は沢伝いに谷を上っていった。


 少しずつ森が深まる。それでも獣の姿は少ない。狩猟民族がいたとしても定住は出来ないだろうな。

 そんな事を考えながら歩いていると、突然フラウの体が上空に跳ね上がった。

 バタバタとやっていたがやがてナイフを取り出すと足を吊り上げていた革紐を切って地面にシュタっと下り立った。


 「私とした事が…。」

 「獣罠か?…こんな場所でも暮らしてる奴がいるんだな。」


 「油断しました。この種の仕掛けを見破るのは困難です。」

 そんな事を言いながらパタパタとバックスキンの上下の埃を落としているのも、何となく可笑しく思える。


 「とは言え、怪我も無くて良かったよ。罠もこれぐらいなら良いんだが、凶悪なのもあるから少し気を着けたほうが良いぞ。」

 「了解です。人為的操作部分が無いか注意します。」


 そう言って歩き出したが、分かるのか?

 しばらく歩いていくと、急にフラウが立止まる。

 辺りを見渡して、薪に使えそうな棒を掴むと前方に投げる。

 バサっと音がして空中高く革紐が跳ね上がった。

  

 「罠か…。」

 「比較的見つけ易いです。最初は不注意でした。」

 「周囲に生体反応は…無いな。定期的に罠を巡回しているのかもしれん。」


 だが、こんな辺境の地に暮す猟師はどんな姿なんだろう。罠の構造は簡単なものだ。だが、罠を作るのは人間だけだ。リザル族のような友好的な種族なら良いんだが。

 そんな事を考えながら俺達は坂を上って行った。


 谷には豊富な雪解け水が流れている。

 丁度昼時になった時。水筒の水を交換して、焚火を作ると久しぶりに乾燥野菜と干し肉でスープを作った。

 たまには変化が欲しいから、必要性が無くともちょっとした楽しみみたいなものだ。

 

 スープの出来上がるのを、のんびりとお茶とパイプを楽しみながら待つのも、久しぶりのような気がする。

 カップに入れたスープをフラウから受取って久しぶりの食事だ。

 少し、塩が効き過ぎているが不味くは無いぞ。


 カップ1杯のスープだが温まる気がするな。そんな事を考えながらフラウを見ると目が合った。たぶん同じように感じたのだろう。互いに笑みがこぼれる。

 

 食事が終ると、フラウが鍋とカップを洗って袋に収納している。後は、お茶のカップにたっぷりとお茶を注ぎ、ポットを洗う。

 これを飲み終えれば、また歩き出す事になるな。

 パイプを仕舞うと、お茶を飲み始めた。

 活動時間の表示が200時間を越えているから、無理に飲まなくても良いんだが何となく勿体無い気がする。

 

 「マスター。大型獣が近付いてきます。北東方向、距離1,100。」

 「まだ、攻撃の意志は持っていないようだな?」

 「正体が判らないのは危険と同じです。」


 直ぐにお茶を焚火に投げ捨て急いで火を消した。

 そして坂を上り始める。

 俺達には体臭は無い。敵に見つからなければ追跡は難しいだろう。


 ヘッドディスプレイには何時の間にか4匹の獣の輝点ある。距離は600m程だ。

 「俺達を追っているようだな。200mで交戦準備だ。」

 俺の言葉にフラウが頷く。

 そして、俺達は森林限界に出たようだ。林が低い潅木に変わる。

 

 「互いの姿が分かりますね。」

 「あぁ、どんな奴が追って来るのかな?」

 「分析ではグライザムクラスです。グライザムは1度見ていますから、確認出来ますが、追って来るのはそれ位に大きさの獣であるとしか分かりません。」


 低い潅木と岩場が続くこの場所が峠になるのかもしれない。足場が一段と斜度を増してきた。

 少し足を速めて、距離を稼ぐ。

 「距離400。やはり追って来ます。その後方200に新たな獣が2匹。同じくガウライザムクラスです。」

 「交戦は止むなしか…。レベルミドルで良いな?」

 

 後は適当な迎撃場所を探せば良いか。

 周囲を見渡すと50m程先に大きな岩がある。高さは3m程あるが結構大きいから2人なら楽に登れそうだ。


 「フラウ、あの岩の上から攻撃しよう。」

 俺の指差した岩を見て、フラウが頷く。

 跳ねるように坂を上って岩の上に上った。周囲にも岩がゴロゴロしているが此処にこのような岩がある理由は判らない。

 とは言え、今の状況には好都合だ。

 ベレッタを引抜いて急いで発射速度のレベルを合わせる。

 後は射撃を開始するだけの状態で、ヘッドディスプレイと荒地を見下ろす。

 森林限界までの距離は約300m。もうすぐ、俺達を追って来ている獣が姿を現す筈だ。


 林の中から黒い物体が姿を現した。

 どんな獣かと思っていたが、その姿はどう見てもゴリラにしか見えない。

 違っているのは、ボロボロの革を纏っているのと、その手に棍棒を握っている事だ。


 知能があるんだろうか?…だが、その頭には体から想定される大きさとは余りにもかけ離れている。

 小猿程度の頭が形の上に乗っている。そしてその頭の動きと体の動きが連動していない。後を振り返りながら、俺達の方に向かって来ている。


 「何だ。あれは?」

 「マスターの記憶ライブラリーの中で一番近いのはゴリラです。」

 

 「俺も、そう思ったが、ゴリラは皮を身に纏わないし、武器を手にする事も無い。それにあの頭は不自然だ。」

 「体と頭が別種の生物のようです。」


 そう言いながら、フラウはベレッタを構えて、先頭を歩くゴリラの頭部に弾丸を発射した。

 頭部が吹き飛んだゴリラは、まるで関係が無いように近付いてくる。


 「寄生体だったのでしょうか?…近付く速度に変化はありません。」

 「となれば…、次は俺だな。」

 そう言って、ゴリラの腹にある面のような物に照準を合わせる。

 ピュン!と軽い音がしたと同時に、前方のゴリラが仰向けに倒れた。


 「見たか?」

 「見ました。」

 ゴリラの腹にあった面が割れると、その後ろに醜悪な顔が現れたのだ。俺の発射したレールガンで顔に穴が空いたが、弾が抜ける時は更に大きな穴が開いた筈だ。


 「奇形でしょうか?」

 「いや、次の奴も腹に仮面を着けている。その次もだ。…あの容姿の種族という事になる。」

 後から来た3匹は同じ容姿だ。

 今度は、フラウが的確に倒す。そこに後続の獣が現れた。


 「あれは、オランウータンですか?」

 「やはり、同じ種族の中の一族なんだろうな。やはり体と頭がちぐはぐだ。そして、少し戦闘形態が異なりそうだ。」


 オランウータンは俺達とゴリラを見ると魔石を先端に着けた杖を振り上げた。

 とたん、火球が俺立ち目掛けて飛んできた。

 避けるのは問題ないが…、こいつ等魔法を使うのか。そして、俺達が見た魔法よりも飛距離があるぞ。

 それでも、俺達に火球を浴びせる魔法しか持っていないようだ。

 フラウが慎重に狙いを付け、ゴリラと同じように倒して行った。


 ベレッタをホルスターに収めて検分に行く。

 ゴリラは醜悪な顔だな。幾ら善人でもこの顔では誰も信用されないぞ。武器は木の根っ子を石で削ったような棍棒だ。人間ではちょっと手に余りそうだな。

 次のゴリラの所に行くと頭が残っている。杖の先で突付くと、いきなり頭が外れて触手を伸ばして逃げ出して、たちまち視界から消え失せた。


 「このオランウータンは知性があるのでしょうか?」 

 フラウがそう言って杖を差し出した。魔道師が使っている魔石よりも上物に見える。大きいし、透き通った赤だ。

 その魔石が杖の先端にしっかりと固定されていた。接着剤と木工技術、それにちょっとした金工細工が出来なければ不可能だな。


 「知性はあるだろう。だが、俺達の敵で無いならそれで良い。」

 魔道師の杖を投げ捨てると、俺達は再び荒地の斜面を上って行く。


 その日の深夜、俺達は峠を越えたようだ。

 眺望が南に広がっている。夜だからどんな世界が広がっているかは判らないけど、少しは生物の種類が多いに違いない。


 「マスター。…ディーと交信してみました。昨日のゴリラですが、魔族と呼ばれる種族に属したサルと呼ばれているものだと言っていました。

 何度か人間と覇権を争ったようです。明人様の所にいたアルト様も魔族との戦の折、呪いを受けてあの体になったと聞きました。」


 「呪いとは穏やかじゃないな。不老不死…。ある意味呪いなのかもしれん。生物は生きて子を作りそして死んでいく。その連鎖の中で進化していくんだ。そこから切り離された存在…。今は正気を保っていられるが、いずれ正気を保てなくなるだろう。明人も似た存在らしい。1人で無いなら、助け合えるだろう。」


 「私達は、最後まで正気を保てます。」

 「その最後が怪しいぞ。この星の寿命まで動けるかも知れない。それまでにこの星を出る手段を今の人間達が考えてくれると良いんだけどね。」


 明人の話では、俺達の生きていた時代の後で起こった大戦で一度この地球は殆んどの種が絶滅したらしい。

 再び1から出直した事になる訳だが、地下資源もあまり期待できない状況で星の世界に乗り出す事が果たして出来るかはちょっと怪しい限りだ。

 その前にカラメル人達が手を貸すのだろうが、どの段階で手を差し伸べるかは問題だよな。

 カラメルの科学力は想像以上だ。この先も発展するだろうから、たまに交流するのも楽しいかも知れない。


 

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