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M-006 待っていたハンター

 


 あれから3週間程、ひたすらガトルを狩った。そして、3,000L程稼いだ所で、魔法の袋の大きくて5倍収納を手に入れた。

 そして雑貨屋から出ると、前に宿の女の子から聞いた服屋に言ってみる事にした。

 確か、看板はハサミだったよな。


 扉を開けると、狭いながらも品数は豊富だ。

 扉の開く音を聞いたのだろう。奥から30歳前後の若い奥さんが現れた。奥さんだと分かったのは部屋の奥から小さな子供の声がしたからだ。

 

 「ハンターが着ている革の服が欲しいんだが…。」

 「はい。扱ってますよ。上下ですと、ベルトを含めて400Lになります。そうですねぇ…、ハンターの皆さんはそのベルトに、このようなバッグを腰に下げていますね。後は、薄手のマントを雨具代わりに持っておいでです。帽子を被る方もおりますね。」

 奥さんは思い出すように指を折って俺達に話してくれた。


 「今言った品物に、下着とシャツを入れて、1人700Lで足りるか?」

 他に何があるんだろうって考え込んでいた奥さんに俺が言った。

 「そこまでは掛かりません。ちょっと待ってくださいね。」


 そう俺に言って、石版になにやら書き込みながら計算をしているようだ。

 「そうですね…。1人、640Lになります。2人で1,280Lですね。2人で揃えて頂けるなら、この靴下を2組ずつオマケしますよ。」


 そんな訳で、オマケに釣られて俺とフラウの装備はここで一変した。今まで身につけていた服やジーンズ、そしてスニーカーと小さなバッグは一纏めにして、別に購入した袋に詰めて、大きな魔法の袋に押込んだ。それでも、袋は膨らむ事がない。

 袋を4つに折畳んでクルクルと丸めると新しくなった腰のバッグに詰め込んだ。それでもまだ余裕がある。

 

 奥の部屋で1人ずつ下着とシャツを交換してバックスキンのような革の服を着る。

 革の服の下にはパンツの方も薄手の長いパンツをはくようだ。素肌に革では確かに気持ちが悪いのだろう。

 俺達は背があるので女性用ではなく男性用の服装だ。

 「時間があれば用意出来るのですが、それでも余り違和感がありませんね。」

 奥さんは済まなそうに呟いた。


 ベルトに付けたバッグの裏にナイフを着けて、その上に薄いマントを革紐でバッグに縛り着けるとナイフの柄が殆ど隠れてしまうが、まぁ問題は無いだろう。そして、レッグホルスターを革のパンツの上に装備する。


 「ブーツは踵が銅貨3枚分高いですから、最初は戸惑うかも知れませんが直ぐに慣れますよ。靴裏の鋲は通常の打ち方です。石の上は滑りますから注意が必要です。」

 そう言いながら俺達がブーツを履くのを見守ってくれた。


 「最後はこの帽子です。前の帽子に似た形を選びましたからね。」

 そう言って俺達にキャップ型の帽子を被らせた。アゴ紐も付いているから、風の強い日には役に立つだろう。

 

 これで俺達は、この世界の住人とほぼ同じ容姿になった筈だ。

 奥さんに1,300Lを払うと、釣りを受取らずに店を出る。


 「マスター。次もガトルを狩りますか?」

 「そうだね。とりあえず、ギルドの掲示板を見てみよう。たまには違った獣も狩りたいからね。」


 奥さんはブーツの踵が高いから慣れるのに時間が掛かると言っていたが、それ程違和感は感じない。足にフィットしたブーツは意外と履き心地が良いぞ。たまにカチっと音がするのは、靴底の鋲が小石に当る音だ。


 何時ものように、ギルドの扉を開けると、カウンターのお姉さんに片手を上げて挨拶する。

 ギルドの依頼掲示板には何時ものように沢山の依頼書が貼ってある。毎日10枚以上は確実に無くなっている筈なんだが、無くなる数と同じ位の依頼書が張り出される。

 どこの村もそうなのかと考えてしまうような現象だ。


 さて…と、次の依頼を探し始めた時、後から声を掛けられた。

 「すみません。もし、依頼書を探しているのでしたら、私達と一緒にこの依頼をする事は出来ませんか?」

 後を振り返ると、俺と歳が同じ位の男女のハンターがいた。

 彼が指差した依頼書には…、

 

 …スティングル5匹の討伐。報酬100L。討伐証は牙。牙の換金は1対で20L。但し、4人以上のパーティに限る。


 但し書きがある依頼は初めてだ。

 「マスター…。」

 フラウが俺に図鑑を広げさせる。早速、スティングルを調べると、襲った相手を襲うと書かれていた。

 牙も小さいという事は雑食性だな。一撃で倒さなければ襲われるから、その時援護するハンターが必要と言う訳だ。

 ちょっと、面白そうだな…。


 「良いですよ。俺はユング、こっちがフラウです。でも俺達は赤の暫定5つです。それでも良いですか?」

 俺の言葉に相手は顔を見合わせていたが、やがて2人で頷き合うと、俺に再び顔を向けた。


 「お願いします。俺の名はトリムと言います。…マリーネ、彼女達とテーブルで待ってて、俺はサンディさんのところに行って確認印を貰ってくる。」

 そう言うと、カウンターに依頼書を剥がして持って行った。カウンターのお姉さんはサンディさんなんだ。


 「あそこで待ちましょう。」

 俺達はマリーネさんに連れられてテーブルの1つに着いた。

 少し待っていると、トリムさんがやって来た。マリーネさんの隣に座ると、直ぐに話を始める。


 「実は、サンディさんに貴方達を紹介して貰ったんです。レベルは低いけど実力は十分黒レベルにあるとね。若い少女2人連れで、武器を持っていないように見えるから直ぐに判ると言ってました。確かに武器らしい物は持っていないみたいですが、イネガルまでも倒したと聞いています。魔道師なんですか?」


 「イネガルはこの杖で叩いた。ガトルの一部もそうだが、大部分はこれだ。」

 そう言ってレッグホルスターからベレッタを抜いてテーブルに置く。


 「それは?」

 怪訝そうにベレッタを見ていたマリーネさんが聞いてきた。

 「この先端の穴から銅で出来た球体を凄い速さで飛ばす事が出来る。イネガル程度なら胴体を突き抜ける。」


 俺の言葉を聞いて、何やら納得したようだ。原理が分かったとは思えないけど…。

 「魔道具を使う方でしたのね。それでしたら納得出来ます。」


 俺達の使うベレッタは魔道具として一般的なのだろうか?ちょっと不思議な感じだな。

 「依頼印を貰いました。これで、狩りに出ても大丈夫です。」

 「俺達は何時でも出掛けられるが、日程は?」

 

 「これから出かけます。狩りは3日を予定していますが、食料は大丈夫ですか?」

 「あぁ、携帯食料は3日分常備している。」

 「なら、直ぐに出かけましょう。ギルドの前の食堂で弁当を2食分購入します。今夜と明日の朝食用です。魔法の袋に入れておけば3日は持ちますからね。」


 そう言うとトリムさん達は席を立った。俺達も彼の後に付いて行く。

 ギルドを出て向い側の食堂に寄り、俺達の弁当を買い込む。2人の2回分だから4食だな。値段は1食分が3Lだった。


 北門に歩いていくと門番さんに挨拶して、北へ続く小道を歩く。

 トリムさんは革の鎧の背中に長剣を背負っている。マリーネさんは俺達と同じような革の上下にマントを羽織っている。武器は…、頭に丸い宝珠の付いた短い杖だった。魔法使いのような雰囲気だな。


 森に入り、小道が消えると、トリムさん達の歩く速度が低下する。

 しきりに辺りを気にしている所を見ると、見通しの悪い森の中を警戒しながら歩いているように思える。

 だが、俺のヘッドディスプレイには、脅威となる獣の存在は表示されていない。

 

 「トリムさん。周囲を警戒しているようですが、この近くに獣の気配はありませんよ。」

 「分かりますか。流石ですね。…私達はまだそこまでの域にはおりません。でも有難うございます。もし何か分かったら教えてください。」

 「嫌な気配を感じたら教えますよ。」

 とたんに2人の歩く速度が増したのが分かる。   

 

 森が林になると、南方に湖が見えてきた。少しずつ東に向かって歩いてきたようだ。

 林を抜けると短い草が一面に広がる草原に出た。所々に潅木の茂みがある。

 まだ、日のある内に先を急ぎながら、潅木から枯れ枝を集め始めた。


 見通しの良い湖の辺で野宿の準備をする。

 周囲に獣がいない事を確かめながら枯れ枝を集めて焚火を作る。


 トリムさんが湖から水を汲みポットを焚火に掛けた。

 「カップはお持ちですよね。このポットは大きいので6人分位のお茶が作れます。」

 「トリムさん。俺達は歳も同じ位ですし、普段の言葉で話しませんか?お互い敬語に疲れますから…。」

 

 「いやー、有り難い。ではユングとフラウと呼ぶよ。俺達の事もトリムとマリーネでかまわない。」

 俺とユングは頷いて応えた。

 早速、フラウがシェラカップを2個取出すと、ポットからマリーネがお茶を入れてくれた。自分達の真鍮のカップにもお茶を入れると、夕暮れを見ながら早速お弁当を食べる。

 コッペパンにハムを挟んだようなお弁当だが、俺達には十分だ。

 夕飯を食べていると、ディスプレイにラッピナが写る。


 「トリムはラッピナを捌く事が出来る?」

 「出来るさ。あれはシチューが一番なんだけど、焼いても美味しいんだぜ。」

 夕食のお弁当を食べ終えたトリムが応えてくれた。

 フラウに目配せすると、直ぐにフラウが杖を掴んで立ち上がり、段々と深まる夕闇の中に消えていった。

 

 「フラウはどこに?」

 「ちょっとね。直ぐに戻ると思うよ。」

 ヘッドディスプレイにはフラウの仮の様子が映し出されている。直ぐに1匹仕留めたようだ。こちらに向かって来る。


 「マスター。仕留めました。」

 俺にそう呼びかけながら、闇の中からフラウが現れた。その左手にはしっかりとラッピナがぶら下がっている。

「まだ、入るだろう。捌いて欲しい。」

俺の言葉にフラウがトリムにラッピナを差し出すと、トリムはしばらく動かなかった。そんなに驚く事なのかな?


「ラッピナは熟練のハンターが罠で狩るのですが…。どうやって仕留めたのですか?」

「杖を投げ付けて狩るんだ。…俺達は魔法は使えないらしいが、身体機能はネコ並みに敏捷だ。そして、夜の狩りも得意なんだ。」


 「はっ…、驚いた。こんなに簡単に狩るなんてね。後は任せてくれ!」

 そう言うとラッピナを掴んで俺達から離れていった。


 「血や内臓等をそのままにしておくと、ガトル達がやってきます。穴を掘ってから捌くんです。」

 そう言ってマリーネは、焚火に薪を継ぎ足した。

 

 「出来たぞ、後は焼くだけだ。」

 トリムがそう言って、焚火近くの地面に串刺しにしたラッピナを差した。

 そして、ニコニコ顔でラッピナの焼ける様子を見ている。マリーネも待ち遠しそうに見ていた。

 フラウはお茶をお変わりすると、チビチビ飲みながら、焚火を見つめる。

 俺はパイプを取出すと、焚火で火を点けてのんびりと楽しみ始めた。


 「焼けたみたいだな。」

 その言葉を待っていたようにマリーネがバッグから大きな鍋を取出すと、トリムから受取ったこんがりと焼かれたラッピナを鍋の中で切り分ける。


 「どうぞ。」そう言って俺達に鍋を差し出した。

 俺は小さな焼肉の塊を取出すと、ナイフで2つに切り分けフラウに渡した。


 「俺達はこれで良い。後は2人で食べてくれ。」

 そう言いながら鍋をマリーネに返す。

 「そんなものではお腹が減ります。元々狩ったのはフラウさんですし…。」

 「いや、ホントに俺達はこれでいいんだ。元々少食だしね。」


 マリーネはしばらく考えていたが、「では遠慮なく…。」って言いながらトリムとラッピナを食べ始めた。やはり、あの弁当だけでは足りなかったようだ。

 トリムなんて欠食児童のように両手で肉を握って食べてたぞ。

 

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