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M-059 長い旅の準備

 


 天文台の付属建屋に入る。

 教室3個分ぐらいの大きさだから十分2家族は生活できるに違いない。

 台所も風呂もトイレもあるからこれで十分な筈だな。

 部屋の大きさは…適当に材木を組み合わせれば数室出来るだろう。明人達は間取りについては何も言っていなかったからな。


 広い部屋の真中で次の準備に入る。

 確か、測量士を養成してくれ。だったな。測量機材の取説を読んでみると、これはちょっと専門的過ぎるな。

 簡単に解説書を書いてやるか。

 フラウが貰ってきた筆記用具の紙に、簡単な三角測量のやり方を記載し始めた。

 そして、直ぐにある事に気が付いた。

 

 この世界の連中は加減乗除が出来るのだろうか?…三角関数なんてどうやって教えれば良いんだ?

 改めて、簡単な足し算、引き算、掛け算、割り算のやり方を別な紙に書き出した。

 そして、三角関数は原理ではなく結果を利用できるようにフラウに数表の作成を頼む。


 そんな、小学校から高校までの数学書と測量器具の解説書を一晩中掛かって書き上げると、朝の光が建屋の窓から差してきた。

 窓はカラメル人が小さなガラス窓を作ったようだ。

 この世界にガラスは無かったが小さな物だし、ちょっとした光だが建屋の中を明るく見せてくれる。


 そして、俺達は朝霧が立つ湖畔を離れて村へと急ぐ。

 東門を通って、明人達が住んでいる家の扉を叩く。すると、ディーと呼ばれているオートマタが出てきて俺達をリビングへと案内してくれた。


 お茶を頂く前に天文台の完成を告げる。

 とたんに美月さんが立ち上がると俺の両手を握りブンブンと振り続けた。


 「哲也君なら出来ると思ってたわ。でも、少し早くない?」 「俺とフラウなら昼夜兼行で工事が出来るからな。それに俺達の力は通常で2倍だ。出す気なら更に上げられる。そして、協力者もいたしね。」


 俺の言葉に明人が怪訝な顔をする。

 「そんな不思議そうな顔をするなよ。明人も知ってる筈だと思うが、カラメル人だ。」

 「カラメル人が協力してくれたのか?」

 「あぁ、特に、整地と岩の加工は世話になった。実際の話、正確な極軸合わせが出来たのは、彼等のおかげだ。ここは地震がないから数百年は極軸修正をせずに済む。」  

「でも、良く手伝ってくれたな。」 

「彼等も興味があったのだろう。それでだ。東の広場に測量原点の杭を打ち、測量の技術を伝えれば俺の役目は取り合えず終了となる。そしたら、俺達はのんびりとククルカンに向かおうと思うが、一体何時になったら測量士の卵がやってくるんだ。それが聞きたいのと、これをコピーして欲しい。」

 

そう言ってバッグから紙を適当に纏めたノートモドキを取り出した。

 そのノートをジッと明人が見詰めている。

 「簡単に説明して実際に使わせてみるつもりだが、将来的には三角関数は必携だ。そう言う意味で、もし学校を作るのであれば加減乗除だけではなく、関数と幾何学を学ばせる必要があるだろう。バビロンに再度出かけて教科書と参考書を探すと良いだろう。」 


 何時の間にか席に戻った美月さんが俺に顔を向ける。

 「測量をする人は御后様に頼んであります。狩猟期が終れば陶器の窯焚きにクオークさん達がやって来るんで、多分その中に入っている筈です。」

 「人が来れば直ぐに始める。場所を確保しておいてくれ。俺達は天文台にいるが、道はまだ作っていない。連絡はここの庭から爆裂球を空に投げてくれれば良い。同じリオン湖の辺だ。十分聞えると思う。」


 そう言って俺達は明人の家を後にした。

 途中の雑貨屋で、荷物整理用の袋を10個程購入した。革袋と布袋、大きいのと小さいの。これで、フラウにバッグの袋に入った小物を整理させれば良いだろう。ついでに、お茶の葉とタバコの袋を3個購入しておく。


 東門を出て天文台に向かう。

 近くで薪を取って天文台の傍の空地で焚火を作ってお茶を沸かす。

 

 「これからどうするのですか?」

 「美月さんとの約束だから、測量士を養成しなくちゃならない。その後は遥かな旅になるな。殆んど地球の反対側だ。俺達も準備を始めなくちゃならないな。

 フラウも魔法の袋の整理をしたほうが良いよ。」


 俺の言葉を聞くと、袋からポンチョを取り出してそこに袋の中身をガラガラとぶちまけた。

 いろいろ入ってるぞ。そして、もう1つの袋もそこにあける。

 雑貨屋で購入した袋を睨みながら、一つ一つ分別してるけど袋が足りなかったかな?

 長旅に使えそうな物も少しずつ集める事が必要だ。とりあえず、もう1つずつ魔法の袋を購入しておくか。それと布の袋も沢山必要みたいだ。


 パイプにタバコを詰め、焚火で火を点ける。

 ふう…と吐き出しながら、タバコも必要だと考える。フラウはお茶が無くなれば可哀想だしな。真鍮で茶筒を作ってもらおうか。それならタバコの葉も長持ちするだろう。

 筆記用具を取り出して、茶筒3個と書き添える。

 後は、衣類と履物だよな。

 衣類は数着あれば良いだろうが、履物は俺達の運動には柔過ぎる。少し鋲を多く打って防水用の液体で固定するか…。1年に1足として約4年、5足を揃えよう。無くなれば最初に履いていたスニーカーを使えば良い。

 帽子はテンガロンハットがあるが、それ以外にに1つ位持っていた方が良いだろう。

 後は…水筒になるが、腰の水筒は約0.6ℓ、フラウが持つ袋には2ℓの水筒がある。それに、最初から持っている小さな水筒だ。後1つ位、大きな奴があっても良いだろう。

 衣服と履物の下に水筒1個と書き込む。

 

 「フラウ、銅はまだあるのか?」

 「これだけです。」

 そう言って小さな膨らんだ革袋を広げた荷物の中から取り出した。ジャラっていったところを見ると銅貨のようだ。

 何が出るか判らないから、銅は必携だな。さて、どうするか…。


 「明日、雑貨屋とユリシーさんのところに行ってみよう。俺達の旅は遥か彼方が目的地だ。途中で補給も出来ないと思う。あてはあるけど、補給出来るかは微妙だ。」

 「ここで用意した物が全てになるという事ですか?」

 フラウに頷く事で応える。

 「杖と背中に背負う事が出来る袋が欲しいですね。」

 フラウも持ち物が多くなることを考えているようだ。


 「背中でなく、ポンチョに入れていく。そうすれば更に魔法の袋を1個ずつ持てるぞ。」

 「なるべく身軽に、という事ですか?」

 「あぁ、先は長い。身軽に歩ける方が良いと思う。」


 フラウが言った杖も確かに欲しいな。出来れば両端を金属で補強したい。そうすれば俺達には十分な武器となる。

 杖はユリシーさんに頼めば良いか。そう考えながら杖を紙に書き込む。


 どうも、1日ではフラウの荷物が片付かない。もっと袋を要求されてしまった。ポンチョを丸めて天文台の中に運び込んで俺達は次の日を待つ事にした。

               ・

               ◇

               ・


 「ユリシーさんはいますか?」

 村の会社と呼ばれるログハウスを俺達は訪ねた。

 ユリシーさんはここの社長という事だが、そんな感じでは無いな。何となく用務員のお爺さんのような気がする。

 

 「何じゃ。お前達か?…ところで何のようじゃ。」

 「実は作って頂きたい物がありまして…。」

 「話してみろ。面白そうなら金はいらん。」


 そこで、茶筒と杖を頼み込む。

 天文台で描いた絵を渡すと、それを見てユリシーさんはしばらく考え込んでいた。

 「この筒は簡単じゃな。何に使うんだ?」

 「お茶とタバコの葉を長期間保存する為です。量が少なければ袋でも良いんですが、長旅だとこの方が便利です。」


 「なるほどのう…。この杖は用途が判るぞ。少し重くなるが大丈夫なのか?」

 「問題ありません。」

 「2日程したら取りに来い。意外とこの筒は売れるやも知れんのう。」


 次に雑貨屋に向かう。

 再度袋を購入したら、またですか?って店員の女の子に笑われてしまった。

 大きな魔法の袋5倍収納を2つと、昨日と同じように袋を購入する。今度は少し大きい奴だ。

 そして、水筒を聞いたら、1ℓ位のを出してくれた。まぁ、これでも良いだろう。ついでに乾燥野菜と干し肉をたっぷり購入しておく。塩は海辺の町で買い込んだのが10kg程残っているから大丈夫だろう。

 綿の上下とバックスキンの上下を2揃いずつ頼んで、ブーツを8足頼む。靴底の鋲は今履いているブーツを脱いで追加する位置と防水塗料を塗る位置を教える。

 「寸法はこの間購入した時の書付がありますから大丈夫です。そうですね…。5日は掛かります。代金は、670Lになりますが。」

 直ぐにフラウが代金を支払った。

 

 天文台に戻ると、フラウの荷物整理が始まった。何時の間にか砥石を3個も手に入れている。

 確かにフラウの趣味だから必要なんだろうな。

 そんな分別が2日掛かったという事に、俺は別な意味で驚いたけどね。


 数日が過ぎて、雑貨屋に頼んだ品物とユリシーさんに頼んだ物を受取る。

 雑貨屋で大量にタバコとお茶を買い込んだら、もうすぐ狩猟期の屋台でも買えるって教えてくれた。


 「後は、銅だけだな。」

 「それが問題です。現在の在庫では100発分程度ですから。」

 これは、何とかしなくちゃならないな。


 明け方にそんな会話をしていると、湖の上で爆裂球が炸裂する音が聞えて来た。

 明人からの知らせらしい。

 早速、荷物を纏めると天文台を出て明人の元に出向く。

 「やって来たぞ。山荘を訪ねてくれ。」


 やっと来たか。これでこの地を離れる事が出来そうだ。

 そんな事を考えながら山荘に行く。


 「待っておったぞ。リビングにおる。」

 確か御后様だったな。

 俺は小さく頷くと、フラウと共にリビングの扉を開けた。

 そこにいたのは15人の男達だ。20~30歳といったところだな。


 「俺がユングだ。そしてこちらがフラウ。」

 リビングにいた男達が席を立つと片側から名前を紹介する。

 

 「早速だが時間が無い。今から始めるが、その前に3つのグループを作ってくれ。1人で覚えるのではなくグループで覚えれば早く覚えられる筈だ。」

 直ぐに、男達が移動を始めた。

 グループの間に椅子一個分の間を空けている。エリルとストーン、そしてジョシアがそのグループのリーダーのようだ。


 「先ずそのテキストを開いてくれ。最初の問題が解けるか?」

 それは4桁の足し算だ。

 次に5桁の引き算を行なう。

 そして、2桁の掛け算、割り算と続けたかったが…、彼等には出来なかった。

 

 やはり、掛け算と割り算は教えないと無理か。

 俺は、用意した数表を配る。

 「これは九々と言って全て諳んじるものだ。まぁ直ぐは無理だと思うから、この表を使ってこの計算を教える。」


 時間が掛かりそうだな。だが、こいつ等は俺の説明を聞き逃さないようにジッと耳を傾け、目を開いている。

 意外と物覚えの良い奴かも知れないぞ。

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