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M-058 天文台の完成

 


 どうも、カラメル族はこの世界の住人とかなりの文明の開きがある。

 突然湖から姿を現した大亀には驚いた。咄嗟にフラウが銃を構えたがそれをカラメル人達が慌てて止めていた。

 甲羅の一部が開いて、新たなカラメル人が現れたのを確認したフラウがようやく銃をホルスターに収めたぞ。


 だがこれで、銃をカラメル族は知っていることが判った。そして亀の形をした潜水艇をカラメル族は持っている事になる。とんでもない科学力だ。

 そんな疑問を彼等に尋ねると、笑いながら答えてくれた。


 どうやら、彼等はエイリアンらしい。故郷の惑星が破壊される寸前に航宙船で脱出したという事だ。長命な一族の世代交代が始まる頃にの星に辿り着いたと言っていた。


 だが、最初は生命の少ない星だと思っていたらしいが、ある日を境に爆発的に種族が増えたらしい。

 その後、不思議な異種族の転移現象を確認すると、最初の種族と異種族の争いに介入を行なったと話してくれた。

 そして、その戦を境に水中を自らの住処と定め、彼等を見守って来たらしい。 


 「だが、お前達の存在も我等は気になっていたのだ。少なくともこの世界の者ではない筈…。」

 「俺も、何処からか飛ばされて来たらしい。場所は俺にも判らん。だが、死ぬべき存在ではないのに死んでしまった事を、気にしていたな。そこでこの体を貰い、フラウと共にこの世界に来た。」


 「アキトと似た存在なのかも知れぬ。アキトは長老が気に入っていたな。今も長老はアキトと共にあるはずだ。」

 「アキトを知っているのか?」

 「アキトは、我等と勝負し、その勝利の証である虹色真珠を持っている。若し、アキトが我等を必要とするなら、可能な範囲で協力は惜しまない。」


 明人も、面白い奴等に気に入られたな。

 まぁ、悪いやつ等じゃ無さそうだし、明人の行動を影から支えている者達になるのかな。


 「…で、この天文台だが、我等が手助けしよう。我等の科学力なら、自転軸を明確に方向付け出来る。そして、この建屋も石作りなら問題ない。それと、この整地だが、あれは問題だぞ。頁岩けつがんがこの山脈の東の地で採れる。それを敷き詰めれば少しは格好が付くだろう。これでは転倒するものが後を絶たぬ事になるぞ。」


 だよな。俺も鏡面仕上げの岩盤はちょっと問題があると思っている。

 頁岩なら、糊付けするような形で綺麗に仕上がるんじゃないかな。


 「それじゃぁ、頼むよ。それで、借りを作るのも何だから、何か欲しいものがあるかい?」

 「今は無い。その内、頼む事もあろう。」

 貸し1つ、言う訳だな。こんな約束も面白い。こいつ等は誠実そうだ。カラメル人が俺に頼む時が訪れるとは思えないが、明人に頼みを聞いて貰えば良いだろう。この天文台も彼等の頼みだからな。


 「敷石と石積みを頼めるならば俺は何をすれば良いんだ?」

 「石が大量に必要だ。この先に岩場がある。そこから石を運んで来い。」

 

 これが、一般人なら彼等の要求はとんでもないものだが、俺達にとっては簡単なものだ。

 「判った。ここへ運べば良いな。」

 「それで良い。俺達は頁岩を運んで明日にまたやってくる。」


 そう言って、口にまたマスクのような嘴を付けて背中に甲羅を背負うと湖の中に入っていった。

 この湖底に彼等の前進基地があるのだろう。

 この世界に余り干渉せずに見守る姿は参考になるな。


 さて、俺達も作業を始めるか…。

 「フラウ。前に雑貨屋で買った手袋があったよな。」

 フラウが頷きながらバッグから袋を取り出し、ごそごそと探し始めた。

 俺は直ぐに取り出したけど、いったい何が袋の中に入っているのだろう?ちょっと気になってきたぞ。


 そして、ヒョイ!っと手袋を袋から摘み上げたフラウはちょっと嬉しそうだ。

 魔法の袋の収納容積が大きい事も問題だな。小さい奴と、荷物を纏める袋も買っておくべきかも知れない。


 「手が汚れるから皮手袋が丁度良い。確かこの先って言ってたな。」

 そう言って、フラウと共に岸辺伝いに東に進んで行った。


 そして、数分も歩くと…、確かに岩がゴロゴロしている。岸沿いだから、土は余り着いていないようだ。

 40cm程の大きさの石を片手で掴むと、もう1つを片手に掴む。

 身体機能が2倍だし、反重力場を少し発生させれば数十kgの重量は何て事は無い。

 そして、建設場所に石を持ち帰る。

 

 単純作業だが、疲れを知らない俺達は1時間程で10個程運ぶ事が出来た。

 だが、これではどう考えても足りない。

 一旦、村に戻ると荷車の荷台をユリシーさんに強請ってみた。


 「こんなのどうするんじゃ?…車も引き手もいらんのか?荷台だけになってしまうぞ。」

 「ちょっとアキトの用事で必要になりまして…。」


 そう言ったら納得したという事は、普段から奇行をしてるという事だな。少しこの世界での明人が判ったような気がしたぞ。

 村の東門を同じように歩いて現場に着くと、今度は荷車の荷台を使って一度に大量の石を運ぶ。

 たちまち、磨かれたように平らな整地場所に大量の石が積まれていった。


 次の日、現場にやってきたカラメル人達が吃驚して聞いて来た。

 「お前等2人で運んだのか?」

 「あぁ、あの荷台に石を乗せて運んだ。」


 数人のカラメル人が輪になって相談していたが、その内の1人が輪を抜け出して聞いて来た。

 「お前達は、アキトの所のディーと言う存在と同一のものだと思っていたが、ひょっとして、反重力を発生できるのか?」

 

 やはり、星を渡ってきただけの事はある。俺達が反重力場を発生させて作業をしたと考えたようだ。

 俺は、黙って頷いた。


 「そうか…。我々も半重力場を発生させる事は出来るが、お前達のように体に組み込む事までは出来ぬ。我等の目標が出来た。」

 そう言うと、湖を向いて何かをしている。

 その仕草に呼応して水面が盛り上がると亀型の乗り物が現れた。大型バスを2台横に並べた位の大きさだな。


 10人程のカラメル人が亀の甲羅のハッチを開けて降りてくる。

 早速、フラウの描いた図面を元に整地した岩盤にレーザーが走り、土台の基準線が描かれた。


 「水平はきちんと取れている。この上に作るんだ。俺達の技術が試されるんだぞ!」

 大声で他のカラメル人を指揮しているこの男は、この連中の頭なのだろうか?


 箱が組み立てられ、その中に砂が投入される。そして、何やら不思議な液体が入れてかき混ぜる。

 その間に、基準線に沿って小型の機械で岩盤の表面を1cm程掘り下げている。

 その溝に沿って先程かき回した物を流し込んで俺達が運んだ石を並べ始めた。

 

 あの液体と砂の混合物はセメントのようなものなのだろう。次々と石の間に塗りこんで次の石を載せていく。

 「石が足りないぞ。どんどん運べ!」

 俺に振り向いてカラメル人が言った。


 フラウと2人で荷台を持って石を運び始める。

 確かに、俺達が運ぶよりも石の消費量が多いぞ。

 そして、どんどんと壁が出来ていった。


 昼になると、昼食を兼ねた休憩だ。

 カラメル人達は亀から弁当を下ろして食べ始める。


 「お前たちは食べないのか?」

 「あぁ、俺達は水を動力源としている。水と言うよりもその中の水素を使うんだがな。」

 「まさか、核融合?」

 カラメル人の驚く姿に、俺は頷いた。

 

 「確かに重力制御が出来るなら核融合も可能か…。」

 彼等にとってはまだ理論でしかないのかもしれない。

 だが、それを動力源とした俺達の姿を見た以上、彼等の技術はまた一つ階段を上がるに違いない。


 「しかし、互いの技術を交流したいと思っても、我等の長老がそれを許さんだろう。とは言え、我等の技術に指標が出来たのも事実。将来に備えて名前だけでも交換したいのだが…。」

 「それ位なら、俺も構わん。俺はユング。こっちはフラウだ。明人の古い友人だ。」

 「俺は、グプタ。1度アキト殿と戦い敗れている。だが、長老はその戦いを評価してくれた。今ではアキト殿の住む湖で将来に備えている。」


 今、将来に備えて…と言ったな。

 カラメル人も2つの歪の意味を知っているのだろうか?

 思わず、彼等に告げようと思ったが、思い止まった。

 

 ひょっとして別な危機があるのか?

 彼等は水底で暮らしている。地上の歪が生む世界への影響は彼等が知らない出来事かも知れない。

 明人も、バビロンの神官と神官の操る科学衛星で知ったのだからな。

 

 だとすれば、彼等の危惧とは何なんだろう?

 「我等は長命種族だ。前にも言ったな。そして、この惑星は将来太陽の巨星化に飲み込まれる。その時は遥かに遠いが、その時にはこの世界の住人を連れ出さねばならん。そして遥かな旅がまた始まるのだ。」


 とんでもなく遥か未来の事じゃないか!

 とは言え、それに向かって着々と準備しているのだろうか?…それなら、俺達も長命な、いや寿命を持たない者として協力すべきじゃないのかな。

 まぁ、これは歪を消した後の楽しみにしておこう。

 この世界の生命体とは寿命と言う転で点の接触にしかならないけど、カラメル人であれば少しは線に近い接触が出来るのかもしれない。

               ・

               ・


 10日も経たずに天文台が出来上がった。

 ユリシーさんの所から、ドームを1個ずつ運ぶと円筒形の塔の上にそれを載せる。

 その夜、カラメル人がレーザーとそれに連動する装置を使って、経緯儀の南北を決定し、赤道儀の極軸を正確に天の回転軸に合わせてくれた。


 「これで、完成だ。経緯台の南北線を延長して壁と庭の台座に描いてある。」

 「ありがとう。俺達だけだったらどれだけ掛かったか…。」

 「何、気にするな。天文学の発展は将来に繋がる。それを長老達も喜んでいた。俺達はそれで良い。」


 長命種族の世界観は俺達とは少し違うのかも知れないが、彼等なりにこの世界を気にしてるんだろうな。

 それにしても、太陽が巨星化する事を本気で心配する種族がいる事に驚いたぞ。

 その時、彼等が助ける種族が今の人類である事を祈らずにはいられない。

 それを俺達の仕事にするのも面白いかもしれない。明人達もそれを知れば絶対に首を突っ込む筈だ。


 そんな事を考えながら、機材を片付けて亀に乗り込む彼等に手を振って、俺達は別れを惜しんだ。

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