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M-053 依頼書の数が多過ぎる

 


 掲示板に歩いて行くと、壁一面に依頼書が貼ってある。たぶん掲示板がこの依頼書の下に埋もれてるんだな。

 それにしても凄い量だ。その依頼書を良く見ると、確かに依頼書の上にアルファベットが付いている。確か『B』を頼むと言っていたから、適当に2枚を剥ぎ取ってカウンターに持って行く。


 「イネガル退治にガドラー退治ですね。イネガルは村の南西部の森で目撃されています。ガドラーはその森の下の方です。村人の冬の薪採りに支障がありますのでよろしくお願いします。」

 そう言ってお姉さんが依頼書に確認印を押してくれた。

 イネガルは2匹で200L。ガドラーは2匹で100Lだが、イネガルの肉は売れるし、ガドラーは魔石が売れる。ちょっと美味しい依頼だな。

 

 出かける前に、明人の所に寄って道を訪ねる事にした。

 「南西の森?…ちょっと待ってくれ。」

 そう言うと、バッグから地図を取り出す。

 等高線が入った地図でかなりの精度で描かれているように見える。

 ジッとフラウが見ていたから地図をスキャンしているだろう。後でデータを貰って置こう。

 「この森だ。これが、俺達のいるネウサナトラム村だ。ギルドはこの辺りだな。南の門を出て、しばらく行くと大きな立木が道の傍にある。そこを右に入る野良道があるから、真直ぐ行けば目的の森がある。手前に陶器窯があるよ。」

 「分かった。じゃぁ、いって来るぞ。」

 

 頑張れよ!っと明人が片手を上げる。

 昔通りの挨拶だな。そんな変わらない友に俺も片手を上げて答える。


 通りを歩いて、村の南門に向かった。

 門の手前の広場の左手には工房があるらしい。黒い煙を煙突から吐き出している。

 門番のおじさんに狩りに出ますと挨拶をすると、頑張れよと言ってくれる。見ず知らずではあるが、こんな挨拶が出来るから村は良いんだよな。大きな町なんかだと挨拶を返す事すらしないんだから。


 南門からの眺めは一面の畑だ。取り入れは終っているようだけど、あっちこっちに渡りバタムが跳ねているぞ。

 そんな畑の一角で一生懸命、狩りをしている少年と少女を見つけた。

 少女が弓で射ると、止めを少年が槍で刺しているようだ。中々連携が出来てるけど兄弟なのかな?


 「マスター。あれが目印の立木では?」

 「そういえば、明人の持っていた地図をスキャンしたんだろ。俺に送ってくれよ。」

 「今、送ります。…この地図ですが、かなり精度が高いですよ。この世界の物とは思えません。」


 「あぁ、これだな…。確かに、そうだな。」

 ヘッドディスプレイに映しだされた地図は、俺の世界のものと遜色が無い。

 村に色々と書き込んであるのは、今後の村の拡張を考えているのだろう。 

 という事は、村の拡張計画を考える為に明人達が地図を作ったのか?

 しかし、俺に測量を教えてやってくれと言い出して、その方法をバビロンから情報を送るような事をしていたな。

 明人達でないとすれば、あの隣にいたオートマタが作ったという事になる。

 フラウは数世代前のオートマタだと言っていたが中々性能が良さそうだ。明人達に役立っているに違いない。

 

 立木の所は野良道が東西に伸びている。俺達は、右の道を進んで行った。

 なだらかな丘を越えると、丘の斜面に小屋掛けした場所が見えてきた。近くにもう1つ小屋がある。

 あれが、陶器窯だな。あいつにそんな技術があったとは思えなかったが、登り窯なんだな。たいしたものだ。


 登り窯の丘を通り過ぎるとその先に道はなく、少し離れて森が広がっている。これがどうやら南西の森のようだ。

 「フラウ。反応を拾ってくれ。イネガルにしてもガドラーにしても大型だから小型の獣は設定外だ。」

 「了解です。…イネガルの生体反応確認できました。早速狩りを始めますか?」

 「その前に一服させてくれ。」


 俺は小さな岩に腰を下ろして一服を始めた。そんな俺をフラウが見詰める。

 「何か?」

 「何でもありません。先程のオートマタの性能を確認していました。私達をスキャンしていましたから、私もスキャンしたのですが…。」

 「確か威力偵察用だと言っていたな。俺達は汎用型だから、確かに特化したオートマタなんだろうな。

 だが、明人をマスターとして呼んでいる以上、俺達に危害をくわえる事は無い筈だ。あいつは悪人には容赦しないがそれ以外には全くの無害というお人好しだ。向うにしてみれば俺をマスターと呼ぶフラウの方を恐れていると思うぞ。」


 「マスターとあのオートマタのマスターが、友人で良かったと思います。」

 そう俺に言ったけど、ひょっとして俺が明人を知らなければ、オートマタ同士の戦いを始める心算だったのかな?

 「フラウ。もし、俺が破損して元に戻らない時は、明人を頼れ。あいつは、腹が減っていても、自分の食べ物を、欲しがる奴に与える程のお人よしだが、正義感だけは人一倍強い。美月さんもそんな明人だから一緒にいるんだと思う。あの2人の手助けをしてやってくれ。」

 「了解はしますが、マスターを1人にはしません。マスターと共にある事が私の存在理由ですから…。」

 

 確かにフラウは俺と共にある。しかし、この先長い年月を経た時にどうなるかは分からない。一応、言っておけばその時に俺の言葉を元に行動してくれるだろう。今はそれで良い。


 「さて狩りの時間だ。フラウ、先行しろ!」

 フラウが小さく頷くと立ち上がって森に入る。俺も急いで後に続いた。

 

 「イネガル2匹は森の南西方向です。」

 そう言って歩く速度を速める。

 森の中を平地以上の速度で移動している俺達を見るものは誰もいない。身体機能が魔法を使う以上に高いことを知られる事も無いだろう。


 直ぐに、イネガルを見つけて、木立の影に隠れて様子を見る。

 「まだ、こちらに気が付いていません。どうしますか?」

 「先が詰まってる。素早くこれで行こう。」

 そう言って、レッグホルスターからベレッタを引き抜く。

 

 少し大型だから威力はミディアム荷設定する。

 「俺が左でフラウは右だ。準備は良いな?」

 「了解、合図をお願いします。」


 「行くぞ、3…2…1。今だ!」

 俺達は立木の影から飛び出すと、イネガルに向かって素早く2射を浴びせる。

 そして、ベレッタをホルスターに戻すと、杖を持ってイネガルに近寄った。


 イネガルは即死だった。俺の放った弾丸が頭を粉砕していた。フラウの方は2発とも頭を破壊している。

 バッグからロープを取り出して木の太い枝にイネガルを吊り上げナイフで腹を割って臓物を抜いておく。

 そして、イネガルを更に高く吊り上げた。


 「来るか?」

 「嗅ぎ付けたようです。ガドラー2匹にガトルが16匹こちらに向かっています。」


 俺達は木の上に飛び上がって太い枝の上に腰を下ろす。

 「良いか。ガドラーをベレッタで狙撃してからガトルを始末する。」

 少し離れた枝に腰を下ろしたフラウに声を掛けておく。

 ガトルは取り逃がしてもいいけど、ガドラーは依頼対象だ取り逃がす訳には行かない。


 ガウガウ…と唸り声を上げながらガドラー達が近付いて来た。

 俺達の場所から50m程の所で立止まり、様子を覗っている。

 意外と用心深い奴だ。

 それでも、一緒にいたガトルは血の匂いに食欲をそそられたのだろう。少しずつ近付いて来た。

 ガトルが臓物に顔を埋めた瞬間、素早い動きでガドラーが駆けて来ると臓物を食べていたガトルを咥えて遠くに投げ飛ばす。そして、ゆっくりと臓物を食べ始めた。


 慎重にターゲットスコープをガドラーに合わせる。

 そして、ベレッタのトリガーを引いた。

 ピュン!っという甲高い音と共にガドラーの頭が半分吹き飛んだ。

 同時に発射したのだろう、もう1匹のガドラーの頭も吹き飛んでいる。

 後は、枝の上から集まってきていたガトルを1匹ずつ確実に仕留めていく。


 最後の1匹を倒すと、枝から飛び下りてガトルの牙の回収を始める。ガドラーの魔石はフラウが見つけてくれる筈だ。


 「マスター。魔石回収終了です。」

 「よし、こっちも終わりだ。中吊りのイネガルを下ろして村に帰ろう。」


 イネガル2匹を枝から下ろして、適当な枝を切ってソリを作りその上に固定する。2人で後は引張っていくだけだ。

 畑の小道まで引き摺って行くと、出掛けにバタムを狩っていた兄弟は姿を消していた。

 依頼の数を終えたんだろうな。中々手際が良かったからな。

 そんな事を考えながら、イネガルを引き摺って行く。

               ・

               ◇

               ・


 「依頼完了だ。イネガルは肉屋に届けたぞ。これが確認証だ。そしてガドラーの魔石が2個にガトルの牙が16個。」

 「では確認します。…はい、依頼完了です。報酬は300Lです。それに魔石の購入価格が300L、ガトルの牙が240L。合計840Lになります。」

 

 中々の稼ぎだ。イネガルの売却が250Lだから、1,090Lにもなったぞ。

 ありがたい事に、90Lは銅貨でくれたから使ったレールガンの弾丸の補給も出来る。


 さて、次の獲物は…、と壁に立ち寄る。

 「マスター、夜の狩りを楽しみますか?」

 そう言ってフラウが指差した依頼書はラッピナだ。ん?こっちにも同じような依頼書があるぞ。ここにもある。

 数枚の依頼書がラッピナ狩りだ。5匹、6匹、4匹と数が書かれているが、『B』と印がある以上俺達の獲物に違いない。

 纏めて剥がすと、カウンターに持って行った。


 「全てラッピナだ。これを纏めて受けたいが…。」

 「ラッピナは臆病で敏捷な獣です。この村では嬢ちゃん達が専門に狩っていますが、余り狩れる人がいません。全部纏めると15匹になりますが大丈夫ですか?」

 「たぶん依頼書を探せばもっとラッピナの依頼はあるだろう。目標20匹で狩りをする。」


 俺の言葉にちょっと溜息をつきながらも、お姉さんは依頼書の一枚一枚に確認印を押してくれた。

 

 時刻は昼を過ぎているか…、ラッピナ狩りは夜だから少し明人と話し込んでいこう。

 フラウにお茶を頼んで先に明人が座るテーブルに行く。


 「先ずは終ったぞ。」

 「だいぶ早かったな。明日もよろしく頼む。」

 「いや、今夜も狩りだ。ラッピナを纏めて20匹だ。」


 俺の言葉に明人が驚いてる。

 「大丈夫なのか?家のミーアちゃんが昼に狩りをするけど、あれは特別だ。哲也はネコ族でもないし弓も使えないはずだが?」

 「カナトールやアトレイムにいた時はネコ族の変わり者と思われていたよ。大丈夫だ。ラッピナはこれまでも狩っている。」


 そう言ってパイプを取り出すと、明人もタバコを取り出してジッポーでパイプに火を点けてくれた。

 「そういえば、明人のただ1つの欠点はそのタバコだったな。」

 「お前に教わったようなものだ。」

 そう言って互いに笑い合う。

 そこに、フラウがカップを載せたトレイを持ってやって来た。

 明人にもお茶を渡す。


 「ありがとう。」そう言って、フラウに笑い掛ける。

 「ところで、畑で渡りバタムを狩る兄弟を見かけたぞ。中々息が合った2人だった。」

 「たぶん、ロムニーちゃんとルクセム君だな。兄弟じゃ無いよ。ルクセム君の指導の為に王都からロムニーちゃんを呼んだんだ。ルクセム君と一緒に狩りが出来るハンターがいなくてね。」


 「あのおばあちゃんと孫では不足か?」

 「ちょっとね。あのお婆ちゃんはモスレムの王妃だよ。故あって、あの子の面倒を見てるけどね。一応俺の妹だ。」

 

 相変わらずな奴だ。路頭に迷った娘を引き取ったのだろう。美月さんにもそんなところがあるからな。 

 こいつに、あまりこの世界にに関わるなと言うのが無理なのかもしれない。困っていれば、見過ごす事等出来ない性分だからな。

 まぁ、それがこいつの良い点ではあるのだが…。


 「嬢ちゃん達は南の畑でラッピナ狩りをしている。昼間に狩れるんだから夜にもいる筈だ。」

 「ありがとう。じゃぁ行ってくるよ。」

 そう言って席を立つ。

 

 とりあえず、夜まで長屋で過ごそうか?

 フラウと作戦も考えねばなるまい。数が多いから少しは俺も参加したいしね。

 

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