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M-051 再会

 ひたすら東に向かって、森を進む。

 豊饒の森は至る所に獣が満ちている。リザル族は集落の周りでの狩りは避けているようだ。

 ある意味、警報代わりにもなるのだろう。そして、食料に困れば周囲の森で狩れば良い。

 夕方近くになっても、俺達の歩みは止まらない。暗くなれば暗視モードと生体検知モードを併用して暗闇を進めば済む事だ。


 2つほど尾根を越えると夜が明ける。

 森が一旦開けて、荒地と岩のガレ場を進むと小さな沢があった。

 近くから薪を集めて焚火を作り、ポットでお茶を沸かす。


 シェラカップでお茶を飲むと、俺達の革の上下がだいぶ汚れている事に気が付いた。

 これって、バックスキンだよな?確か洗えるって聞いた事もあるが…。


 「フラウ。俺達の唯一の欠点は服の汚れが落とせない事だ。ここなら誰もいないはずだ。服を洗ってみよう。日差しもいいから、岩に干せば乾くだろう。」

 「最初の服がバッグの袋に入ってます。着替えて洗いましょう。」


 俺達は袋からGシャツとGパン。それにスニーカにはき替える。久しぶりに昔に戻った感じだな。

 改めてレッグホルスターを着けるとバッグとナイフが付いた装備ベルトを付ける。長剣はバッグに戻しておく。この森なら杖だけで十分だろう。

 流れに、脱いだ服を持っていって水に浸けゴシゴシと洗い始めた。フラウも俺の真似をして服を洗い始める。

 ついでにブーツも洗っている内に日差しが強くなってきた。

 バッグからキャップを取り出して被ると丁度良い。

 何か、キャンプに来てるような感じがするぞ。

 

 1時間以上洗っていただろうか。バックスキンは濡れてじっとりしている。天日干しは不味いと思い、生乾きするまで陰干しを行なう。

 まぁ、急ぐ事でもないし、のんびりとお茶を飲みながら時間が過ぎるのを待つ事にしよう。


 「周囲に敵対生物はおりません。」

 「昨夜の森とはだいぶ違うな。…ところで、水筒の水は?」

 「先程、新しく汲みなおしました。このポットにもだいぶ入っています。もう1杯ずつ飲めば私達の連続稼働時間は40日間程になる筈です。」

 だいたい、シェラカップ1杯で3日程度になるのかな。砂漠地帯に行ったらどうなるんだろうか?予備の水筒も2人が1個ずつ持っているから、1人が持つ水の量は約2ℓ。一月程は大丈夫な訳だ。ちょっと安心できるな。

               ・

               ◇

               ・


 「マスター…。」

 「判ってる。」

 まぁ、フラウの言いたい事も理解出来る。

 バックスキンを洗うとどうなるかが、理解出来た事は良い事だと俺は思うぞ。

 どうなったかと言うと、しなやかさが失われてしまった。着るとごわごわだ。その上皺が寄ってるし…。捨てようかなと思った位だが愛着もある。服飾屋があれば何とかして貰えるかも知れない。とりあえず、丸めてバッグの袋に押し込んでおく。


 「さて、先を急ぐか。明日の朝には眼下にリオン湖が見える筈だ。」

 俺の言葉にフラウが頷くと、先に立って歩き出す。

 夕暮れの森を進むのは俺達だけだろうが、俺達は夜の闇も十分に先が見通せるから昼間と同じような足取りで進むことが出来る。その上、体力は無限ときている。疲れる事は無い。

 

 そして、夜半を過ぎた頃、2つの月に照らされて鈍く光る湖面が遠くに見えてきた。

 「あれが目標ですね。このまま進めば3時間程で着く筈です。」

 フラウが杖の先で湖面を指した。


 森が切れて荒地に出る。南に下りると森が広がっているが、あえて森の中を歩く必要は無い。

 森から少し離れた荒地を俺達は歩いて行った。

 2時間程歩くと、大きな岩の傍に焚火の跡があった。

 どうやら、この辺は湖の傍にあるという村のハンターの狩場らしい。

 更に歩くと、森に小道を見つけた。

 まぁ、見つけたというより、何時の間にか踏み固められた道を俺達は歩いていたのだ。

 その道を歩いていて南に曲る道を見つけたのが真相なんだけどね。

 

 「位置的にはこの森に続く道を歩けば湖の辺に出られる筈です。」

 「そうだな。行ってみるか。」

 森の小道は荷車が通れる位の道幅がある。薪を運ぶには大げさな気がするな。

 そんな小道を1時間程歩くと森が切れた。

 そして、道の脇に休憩所がある。

 そこから湖の南西の岸辺が良く見える。

 なるほど、村があるな。そして、カイナル村よりも立派な気がするぞ。

 

 時計はまだ4時だ。村を訪問するには速すぎるな。

 「フラウ。ちょっと時間調整だ。ここで休憩しよう。」

 早速、付近の藪から薪を運んで小さな焚火を作ってお茶を作る。


 パイプに火を点けると、のんびりと湖を眺める。

 大きな湖だ。ネッシーがいてもおかしくないような神秘的な感じがする。

 そして、村には小さな家と大きな家が湖に張り出したような庭を持って立っていた。あんな家で暮らしたい気もするな。どっかの貴族の別荘のような雰囲気だ。小さい方は、別荘にしては小さすぎるような気もする。あれじゃ数人が暮らすのがやっとだろう。


 そんな物思いに耽っていると意外に時は早く過ぎていく。

 「マスター。誰かが近付いてきます。ハンターのようですが…。」

 村へ続く小道を歩いてくるのは…、ハンターだな。男女の2人組みだ。もうすっかりあたりは明るくなっている。ハンターが活動を始めてもおかしくない時間帯だ。


 「さて、俺達も出かけるか。後2時間は掛からないだろう。」

 焚火にポットのお茶をかけて火を消すと、食器をバッグの袋に入れる。そして杖を持って立ち上がると、村に向かって歩き出した。

 時間は既に7時を回っている。


 村を取り巻く丸太の塀はまるで西部劇の砦のようだ。

 大きな門は開いていて、門番さんが2人槍を持って立っている。

 「止まれ。初めて見る顔だな。森の道から来たって事は、カイラムから来たのか?」

 「お早うございます。確かにカイラムから来ました。もうすぐ狩猟期が始まるときいたもので…。」

 「あぁ、始まるぞ。だが少し速かったな。1月程先になる。しかし、気にする事は無い。とんでもないほど依頼書が貯まっているとシャロンが言ってたからな。

 ギルドはこの通りを道なりに歩けば右側にある。周りの建物より大きいから直ぐに判る筈だ。」


 俺達は丁寧に礼を言うと、通りを歩いて行った。門を入ると大きな広場がある。どんな村にも広場があるが、この村の広場は予想以上に大きなものだった。

 通りは左手は林になっており右手に民家が並ぶ。

 T字路を過ぎた辺りで左右に民家が広がる。そんな中、一際大きな建物があった。これがギルドなんだろうな。上を見るとギルドの看板が掛かっている。

 

 扉を開けるとホールを見渡す。数人のハンターがテーブルにいるな。

 早速カウンターに向かうと、俺に向かってお早うございますと頭を下げるお姉さんに、到着の報告をする事にした。


 「お早う。ユングとフラウだ。黒3つになる。」

 そう言って2人のカードをカウンターに置く。

  早速お姉さんがカードを見ながら分厚いノートに何か書き込み始めた。

 「…ギルドは現在、依頼書が溜まってとんでもない状態です。黒3つのハンターが2人来ていただいて助かります。…丁度、あそこにこの村の筆頭ハンターのアキトさんがいますから、挨拶しておいた方が良いですよ。」

 まさか!…。お姉さんが指差した先にいたのは、紛れも無い明人だ。

 俺を見詰めている明人に走っていくと軽くハグ、そして左手で奴の腹を軽く叩く。


 「明人じゃないか。2ヶ月もどこに行ってたんだ。あれから大変だったんだぞ。」

 「アキト…。このお嬢さんは何方なの?」


 聞き覚えのある声にそちらを見ると、…紛れも無い美月さんだ。

 だが、その目は冷たく俺を睨んでいる…。

 「ん…、その声は。やっぱり美月さんだ。俺ですよ。明人と同じクラスの哲也です。」

 「哲也君って、何時もアキトと一緒にいた男の子よね。

 美月さんがが首をかしげながら昔を思い出してる。

 「でも、貴方は女性よ。どちらかと言うと、隣のクラスにいた裕子ちゃんに似てるわ。」

 俺はガックリと首を下ろした。


 そうだった。今の俺は、裕子ちゃんなんだよな…。

 「まぁ、俺達の事を知ってるようだし、俺も哲也という男は知っている。俺も少し気になる事もある。少し俺達と話をしないか?」

 明人の言葉に、カウンターで俺達のやり取りをジッと見ていたフラウを呼び寄せる。そして、明人達と一緒に近くのテーブル席に着いた。

 表情の無い娘が俺達にお茶を運んできた。どうぞ。と出されたお茶を早速一口飲む。

 「改めて、自己紹介しとくよ。

 哲也だ。こっちではユングと名乗っている。そして隣が相棒のフラウだ。

 しかし、驚いたよ。まさかこんなところで会えるなんてさ。美月さんの携帯に『探さないで下さい。旅に出ます。』何て残ってたから、大変だったんだぞ。」

 「俺の両親は?それと姉貴んとこのおじいさんは?」

 「それが、あまり心配してなかったな。その内、子供でも連れて帰ってくると言ってたぞ。」

 俺の言葉にガックリと明人が首を落とす。

 「だが、哲也はどうしてここに?…それにその姿は確かに裕子ちゃんだよな。」

 「これには深~い、訳があるんだ。聞いてくれよ。」


 俺は、これまでの出来事を明人達に打ち明けた。

 俺は明人達がいなくなってからしばらくして事故にあった。

 だが、その事故は本来あるべき事故ではないようだ。俺を助けてくれた男がそう言った。 

 だが助ける過程で更に事故が発生し、俺は全ての肉体を失った。

 しかし、精神は死ぬ事が無かったことから、その精神を中枢においたオートマタの体を貰った。

 

 「お前の望んだ姿にする。って言ってたんだが、俺の初恋の相手の姿に成ってしまった…。」

 そう言って俺はお茶一口飲む。

 そんな俺の言葉に、明人は気の毒そうな顔をして、美月さんは涙ぐんでいる。


 「ところで、ユング達はこれからどうするんだ?」

 「どうって…何もしないさ。ハンター登録をしておけば暮らしに困る事はない。…だが、気になることが1つある。事故る必要がない俺が事故ったという理由だ。俺を助けた者は因果律がどうのとか言っていたけど、その原因がこの世界にあるみたいだ。出来れば探して破壊したい。」

 「アキト。例の話に似ていない?」


 「うん。俺もそう思った。…ユング。しばらくこの村で暮らさないか。

 面倒は俺達が見てやる。お前の話の気になる点を少し調べたいんだ。」

 「あぁ、いいとも。元々行くアテは無いからな。俺達のレベルだが本来はもっと上の筈だ。

 全くレベルが上がらないのでエントラムズ王都のギルドで交渉してこのレベルにして貰った。グライザムを群れで倒せるぞ。」

 俺の言葉に明人達が驚いて口をポカンと開けている。


 「倒したのか?」

 「あぁ、これで1発だった。」

 そう言って俺はベレッタをテーブルに取り出した。

 明人が手に持って入念に調べている。そんな姿がおかしくてついつい口元が緩む。


 「精巧なモデルガンだ。俺も最初はベレッタだと思ったんだが。それはレールガンだよ。射程は200mしかないが、ガスガン並みに連射が出来る。反動もガスガン並みだ。

 そして、俺達にしか使えない。このベレッタモドキのレールガンに発射電力を供給出来なければ、唯の鉄の塊だ。」


 俺の言葉に明人は美月さんと目を交わす。

 あれがアイコンタクト、目と目で通じ合うって奴か?

 そして、2人が互いに溜息をつくと俺に向き直った。


 「哲也、驚くなよ。さっきお前達はオートマタだと言ったよな。実は、俺の隣の娘…ディーもオートマタなんだ。

 ちょっと状況を整理して貰うのにディーを通じて別の思考体。バビロンの電脳とコンタクトしてみる。しばらく俺達に付き合ってくれ。」

 「あぁ、構わない。特にする事は無い。」


 俺の言葉を聞いて、ディーという娘に明人が頷いた。

 「あのディーですが、旧型のオートマタです。数世代前の存在ですが外見は私達と相違は無いでしょう。」

 俺の手に重ねたフラウの手を通して通信が入る。

 これなら、電波が周囲に飛ばないから内緒話が出来る訳だ。

 「それ程変り無いように思えるけどな…。それにこの世界に同化しているなら、新型も旧型も無いぞ。」

 「しかし、戦闘用ではあります。このレールガンを越えるレールガンを装備しています。」

 「危険だという事か?」

 「戦えば勝利するでしょうが無傷で済みそうにありません。」


 「まぁ、明人がいるんだからそんな事にはならないよ。あいつは義理堅いが大人しい性格だ。そして正義感が人一倍強い。美月さんもそうだ。明人に関わらなければ問題ない。たぶんの話だけど、今俺達の前で一番怖い存在は美月さんだ。」

 俺の話にチラリとフラウが美月さんを覗き見た。

 そんな俺達を、にこにこしながら美月さんは見ている。

 

 

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