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M-005 魔法の袋

 


 久しぶりに食べた食事はシチューの深皿に硬く焼いたパンが添えられていた。

 恐々とスプーンを口に運び、咀嚼すると肉の旨みが伝わってくる噛んだ食感も良い。

 フラウによれば食事を食べる事に問題は無いとの事だから、たまに食事をする事にしよう。フラウもひたすらにスプーンでシチューを口に運んでいるところを見ると美味しいと感じてるんだろうな。

 俺達のテーブルの周りで食事をしている連中が、硬いパンを掴んでシチューにつけて食べてる。俺達も早速それを真似て食べてみたが、このために硬く焼いてるのかな?と思いたくなるような感じに美味く食べる事が出来る。


 そして、寝る前に風呂に入った。食事中に用意していてくれたみたいだ。

 嫌がるフラウを先に入れて、俺はその後でゆっくりと湯船に足を伸ばす。心地良い水圧が肌に伝わるのが分かる。

 なるほど、フラウが人間と一緒に入らぬ限り…といった訳が判った。

 俺にはヘソが無い。そして、胸は大きいが乳首が無い。あくまで服を着ていれば外形が人間…、という事だな。

 風呂から上がってベッドに横になる。ベッドのスプリングが柔らかく感じるのも気持ちが良いものだ。

 とは、言っても眠れる訳ではないから、これからの計画を考えて見る。


 まず、服を変えねばならない。どう見てもこのジーンズにTシャツは浮いている。

 だが、服を交換してもその服をどうするかだ。これは他のハンターにもいえる事だろう。季節を考えれば、3期用と冬服が間違いなく必要だ。そして、俺達以上に通常のハンターは食事をするから荷物が増えるはずだが、ギルドで見かけるハンターは大きな荷物を背負っている者は皆無だ。腰に俺達が持っているバッグよりも大きなバッグを下げてるだけで、後は武器を携えている。どう考えても何か不自然だ。

 

 「マスター、暇を潰すソフトがありますよ。」

 ジっと考え込んでいた俺に、隣のベッドからフラウが声を掛けてきた。

 「ゲームか何か?」

 「私の目を見てください。」

 フラウの指示に従って頭を横にして顔をフラウのベッドに向ける。そしてこっちを見ているフラウの目を見つめた。

 フラウの目が赤く光ったかと思うと、俺の頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。

 そして、突然に情報の流れが止まった。

 「マスターの記憶にあるゲームを再現してみました。約100種類ありますから楽しんでください。」

 ゲーム100個とは気前が良い。幾らになる?と思わず考えた自分が浅ましく思える。まぁ、これで当分暇を潰せるだろう。どれどれって感じでゲームの題名を見てみる。

 

 RPGが半分でシュミレーションゲームが残りの半分だな。

 ここはのんびりと自分の境遇を考えながら中世風の剣と魔法のRPGを始めることにした。

 5人パーティの装備を整えるのに時間が掛かる。ようやく町を出られるまでの装備を整えたのは、夜が明けた頃だった。

 これなら、しばらくは退屈せずに済みそうだ。

 

 1階の食堂が騒がしくなった頃に部屋を抜け出して朝食を頂く。

 その後はギルドに出掛けて依頼掲示板で今日の狩りを決める。暫定レベルを赤の5つにして貰ったから赤に7つの丸印までの依頼が受けられる。

 なるほど、赤5つ以上の丸は狩りが多い。

 俺達が選んだのは、ガトル狩りだ。ガトル10匹を狩る事が条件であり、その報酬は50Lだ。その上、ガトルの牙は別に引き取ってくれるから、10匹分で150Lに成る。都合200Lの報酬は薬草採取の比ではない。


 早速依頼書をカウンターのお姉さんに渡して確認印をドンと押して貰う。

 「ガトルは群れるから気を付けるのよ。」

 そんな注意をしてくれるお姉さんに片手を上げて挨拶すると、フラウと共に北の門を目指す。

 そして門番さんに挨拶しながらガトルの目撃例が無いかを確認すると…。

 「湖の南側で見かけた話を聞いたな。昨日の昼頃の話だ。」

 丁寧に礼を言って、早速湖に向かって東に歩く。湖に出たら岸沿いに南へと回りこんでいく。


 結構遅い時間に出発したのだが、先行しているハンター達が休んでいる姿をたまに見かけるようになった。彼等も狩りに行く途中なのだろうが、何を狩るのかは分らない。

 まぁ、俺達と競合しなければ問題は無い筈だ。


 昼近くまでひたすら歩いたから、村から20kmは離れたんだと思う。岸辺の森も何時しか林になり、今は草原のような地形に変わってきた。このまま歩けば2時間程でまた林になるから、この辺りでガトルを狩る事にする。

 とはいうものの、辺りに獣の気配は無い。岸から少し離れた場所に数個の岩が集まった場所があるので、そこで夜を待つ事にした。

 近くの雑木を切って焚火を拵える。待っていたようにフラウが鍋を焚火に掛ける。お茶の味を覚えてしまったようだ。

 

 2人でお茶を飲みながら夜になるのを待つ。

 夜になれば小さな獣が餌を食べる為に活発に動き出す。そしてそれを狙うガトルの動きも活発になるのだ。

 周囲1kmの生体反応がヘッドディスプレイに表示される。赤の横にRAPと表示があるのは多分ラッピナだな。

 夕暮れと共にラッピナが盛んに活動を始める様子が覗える。

 昼間には余り見かけなかった所を見ると、こいつ等夜行性で昼間は穴倉にでも潜っているんだろう。

 

 ディスプレイに表示されるラッピナの数が20匹を超えた時、フラウが立ち上がった。

 「行って来ます。」

 そう言って、杖を掴むと素早くすっかり日が落ちた荒地走っていった。


 それでも、ディスプレイにはフラウの姿が緑の星で表示されている。

 ラッピナに素早く近寄り、そして立止まる。その行為を数回繰り返すと、こちらに帰ってきた。

 

 俺が焚火をしている岩の後を行ったり来たりしていたが、やがて焚火に帰ってきた。

 「ラッピナの屍骸をばら撒いてきました。…これで、ガトルを誘き出せると良いのですが…。」


 餌で誘き出す考えらしい。さてどうなるかな。

 焚火で再度お茶をフラウが沸かすのを見ながら、俺はパイプを楽しむ。

 何となく、アウトドアな雰囲気だな。俺もようやくハンターになったような気がしてきたぞ。


 「マスター。…来たみたいです。」

 小さく頷いてパイプを仕舞う。フラウは急いで、鍋やカップをショルダーバッグに仕舞いこんだ。

 ヘッドディスプレイに現れたガトルは、20匹近い数だ。杖で撲殺するには多すぎる。


「フラウ。これで行くぞ!」

ベレッタをレッグホルスターから取り出すと、フラウも頷きながらベレッタを取り出す。

「レベルは(L)で十分です。単発ですが、30発発射出来ます。残り3発でディスプレイに(E)の表示が出ますから、マガジンを交換してください。」


 フラウに頷く事で了承を告げる。早速ディスプレイに現れる銃の表示を意思の力で切替える。

 2人で静かに岩に上ると、暗視モードで周囲を見渡した。

 俺達がいるのを警戒しているのか、あまり近くには寄ってこない。それでも、200m圏内に結構な数がいるのがディスプレイのレーダー面の距離環表示で確認出来た。


 「フラウ、右から狙え。俺は左から行く。」

 銃のスライドを引くとディスプレイに十字ターゲットが現れる。

 暗視モードで浮かび上がるガトルを、ターゲットに素早く入れてトリガーを引くとパシュ!っと音がしてスライドが下がりハンマーを起こす。

 続けて次のガトルをターゲットに入れると同じようトリガーを引いた。


 13発を発射するとラッピナを狙っていたガトルの群れが、違和感を感じたかのように荒地に散って行った。

 射程圏内にガトルがいないことを確認して銃を下ろして、ハンマーを戻しておく。


 「20匹以上狩ったようです。しばらく様子をみることにします。」

 そう俺に告げたフラウに頷く事で応える。


 そして俺達は岩の上で朝まで待つ事にした。生体探知の範囲に入ればアラームが鳴るように、システムを切替える事が出来るのをフラウに教えて貰う。

 後は、待つだけだ。昨夜フラウに貰ったRPGの続きを楽しみながら、のんびりと朝を待つ。

 

 夜が開けると同時に荒地に散らばったガトルの牙を回収する。全部で23個を手に入れた。

 「これは、どうしましょう?」

 フラウがラッピナを持ってきた。2匹はガトルに齧られる事も無く荒地に転がっていたようだ。


 「門番さんに上げようか。色々と教えて貰ってるしね。」

 フラウは俺の言葉を聞くと、ショルダーバッグにラッピナを仕舞いこんだ。

 

 後は村に帰るだけになる。のんびりと岸辺伝いに西に向かい林に入る。やがて森になると、見慣れた風景が現れた所で、湖畔から森の中に入っていく。

 しばらく歩くと、遠くに村の丸太を並べた塀が見えてきた。


 北門に到着した時には昼をとうに過ぎていた。

 「今日は。ご苦労様です。」

 「おぉ、お前達か。…湖近くで大分、ガトルが騒いでいたと先程帰ったハンターが言っていたぞ。あまり遠くには行かぬ方が良いかも知れんなぁ。」

 

 「有難うございます。…そうだ、昨夜獲ったラッピナですけど、2人で分けてください。」

 そう言うと、フラウがショルダーバッグから丸々と太ったラッピナを2匹、門番さんに手渡した。

 俺達のプレゼントに驚いたようだったが、有り難く受取ってくれた。

 「すまんな。せっかく獲れたのに。」

 そう言って恐縮する門番さんを後に俺達はギルドに向かう。


 ギルドの扉を開けると数人のハンターが俺達をジロリと見たけど、そんな事は気にしない。

 つかつかとカウンターのお姉さんの所に行くと、依頼書と23個のガトルの牙をカウンターに置いた。


 「ホントに貴方達には驚かされるわね。…ちなみにどうやって、これだけのガトルを狩ったの?」

 「ラッピナを数匹獲って、それをばら撒いた。その匂いに釣られてやってきたガトルをこれで倒した。」

 お姉さんにそう言って、ベレッタを見せる。


 「変わった武器ね。見たことも無いけど…。」

 「この先端の穴から銅球が飛び出す。この部屋の10倍以上離れていても倒す事が可能だ。」

 「魔道具なのね。それなら貴方達がレベルに合わない活躍をしてるのも頷けるわ。」

 そういいながら、カウンターの上に395Lが並べる。

 「これが報酬よ。依頼は10匹で50L。これは狩った数が多くても変わらないわ。残りがガトルの討伐証…牙23個の金額よ。」

 牙23個と聞いて、ホールの中が騒がしくなった。あまり、ガトルを狩るハンターがいないのかな?


 「1つ質問がある。ハンターの多くが荷物を余り持たない。その理由が知りたいんだが…。」

 「それはね。魔法の袋を使っているのよ。雑貨屋で扱ってるから、行ってみるといいわ。」

カウンターの硬貨をフラウが革袋に収めると、俺達は雑貨屋に向う事にした。


 雑貨屋の扉を開けると、カウンターのお姉さんが「いらっしゃい。」と挨拶してくれる。

 「魔法の袋というのがあるそうだが?」

 「ありますよ。大きさはこれとこれです。収納量の違いで更に2種類ありますよ。」

 そう言いながら袋を取り出す。

 薄手の革袋のような物で、大きさが買い物籠位のと、大き目のリュック位の物だ。

 

 「値段は、小さな袋で収納力が見かけの3倍が150L、5倍が300Lです。大きい方は3倍が500L、5倍が1000Lになります。」

 将来的には大きい奴で5倍を持てば良いな。今は荷物も無いから最低の奴でも十分だろう。

 「小さい方の3倍収納を貰う。…フラウ支払いを頼む。」

 

 こうして、俺は疑問の1つを解決した。俺達は魔法は使えないけど、魔道具は使えるみたいだ。

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